今年も、恒例の「働く母親にやさしい企業ベスト100」が公表された。これは、雑誌"Working Mother"が毎年公表しているものである。と書いてある。
ただ、昔と違うのは、ベスト10が公表されなくなったことである(「Topics2002年10月1日 働く母親に優しい職場 ベスト100」参照)。おそらく、10社を選出するのは至難の業という状況になったのではないだろうか。
今年の選考基準を読むと、
- 今年は、フレックス制、休暇取得の柔軟さに、特別重点を置いた。
- 特に、休暇制度は、プロフェッショナルを犠牲にせず、母親が新生児、幼児とできる限り長く家で共に過ごすことができるかどうかの重要なポイントとなる。
NCRが、2006年12月31日をもって、DBプランと経営幹部向けプランを凍結すると発表した。同日より後、ベネフィットの積み上げは行わないとのことである。
2007年1月1日以降、DCプランへの企業側拠出を拡充することとし、をマッチングする。
- 従業員拠出の最初の4%分については100%
- 従業員拠出の次の2%分については50%
これらのプラン変更により、年金プラン全体のコストは、2007年で$40M程度削減できるそうだ。
いつもお騒がせのWal-Martが、医療保険プランを変更するそうだ。上記sourceによれば、この内容も、またまた内部文書の漏洩(「Topics2005年10月28日(2) Wal-Martのコスト抑制戦略」参照)により、明らかになった。
現行の医療保険プランは、次のような伝統的なものになっている。それが、来年1月1日以降採用の従業員については、次のプランのみにする。それ以外の現役従業員については、上記のプランの選択を認める。
- 年間免責額:$350
- 従業員一人当たり年間保険料:$1,043
上記プランは、昨年、新たに無保険者を減らすことを目的に導入したプラン(「Topics2005年10月26日(2) Wal-Martの無保険者対策」参照)と類似であり、これを、新入社員から適用するということである。
- 月額保険料:$11
- 年間免責額:$1,000
- ただし、特定診療(外来治療など)、処方薬などについては、上記とは別に、それぞれ免責額を設ける。
- 併せて、HSAも提供する。
要するに、保険料が抑制できるため、無保険者は少なくなるが、免責額が大きく、自己負担は多くなる。当然、組合等は反発しているようだ。
このような動きは、Wal-Martに限らず、広がっていく可能性が高い。昨日も紹介したように(「Topics2006年9月27日(2) まだまだ増える無保険者」参照)、保険料の高騰が収まるかどうか不透明な中で、コスト抑制策に企業が走るのもやむを得ないところもある。
また、医療コスト抑制策として、「確定拠出型プラン+HSA」を推奨する動きも盛んである。この資料は、National Conference of State Legislatures (NCSL)主催のセミナーで示された資料だが、その最後のページに、分析の結論が示されている。企業年金に続き、医療保険プランでも、従来とは異なる動きが目立つようになりそうである。
- HSAはさらに普及する。州政府職員の中にも、適用が広がるだろう。
- コストに関する透明性は高まり、その結果として、抑制効果も出てくるだろう。
- 税制上の優遇措置は、さらに拡大されるだろう。
上記sourceによれば、26日、輸入処方薬と絡めて議論が行われてきたHomeland Security Appropriations Legislation(「Topics2006年9月24日 輸入処方薬論議と議会審議」参照)について、両院協議が整ったとのことである。
内容的には、「FDAが認めた処方薬について、個人が90日分に限ってカナダから輸入することを認める」というものである。
上記sourceでは、同じ26日に、上院、下院とも同法案を可決する見込み、としているが、現時点では確認できていない。果たして、White Houseがどのように対応するのか、注目したい。
上記sourceでは、様々なレポートを引用して、今後も無保険者は増え続けると訴えている。それは、保険料がインフレ率、賃金上昇率を上回る状況が、当分は続くと見られているからである。
高い保険料上昇率 ↓ 従業員の加入率低下
企業の保険プラン提供停止
退職者医療保険プランの停止↓ 無保険者の増加
特に、中小企業(従業員200人未満)における傾向が顕著である。医療保険を提供している企業の割合が、1999年には65%あったものが、2006年には60%にまで落ち込んでいる。また、別の調査によれば、(規模に関係なく)従業員の加入率は、1996年に87.7%あったものが、2004年には81%にまで落ちている。
これは、既に貧困層の問題ではなく、普通の勤労家庭の問題になりつつある。
上記sourceで紹介されている人材紹介企業は、次の3社である。@Mom Corpsいずれも、働く母親を支援するサービスを行っている。ただし、その内容は、@、AとBでは異なる。@、Aは、いったん仕事をやめて出産、子育てに専念した女性が、再び働き始めたいと考えた際に、企業と女性の間のマッチングを行っている。他方、Bは、女性社員が出産、子育てのために会社を辞めないよう、企業側の引きとめ策としてのサービスを提供している。
AMoms-for-Profit
BMaternityCare Direct
このように、サービス内容、顧客は異なるものの、3社に共通している着目点は、家庭で育児と仕事を両立させようと考える女性を支援していることである。
働く母親のためのメニューはかなり充実していると思われるアメリカ企業社会だが、それでも女性・母親の側に立った制度の運用、企業文化はまだまだ確立していない、との評価のようである。そうしたネガティブな評価が行われる背景には、アメリカの女性は、ワーク・ライフ・バランス確保のためには、家庭で子供と過ごしたいと考えている、またはそう考える女性が増えているということがあるのではないだろうか。
今、手許に統計数字があるわけではないのだが、アメリカ留学中(2001〜2003年)に、「現代アメリカ女性、特に高学歴女性は、仕事にも子育てにも全力投球したいと考えている。出産から小学校入学くらいまでは、子供とともに毎日の生活を過ごしたいと考えている」という文献を読んだ覚えがある。
@、Aの企業は、こうした女性が働き始める際の支援を、Bの企業は、こうした考えを持つ女性を何とか企業に引き止めたいという、企業側のニーズに応えているものと思われる。
偶々目にしたのだが、オフィスで働く女性のための情報紙『シティリビング』(東京版)の9月22日号で、「私たち、産みたくないわけじゃない! でも・・・」という読者アンケート特集を紹介している。この特集記事で、筆者が注目したのは、2ページ目の次のグラフである。円グラフの左下を見ると、「2〜3年は育児に専念して、いずれ働きたい」が16.7%、「子供が小学生になるまでは育児に専念して、いずれ働きたい」が15.5%と、実に、約3分の1の女性が、一定期間育児に専念したあとで働きたい、と考えているのである。この3分の1の女性達は、上で紹介したような、「家庭で育児と仕事を両立したい」と考えるようになる可能性のある人達だと思う。日本の女性達は、静かにアメリカの女性達を追いかけているのではないだろうか。
連邦議会で、Homeland Securityに関する歳出権法案をめぐり、厳しい議論が続いているとのことである。共和党議会幹部は、早くあげてしまって、中間選挙に全力で臨みたいと考えているようだが、なかなかまとまりがつかないようである。
というのも、上下両院案に、「外国からの処方薬購入を認める」条項が含まれているからである。上院では、7月、税関の処方薬没収を禁ずる法案を、68 vs 32という圧倒的多数で可決している(「Topics2006年7月13日(2) 処方薬輸入解禁?」参照)。共和党議会幹部は、Bush政権、FDAの反発が強いこの条項をはずして通してしまいたい訳だが、上院での支持が充分にあるため、簡単にはことが進まない、ということのようである。
一方、FDA長官の任命も、処方薬輸入が絡んで止まってしまいかねない状況にある。Dr. Lester M. Crawford前長官が、2005年7月に退任して以来、長官職は空席となっており、実務上のトップは、Andrew C. von Eschenbach, M.D.長官代行が務めている。Bush大統領は、そのEschenbach長官代行を、正式に長官に指名したいとしているが、3月のノミネーション以来、ずっと審議が継続となっている。
ようやく、9月20日、上院HELP委員会で投票が行われ、可決されたものの、本会議では波乱含みである。上院議員の中には、Eschenbach長官代行が処方薬輸入を認めない限り、長官就任を認めないとする議員が多いと言われている(Kaisernetwork)。
予算も人事も、処方薬輸入問題で止まってしまっているのである。
19日、Christopher Cox SEC長官が、連邦議会下院の金融委員会において、SOX法の施行状況、今後の改善の方向性について、証言した。
当websiteは、Enron事件直後に立ち上げたために、SOX法にはずいぶんと思い入れがある。あの暑い夏休み中に、めずらしく議会が必死になって成立させた法律(「Topics2002年7月25日(1) 企業不正防止法」参照)であったことも、大変印象に残っている。
上記sourceは、SOX法の狙い、成果、国際比較、問題点などについて、議会を持ち上げながら的確かつ網羅的に述べているので、是非全文をお読みいただきたい。以下は、管理人にとっての証言内容整理メモである。以上から、気付きの点を4つ。
- SOX法の国際的な影響
多くの国が、国内市場で外国企業が上場するためにSOX法を利用している一方、SOX法の規定を自国の法体系の中に取り込んでいる部分もある。そうした意味で、アメリカの試みは決してユニークなものではなくなっており、少しだけ対応が早かったということである。もちろん、各国の対応は、国内の事情に合わせて、少しずつ異なっている。
- 個別規定の国際比較
(―:言及なし)
アメリカ PCAOB
独立した監査法人監視機関利益相反サービスの禁止 独立した監査委員会 404条前半
企業による内部統制評価404条後半
内部統制評価の監査E U 監査法人監視機関の設置を義務付け ○ − − − イギリス ○ ○ ○ comply-or-explain approach comply-or-explain approach フランス ○ ○ − ○ ○(コスト抑制) 日本 − ○ − ○ ○(コスト抑制) 中国 − ○ − ○ ○(コスト抑制) 香港 − ○ ○ comply-or-explain approach − オーストラリア − ○ ○ comply-or-explain approach ○(不公表・取締役会に報告) カナダ − ○ ○ ○ アメリカの動向待ち メキシコ − ○ ○ 推奨規定 推奨規定 ブラジル − − − ○ ○(不公表・取締役会に報告) ドイツ ○ − − ○ 推奨規定
- SOX法施行状況
- 上場大企業(株式市場の95%相当):2004年以降、完全施行。
- 小規模上場企業については、施行期日を延長し、2007年12月15日以降に終了する年度からの適用となっている。
- 同時に、新規上場企業については、猶予期間を設けることを予定している。現在の案では、上場後の初年度は、内部統制報告、監査報告ともに提出を求めないこととしている。
- 独立した監査委員会の重要性(301条)
- すべての上場企業の監査委員会は独立していなければならない。
- 監査委員会は、役員の指名、報酬の決定、役職への引きとめ、外部監査人の監視などに責任を持つ。
- 外部監査人は、直接、監査委員会に報告しなければならない。
- 経営者に外部監査人の選任、報酬支払いを委ねると、利益相反が起こる可能性がある。
- 内部通報者(whistleblower)の制度を創設、運営しなければならない。
- 監査人の独立性の強化
- 監査法人は、監査対象の企業に対して、監査以外のサービス提供をしてはならない。
- 監査法人内で、監査人のローテンションを義務付ける。
- PCAOBの創設
監査基準の設定、監査法人の登録、監査法人の検査等を進めている。
- 404条に対する批判と対応策
- 内部統制評価の義務付けについては、特に小規模企業からの批判が強い。しかし、これは法文そのものの問題ではなく、施行に伴う実務的な課題である。
- 大企業の内部統制評価、監査を2年行ってみて、当初のコストは予想以上にかかったものの、法令順守を継続することのメリットは大きい。上場企業の経営トップの内部統制に対する意識を高めることができるからである。
- 企業、監査法人による同じ作業の極端な繰り返しが、コスト増の原因となっている。
- コスト抑制策として、内部統制評価の様式、水準について各社の判断に任せる、さらには、評価の重点範囲を決めることができるようにするとのガイドラインを公表した。また、監査法人に対しては、それらの各社の判断が適切であるかどうかを充分に確認するよう求めている。
- また、効率的な評価を行うために、近いうちに、リスク・アプローチによる評価とその文書化についても、ガイドラインを公表する予定である。
- 上記2の国際比較を見て、制度の精度についてはまったく触れられていないがために、日本と中国は、内部統制に関してはほぼ同レベルと見られてしまう可能性がある。逆説的に言えば、こうした並べ方をしても違和感を持たないほど、アメリカでは日本の会計制度、監査制度があまり知られていないということにもなる。
- 同じく国際比較で、日本に関して、PCAOB、独立監査委員会への言及が行われていない。日本の会社法では、独立監査委員会の設置義務はない。上記4で、その重要性を強調しているところからすると、日本の内部統制評価制度をどこまで信頼しているか、不透明なところが残る。また、PCAOBのカウンター・パートナーとして、公認会計士・監査審査会があるものの、@日本公認会計士協会が協会加盟監査法人に対して行う品質管理レビューを監視している、という二重構造になっていること、A審査会メンバーに監視対象の日本公認会計士協会の会長が入っていること、などから考えて、本当に対等な組織と認識されているのか、これまた不透明なところが残る。
- コスト抑制策を講じるのはよいとして、新規上場企業について初年度報告を免除するのはどうだろうか。新規上場企業こそ、内部統制の整備が充分行われていない可能性が高く、財務報告にも瑕疵が生じやすいのではないだろうか。
- これまで、当websiteでは、2回、Cox長官に対する評価を紹介している。最初は、Stock Option会計に関する変節ぶり(「Topics2005年7月28日 ストック・オプション費用化支持に回ったCox議員」参照)、2回目は、開示強化推進に対する経済界の落胆(「Topics2006年1月22日(2) 経営者報酬の開示強化案:概要」参照)であった。今回の議会証言を見る限り、Cox長官は、名SEC長官を目指していることは間違いなさそうだ。下院共和党議員としての顔は、二度と表に出てこないと考えておくべきだろう。