1月31日 最低賃金引上法可決 Source : On the Motion (Motion to Invoke Cloture on the Baucus Amdt. No. 100 ) (US Sanate)

30日、上院で、最低賃金引上法(HR 2)が審議された。同法案は、既に下院で可決されているものであり、連邦最低賃金を、$5.15/hから$7.25/hに順次引き上げるというものである。

しかし、上院では、これに対して修正動議が提出された。修正内容は、財政委員会で可決された案(「Topics2007年1月19日(1) 後払い役員報酬にキャップ」参照)であり、後払い報酬に対する課税強化策を含むものである。上院本会議は、この修正動議を賛成多数(87 vs 10)で可決した。

さて、下院でこの上院案をどう判断するかが、次のステップとなる。

ちなみに、大企業のCFOの集まりであるFEIは、後払い報酬への課税強化に反対を表明している。その理由は、次の3点。
  1. 後払い報酬の上限を設けようとする税制措置は、2004年にも立法化されたが、複雑な手続きが必要となるため、具体的な規則は未だに決定されていない。

  2. 後払い報酬は、アメリカの貯蓄率の向上、投資の拡大に貢献している。

  3. 報酬の詳細は、既にSECの新ルールで透明性が確保されており、その金額の妥当性については、株主が判断する仕組みとなっている(「Topics2006年7月27日 経営者報酬の開示強化案決定」参照)。税制よりはこのSECルールの方が適切である。
ちなみに、FEIは、SECの新ルール導入に反対したんだけどね(「Topics2006年4月26日 報酬開示に関する経営者の本音」参照)。

1月30日 財務省のフォローアップ Source : Examples under President Bushチs Standard Deduction Health Insurance Plan (US Treasury)

Bush大統領が一般教書演説で提案した保険料所得控除の標準化(「Topics2007年1月24日(1) 市場メカニズム vs 公的プログラム (一般教書演説)」参照)について、財務省が例示を示している。

増税になるのは、$15,000超の保険料を支払っている場合(example 4)だけである。

この例示を見て、気付きの点を2つ。
  1. 私の理解が間違っていた。$15,000の所得控除は、保険加入の場合に一律に適用されるのであり、所得控除の上限ではなかった。これに基づき、「Topics2007年1月24日(1) 市場メカニズム vs 公的プログラム (一般教書演説)」を修正しておく(修正部分は赤字)。これで、企業が保険プランの提供を止めてしまうのではないか、との危惧も、より実感できた。

  2. Example 3で、2人の子供を抱えるシングルマザーで無保険者の場合が示されている。確かに、保険プランに加入すれば、所得控除を受けられ、課税所得が圧縮されるので、課税額は小さくなり、実質的な保険購入コストも大幅に軽減される。しかし、子供2人を抱えて年収$20,000で、医療保険に$4,000〜$5,000も払えるかどうか。ちょっと信じられない数字である。まさに、このポイントを、民主党はついているのだと思う。

1月29日(1) 後払い報酬課税強化 Source : Retirement tax will hit US executives (Financial Times)

上記sourceでは、役員報酬のうち、後払い報酬に関する課税強化案が、30日にも上院で可決される見込みであることを伝えている。その内容については、当websiteで紹介済み(「Topics2007年1月19日(1) 後払い役員報酬にキャップ」参照)であるが、一部、情報が追加になった分を、赤字で修正した。

下院でどのような判断となるかが、当面の焦点である。

1月29日(2) DBプラン積立比率改善 Source : A Return to Better Funding for Pensions in 2006 (Watson Wyatt - Insider)

久々の企業年金プランの話題である。上記sourceは、Fortune 1000の企業の、2006年積立状況をレポートしたものである。

経済が順調に成長していることを背景に、
@割引率が高まり、給付債務が抑制されたこと、
A資産運用利回りが高く、企業の拠出も増えているため、資産が順調に増加したこと、
から、2006年の積立比率はほぼ100%に達しそうな見込みである。

本当に久々の朗報であるが、時すでに遅し、という感が否めない。アメリカ大企業は、DBプランの健全化を図る一方で、そのウェイトは徐々に下げていく、という方針なのであろう。上記sourceの注1に小さく記載されている通り、Fortune 1000のうち、最近6年間を通じてDBプランを保有しているのは、426社に過ぎないのである。そのうちのいくつかは、既にDBプランを凍結、または凍結を予定している。

1月27日 シュワ知事提案は短命? Source : Governor's health plan could be short-lived (Los Angeles Times)

上記sourceは、シュワ知事のお膝元、Los Angeles Timesに掲載されたコラムである。ポイントは、記事の最後の段落に集約されている。
"I hate to advocate an incremental approach to such a big problem. But to take on all of these lobbies at once — physicians, hospitals, insurers, small business and more — is to invite the same result that befell Clinton's noble effort: It's a plan that'll end up wearing a toe tag."
『大きな課題に段階的に取り組むやり方は好まない。しかし、一度にこれだけ多くの利害関係者と対峙することになれば、クリントン提案(=ヒラリー提案)と同じ運命をたどる事になるだろう』というのである。ちなみに、"toe tag"の意味はこれ

シュワ知事提案は、税の問題を回避するため、確かに多くの関係者に新たな負担を求めている(「Topics2007年1月9日 シュワ知事の提案」参照)。負担が増える事は確かに皆が嫌である。無保険者問題という大きな課題の解決と負担増のバランスをどう図るのか。そこが政治の役割であろう。

1月26日 完全退職までの多様な道筋 Source : Six Paths to Retirement (Vanguard)

完全退職に至るまでの道筋として、主に6つの経路がある、というのが、上記sourceの主張である。下図は、そのエッセンスとも言うべき表で、どういう道筋が選択されているのか、またそうした選択をしている人達にはどういった特徴が見出せるのか、ということを語っている。
FIGURE8
特徴のところを見ても、「これが一番ハッピー」という道筋はなく、様々なニーズから選択されているとの印象を持つ。5年前にも、「高齢者だって働きたい」というアメリカ人の意識を紹介した(「Topics2002年10月18日(2) アメリカの高齢者も働きたい」参照)が、その流れはますます強まっているようだ。

また、上記sourceでは、こうした実態を踏まえ、次のような提言を行っている。
  1. 企業は、人材確保のために、働き方の多様化、柔軟化をより強めるべき。

  2. 立法・行政は、就労を継続しつつ年金等を受け取れるようにするなど、徐々に労働市場から退出することを奨励するような政策を優先すべき。

  3. フィナンシャル・プランナーは、「65歳で完全退職」といった単純なモデルを見直すべき。

  4. アメリカ国民にとって、「退職」とは「勤労による彩を添えた余暇」となりつつある。一定の時期に完全に退職してしまうには、充分な年金と資産がなければ不可能であることを認識すべき。
日本の団塊の世代も、こうした選択を進めていくのだろうか。そうなれば、多様な生き方、働き方が日本でも定着するかもしれない。

1月24日(1) 市場メカニズム vs 公的プログラム (一般教書演説) Sources : The State of the Union 2007 (テキストPolicy Initiatives

23日、Bush大統領による一般教書演説が行われた。上記sourcesにある"Policy Initiatives"の章立てを見るだけで、昨年までとは大きく違うことが一目瞭然である。
  1. アメリカに希望と機会を(国内政策)
    1. エネルギー
    2. 医療
    3. 財政再建
    4. 教育
    5. 移民
    6. 司法

  2. 外交による安全保障(外交政策)
    1. テロ・イラク問題
    2. 軍事力強化
    3. AIDS、マラリア対策
何と優しい政策提言なのか。連邦議会の与野党逆転を受けて、かなり民主党に歩み寄った姿勢が窺われる。

その中で、当websiteとして注目していたのは、医療保険政策である(「Topics2007年1月15日(2) 連邦議会民主党の第一歩:Medicare処方薬」「Topics2007年1月18日(2) Genericsを巡る密約」参照)。

Bush大統領は、無保険者対策として、一般教書演説としては異例なほど具体的な次の2提案を打ち出した。
  1. 保険料の所得控除の一律化と高額プランへの課税
  2. Medicaidの連邦政府拠出分の支出先を、診療機関や介護施設から、個人が保険を購入する際の補助金に振り向ける。
上記1.のアイディアは、税制による無保険者対策である。現行制度では、ベネフィットの金額の多寡に拘らず、企業が提供する医療保険プランについては、所得税が非課税となっている。企業提供医療保険プランの年間費用は、およそ$11,500(家族の場合)と言われている。そこで、その平均よりは高い$15,000(家族プラン。単身者は半分の$7,500)に標準控除額を定め、ここまでの医療保険プランについては一律所得控除のメリットを賦与する一方、この標準額を超える高いベネフィットを提供するゴージャスな医療保険プランについては、標準限を超える分について課税とする、という提案である。これを個人や小規模企業が保険を購入する際にも適用して、「フェアな」市場を作り出そうというのである。

$15,000に標準控除額を設けることで、現在、企業の医療保険プランに加入している従業員のうちの8割は、減税を受けられる。他方、残りの2割については、保険ベネフィットを見直して保険料を引き下げるか、増税分を報酬に上乗せするかの選択を迫られることになる。金持ちがよい医療を受けられる、との批判に対応することにもなる。

もう一つの方は、バウチャー制度と同じである。今までプロバイダー(供給サイド)への補助金を、保険購入者(利用側)に補助金に振り向けるということで、市場メカニズム、競争原理をより強く出すことで、全体の価格を引き下げ、無保険者をなくしていこうというものである。

このような提案に対して、民主党内には、「Bush政権とは思えない」提案という評価があるそうだが、少し表面的に過ぎるのではないだろうか。両提案とも、税制または補助金で市場に介入することにより、市場メカニズムをより有効に使おうという思想のもとに提案されているのである。

民主党の医療政策分野の重鎮であるKennedy上院議員は、さすがに本質を突いていて、「無保険者対策を税制で行うべきなのか疑問である」と述べている(Washington Post)。Universal Healthの考え方からすれば、政府が単独の医療サービス購入者になった方が効果的だ、との主張である(「Topics2007年1月12日(1) Kennedy上院議員の挑戦」参照)。しかも、1.の税制措置は、相変わらず所得控除であり、高所得者の税制上の恩恵の方が大きいことに変わりがない。

このような、「市場メカニズム重視」、「公的プログラム重視」という根本的な思想対立が先鋭化すれば、連邦レベルでの無保険者対策は、これから2年間、まったく進まないことになる。

報道によると、このBush提案は、総じて冷たい反応を受けているようだ(kaisernetwork)。特に、強烈なのは、「企業による医療保険プランの提供を阻害する」というものである(Washington PostNew York Times)。わが師匠であるDr. Fronstinも、これらのインタビューの中で、同様の発言をしている。 税制上の扱いが平等になれば、企業が特に手厚いプランを用意しなくてもよいことになるのではないか、というのだ。

さて、国民の判断はいかに?

1月24日(2) アメリカ金融市場の危機感 Source : Sustaining New York's and the US' Global Financial Services Leadership (New York City & US Sanate)

上記sourceは、アメリカ金融市場の国際競争力に懸念を示し、具体的な政策提案を行っている。

何よりも、NY市と連邦議会上院が、共同でレポートを公表しているところに、真剣さを感じる。日本でいえば、東京都と衆議院が共同レポートを出すようなものである。日本では考えられない作業形態だ。

それほど、NY市場の競争力が脅威に曝されているとの危機感があるのだろう。前文には、「ロンドンだけではなく、ドバイ、香港、東京との競争が激化している」と書かれている。忘れられていないだけまだましだが、かろうじて触れられている、という印象だ。

NYの競争相手の本命は、もちろんロンドンである(「Topics2006年11月22日(1) Principle-base会計基準へ」参照)。上記レポートは、NY市場の競争力の維持、強化のために、次の提言を行っている。
○短期の優先課題
1SO法のガイドラインの明確化
2証券取引法の見直し
3金融サービスとその法整備に関するビジョンの共有
  
○国際標準の容認
4外国人プロに関する就労規制の緩和
5差異調整表なしでIFRSを承認する。会計・監査基準の統合を進める。
6バーゼルUを進めるにあたり、アメリカの国際競争力を維持する。
  
○中長期の優先課題
7金融市場競争力のための国家委員会を創設する。
8金融サービス法の近代化
大臣が手柄争いのツールで金融市場の強化を突然言い出すような国とは、大きな差があるようだ。

1月23日 SB 840 vs シュワ知事提案 
Source : Comparison between Schwarzenegger Health Plan and Single Payer for California (Physicians for a National Health Program)

上記sourceは、SB 840(「Topics2006年9月10日 加州知事が拒否権発動」参照)を支持、シュワ知事提案(「Topics2007年1月9日 シュワ知事の提案」参照)を批判する立場からのレポートである。その価値観、判断は別にして、両提案の特徴を確認するために、そのポイントをまとめておきたい。

SB 840
シュワ知事提案
2007年で$12Bの公費節約となる。主に保険会社、製薬会社の交渉力を殺ぐことから生まれる。2007年で$12Bの追加支出が必要となる。保険会社、製薬会社の収入増につながる。
6000の民間保険プラン、69の公的プランを1つにまとめる。現状維持。
総合的なベネフィットを提供。最低レベルの内容すら示していない。
自己負担、免責は求めない。個人で$7,500、家族で$10,000の自己負担を求める。
交渉人を州政府一本に絞る。交渉主体は現状のまま。
すべての企業にとって公平。企業に求める負担が小さすぎ、Wal-Mart型の手薄なプランを推奨している。
企業には賃金の8.1%、従業員には3.8%のpayroll tax企業には賃金の4%。その他はすべて従業員負担。