3月20日(1) 配偶者加入の見直し 
Source :Employers Reconsidering Commitment to Spousal Health Coverage (PLANSPONSOR)
企業提供保険プランでは、配偶者が加入する場合の保険料負担を見直す動きが強まっている。上記sourceで紹介されている調査結果のポイントは次の通り。
  1. 配偶者保険料の負担増
    • 2015年に配偶者保険料の負担増を求めた割合 ⇒ 56%
    • 2018年までに負担増を求める予定の割合 ⇒ 25%

  2. 配偶者加入賦課金
    • 他の企業から保険プランの提供を受けている配偶者が加入する場合、配偶者加入賦課金(spousal surcharge)を課している企業の割合 ⇒ 27%から2018年までに54%に増加
    • 平均賦課金額は$1,200/Y。
    • 配偶者の加入禁止 ⇒ 3%から2018年までに15%

  3. 子供加入の場合の負担増
    • 子供が加入する場合の保険料負担を増やしている企業の割合 ⇒ 46%
    • 2018年までに負担増を求める予定の割合 ⇒ 15%

  4. 従業員一人当たり医療費負担額

    2015年:$12,041 ⇒ 2016年:$12,643(5%増)
配偶者加入賦課金を利用する割合が増えているのは、医療費高騰により、企業に余裕がなくなってきつつあることを反映しているのであろう。また、子供の加入については、26歳まで親の加入を認めるよう法的規制(PPACA)ができたため、コストとして意識せざるを得なくなってきたのだと思う。

だんだん医療保険プランも世知辛くなりつつある。

※ 参考テーマ「医療保険プラン

3月20日(2) VT州:有給病気休暇法5番目 
Source :Vermont Becomes Fifth State to Require Paid Sick Leave (Ogletree Deakins)
3月9日、VT州知事が署名し、有給病気休暇法が成立した。州法で成立したのは、VT州が5番目となる。(「Topics2015年6月19日 OR州:有給病気休暇法4番目」参照)

制度設計の詳細は上記sourceにある通りで、様々な特徴のある州法だが、こうした動きが州毎に広がっていくと、全米で活動する企業にとっては面倒な話になってくる。就業規則の問題や労務管理の点で、州毎の対応をとらざるを得なくなるからである。有給病気休暇法が全米に普及していくようなのであれば、先取優先の連邦法にしてもらった方がよほどありがたいということになろう。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制

3月18日 ネットワーク絞込みの実態 
Source :Just how “narrow” are the ACA networks – and how much do the insured care? (Association of Health Care Journalists)
医療保険プランの医療機関ネットワークが絞り込まれていることについて、賛否両論が飛び交っている。そこで、上記sourceは、医療機関ネットワークの絞込みの実態について調べた分析を2つ紹介している。
  1. Most Regionally Ranked Hospitals Stay In-Network with Marketplace Plans, But Participation DeclinesRobert Wood Johnson Foundation

    • 地域の優良医療機関のほとんどが、保険プランのネットワークに加入している。

    • 医療機関が加入するネットワークの数は明らかに減少している。

    • 特に都市部での減少が著しい。

    • 一つのネットワークにしか加入していない医療機関の割合は大きく増えている。
    • それでも、特定の医療機関を選好する加入者は、その医療機関が含まれているネットワークを選択できているようだ。

  2. The Affordable Care Act Doesn’t Rank Highly As an Issue for Voters in the Presidential PrimariesKaiser Family Foundation

    • 加入している保険プランが提供する医療機関ネットワークについて、ほぼ9割近くの加入者は満足している。

    • 保険プランにかかりつけ医が含まれていなかったために医師を変更せざるを得なかった加入者の割合は、12%にすぎない。
要するに、マクロで見た場合、医療機関ネットワークの絞込みが大きな弊害をもたらしているとは言い難いのである。

※ 参考テーマ「医療保険プラン」、「無保険者対策/連邦レベル

3月17日 最高裁判事指名 
Source :Obama Chooses Merrick Garland for Supreme Court (New York Times)
16日、Obama大統領は、連邦最高裁判事候補として、Merrick Garland判事を指名した。報道されていた候補者リストのトップである(「Topics2016年3月10日 5人の判事候補」参照)。
候補者名現  職特  徴
Merrick GarlandChief Judge, U.S. Court of Appeals for D.C. ・63歳
・穏健リベラル
・民主、共和両党議員から支持
Sri SrinivasanJudge, U.S. Court of Appeals for D.C. ・49歳
・Obama大統領により控訴裁判所判事に指名
・上院の指名承認投票は97-0
・インド出身の移民
Paul WatfordJudge, 9th Circuit Court of Appeal ・48歳
・上院の指名承認投票は、両党から賛成票が入り、61-34
・慎重な判断で有名
Jane L. KellyJudge, 8th Circuit Court of Appeals ・51歳
・Obama大統領により控訴裁判所判事に指名
・上院の指名承認投票は97-0
・保守派より?
Ketanji Brown JacksonJudge, U.S. District Court ・45歳
・Obama大統領により判事に指名
・Ryan下院議長と縁戚関係
Garland判事は、幅広い信任を得ており、共和党議員からも賞賛されていて、共和党としてもなかなか不信任を言い募りにくい候補者であるそうだ。それでも、連邦議会上院の共和党幹部は信任投票に簡単には応じない模様だ。Charles E. Grassley上院院内総務は、あくまで大統領選で選ばれた次期大統領が指名すべきであると主張し、Garland判事本人に、信任投票のための聴取会合は開催しないと伝えた。もっとも、Garland判事本人も、控訴裁判事指名の際にも一年以上待たされた経験を持っており、慣れているものと思われる。

ここで、Obama大統領がGarland判事を指名した意味合いをまとめておく。
  1. 何といっても最高裁判事9人の中のリベラル派多数の構図を堅固なものにすることができる。New York Times紙のレーティングによれば、Garland判事はかなりの程度リベラル派であるとされている。
    上図をみると、9人中5人が相当左の方に固まっていることがわかる。Kennedy判事は、時折リベラル的な判断をすることが多いことから、民主党政権としては安泰ということになる。さらに言えば、Obama大統領は3人のリベラルを指名することにより、レーガン大統領以降、共和党出身大統領により形成されていた連邦最高裁の保守派的傾向をひっくり返すことに成功することになる。こうすることで、Obama大統領のレガシー(例えばPPACA)を守り切ることができるのである。

  2. 出身地がNY、CAに偏っている構成に、変化をもたらすことができる。その一方で、学歴はHarvard、Yaleに集中することになる。
今の情勢では、次の大統領も民主党という可能性が幾分高いと考えられる。そうなると、今ここで抵抗しても仕方がなく、もっと強硬なリベラル派が指名されてくる可能性すらある。上院共和党幹部がどこまで突っ張るかが焦点である。

※ 参考テーマ「司法」、「大統領選(2016年)

3月16日 トランプ候補の医療政策 
Source :Analysis of Donald Trump’s Health Care Plan (Committee for a Responsible Federal Budget)
溜池通信は、現時点での大統領候補選を、『もう無視できない「トランプ大統領」の現実味』(2016年3月14日)と評している。同時に、辛口で知られているシンクタンク、Committee for a Responsible Federal Budgetも、3月14日、トランプ候補の医療政策に対する分析を公表した。

ポイントは次の通り。
  1. PPACAの撤廃により、10年間で$500Bの財政赤字増となる。ただし、成長加速分を考慮すると、$$270Bの赤字増となる。

  2. PPACA撤廃により、無保険者は2,200万人増加する。代替措置を勘案しても、全米で無保険者総数は4,800万人に達する。
  3. Medicaidの連邦負担分の包括払いを提案しているが、その詳細は明らかにされていない。同時に、連邦政府のMedicaidに対する権限も縮小する。

  4. その他、従来の共和党の医療政策がずらっと並べられている。
    • 保険会社の州際業務を認める(=州政府の権限を縮小する)。
    • 個人の保険料負担の所得控除を認める。
    • 処方薬の輸入解禁。
もしもトランプ氏が大統領就任ということになれば、Obama大統領のレガシーは瞬時に瓦解することになる。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「大統領選(2016年)

3月15日 地方政府のOPEB 
Source :How Big a Burden Are State and Local OPEB Benefits? (Center for State & Local Government)
上記sourceでは、州政府、counties、教職員組合など地方政府部門のOPEB(Other PostEmployment Benefits)について推計している。主なポイントは次の通り。
  1. GAS45の導入以来、地方政府部門の退職者医療保険プランは減少している。
  2. 退職者医療保険プランを州職員に限定している州が結構多い。
  3. データとして集計できる地方政府部門で集計すると、給付債務は$702.3B、積立不足額は$652.8Bとなる。また、集計できないところも含めて全地方政府部門で推計すると、積立不足額は$862Bに達する。


  4. この積立不足額は、それぞれ年金プラン積立不足額の21%、28%に相当する。
  5. 退職者医療保険プランは、積立不足比率が年金に較べて遥かに高いものの、そのインパクトについては楽観的に受け止められている。なぜなら、
    1. 上記の通り、積立不足金額は年金のそれの1/4程度である
    2. 年金プランとは異なり、制度変更(対象者の限定、加入者負担の変更等)が容易である
    からだ。
そうはいっても、退職者医療プランを縮小していけば、人材の確保には悪影響が及ぶであろう。

※ 参考テーマ「自治体退職者医療/GAS 45

3月14日 救急室の活用 
Source :Hospitals Adapt ERs To Meet Patient Demand For Routine Care (NPR)
最近の2年間に、アメリカ人の約1/3は救急室を利用しているそうだ。救急室での診療は、それほど満足のいくものではないはずなのに、これだけの率で利用されている理由は、 というものである。

一般的には貧困であったり、無保険であったりするのではないかと思われているが、例えばフロリダ州で救急室を利用した人の8割は保険加入していた。

上記sourceでは、救急診療の目的以外の救急室利用を減らすためには、一般の診療所の開所時間をもっとフレキシブルにすべきだと述べているが、そういった対応をしたくないから診療所を開設している医師が多いのではないかと思う。地域医療を担う医師達に過剰な役割を持たせると、地域医療が崩壊しかねない。休日や夜間の対応は、日本でやっているように、地域での当番制といったやり方が現実的だと思う。そのためには、医師会が大きな役割を果たさなければならないが。

一方、救急室を抱える病院側も、救急室の利用を救急医療に限定せず、地域医療や特殊な診療に必要な機能を追加して、ニーズに応えようとする動きも出ているそうだ。

ちなみに、当方がアメリカ在住の際、最初に利用した医療機関は、総合病院(Suburban Hospital)の救急室であった。子供が骨折したのだが、一番近くにあった病院で、アメリカの医療システムを知らなかったからだ。当日は応急措置だけしてもらって、後は地域の整形外科に行くよう、紹介状を持たせてくれたのであった。ほろ苦い思い出である。

※ 参考テーマ「医療保険プラン

3月11日 労働市場の回復 
Source :Labor Market Reentrance in a Not-Yet-Healthy Economy (Center for Economic and Policy Research)
上記sourceは、『労働市場に再参入してきた人達がどれだけいるか』が労働市場回復のメルクマールになると主張している。具体的には、
「かつて就職していて退職した後、最近職探しを開始した人」が「失業者」に占める割合
をメルクマールにしている。
雇用増や失業率等は順調に見えているものの、上図をみると、この数値は依然として2007年当時を下回っている。それだけ、リーマンショックに伴う失業が大量であったとも言える。FRBが利上げに慎重な姿勢を崩さないのも、こうしたところに由来しているのだろう。

アメリカの労働市場は、まだまだ「堅調」とは表現できないようだ。

※ 参考テーマ「労働市場