10月10日 FDAへの業務改善勧告 Source : The Future of Drug Safety : Action Steps for Congress (Institute of Medicine)

本当はもっと早く取り上げたかったテーマである。輸入処方薬の議論(「Topics2006年10月5日 輸入処方薬合法化成立」参照)でも、FDA長官指名の議論(「Topics2006年9月24日 輸入処方薬論議と議会審議」参照)でも、根底にはFDAに対する信頼性の問題があったからだ。特に、FDA長官指名に関連して、議会では、Danco Laboratories社の人工中絶薬"Mifeprex" の危険性を認め、使用を控えるように宣言しない限り、新しい長官の指名を認めない、と公言する議員もいるほどであった(Kaisernetwork)。このMifeprexの使用により、少なくとも5人の死亡が確認されているというのである。ちなみに、新長官の指名は、未だペンディングとなっている。

このように、議会とFDAの関係は最悪な状況に陥っているのだが、その最中の9月22日、上記sourceで紹介したレポートが公表された。作成したのは、Institute of Medicineという組織である。ここは、National Academiesの一部であり、政府に対して学術的な見地からアドバイスを行う権限を議会から与えられている。従って、そのレポートとなると、重みのあるものとなる。

レポートの中では、薬品の安全性を確保するために、FDAその他に対して25の提案を行っているそうだが、当websiteとしての関心事項をまとめると、次の通り。
  1. 上市後の安全確認
    新薬として市場に出した後も、その安全性について、モニターする権限をFDAに与えるべき。

  2. 新薬の広告制限
    新薬について、2年間はそれとわかるようなマーク(イギリスの黒三角マークのようなもの)を付けるとともに、その期間は、直接、消費者を対象としたCMは禁止する。

  3. 製薬会社による拠出の見直し
    Center for Drug Evaluation and Research (CDER)は、FDA内にある機関で、新薬の開発過程、申請過程、上市後の安全性の確認を行うところである。そのCDERの活動費は、主にPDUFA(Prescription Drug User Fee Act)に基づく製薬会社からの拠出によって賄われている。製薬会社の拠出金は、基礎的な拠出金に加え、新薬のレビューを申請する際に、申請書とともに拠出するものがある。このような制度が1992年にできたのは、新薬の認可をスピードアップすることを目的としていたのだが、申請者の資金で認可作業が行われるという、利益相反になりかねない構図にもなっており、新薬・上市後の安全性の確認というFDAの本来業務への信頼性を損なっている。むしろ、一般歳入(税)で賄うべきである。

  4. FDA長官の任期
    FDA長官の任務が政治や大統領選に左右されないよう、その任期を6年にすべきである。よほどの任務懈怠があった場合のみ、大統領が罷免できるようにする。

  5. 新分子構造の安全確認
    新分子構造については、認可後5年以内に、その安全性について再確認すべきである。
全体に、新薬の安全性の確保に力点を置いていると考えられる。

アメリカの医薬品は、当局による認可が早く、市場に出回るのも早いと言われており、基本的には市場価格のため、製薬会社にとっては利益を生み出しやすい市場である。しかし、このレポートでは、そこに安全性の確保ができていないのではないか、との問題提起が行われているのである。

当然、製薬業界は、このレポートに反発(Washington Post)しており、再び、議会vs製薬会社の構図ができあがりそうである。

もう、今の若い世代には知らない人も多いと思うが、管理人の記憶の中には、「サリドマイド」という薬禍が鮮明に残っている。新薬というものは、いつその副作用が出てくるのか、なかなかわからないものである。また、欧米人の体質では問題なくても、日本人の体質では問題が発生するという場合も出てくる。日本の製薬会社には申し訳ないが、新薬開発・認可・上市を急ぐ余り、薬禍を引き起こしてはならないと考えている。そうした意味で、今回のIOMの提言は、納得のいくものと思われる。ちなみに、1960年、FDAはサリドマイドの認可申請を却下している。

10月9日 どこまで広がる子育て支援 
Source : The Mommy Drain: Employers Beef Up Perks to Lure Back Moms (Wall Street Journal - Career Journal.com)

働く母親支援は、ますます広がりつつあるようだ。上記sourceによれば、給与全額を支払う6〜8週間の産休を提供している企業は7%しかなく、59%はその有給産休期間を延長している。その他、働く母親を惹きつけられる様々なベネフィットを、各企業が競って提供している。

例えば、母親にとって最も気になるベビーシッター選びにかかる費用ついて、一部または全額を支援している企業が存在する(Benefitnews)。

また、男女を問わず、経営者側に立つようなSenior Executivesに昇格させようとしても、昇格によってワーク・ライフ・バランスが崩れるような恐れがあれば、昇格自体を断る傾向も顕著になっているという(Benefitnews)。ここで紹介されているアンケート調査で、「はっきりと断る(24%)」、「断るだろう(56%)」を合わせると、実に8割が、昇格によるワーク・ライフ・バランスの崩壊を警戒していることになる。

これらの他にも、興味深い調査結果が示されている。 このような傾向は、September 11以降、顕著になってきているようで、失業率の低下、労働市場の逼迫が、さらに輪をかけているものと思われる。

こうした中で、多様な働き方(Flexible Work Arrangements, "FWAs")を定着させることが、ますます重要になってくるが、LAW.COMという、法曹界の情報提供を行っている媒体が、法律事務所におけるFWAs確立のためのアドバイスをまとめている(Lawjobs.com)。これらは、必ずしも法律事務所特有のものではないと思われるので、ここで紹介しておきたい。
  1. FWAsを組織として推進することを明確にし、FWAsとビジネス目標との関連性を充分に説明する。

  2. 組織のどこの部門でも利用できるようにするとともに、FWAsを利用することにより昇進等が遅れるとの懸念が生まれないよう、FWAs利用によるキャリア・アップの道筋を明確にする。

  3. FWAsに関する規定を明確にする。

  4. 顧客への対応水準を確保するために、FWAsを利用している弁護士(従業員)とその他の弁護士(従業員)の間のコミュニケーションを密にする。

  5. FWAsに適さない職種、職場があることも、同時に明確にする。

  6. FWAsによる影響を広範に考慮し、必要な課題解決に臨む。

  7. FWAsの実行可能性についての評価方法、タイムスケジュールを明確にする。

  8. FWAsを利用している従業員は、依然としてチームの一員であることを明確にする。
WFD Consultingという会社による調査によれば、FWAsにより、転職を抑制し、売り上げを伸ばし、製品の回転をよくし、顧客サービスを高め、従業員の積極性を高めてストレスを減らすことができる、という。つまり、FWAs導入という『投資』は充分に見合うというわけだ。

10月5日 輸入処方薬合法化成立 Source : HR 5441;Major Actions (THOMAS)

Bush大統領は、10月4日、Homeland Security Appropriations法案に、あっさりと署名した。White Houseから大統領ステートメントが発表されているが、当然のことながら、処方薬輸入についての言及はない。

一方、税関は、3日、「10月9日以降、カナダからの輸入処方薬を没収しない」ことを宣言した(Kaisernetwork)。今後は、ランダムテストによる違法薬品の摘発に力を入れるとのことである。この声明が、上記の立法措置に対応しているのかどうかは明確になっていないが、当然、影響を受けているものと思われる。

これで、長く続いてきた論争(「Topics2003年1月14日(2) 政治家 vs. 製薬メーカー」参照)は、議会側の勝利で、一応の決着がついたといえよう。

10月4日 輸入処方薬合法化は大統領の手に Source : HR 5441;Major Actions (THOMAS)

両院協議会で了承を得たHomeland Security Appropriations Legislation(「Topics2006年9月27日(1) 輸入処方薬合法化まであと一歩」参照)は、9月29日、下院で412 v 6の圧倒的多数、上院でも発声による賛成多数で、可決された。その後、10月3日、同法案はWhite Houseに送付された。

いよいよ、カナダからの輸入処方薬の合法化に対し、Bush大統領が決断しなければならない時が来た。

10月3日 FAS 158 Source : FASB Improves Employers' Accounting For Defined Benefit Pension and Other Postretirement Plans (FASB)

新しい退職給付会計のお目見えである。とはいっても、4月に公開草案として示された新たな会計基準案(「Topics2006年4月16日 年金会計見直しの公開草案」参照)を、FASBが正式に決定し、公表したものである。

従来の会計基準、FAS 87、88、106、132Rに、上記改定を加え、新たにFAS 158としてまとめた。これで、退職給付会計の見直し第1段階の終了である。上記sourceでも述べているように、FASBは、IASBとの協調により、本格的見直し第2段階に入ってゆく。