8月19日(1) RIP Medical Debt
Source :This group's wiped out $6.7 billion in medical debt, and it's just getting started (NPR)
ある日突然、数年来抱えていた医療債務が消えてしまう。そんな夢みたいなことが現実に起きている。

RIP Medical Debtという非営利団体が低所得者の医療債務を買い取り、帳消しにしているという。

元々は債権回収業を営んでいた2人(Craig Antico and Jerry Ashton)が2014年に設立した団体で、これまでに$6.7Bの医療債権を買い取り、360万人の債務者を債務から解放したと報じられている(団体HPによれば、現時点での数値は、それぞれ$7.09B、398.7万人となっている。)。$100の債務消滅に平均$1しかかかっていない。

基本的な資金の流れは単純で、団体が寄付を募り、それを財源にしてセカンダリー市場で医療債権を買い取り、消滅させるだけだ。セカンダリー市場から買い取ることから、医療機関が債権を市場に売却しなければ、つまり回収の見込みが低いと見切りをつけない限り、債務消滅にはつながらない。

また、医療債務なら何でも消滅させるわけではなく、債務者の所得に制限を設けている。当初は、連邦貧困基準(poverty level)の2倍までと定めていたが、近年これを4倍までに引き上げた。

さらに、近年は、医療機関と直接話し合うことで、セカンダリー市場に債権を売却する前に債務の解消を図るという取り組みも進めている。

こうした活動が活性化する背景には、巨大な医療債務、しかもそれがどんどん膨らんでいるという実態がある(「Topics2013年7月16日 医療費破産」「Topics2022年3月15日(1) 医療債務の実態」参照)。そうした実態が広がる要因は、医療費の高騰とそれに伴う保険料の高騰、無保険者の存在、不法移民など、アメリカ社会が抱える大きな課題である。

※ 参考テーマ「医療保険プラン

8月19日(2) 企業プラン企業負担6.5%増
Source :Aon: U.S. Employer Health Care Costs Projected to Increase 6.5 Percent Next Year (AON)
上記sourceは、2023年の企業提供医療保険プランの企業負担が6.5%増加すると予測している。従業員一人当たりでは$13,800とみている。これは2022年の予測増加率3.7%をかなり上回る勢いである。コロナ禍で抑制されていた診療が平年並みに戻ることと、インフレ圧力で医療コストが上昇することが要因とされている。

一方、2022年の企業負担増加率は3.7%、従業員負担増加率は0.6%、全体では3.1%増となっている。

Plan Cost*

2021

2022

Change from
2021 to 2022

Employer Cost

$10,123

$10,500

+3.7%

Employee Premiums from Paychecks

$2,504

$2,520

+0.6%

Total Plan Cost

$12,627

$13,020

+3.1%

また、自己負担分を含めた従業員負担増加率は2.6%となっている。

Employee Costs*

2021

2022

Change from
2021 to 2022

Employee premiums from paychecks

$2,504

$2,520

+0.6%

Employee out-of-pocket costs

$1,798

$1,892

+5.2%

Total Employee Costs

$4,302

$4,412

+2.6%

2023年の企業提供医療保険プランのコストはかなり上昇するとみてよさそうである(「Topics2022年8月16日 企業プラン費用5.6%増」参照)。

※ 参考テーマ「医療保険プラン

8月19日(3) ESGと受託者責任
Source :State Anti-ESG Bills May Complicate Public Retirement Plan Investing (Morgan Lewis)
上記sourceでは、最近の州政府によるAnti-ESG法と、連邦政府のERISA解釈との間で矛盾が生じており、民間年金プラン運営会社にとっては混乱が生じる可能性があると懸念している。

州政府職員年金などは、連邦法であるERISAではなく、各州法によって規制されている。共和党が権限を握っている州においては、最近、Anti-ESG法が成立または提案されている。TX州のAnti-ESG法案(SB 13)がその典型だ(「Topics2021年5月31日 TX州:Anti-ESG法案」参照)。2021年には、17の州で同様の法案が提案または可決されたという。ESGの中でもターゲットになっている産業は、エネルギー、銃といったところである。

当websiteではずっと紹介してきたが、地方政府年金について、加入者・受給者の利益を最優先とすれば社会的投資は適切ではない、との分析が示されている。(「Topics2020年11月1日(1) 地方政府年金の社会的投資(2)」参照)。

一方、民間の退職年金プランを規制するのはERISAである。最近労働省が公表した年金プラン投資ガイダンス案では、加入者、受給者にとって最適な投資を追求するという従来の大方針を重視しつつ、投資判断の際にESGも考慮に入れて構わないという意向が込められているという(「Topics2021年6月17日(2) 気候変動とERISA」参照)。

年金プランを巡る全てのステークホールダーが、真摯に話し合う機会が必要になっている。

※ 参考テーマ「受託者責任」、「地方政府年金

8月19日(4) 出勤/在宅はtrade-off?
Source :A new work anxiety: Will I be penalized for working from home? (NPR)
コロナ過が続く中、経済活動を回していかなければならないというのは、世界共通の課題である。そうした新たな環境の中で、ハイブリッド勤務をどこまで進めるのか、すべての経営者、従業員が悩んでいるところだと思う。おそらく一つの正解はなく、皆が悩みながら解決していかなければならない課題であろう。

上記sourceは、そうした悩みを考えるのにいくつかの材料を提供してくれている。当websiteとして関心を持ったフレーズを書き抜いておく。 ※ 参考テーマ「人事政策/労働法制」、「Flexible Work

8月18日(1) 連邦職員ワクチン接種義務化終結
Source :The Biden Administration Ends COVID-19 Testing Aimed at Unvaccinated Workers (Government Executive)
バイデン政権は、ワクチン未接種職員に対するコロナ感染検査を止めることを決定した。契約企業従業員に対するワクチン接種確認もやめる。8月22日から施行する。これで、ワクチン未接種職員は、接種済み職員と同様のコロナ感染対策を求められることになる。

連邦政府職員に対するワクチン接種義務化については係争中であるが、これで議論は実質的に終結したことになる(「Topics2022年4月9日(1) 控訴裁:連邦職員接種義務化容認」参照)。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制

8月18日(2) CO州FMLI骨子
Source :Colorado workers, employers to begin paying 0.45% of wages for voter-approved paid leave program (The Durango Herald)
Colorado州(CO)の有給傷病休暇制度の概要が公開された。2020年11月の州民投票で可決された素案に基づく制度設計案である(The Hartford Insurance)。ポイントは次の通り(「Topics2022年6月18日(1) 有給傷病休暇の現状」参照)。
  1. 制度名は、"The Family and Medical Leave Insurance"(FMLI)。

  2. 有給休暇取得開始は、2024年。

  3. 有給休暇日数は、年間最大12週。

  4. 受給資格者は、年間給与が$2,500以上。

  5. 2025年まで、有資格従業員は給与の0.45%を拠出。企業は同額を拠出。2026年以降は、毎年決定する。ただし、上限は1.2%。2023年1月から拠出開始。

  6. 企業が自らCO州有給休暇制度と同等以上の制度を用意している場合には、加入を拒否できる。

  7. 受給資格者が有給休暇を取得した場合、給付額は給与の37~90%。ただし、上限は州$1,100。給与が高いほど給付額は低く、給与が低いほど給付額は高くする。その場合の上限が90%となる。
※ 参考テーマ「FMLA

8月18日(3) OR州:単一保険制度骨子
Source :Is Oregon Ready For Universal Health Care? (The Lund Report)
Oregon州(OR)が検討している単一保険制度の概要案が、6月に説明された。3年前の立法に基づいて設置されたタスクフォース(Oregon Joint Task Force on Universal Health Care)がまとめたものである。ポイントは次の通り。
  1. 2026年から制度運用開始。

  2. 財源は、新たな個人所得税と新たな企業雇用税。

  3. 新個人所得税では、累進性を高くする。一つの案として示された税率は次の通り。

    1. 年収$55,000未満:0%

    2. $55,000~70,000:1%

    3. $70,000~83,000:2%

    4. $83,000~111,000:3.5%

    5. $111,000~ :9.3~15%

  4. TFの試算では、州民の個人所得税負担($10.6B/2026年)は現行の保険料負担($12.25B/2026年)よりも軽くなる。

  5. 州政府・自治体、企業の企業雇用税率は、7.25~11%。その負担額($12.85B/2026年)も現行の保険料負担($14.54B/2026年)よりも軽減される。

  6. 免責額、保険料負担、窓口負担は一切ない。

  7. 保険会社は、CO州単一保険制度と競合するような保険プランを提供することは禁止される。

  8. 診療報酬は、州政府が医療機関と交渉する。

  9. 保険会社と契約して、運営を委託することも検討する。

  10. Medicare、Medicaid、Exchangeも統合する。ただし、こうした連邦政府負担が入っている医療保険制度を州制度に統合するためには、連邦政府の承認が必要になる。

  11. 制度の具体化を更に進めるためには、州議会の承認が必要となる。
※ 参考テーマ「無保険者対策/OR州

8月18日(4) 学生ローン返済とIRA
Source :Cancelling Student Debt Would Undermine Inflation Reduction Act (Committee for a Responsible Federal Budget)
インフレ抑制法(IRA)が成立したばかりだが、上記sourceは、学生ローン返済免除が拡大されれば、折角のインフレ抑制、財政収支改善見通しが損なわれてしまうと懸念している(「Topics2022年8月17日(1) インフレ抑制法成立」参照)。

上記sourceの推計は次の通り。
  1. 返済停止が年内いっぱいに延長されれば、$20Bの財源が必要(「Topics2022年4月7日(2) 学生ローン返済停止再延長」参照)。

  2. 年収$300,000以下の家計について、学生一人当たり$10,000の債務返済免除が認められれば、$230Bの財源が必要になる(「Topics2022年4月27日(3) 学生ローン返済免除への期待」参照)。
現在のバイデン政権にとって、中間選挙直前の返済開始などはあり得ないだろう。これは杞憂に終わるということはないだろう。

※ 参考テーマ「教 育

8月17日(1) インフレ抑制法成立
Source :Biden signs sweeping climate, health care, tax bill into law (NPR)
8月16日、バイデン大統領は、インフレ抑制法案(Inflation Reduction Act, H.R.5376)に署名した(White House Press ReleaseFACT SHEET)(「Topics2022年8月13日(2) インフレ抑制法案:下院可決」参照)。

これで、来年のExhange保険料に反映できそうである(「Topics2022年8月8日 インフレ抑制法案:上院可決」参照)。

※ 参考テーマ「Medicare」、「政治/外交」、「労働市場

8月17日(2) EEOC漸く始動
Source :EEOC: Care facility fired worker because of sexual orientation (HR Dive)
8月8日、EEOCは、Ohio州の介護施設を、性的指向に基づく差別、解雇を行なったとして裁判所に訴えた(EEOC Press Release)。EEOCは、訴訟前に和解を試みたが、うまくいかなかったことから、訴訟に踏み切った。

職場における性的指向に基づく差別は、連邦最高裁判決によって違憲であることが確定している(「Topics2020年6月16日 連邦最高裁:性に基づく解雇は違法」参照)。しかしながら、EEOCによる訴訟は、活発にはなっていない。共和党が支配する20州が、EEOCの活動を制限するよう訴訟を起こし、連邦地裁がこれを認める仮判決を下している。さらに、EEOCの委員交代も滞っている。リベラル派が少数のまま、時が過ぎている(「Topics2022年4月7日(1) EEOC委員指名」参照)。

バイデン政権の多様性を認める方針は、実効力を伴っていない。

※ 参考テーマ「LGBTQ」、「雇用政策/労働法制

8月16日 企業プラン費用5.6%増
Source :Mercer: Employers expect increased healthcare costs in 2023 (HR Dive)
上記sourceは、Mercerが実施した企業提供医療保険プランのアンケート調査結果を紹介している。これによると、2023年の医療保険プランコストは5.6%上昇する。2022年の予測上昇率4.4%を上回る。
ただし、CPI全体の上昇率は下回る見込みだ。これは、医療機関との契約が複数年にまたがること、企業が医療保険プラン提供を重要視していること、などが要因となっている。

一方、コロナ感染拡大の影響で通常医療行為が減少しているため、保険会社の収益は大きく改善しているという。

また、保険プランを提供している企業が警戒しているのは、処方薬価格の上昇である。物価抑制策が成立すると、Medicare処方薬に関する収益の減少を、企業保険プランで補おうとするのではないか、と見ているのである(「Topics2022年8月13日(2) インフレ抑制法案:下院可決」参照)。

企業側が従業員の負担増を求めようとする戦略は回避しようとする傾向は、継続している(「Topics2021年12月15日 従業員負担シフト止まる」参照)。

※ 参考テーマ「医療保険プラン

8月13日(1) 複数事業主プランの財政状況
Source :Multiemployer Pension Funding Study: Mid-year 2022 Edition (Milliman)
上記sourceは、2022年央(6月30日時点)の複数事業主退職年金プランの財政状況を分析したものである。ポイントは次の通り。
  1. 2022年前半の投資収益率は-12.3%。

  2. プラン全ての積立比率は80%と、2021年末の91%から低下した。

    Figure 1: Aggregate funded percentage (in $ billions)

    12/31/2021 6/30/2022 Change
    Accrued benefit liability $761 $771 $10
    Market value of assets 692 617 (75)
    Shortfall $69 $154 $85
    Funded percentage 91% 80% (11)%
  3. ARPに基づく複数事業主プラン救済策で、$6.7Bが支給された(「Topics2021年12月22日(2) 複数事業主プラン救済第1号」参照)。これにより、積立比率は1%ポイント改善した。

  4. 最終的には、救済策支給金は2027年までに$74~91Bにのぼるとみられる。推計中位数は$82Bである。これにより、積立比率は91%に回復するとみられている。

  5. 危機的状況に陥っているプラン(Critical and Declining)の積立比率は31%で横這いとなっているが、救済策支給金がなければ25%程度にとどまっていたとみられる。

    Figure 2: Aggregate historical funded percentage,by current zone status

救済策の評価は、まだまだこれからということだろうが、最悪の状況にあるプランについては、救済金は焼け石に水、という感じだ。改善できないプランは、解散するしかないだろう。

※ 参考テーマ「PBGC/Chapter 11
8月13日(2) インフレ抑制法案:下院可決
Source :Democrats passed a major climate, health and tax bill. Here's what's in it (NPR)
8月12日、連邦議会下院は、インフレ抑制法案(Inflation Reduction Act, H.R.5376)を可決した(「Topics2022年8月8日 インフレ抑制法案:上院可決」参照)。投票は、党派別の賛否、219 vs 208であった(Roll Call 419)。

バイデン大統領は、当然のことながら署名すると表明している。

※ 参考テーマ「Medicare」、「政治/外交」、「労働市場

8月11日 CPI上昇にブレーキ
Source :Inflation is cooling thanks to gas prices, but many things still cost a lot more (NPR)
8月10日、BLSは今年7月の消費者物価指数(CPI-U)を公表した(News Release)。上昇率は、前月比0.0%、前年同月比8.5%の上昇となった。前月に較べて、上昇率は低下した(「Topics2022年7月15日 CPI上昇率9.1%」参照)。
CPI上昇率にブレーキがかかったのは、偏にガソリン価格による。ガソリン価格の前月比は-7.7%と、久々のマイナスとなった。ただし、前年同月比は44.0%増と、まだまだ高水準である。これにより、エネルギー全体の価格上昇率は前年同月比32.9%となった。
一方、食料品の価格は、前年同月比10.9%増とまだまだ急上昇が続いている。
住居費も5.7%増と、上昇率が高まっている。
エネルギー、食料品を除くCPI上昇率は、前月比0.3%、前年同月比5.9%と、こちらも歯止めがかかりつつあるように見える。
こうした物価上昇のため、実質時給の低下傾向にも歯止めがかかった(Real Earnings News Release)。7月は前月比0.5%増、前年同月比で-2.7%となった。
※ 参考テーマ「労働市場