8月31日 残業代対象見直し案公表
Source :DOL proposes $55K overtime rule threshold, automatic 3-year updates (HR Dive)
8月30日、労働省(DOL)は、残業代対象者の給与所得上限の見直し案を公表した(News Release)。ポイントは次の3点。
  1. 残業代対象者の給与所得上限を、現在の$35,568/Yから$55,068/Yに引き上げる。当初の意気込みからはだいぶ遠い提案となった(「Topics2023年7月22日 残業代対象者見直し案検討中」参照)。今年4月の上院提出法案に近い水準となっている(「Topics2023年4月5日(3) 残業対象者拡大法案提出」参照)。今回の提案水準は、35パーセンタイルに設定されている(FAQ)。
    • What is the proposed standard salary level? The Department is proposing to set the standard salary level at the 35th percentile of weekly earnings of full-time salaried workers in the lowest-wage Census Region (the South). Using 2022 data, the proposed salary amount would equal $1,059 per week (which is $55,068 annually for a full-year worker).

    • Why is the Department proposing to set the standard salary level at the 35th percentile of weekly earnings of full-time salaried workers? In updating the standard salary level, the Department seeks to more effectively identify who is employed in a bona fide executive, administrative, or professional capacity. The proposal updates the standard salary level to account for earnings growth since the 2019 rule and adjusts the salary level methodology based on the lessons learned in recent rulemakings.
    オバマ大統領⇒トランプ大統領⇒バイデン大統領と、政権交代の度に上限額が振れている(「Topics2021年6月23日 残業対象者の見直し」参照)。
    2004年~オバマ大統領提案
    (2015年6月)
    DOLルール
    (2016年5月)
    新DOLルール提案
    (2018年3月)
    現 行
    (2020年1月1日施行)
    今回のDOL提案
    (2023年8月30日提案)
    残業代対象者の給与所得上限額$23,660$50,400$47,476$35,308$35,568$55,068
    (全米フルタイマー所得の35パーセンタイル)
    新規対象者(増加分)-約500万人約420万人
    州別増加人数
    約100万人強約130万人強約360万人
  2. 高額報酬者(Highly Compensated Employees, HCE)の定義を、現行の$107,432/Yから$143,988/Y(85パーセンタイル)に引き上げる(FAQ)。新たに対象となるのは、約25万人程度(FAQ)。

  3. 残業代対象者の給与所得上限額、高額報酬者の所得下限額とも、3年ごとに自動的に見直す。その際、前者は35パーセンタイル、後者は85パーセンタイルに固定する(FAQ)。
今後、60日間、パブリックコメントを受け付ける。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制

8月30日(1) Medicare薬価交渉対象発表
Source :Here are the first 10 drugs that Medicare will target for price cuts (NPR)
8月29日、HHSは、Medicareの薬価交渉対象となる10薬品を発表した(HHS News)。
これは、昨年8月に成立したIRAに基づく施策だ(「Topics2023年2月13日(1) Medicare薬価抑制策検討開始」参照)。これらの処方薬に関わるMedicareのコストは2022年で約$50B、自己負担分は総額で$3.4Bにも達する。これらをどこまで制約できるかが課題だ。

処方薬価格の公表は、2024年9月1日の予定。施行は2026年以降となる。

※ 参考テーマ「Medicare」、「医薬品

8月30日(2) 求人数は減少傾向
Source :Job Openings and Labor Turnover Summary (BLS)
8月29日、BLSが、7月末の求人数を発表した。7月末の求人数は882.7万人で、前月比33.8万人の減少となった(「Topics2023年8月2日(2) 求人が埋まらない」参照)。減少傾向は明らかである。
労働力人口に占める求人数の割合は5.3%と、低下した。
新規雇用数は577.3万人と、減少が続いている。
失業者数/求人数は、0.7と上昇した。
7月の自発的失業(Quits)は354.9万人と、連続大幅減となった。
Quits level, Total nonfarm - 2019~2023年

Quits level, Total nonfarm - 2007~2023年
こうした中、7月の時間給をみると、伸び率の収束がより明らかになってきた。ただし、転職組の給与上昇率が上がったところは留意すべきだろう。

Federal Reserve Bank of Atlanta's Wage Growth Tracker
※ 参考テーマ「労働市場

8月25日 Medicare ACOsの節減効果
Source :Shared Savings ACOs cut spending $1.8B in 2022 (Modern Healthcare)
8月24日、CMSは、2022年のMedicare Shared Savings Program (Shared Savings Program) ACOsの節減効果を公表した(Press Release)。
  1. 2022年のMedicare ACOsの費用節減効果は、$1.88B。

  2. 費用節減の実現は、6年連続。
折角、節減効果は上がっているのだから、ACOs自体を増やしていくことが、最大の政策課題となる(「Topics2023年8月18日(3) Medicare ACOs前途多難」参照)。

※ 参考テーマ「Medicare

8月24日 法定最低賃金の意味合い
Source :In a Hot Job Market, the Minimum Wage Becomes an Afterthought (New York Times)
最低賃金を法定している意味合いが薄れつつある。
  1. 連邦最低賃金が$7.25/hに定められた2009年、連邦最低賃金で働いている労働者は全米で200万人近くいた。しかし、その後どんどん減少し、2019年は40万人、2023年1~7月の間では僅か68,000人に過ぎない。
  2. 30州+D.C.が連邦最低賃金を上回る州最低賃金を法定している(DOL)。ところが、各州の下位1/10位の賃金水準は、州最低賃金を大きく上回っている。
  3. 州最低賃金を引き上げても、周辺の州の最低賃金が高ければ、労働力は逃げて行ってしまう。
こうしたことから、最低賃金に対する政治的関心が低下している。

問題は、労働市場が売り手市場から買い手市場に転換した場合である。その際、 の両説が唱えられている。

少なくとも、賃金の下方硬直性は頭に置いておく必要があるだろう。

※ 参考テーマ「最低賃金

8月23日(1) 団塊後半世代の就労歴
Source :NUMBER OF JOBS, LABOR MARKET EXPERIENCE, MARITAL STATUS, AND HEALTH FOR THOSE BORN 1957-1964 (Bureau of Labor Statistics)
上記sourceは、アメリカの団塊の世代(1946~1964年生まれ)のうち、後半の世代(1957~1964年生まれ)の就業経歴を調査したものである。ちょうど管理人と同じ世代になる。ポイントは次の通り。
  1. 団塊後半世代は、18~56歳の間に、平均で12.7の職に就いている。歳を取るとだんだん転職が減ってくる。
    18~24歳5.6
    25~34歳4.5
    35~44歳2.9
    45~56歳2.3
  2. 団塊後半世代が18~56歳の間に、雇用されていた週数の割合は、全体で77.8%。うち、男性は83.4%、女性は72.0%で、女性の方が職を離れていた期間が長い。
  3. 学歴別、人種別にみると、高学歴ほど就業期間が長い。人種別では、大卒以上になってはじめて人種間の違いがなくなる。
  4. 実質年間給与は、45~56歳になるとほとんど増加しなくなる。これは男女とも同じである。
  5. 56歳の時点で、結婚している割合は全体で65.3%。うち、男性は66.9%、女性は63.6%。ただし、学歴によって、様相は異なる。大卒以上ほど結婚している割合は高い。また、大卒以上の中で、男性は80.0%、女性は70.1%。
団塊後半世代は、こうした人生を送ってきたのである。こうしたエビデンス、経験を若い世代にも伝える必要がある(「Topics2023年8月23日(2) Alternative Credentials」参照)。

※ 参考テーマ「労働市場」、「人口/結婚/家庭/生活

8月23日(2) Alternative Credentials
Source :Let’s Stop Pretending College Degrees Don’t Matter (New York Times)
上記sourceは、『大卒資格を軽視するのは止めよう』との主張である。ポイントは次の通り。
  1. 14の州政府が、職員採用の条件から大卒資格を外している(American Association of Community Colleges)。

  2. 企業経営幹部の71%が、専門資格を大卒資格と同等とみている(SHRM)。

  3. 専門的な知識があることを証明する資格(Alternative Credentials)さえあれば、高価な大卒資格は不要、との論調が広がっている(「Topics2023年8月8日(1) 在宅勤務と生産性」参照)。

  4. しかし、大卒資格者と専門資格者では、給与も企業側ニーズも異なる。

  5. 大事なことは、大卒資格と専門資格のミックスである。
では、『専門的な知識があることを証明する資格(Alternative Credentials)』とはどのようなものなのか。マイアミ大学の解説があったので、ここにリンクを張っておく。
Alternative Credentials (Miami University)
大学が提供するコースであっても、大卒に必要な単位取得に至らないものもある。

※ 参考テーマ「教 育」、「労働市場

8月22日 GA州/OK州のMedicaid
Source :Georgia Medicaid program with work requirement off to slow start (Modern Healthcare)
Georgia州(GA)は、7月1日、州独自のMedicaid制度("Georgia Pathways to Coverage", or "Pathways")を施行した。"Pathways"の主な加入要件は次の通り。
  1. 年齢は19~64歳。

  2. 家計所得が、FPL100%以下。

  3. 就業、職業訓練、社会活動などが月80時間超(「Topics2020年10月27日 GA/NE州:就労義務規定認可」参照)。

  4. 他のMedicaid制度の加入資格がない(Georgia Medicaid Basic Eligibility)。
ところが、8月初めまでに加入が認められたのは、たったの265人ということだ。GA州政府は、今後、順次認可が進んで加入者数は増えていくと説明しているが、どうも関係者の感覚では、州政府が積極的に加入を進めている様子はないという。

一方で、通常Medicaidについては、加入資格の再確認作業により、既に17万人以上が加入資格を取り消されている(「Topics2023年5月10日(1) PHE終結とMedicaid」参照)。

GA州とは対照的なのが、Oklahoma州(OK)である。2021年からOK州Medicaidは、加入資格の所得制限をFPL138%に引き上げた(「Topics2021年6月15日 OK州:Medicaid拡充加入者数」参照)。今回の加入資格確認作業で資格取り消しが分かると、直接、この拡張Medicaidに移行させることとしている。この措置により、10万人近くが無保険者にならずに済んでいるという。

おそらく、Medicaidを拡充している州では、OK州と同様のことが起きているだろう。拡充していない州は10州しかなく、両者の差はますます拡大することだろう。

Status of State Medicaid Expansion Decisions: Interactive Map (Kaiser Family Foundation)
※ 参考テーマ「GA州」、「OK州」、「州レベル全般