11月7日 大統領選と医療保険
Source :How health care could change under the new Trump administration (NPR)
大統領選の結果が早々に出た(NPR Election Results)。トランプの圧勝といってもよい勝ち方だった。連邦議会上院も共和党が多数を獲得、下院も過半数を獲得する勢いだ。知事選も共和党知事が多数誕生した。全米で共和党が勝利したという印象である。

NPR
(11月14日追記)
11月14日、下院でも共和党が多数を握ることとなった。

NPR
トランプは、当初から選挙人数を順調に伸ばし、過半数を獲得する前から勝利宣言のスピーチをするほどであった(NHK 開票速報)。投票日直前まで激戦と伝えていたメディアの調査能力が疑われる。アンケート調査も信頼されていないから、コアの支持者しか回答しないのであろう。

トランプ元大統領が復帰するということで、当websiteとして最も気になるのは医療保険制度の行方である。上記sourceは、今の時点での見通しを紹介している。
  1. PPACA

    前回のトランプ政権では、徹底的にPPACA崩し、制度廃止を図ったが、そこまでには至らなかった(「Topics2019年10月16日 PPACA攻撃の総括」「Topics2021年6月20日 PPACA合憲判決3回目」参照)。部分的に崩したところはあったが、新型コロナ感染症対策で、保険料補助金が手厚くなった。インフレ抑制法に伴う措置だが、2025年末で期限切れ、失効となる。もしも失効となれば、低所得層にとって負担急増となり、無保険者が急増する惧れがある。州政府に対する2026年の保険料申請は、2025年4月に始まることから、トランプ政権、連邦議会は、2025年政権交代早々に失効か延長かの決断を迫られることになる。(「Topics2024年7月29日 Exchange補助金のインパクト」参照)

  2. Medicare処方薬価格交渉

    これもインフレ抑制法で定められた(「Topics2022年8月8日 インフレ抑制法案:上院可決」「Topics2022年8月17日(1) インフレ抑制法成立」参照)。前トランプ政権では、処方薬価格の抑制には積極的であった(「Topics2018年5月19日 処方薬価格抑制策を提案」参照)。また、実績も上がっていることから、次のトランプ政権も現行制度を支持するのではないかとみられている(「Topics2024年8月16日(2) Medicare薬価妥結」参照)。

  3. Medicaid

    現在、連邦政府は様々な形式・財源(waiver)で、州Medicaidを支援している(Medicaid Waiver Tracker by KFF)。典型例は、Medicaid対象者の拡充策である(「Topics2024年2月22日(3) Medicaid拡充に傾斜」参照)。Medicaidに対する連邦支出を削減することで、こうした支援策を削っていくのかどうかが注目点である。前政権時代には、Medicaid拡充の条件として就労義務規定を付すことを追求してきたが、バイデン政権は州レベルでの規定は事実上廃止した(「Topics2021年12月26日 就業義務規定に終止符」参照)。州政府自ら就業義務規定を設ける動きも止まっている(「Topics2023年8月22日 GA州/OK州のMedicaid」参照)。こうした状況下、連邦議会共和党は、連邦レベルで就業義務規定を入れようと努力を続けてきた(「Topics2023年4月28日(3) 就業義務規定の歳出削減効果」参照)。大統領、連邦議会を掌握した共和党が、どのように出てくるのか、注目されるところである。
政権の政策提案、議会法案提出を丹念に追っていく必要がある。

※ 参考テーマ「大統領選(2024年)」、「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般」、「Medicare

11月6日 大統領選と最高裁判事
Source :What could happen at the Supreme Court under Harris and Trump (NPR)
いよいよ大統領選の開票が始まった(NHK 開票速報)。上記sourceでは、今回の選挙結果で司法にどのような影響がもたらされるかを考察している。

先ずは、現在の連邦最高裁のメンバー表である。

Current Justices of the US Supreme Court (as of November 6, 2024)

Name Born Appt. by First day University
John G. Roberts
(Chief Justice)
01955-01-27 January 27, 1955 George W. Bush 02005-09-29 September 29, 2005 Harvard
Clarence Thomas 01948-06-23 June 23, 1948 George H. W. Bush 01991-10-23 October 23, 1991 Yale
Samuel Alito 01950-04-01 April 1, 1950 George W. Bush 02006-01-31 January 31, 2006 Yale
Sonia Sotomayor 01954-06-25 June 25, 1954 Barack Obama 02009-08-08 August 8, 2009 Yale
Elena Kagan 01960-04-28 April 28, 1960 Barack Obama 02010-08-07 August 7, 2010 Harvard
Neil McGill Gorsuch 01967-08-29 August 29, 1967 Donald Trump 02017-04-10 April 10, 2017 Harvard
Brett Kavanaugh 01965-02-12 February 12, 1965 Donald Trump October 6, 2018 Yale
Amy Coney Barrett 01972-01-28 January 28, 1972 Donald Trump 02020-10-26 October 26, 2020 Notre Dame Law School
Katanji Brown Jackson 01970-09-14 September 14, 1970 Joe Biden June 30, 2022 Harvard
単純に年齢の高い順に見てみると、
  1. Clarence Thomas:76歳(保守派)
  2. Samuel Alito:74歳(保守派)
  3. Sonia Sotomayor:70歳(リベラル派)
  4. John G. Roberts(最高裁長官):69歳(保守派)
となっている。どうしても、上二人の去就に注目が集まる。上記sourceによれば、Thomas、Alito両判事は、自ら引退して後進に譲る考えなど毛頭ない、ということだ。となると、新たな最高裁判事を選出するという場面は、判事の誰かが亡くなった時、ということになる。その可能性の高いのは、やはり上二人、共に保守派の判事が亡くなった場合、ということになるだろう。

ここからは、頭の体操である。
  1. 大統領がトランプ、上院過半数が共和党の場合

    当然、大統領が保守派判事を指名、上院で共和党主導で承認、というシナリオになる。ただし、共和党が52議席以上を獲得した場合、とみられている。共和党上院議員のうち、Lisa Murkowski(Alaska)Susan Collins(Maine)が反旗を翻す可能性が高いためである(「Topics2022年4月8日 黒人女性連邦最高裁判事」参照)。

  2. 大統領がハリス、上院過半数が民主党の場合

    大統領がリベラル派の判事を指名、上院で民主党主導で承認、というシナリオになる。保守派 6 vsリベラル派 3 という構図から、保守派 5 vsリベラル派 4という構図に変化するため、共和党は強硬に反対するだろう。ただし、2017年に共和党が連邦最高裁判事に関するフィリバスターを廃止してしまったため、指名承認を阻止するための手立てはない(「Topics2017年2月1日 連邦最高裁判事指名」「Topics2017年4月10日 連邦最高裁判事就任」参照)。もしも勢力図が変わった場合、Amy Coney Barrett判事が面白い行動を取ることがあるかもしれない(「Topics2024年7月9日(2) Roberts長官とBarrett判事」参照)。

  3. 大統領がハリス、上院過半数が共和党の場合

    大統領がリベラル派の判事を指名したとしても、共和党が審議しない、ということがかつて実際に起きたことがある(「Topics2016年3月17日 最高裁判事指名」「Topics2016年11月10日 連邦最高裁人事」参照)。今回も共和党が同様の対応を採る可能性は高い。

  4. 大統領がトランプ、上院過半数が民主党の場合

    上記と同様、ねじれ状態となる。民主党は「自分達は責任政党である」との自負はあるものの、上記のようにやられた事をやり返す、という気持ちは充分あるだろう。
上述ⅲ、ⅳの場合には、空席がずっと続くという事態となる。そうなれば、ただでさえ低い信頼感は、さらに低下する惧れがある。
※ 参考テーマ「司 法」、「大統領選(2024年)

11月5日 雇用増加数激減は異常値か
Source :Employers added only 12,000 jobs in October. That seems bad — but there's a catch (NPR)
11月1日、雇用統計が公表された(BLS)。8月、9月合わせて11.2万人の下方修正のうえで、10月の雇用増はわずか1.2万人となった(「Topics2024年10月6日 着実な雇用増」参照)。ただし、上記sourceによれば、ボーイング社でのストライキと、2つのハリケーンによる災害が大きな要因とのことで、急速に労働市場の軟化が進んでいるわけではないようだ。
雇用者数は159.0M人となった(Table B-1. Employees on nonfarm payrolls by industry sector and selected industry detail)。業種別増加数は次の通り。相変わらずサービス業での需要が高いものの、全般的な水準は低位にとどまっている。
失業率は4.1%で横ばい(Table A-1. Employment status of the civilian population by sex and age)。
労働市場参加率は今月も62.6%で僅かな低下。
25~54歳の労働市場参加率は83.5%と、低下が続いている(BLS)。
労働市場に参加していない人の中で仕事を得たいと考えている人数は、若干減少となった。
長期失業者(27週以上)の失業者全体に占める割合は、22.9%と低下した。
今回の雇用統計は、異常値として処理される可能性がある。次のFOMC(11月6~7日)でどのような判断が下されるのかを見ておきたい。

※ 参考テーマ「労働市場

11月1日(1) ECI伸び率3.9%
Source :Employment Cost Index Summary (BLS)
10月31日、9月のEmployment Cost Index(ECI)が公表された。
  1. 雇用市場全体の雇用コストは前年同期比3.9%増と、伸び率の低下が続いている(「Topics2024年8月1日(2) ECI伸び率4.1%」参照)。
  2. 民間セクターの賃金の伸び率は、低下基調を続けている。
  3. 足許の3ヵ月前との比較では、民間の伸び率低下が目立つ。
    労働市場の落ち着きが確認できる(「Topics2024年10月30日(1) 落ち着いた労働市場」参照)。

    ※ 参考テーマ「労働市場

11月1日(2) WLBの欧米比較
Source :Americans work more and are less happy than Europeans, survey shows (HR Dive)
上記sourceは、米欧の企業従業員のワークライフバランス、働きやすさ、満足度を比較した調査を紹介している("US vs Europe Work Survey: Yes, Americans DO Work More & Europeans ARE Happier" by kickresume)。当websiteの関心項目は次の通り。
  1. 全般的に、欧州の労働者の方が労働時間が短い。
  2. 時間外勤務の割合も、欧州の労働者の方が少ない。
  3. 長期休暇を取得した割合、期間ともに、欧州の方が多く、長い。
  4. 休暇を取ることに罪悪感を感じる割合は、アメリカの方が圧倒的に多い。
  5. 同僚がストレスを感じていたり、楽しくなさそうにしていることをみる割合も、アメリカが多い。
  6. ワークライフバランスに満足している割合は、欧州の方が多い。
欧州の労働者は、人生をエンジョイしているようだ。

※ 参考テーマ「Flexible Work