1月19日(1) 後払い役員報酬にキャップ Source : Senate Panel Limits Pay Deferrals for Executives (Washington Post)

管理人もよく知らなかったのだが、アメリカの企業経営者・役員には、『後払い報酬(deferred compensation)』という制度があるそうだ。 最終的には課税されるのだが、運用段階で非課税のために、実質の運用利回りが高くなり、結果として大きな額の報酬が確保できる、ということになる。

これに対して、上院財政委員会は、次のような制限を加えるという案を可決した。
  1. 年間拠出限度額を、@$100M、A過去5年間の平均年間基本報酬(salary)のいずれか小さい方とする。(←赤字部分は、「Topics2007年1月29日(1) 後払い報酬課税強化」により修正)
  2. 上記限度額を超えて拠出した場合、
    1. 拠出額全額を所得税課税対象とする。
    2. さらに、20%のペナルティ課税をかける。
普通の401(k)プランでも、年間$15,000しか拠出枠はないので、当然といえば当然だが、この案の本当の狙いは、最低賃金の引き上げにあるそうだ。風が吹けば桶屋が儲かる方式で、
最低賃金を、現在の$5.15/hから$7.25/hに引き上げたい。
   ↓
小規模企業のコストアップにつながる。
   ↓
小規模企業を対象とした税制優遇措置が必要。
   ↓
連邦政府財政赤字は縮小しなければならない。
   ↓
小規模企業税制優遇措置のための財源が必要。
   ↓
大企業役員関連の増税措置を導入。
という流れである。実際、上記の非課税枠の限定措置は、小規模企業向けの減税措置が13項目(10年間で$8.3B以上)、大企業対象の増税措置が14項目(ほぼ同額)というパッケージの中の一つということだ。

上院は、最低賃金引き上げとこの税制措置のパッケージを抱き合わせで審議しようとしているそうだが、既に最低賃金引き上げ法案を可決している下院の民主党は、減税措置に反対で、不快感を示しているらしい。

ここでも民主党内に不協和音が窺える(「Topics2007年1月15日(2) 連邦議会民主党の第一歩:Medicare処方薬」参照)のだが、事前調整というのは行われていないのだろうか。

1月19日(2) PA州知事も皆保険提案 
Source : GOVERNOR RENDELL UNVEILS HISTORIC 'PRESCRIPTION FOR PENNSYLVANIA' TO PROVIDE ACCESS TO AFFORDABLE, QUALITY HEALTH CARE FOR ALL PENNSYLVANIANS

17日、Rendell ペンシルバニア州知事が、州レベルでの皆保険制度導入提案を行った。MA、CAに続くものだが、前2州と異なるのは、Rendell州知事が民主党ということである。ちなみに、同知事は、先の知事選では圧勝し、2期目に入っている。

もちろん、制度導入のためには、州法、予算の手当が必要であり、知事自身は、2008年からの導入を目指している。

『PA州の処方箋』と名付けられたこの提案は、@皆保険制度の導入、A医療機関へのアクセスの改善、B医療の質の向上、の3つの柱となっている(詳細はここ)。
  1. "Cover All Pennsylvaninans (CAP)"(皆保険制度の導入)

    1. 民間保険市場を通じて、小規模企業、無保険者に購入可能な保険プランを提供する。

    2. 次の3つの条件をすべて満たす場合、企業はCAPプログラムに加入できる。その場合、企業負担は従業員一人あたり約$130/M、従業員負担は所得水準により$10〜$70/Mとなる。
      1. 過去6ヵ月間、従業員に保険プランを提供していない。
      2. 従業員50人未満である。
      3. 従業員の平均報酬が、州内の平均年間報酬(約$39,000)を下回っている。

    3. 企業規模に拘らず、すべての無保険者は、CAPを通じて保険に加入できる。
      1. PL300%以上の場合、保険料負担は約$280/Mとなる。
      2. PL300%未満で州内平均年間報酬(約$39,000)を下回っている小規模企業の従業員の場合、保険料負担に対する補助を受けることができる。

    4. PL300%以上の所得層について、段階的に医療保険プラン加入を義務付ける。また、全日制の大学生、大学院生にも加入を義務付ける。

    5. 従業員に医療保険プランを提供していない企業については、相応の負担(CAPへの拠出金)を求める。ただし、初年度は従業員50人未満の企業は対象外とする。

  2. "Access"(医療機関へのアクセスの改善)

    1. 夜間、週末に診療を行う医療機関には、インセンティブを提供する。

    2. 通常の診療のためにER(救急医療)を利用することを抑制する。

  3. "Quality"(医療の質の向上)

    1. 院内感染、医療過誤を防止する。

    2. 慢性病の診療を標準化する。

    3. 保険料の設定に際し、地域性、健康状態、性別などの要素を含めることを禁止する。

    4. 診療機関に関する規制を見直し、医療情報の電子化、医療の質の向上を目指す。

    5. 不要、非効率な診療を止めさせる。

    6. 州民の健康増進を図る。

    7. PA州内のすべての職場、レストラン、バーを禁煙とする。
MA州皆保険法に近い、かなり現実的な提案との印象を持った。

1月18日(1) 医療で労使共闘 
Source : AARP, Business Roundtable and SEIU Partner to Spur Action on Health Care, Long-Term Financial Security (Business Roundtable)

16日、企業、労組、公益団体の代表が、National Press Club共同記者会見を行い、アメリカの医療政策と退職後の所得確保について、今後、3者で『共闘』するとの宣言を行った。特に、医療問題については、政治に対して非常に厳しいスタンスを取ることを明確にしている。

具体的に、3者とは、次の通りである。
企  業 Business Roundtable
労働組合 SEIU
公益団体 AARP
Business Roundtableは、大企業の経営者の集まりであり、今週末には日本経団連と定期会合を開催する。労組のSEIUは、逸早くAFL-CIOから離脱し、新たに"Change to Win Coalition"を結成した新興労組団体である(「Topics2005年9月16日(1) 4つ目の離反」参照)。特に、医療機関の従業員労組を大量に組み込んでいるところに特徴がある。 また、AARPは、もともと高齢者の利益代表として活動してきた団体として有名である。

3者は、共同のwebsite "Divided We Fail"を立ち上げ、キャンペーンを開始した。そして、上述の共同記者会見で、Bush政権と両政党のリーダーに対して、 とのメッセージを表明したのである。政治家に、「理念は横に置いて先ずは妥協策を探れ」と言っているのである。この強いメッセージが故に、今日のタイトルを『共闘』としてみた。

では、具体的な医療制度改革提案はどのようなものになるのか。近くその概要が3者から公表されるようだが、Washington Post紙がそれらを取材して報じている。
  1. 改革提案

    1. 皆保険制度を目指す。個人に加入義務を課すか、企業に医療保険プランの提供を義務付ける。
    2. PL300%以下の家庭には、保険料、免責額、自己負担のための補助金を提供する。
    3. 個人で医療保険プランを購入した場合に、企業の医療保険プランと同様の税制優遇措置を適用する。
    4. 個人、小企業が大企業と同様の条件で保険プランを購入できるように、各州に保険プールを創設する(拙訳「医療再保険制度の役割:州政府の無保険者対策」参照)。
    5. 期限を設けて、医師、医療機関に診療記録のデジタル化を強制する。必要となるハード、ソフトの購入に対して、無利子貸付の制度を創設する。

  2. 必要となる関係者の譲歩

    1. 医師は、成果に応じた診療報酬体系を受け容れる。
    2. 医療機関、保険会社は、@収入の85%を直接診療に関する経費に充てる、A残りの15%を上限を定めた利益と管理コストに充てる。
    3. 保険会社は、医療保険プランへの加入を拒否できないようにする。
    4. 保険料を抑制するために、労組メンバー、高額所得従業員については、税制優遇措置により得られるベネフィットに上限を設ける。
    5. 政府による価格設定方式を回避するため、第3者機関が、新薬についてのコスト・ベネフィット分析を行う。
    6. 保守派、小企業は、"Pay or Play"方式を受け容れる。
    7. リベラル派は、基礎的な保険給付(予防診療、高額療養費の免除を含む)と自己負担の組み合わせを受け容れる。

  3. キーパーソン「Topics2006年11月28日(1) 新連邦議会のキーパーソン」参照)


1月18日(2) Genericsを巡る密約 
Source : Leading Members Of Senate Judiciary Panel Introduce Bipartisan Bill To Stop Payoffs That Delay Generic Medicines (U.S. Senator Patrick Leahy)

Medicare処方薬について連邦政府の価格交渉権を復活させる提案(「Topics2007年1月15日(2) 連邦議会民主党の第一歩:Medicare処方薬」参照)に続き、今度は、ブランド品メーカーとジェネリック・メーカーの取引にメスを入れる法案である。

同法案は、上院法務委員長であるPatrick Leahy上院議員など超党派のサポートにより、上程された。法案名は、"Preserve Access to Affordable Generics Act"。主旨は、法案提出議員達の次の言葉に集約されている。
Sen. Herb Kohl (D-WI) : “When big brand-name drug companies pay generic manufacturers to stop generic drugs from reaching pharmacy shelves, consumers lose big-time. We can’t say we care about the high cost of prescription drugs while turning a blind eye to backroom deals between brand and generic drug companies. This practice has got to stop.”

Sen. Patrick Leahy : “Some drug firms have colluded to pad their profits by forcing consumers to pay higher prices than they would pay for lower-cost generics. Now that this sweetheart dealing has been uncovered, we owe it to consumers to end it. Our bill is a clear-cut opportunity to remove an impediment to competition that prevents the marketplace from working as it should -- to benefit consumers, and not just the drug companies.”
ブランド品メーカーは、自社製品の価格下落を防ぐため、ジェネリック・メーカーとの取引(金銭の支払い)により、パテント切れに伴って出てくる可能性のあるジェネリックの上市を阻止する、ということをしている。公正取引を所管するFederal Trade Commission (FTC)は、こうした取引は違法であるとのスタンスを取り続けていたのだが、2005年、連邦最高裁がFTCの判断を覆し、取引は合法であるとの判決を出してしまったそうだ。その後、FTCの調べでは、2005年(最高裁判決後の6ヶ月間)に3件、2006年に7件、同様の取引が行われている。

こうした事態を是正するために、改めてFTCの判断を強化しようというのが法案提出の趣旨である。

上記の医療制度改革の話に較べれば、スケールはうんと小さいが、民主党主導により、処方薬に狙いを定めた医療改革提案が矢継ぎ早に行われている。Bush大統領の反応は、おそらく、一般教書(1月23日予定)で示されるものと思う。


1月17日(1) Obama上院議員の優先政策事項 Source : Barack Obama joins White House race (Financial Times)

予てからの噂通り、Barack Obama上院議員が、2008年大統領選に名乗りをあげたそうだ。ケニヤ人の父とアメリカ白人の母との間に生まれ、現在45歳。若い候補者である。

さて、彼の優先政策事項を見ると、"Seniors"、"Health Care"という項目が並んでいる。ここら辺りが、当websiteの関心分野である。ポイントを簡単にまとめておくと、次のようになる。 あまり得意な分野ではないとの印象を受けた。

1月17日(2) WLB三種の神器 Source : Reasons to Hold Out Hope for Balancing Work and Home (Wall Street Journal)

アメリカでも、ワーク・ライフ・バランス(WLB)の確保が話題になっており、その流れは強まるばかりのようである(「Topics2006年8月31日(1) Flexible Work Arrangements」参照)。その中で、重要と思われるツールとして、次の3つが紹介されている。
  1. 働き方・働く時間・働く場所の柔軟化
  2. 家族の安全確認システム
  3. 在宅勤務

1月15日(1) シュワ知事提案への新聞論調 Source : Editorials, Opinion Pieces Address Universal Health Insurance (Kaisernetwork)

上記sourceは、シュワ知事の皆保険制度導入提案(「Topics2007年1月9日 シュワ知事の提案」参照)に対する、社説等の新聞論調をまとめたものである。概して、皆保険制度導入に加州知事、シュワ知事がコミットしたことを評価するものが多いようだ。

1月15日(2) 連邦議会民主党の第一歩:Medicare処方薬 Source : House Passes Medicare Drug Bill (Washington Post)

早速、連邦議会民主党が動き始めた。予めPelosi下院議長が宣言していたテーマではあるが、Medicareにおける処方薬価格の交渉権を連邦政府に持たせるというものである(「Topics2006年11月14日 新連邦議会前哨戦:Medicare処方薬」参照)。

法案(H.R. 4)はごく短いもので、全文でも、たったこれだけである。

要するに、 というものである。

下院は、12日、この法案を、255対170の大差で可決した。共和党から24人の賛成票があったようである。

これだけ共和党からの寝返りがあると、上院もうまくいくかというと、そうでもないらしい。CMSCBOの推計によれば、同法案が可決したとしても、連邦政府支出にはほとんど影響が出ない。また、Kaiser Family Foundationの世論調査によると、圧倒的に多数の高齢者が、現在の処方薬プログラムに満足しているという。

さらに、White Houseも、「今の法案の内容のまま大統領府に送付されてくれば、拒否権を発動する」と明言している。

こうした状況を反映して、上院では、同様の目的の法案は提案されていない。わずかに、例えば、競合品のない処方薬に限定して、連邦政府に価格交渉権を賦与する、という法案が提出されており、より規模が縮小した形になる可能性もある。

こうした厳しい情勢の中、下院民主党が法案可決に敢えて向かった理由は、次の3点と考えられる。
  1. Pelosi議長の公約だった。
  2. Bush政権、共和党が処方薬の価格抑制に消極的(=製薬会社の利益を重視)であることを浮き彫りにする。
  3. 退役軍人用のプログラムでは、連邦政府(Department of Veterans Affairs)が価格交渉をして、Medicareよりも安い価格に抑制している。(New York Times
上記2.は、2008年の大統領選に向けて、対立軸を明確にする目的がある。また、上記3.は、『Bush政権は、退役軍人には安い処方薬を提供しているのに、一般の高齢者には高い処方薬を押し付けている』とのメッセージになり得る。こうした民主党の攻勢に、Bush政権、共和党は、どのように応えるのか。

1月12日(1) Kennedy上院議員の挑戦 Source : Sen. Kennedy Seeks Universal Health Plan (New York Times)

いよいよ、民主党の社会保障の大御所の登場である。10日、Kennedy上院議員が委員長となったHELP委員会で、公聴会が開催された。テーマは、「医療の皆保険制度」である。

Kennedy委員長は、MA州選出であり、まさに、州レベルでの皆保険制度の第一号となろうとしているところである。上院議員自身は、連邦レベルで皆保険制度を導入すべきであり、そのためには、Medicareを拡大することが望ましい、と考えている。

この日の公聴会では、様々な意見が出されたようであり、その集約はかなり難しいということが改めて確認された。しかし、それでも、次の2点については、出席者の意見がほぼ一致したと報じられている。
  1. 子供の保険加入を促進するための連邦政府支出を拡大すべきである。
  2. 州レベルでの皆保険制度導入を連邦政府が阻害しないようにすべきである。
仮に、この公聴会での意見表明が、国民の意見をほぼ代表しているというのであれば、連邦政府の役割は、州レベルでの皆保険制度導入に際し、子供の保険加入のための財源を拠出すること、というまとめができる。Kennedy議員、さらには、クリントン議員がそのような路線を打ち出していくのかどうか。連邦政府レベルでも、熱くて厳しい議論が始まった。

1月12日(2) 連邦下院議席確定 Source : Election 2006 (New York Times)

いつ確定したのかは知らないのだが、たまたま上記sourceのサイトを覗いたところ、連邦下院の議席が確定していた。民主党233議席(+30)、共和党202(-30)という結果であった。前回確認した時点(「Topics2006年11月17日(1) Pelosi女史に平手打ち」参照)からの変化を見ると、未確定6議席のうち、民主党2議席、共和党4議席の獲得となったようだ。

1月11日 シュワ知事提案への反発 Source : California Health Insurance Proposal Faces 'Hard Fight,' New York Times Reports (Kaisernetwork)

8日に行われたシュワ知事による医療保険制度改革提案(「Topics2007年1月9日 シュワ知事の提案」参照)に対して、案の定、様々な反応、懸念が表明されているらしい。主な批判は、次の6つに集約できるようだ。
  1. 不法入国者の子供を支援すれば、さらに不法入国者を呼び寄せる。(州議会共和党議員)
  2. 企業に新たな負担を求めるのは間違い。(州議会共和党議員)
  3. 医療機関、診療所に新たな負担を求めることは理解できない。(医療関係)
  4. 保険会社を太らせるだけ。(労働組合)
  5. 拠出金負担が小さいため、医療保険提供をやめる企業が続出するのではないか。(労働組合)
  6. 連邦政府からの補助金をあてにするのは非現実的。(保険関係者)
まさに上記source表題にある通り、"Hard Fight"の始まりである。