まずは、財源に関する追加情報。Obama陣営に関係する専門家のメモによれば、とされている。
- Obamaプランを完全に施行すると$50〜65Bの財源が必要となる。
- 必要となる財源は、@配当課税への減税廃止、A25万ドル以上の所得者への減税廃止、B$7M以上の遺産への増税により賄う。
続いて、Obamaプランへの評価。
- 大規模な政府施策であるが、民主党内では中道、という評価になろう。現行制度を活用しようという提案だ。(Robert Blendon, Harvard School of Public Health)
- 財源が課題となる。(Drew Altman, CEO of the Kaiser Family Foundation)
- 莫大な財源が必要となる。$100Bを超えるのではないか。(Joseph Antos, Scholar of AEI)
- 皆保険にならないのではないか。(John Sheils, senior vice president of Lewin Group)(Ron Pollack, executive director, Family USA)(Boston Globe)
- 他の候補の方が現実的な提案をしている。Edwardsプランの方が、もっと総合的であり、政治的にも現実的である。(Boston Globe)
- 子供のみに加入を義務付けており、成人には義務付けていない。最もコストのかかる慢性病については政府が負担することになるため、企業にとっての医療負担は軽減される。(Lynn Sweet, Chicago Sun-Times)
- 誰がどれだけ負担すべきかという議論を明確にしたのはよい。大企業が改革の主役にならない限り、皆保険はほど遠い。(Ronald Brownstein, Los Angeles Times)
- 現行の企業提供医療保険プランに大きく依存し過ぎている。失業や転職に伴って医療保険を失う可能性が依然として残る。アメリカ企業、労働者にとって、国際競争の中で長期的には不利になる。競争相手の国々では政府が医療コストを負担しているからだ。(Sen. Ron Wyden, D-OR)(Financial Times)
皆保険を主張していながらも具体策を示していなかったObama上院議員(「Topics2007年3月27日 民主党候補 皆保険導入で一致」参照)であるが、29日、Iowaで、その骨組みを示した。同議員の説明によれば、これはたたき台であり、有権者とディスカッションをしながら発展させていく発射台であるとの位置付けである。また、必要な財源確保のために、Bush大統領が導入した減税を廃止する必要があることも述べている(Newsday)。
ポイントは次の通り。管理人のコメントは、各項目下の斜字部分。
- 保険プランの整備
民間保険プラン、公的医療プラン、両方の改善により、皆保険を目指す。⇒ 取り敢えず、単一保険プランを主張しないことで、現行制度からの大変革というイメージは消している。現段階で企業が提供している医療保険プラン、個人が加入しているプランについては、変更しなくてもよいとのメッセージとなっている。
- 新たな連邦保険プランの導入
- 主な対象は、企業からの保険プラン提供のない個人、公的医療プランの対象とならない個人、自営業者、小規模企業。
- 健康状態、病歴等により加入を拒否されることはない。
- 給付内容は、FEHBPと同様。
- 適切な保険料、自己負担、免責額を用意。
- Medicaid、SCHIPの対象とならないものの、保険プラン購入のためには補助が必要な所得層について、所得に応じた連邦補助金を用意する。補助金は、新連邦保険プラン、民間保険プランのどちらでも利用可能。
- 新連邦保険プランならびに"Exchange(次項参照)"加入者については、ポータビリティを確保する。
⇒ 無保険者がたまっている層に集中した公的保険プランを導入し、補助金をつけながら加入を促そうという狙いである。MA州皆保険法の"CCHIP"と似ている(「Topics2006年4月10日 Massachusetts州の皆保険法案」参照)。
- National Health Insurance Exchange("Exchange")の創設
- 民間医療保険プランを購入しようとする国民を支援するために、"Exchange"を創設する。
- "Exchange"は、国民が医療保険を公正に購入できるよう、医療保険市場の監視、改革を役割とする。
- 国民は、"Exchange"を通じて、新連邦保険プラン(上記@)または民間保険プランを購入できる。必要な家計には補助金(上記@-e)を支給する。
- "Exchange"は、すべての医療保険プランの内容が適切かどうかを評価する。
⇒ これも、MA州皆保険法の"Connector"とそっくりである(「Topics2006年4月10日 Massachusetts州の皆保険法案」参照)。ただし、市場の監視機能はオリジナリティあり。
- 企業の拠出金
適切な加入者割合を持たない、または応分の負担を行なっていない企業については、給与(payroll)の一定割合を連邦に拠出する。
⇒ "Pay or Play"原則。- 子供の保険加入義務付け
25歳以下の若年者については、親の医療保険の被保険者となることを認める。
- Medicaid、SCHIPの拡充
加入資格を緩和する。
- 州政府の尊重
既に皆保険に向けて改革を進めている州については、そのイニシアティブを阻害する、または連邦制度への転換を求めるものではない。連邦政府が求める基準を満たしている限り、州レベルでの改革を継続して構わない。⇒ この提案は、現実を直視した柔軟な内容である。特に、医療については州政府が責任を持つとの通念が成立しているアメリカでは、現実的であろう。最低賃金制度のような発想である。
⇒ 州レベルではいくつか導入されている制度(補助金型再保険プログラム)である(「Topics2005年2月2日 医療再保険制度の役割:州政府の無保険者対策」参照)。
⇒ Edwards元上院議員に対するちょっとした嫌味かもしれない(「Topics2007年2月7日 Edwardsの皆保険提案」参照)。
⇒ 最近の修正法案と同様のフレーズ(「Topics2007年5月11日 処方薬本格輸入は道遠し」参照)。つまりはポーズだけで、実質的には認めない、ということ。
⇒ これも、同様の法案が既に提出されている(「Topics2007年1月18日(2) Genericsを巡る密約」参照)。
⇒ これも、同様の法案が既に提出されているが、暗礁に乗り上げている(「Topics2007年4月19日(2) 処方薬価格交渉法案は暗礁に」参照)。
ちょっと遅くなってしまったが、連邦議会が可決した翌日の25日、大統領が署名し、最低賃金引き上げが決定した(「Topics2007年5月25日 最低賃金引上げを可決」参照)。
あれだけ急増していたカナダからの処方薬輸入が、2006年には大幅減となったそうだ。2004年には$1Bあったものが、2006年に$500Mと半減した。
これには、いろいろな原因があるようだ。結局、White HouseとFDAの実質的勝利と言えよう。
- 処方薬輸入にかかる事務管理コストが高く、割安感が薄れた。
- 処方薬輸入の合法化が遠のいた(「Topics2007年5月11日 処方薬本格輸入は道遠し」参照)。
- 個人輸入は大目に見るものの、大量輸入について税関は厳しい監視を行なっている(「Topics2006年10月5日 輸入処方薬合法化成立」参照)。
- Medicare Part Dにより、高齢者が処方薬を保険で購入できるようになり、負担感が薄れた。
- カナダドルが高くなっている。
- アメリカ国内でジェネリックが普及し始めている。
- 輸入処方薬に対する安全性に疑問が持たれている。
24日、連邦議会上下両院が相次いで最低賃金引き上げを可決した(HR 2206)。内容は、両院協議会での合意の通り(「Topics2007年4月25日(1) 最低賃金引上げ法案 両院協議成立」参照)。
Bush大統領は署名すると明言しており、法案成立は確実だ。
時間給を$5.15から$7.25に引き上げるわけだから、影響は大きいように見えるが、アメリカ全体で見れば、それほど大きくないことがわかる。Pelosi下院議長は、「遅きに失した」とのコメントを出しているようだが、どれだけの成果と評価が得られるのだろうか。しかも、中小企業経営者には大きな減税を与えてまで。
- 半分以上の州で、州の最低賃金を連邦レベルよりも高く設定している。
- 7つの州で、既に$7.25よりも高い最低賃金を設定している。
- EPIの推計によれば、労働者の4%、約560万人の賃金が引き上げられることになるだけである。
ところで、このどさくさに紛れて、航空業界は、年金プランの積立に関する猶予規定を勝ち取ったそうだ。変なの。
CDHPの加入率が低迷していることは既に紹介した(「Topics2007年3月20日 笛吹けど踊らず:CDHP 」参照)が、その原因は、加入者の満足度が極めて低いことにあるようだ。上記sourceは、CDHP加入者に、かつての伝統的な医療保険プランとの比較で、様々な満足度調査を行なった結果であるが、悉くCDHPの満足度が低い。また、HSAとの組み合わせで積立ができるというメリットすら認識されていないような状況だ。
この調査を受けて、Financial Timesは、2008年大統領選は共和党に不利、と報じている。つまり、不人気な医療保険プランを推進してきた共和党は、皆保険制度を推奨する民主党候補に対抗できない、という訳だ。
国民の関心の高い政策分野だけに、ダメージは大きいだろう。
経営者報酬に対する関心が高まる中(「Topics2007年5月15日 経営者報酬監視強化法案に援軍」参照)、経営者報酬に関する歴史、経済的分析、政策対応などについて、CRSがまとめている。アメリカ企業の内部統制のあり方を含め、冷静な分析に基づくものなので、勉強するにはとても良い素材だと思う。
18日、年金プランについて3分類を提案するスタッフ・ペーパーが提出された。2月のIASBでの議論(「Topics2007年2月25日 IASBも方向性を修正か?」参照)を受けての修正提案である。IASBメンバーも、大まかには賛成した模様だ(IAS PLUS)。
大まかにいって、次の3分類が提案されている。上記sourceのAppendix Aに、Plan1〜8の例示があり、これらを読むと、それぞれがどういうものであるかというイメージがつかみやすいと思われる。
- Defined Contribution Promises(確定拠出給付プラン)
要するに、従来のDCプラン。債務は当該年度の拠出金額(拠出金要件)。事業主が拠出金を支払えば、その債務は消滅する。
- Defined Return Promises(確定リターン給付プラン)
従来のCBプランに近い考え方。拠出金要件+約束したリターンが事業主の義務となる。事業主の負債は、『累積未払い拠出金+(約束したリターンの公正価値−利用可能な資産)』。
- Defined Benefit Promises(確定給付プラン)
上記1.2.以外の給付プラン。長生きリスク、従業員の年齢構成変化に伴うリスクなども事業主のリスクとなる。
なお、価値計測について、最終的にIASBメンバーは、ということで、全員一致したとのことである。
- プラン資産、約束したリターンは公正価値(fair value)で計測する。
- 拠出金要件は公正価値で計測しない
加州議会で議論されている皆保険法案で、上院、下院とも同様の修正が入った。雇用主は、給与の7.5%以上を保険プランとして提供するか、州基金に拠出することを求められるとしている。これまで、SB48、AB8とも、一定割合としていたが、ここにきて数字を合わせて修正された(「Topics2007年5月1日 加州議会に動き」参照)。
提 案 者 法 案 企業の責任 個人の責任 参 照 シュワ知事 − 従業員10人以上の企業は4%の拠出 全州民が保険購入義務 「Topics2007年1月9日 シュワ知事の提案」 Sen. Don Perata SB48 全企業が7.5%の拠出。個人経営者のみ適用外。 FPL4倍以上の州民は保険購入義務 「Topics2006年12月26日(2) シュワ知事の最優先課題」 Assembly Speaker Fabian Núñez AB 8 全企業が7.5%の拠出。創業3年以内、従業員1人以下、給与総額10万ドル以下の企業は適用外。 企業が保険を提供または拠出している場合には購入義務 「Topics2006年12月28日 加州議会No.2の提案」 Sen. Sheila Kuehl SB840 従業員に対する医療保険プランの提供を義務付け 医療保険購入の義務付け。単一保険。 「Topics2007年3月1日(3) 三たびSB 840(CA州皆保険法案)」
意外に、シュワ知事と州議会との対決の日は近いかもしれない。