7月20日(1) SF市皆保険 一歩前進 Source : San Francisco OKs Universal Health Plan (New York Times)

サンフランシスコ市(SF市)の皆保険に向けた制度改革提案(「Topics2006年7月12日(2) サンフランシスコ市の皆保険提案」参照)は、一歩前進したようだ。

市議会は、18日、改革法案について最初の審議を行い、全会一致で審議入りを可決した。

正確な法案内容はわからないが、該当部分の審議記録を見る限り、事業主の資金拠出が選択肢となっているように読める。Newsom市長と議会の調整がついて、条例案が一本化されたと見てよさそうである。

7月20日(2) HSAに対する民主党の反論 Source : Health Savings Accounts: a wolf in sheep's clothing (The Hill)

上記sourceは、下院 Committee on Ways and Meansranking memberである、Rep. Charles B. Rangel (D-NY.15) の寄稿文である。

文中にもある通り、中間選挙では、共和党、民主党ともに、政策課題のトップに医療問題を掲げてくると思われる。その際、共和党は、Bush政権の成果の延長として『HSAの拡大による自主的な保険プラン加入の促進』を、また、民主党は、『既存の公的保障制度の拡大や"Play or Pay"による企業貢献の増大』を主張することになろう。

加えて、Rangel下院議員はNY州選出であり、Clinton上院議員への援護射撃という意味合いもあるのではないか。

憶測はともかく、Rangel下院議員の主張のポイントは次の通り。
  1. 共和党は、HSAは医療政策の目玉だと言いながら、本当の狙いは富裕層への減税である。

  2. 2004年の調査研究によれば、IRA、401(k)などの個人勘定により最も大きな減税メリットを享受したのは、年収$75,000-$500,000の家計であった。DCプランによる減税の半分以上は、年収$125,000以上の家計にもたらされている。また、IRAによる減税のほぼ60%は、年収$74,000以上の家計にもたらされている。

  3. 共和党は、HSAへの拠出限度額の引き上げ、IRA・FSAからHSAへの移転、保険料支出の免税化などを提案している。これらによる減税はかなりの規模に膨れ上がるが、医療費抑制には何の効果もない。

  4. 401(k)プランは伝統的な年金プラン(DB)を崩壊させたが、それと同様に、HSAは従来の医療保険プランを崩壊に導く。

  5. 連邦議会は、富裕層を対象とした、隙間を狙うような税制改正を議論するよりも、勤労世帯を対象とした医療費抑制策の議論に集中すべきである。

7月20日(3) MD州"Wal-Mart法案"敗訴 Source : Judge Invalidates Md. 'Wal-Mart Law' (Washington Post)

19日、連邦地方裁判所が、MD州のWal-Mart法案は無効との判決を下した(「Topics2006年7月16日 MD法の司法判断」参照)。判決文はここ。ERISAによるpreemptionが有効であることを認めた内容だ。

むろん、これは長い法廷闘争の第1ラウンドに過ぎない。しかし、全米に広がりつつあった"Wal-Mart法案"の勢いに水をかける効果があったことは間違いない。

7月19日 無保険者と救急医療室 Source : What Accounts for Differences in the Use of Hospital Emergency Departments Across U.S. Communities? (Peter Cunningham)

上記sourceは、救急医療室(ED)の利用率と、無保険者、人種、市民権の有無、HMO加入率、外来診療のキャパなどとの関連を分析したものである。ここでは、無保険者の多さとEDの利用率は必ずしも連関しない、というのが一つの結論と示されており、一般的な認識とは異なる結果が示されている。

その原因を考察してみると、どうも上記sourceの分析方法に問題があるのではないかと思われる。EDの利用回数を調査した際、EDでの処置の後に入院したかどうかも調査し、結果として入院した場合は、今回の分析の対象外としているのである。その理由は、入院した場合は、利用者本人の意思に拘らず入院する必要があった場合だから、というものである。

しかし、「無保険者の受診抑制行動により、症状が悪化してEDに駆け込み、入院してしまって医療費が嵩んでいる」というのが一般的な認識である。それなのに、ED利用者の分析対象から入院したケースをはずしてしまえば、必ずしも連関が得られないというのは当たり前だろう。

このレポートの結論に疑問を感じるが、どうだろうか。

7月18日(1) Fordの退職者医療にも結論 Source : Federal Judge Approves Retiree Health Care Agreement Between Ford, UAW To Save Auto Company $200M Annually (Kaisernetwork)

GMに続き(「Topics2006年4月5日(1) GM退職者医療に結論」参照)、Fordについても、退職者医療の制度変更について裁判所からの承認が下された。とはいっても、退職者の負担は、たかだか$10/Mの保険料と、年間免責額$150のみである。それでも、タイトルにある通り、Fordにとっては、$200M/Yのコスト削減につながるという。

お約束の株価動向は、こちら。 ⇒ Ford GM

Fordについては、かなりきていますね・・・。

7月18日(2) 医療費抑制:企業にできること Source : Ten Intelligent Health Measures Smart Companies Should Employ (Indiana Business Wire)

高騰を続ける医療費を抑制する決め手はなかなかないのだが、それでも企業、従業員みずから努力することで、少しでも抑制できれば、ということで、予防活動が注目されている。アメリカでも、なかなか予防活動は普及しないのだが、企業のコストにも重くのしかかりつつあるということは、かなり理解が広がっていると思われ、そうした面からも、今後の動向が気になるところである。

上記sourceは、予防活動の10カ条を列記している。ポイントのみまとめておく。
  1. 医療費の動向を従業員に伝える。
  2. 医療に関する情報を従業員に頻繁に伝える。
  3. 医療の専門家を招いて、従業員向けに講演してもらう。
  4. HSA、HRA(「Topics2004年1月7日(1) 医療貯蓄勘定」参照)のように、経済的インセンティブの強いプランを導入する。
  5. 禁煙運動、禁煙環境を拡げる。
  6. 家電製品や車のように、医療プランについて従業員に熟慮して選択してもらう。
  7. 医療に関する情報をインターネットで提供する。
  8. インフルエンザ予防注射、フィットネスなどを、社内で奨励する。
  9. フィットネスの人気を高めるような工夫をする。
  10. 社内で提供する飲食料について気遣う。
日本でも、先の通常国会で成立した医療保険改革関連法で、医療費適正化計画が重要な柱となっている。生活習慣病の予防を地域ぐるみでやっていこうというもので、掛け声倒れに終わらないよう、企業でも相当な汗を覚悟が必要だと思う。

7月16日 MD法の司法判断 Source : District Court Reviewing Maryland "Play or Pay" Health Mandate Law (Deloitte)

今年州議会で成立したMD Wal-Mart法(「Topics2006年1月13日 MD Wal-Mart法案に再挑戦 」参照)は、1万人以上の従業員を有する企業に、医療保険プランの提供("Play")または州医療保障プランへの拠出("Pay")を求めている。

しかし、この州法を巡っては、現在訴訟が行われており、流通関係業者は、かなり激しく抵抗している(「Topics2006年2月14日 Wal-Mart法案を巡る法廷闘争」参照)。

上記sourceによれば、訴訟はかなり長引きそうである。もともと、医療保険については、ERISAにより、preemptionの適用となっている。MD法の場合、"Play"を強制されているのではなく、"Pay"の選択肢が用意されているため、ERISA違反にはならないというのが、州議会の見解である。際どい司法判断が必要になると同時に、州議会も流通業界も簡単には譲らないものとみられる。

MA皆保険法と同様、実際の施行までには、まだまだハードルがありそうだ。

7月15日 MA皆保険法施行が遅れそう Source : Health coverage amendment gets deferred (Boston Globe)

MA州では、中間選挙に合わせて、州民投票が予定されており、MA法の施行も、この州民投票にかけるよう準備を進めていたが、ここに来て、さらに検討が必要とのことで、州民投票にかけることができるかどうか、不透明になってきたようだ。

確かに、事業主の責任に関する実施案は示された(「Topics2006年7月3日 MA皆保険法の実施案」参照)ものの、州民の納税申告書への記入記載、低所得者向けの保険プランの詳細等については示されていない。法の施行までにはまだまだ紆余曲折がありそうだ。

7月14日 PBOで決定 Source : Pensions: FASB Looks to the Future (CFO.com)

年金会計改革の第1フェーズで、退職給付債務の認識を、PBOにすべきかABOにすべきかという議論が行われてきた(「Topics2006年7月6日(2) PBOよりABO」参照)。しかしながら、12日、FASBは、あっさり全員一致で、PBOとすることを決定するとともに、速やかにフェーズ2に進むことを決定した。

やはり、会計基準は、投資家のためにあるようだ(「Topics2006年5月5日 証券市場の米中協調」参照)。

7月13日(1) Clinton上院議員と医療産業 Source : New York Times Examines Support for Sen. Hillary Rodham Clinton From Health Care Industry (kaisernetwork.org)

上記sourceによると、2005年度に上院議員Hillary Rodham Clinton (D-NY)が医療産業から受け取った政治資金は$854,462であり、これは、今秋に改選期を迎える連邦議員の中で、Sen. Rick Santorum (R-Pa.)の$977,354に次いで2番目となっている。つまり、民主党候補者ではトップということになる。

Clinton大統領のもとで、93〜94年にかけて皆保険制度導入を議論した際、医療産業はもっとも強く反発したことを考えると、様変わりである。

上記sourceで紹介されているコメントが面白いので、概要をまとめておく。
  1. 全米病院会(FAH)のpresidentであるCharles Kahnは、かつては医療保険協会副会長として、クリントン上院議員に噛みついていた。それが、今は、過去を水に流して、様々な局面で協力関係にある。

  2. 2008年の大統領選では、クリントン上院議員が民主党候補最右翼だと認識されている証左であろう。初期の段階から支援した人達が、議論の席につけるというのが常識だ。
やはり、2008年は、クリントン上院議員を中心に展開されていくようだ。

7月13日(2) 処方薬輸入解禁? Source : Senate Approves Legislation That Would Allow the Reimportation of Prescription Drugs From Canada (kaisernetwork.org)

11日、上院で可決したHomeland Security appropriation billには、アメリカ国民がカナダから購入した処方薬を税関が没収することを禁じる条項が含まれているそうだ。昨年11月17日以降、税関が監視を強化した結果、税関での没収が大量に行われている。今回の法案では、カナダからの処方薬購入を合法化するという根本的な制度改正ではなく、従来通りのお目こぼし(「Topics2003年3月14日(2) カナダからの処方薬をめぐる攻防」参照)を確保しよう、という程度の意味でしかない。

上記sourceによれば、下院でも、歳出法案のうち2本に、同様の条項が含まれているものを可決している。

当然のことながら、Bush政権は反対の意向を示しており、FDAも安全の確保ができなくなる、との懸念を示している。共和党議員の中には、テロ対策など安全保障上の問題が大きいと、強く反対している議員もいる。

それにしても、違法行為にも拘らず、その取り締まり行為自体を禁止しようというのは、変な話である。

7月12日(1) 医者個人の業績開示 Source : Heart surgery data may go public (The Boston Globe)

上記sourceによれば、MA州当局Division of Health Care Finance & Policy(DHCFP)では、心臓病手術後の死亡率を担当医師個人ごとに公表するかどうかを検討している、とのことである。MAでは、既に2002年から、病院別の死亡率のデータを収集、公表している。これを、執刀医ごとに公表してはどうか、ということを検討している訳である。

NY州では、1991年より、担当医師個人ごとの死亡率を公表しており、公表開始以前の1989年には死亡率が3.52%であったのが、2003年には1.61%にまで低下している。ただし、この低下の主な理由が、公表をするようになったことなのかどうか、判定は難しい。技術進歩に伴う部分も大きいだろう。

上記のような動きに対して、当然、MAの心臓外科医会は、猛然と反対の主張を行っている。死亡のリスクの高い手術を医者が忌避するようになるからだ、というわけである。確かに、ハイリスクの手術を続けた結果、死亡率が高くなるのでは、チャレンジする医者が少なくなる、特に若い医者がチャレンジしなくなるという場合も想定できる。

MAの場合、もともと死亡率のデータを収集し始めた段階で、医師個人レベルまでの公表を考えていたようだが、上記のような理由から、当時は断念したようだ。

しかし、昨今、医療機関、医師に関する情報開示が強く求められるようになっており、そうした追い風のもとに、再検討を始めたようだ。さらに、先ごろ成立したMA皆保険法(「Topics2006年4月10日 Massachusetts州の皆保険法案 」参照)でも、医療の質、効率、業績を高める手法をとるとしている。

医療機関、医師の質に関する情報開示というのは、なかなか難しいものがある。日本でもそういう議論は行われるものの、どうやって評価するのか、また医療機関・医師の選別につながらないか、という懸念も大きい。

アメリカと日本では、公的医療保険がカバーする範囲が大きく違うので、一概に比較しにくい。アメリカの場合、市場に任せている部分が大きいことから、市場に提供されるサービスの質という情報が重要になってくる。つまり、患者が選択するための情報が必要だ、という考え方が強くなる。また、伝統的に、医師個人を選ぶという習慣も根付いている。例えば、総合病院のようなところに行ったとしても、どの医者を選択するかが問われる。まず、予約を取る段階で、どの医者にするのかを決めなければならない場合が多い。

一方、日本では公的医療保険が圧倒的割合を占めており、そこではフリーアクセス、均質なサービスが想定されている。故に、医療機関、医師の選別は極めて抵抗感が強い。しかし、患者の方も、決してサービスが均質ではないことは重々承知しており、そのために、病院に関する情報、ランキングが、週刊誌ネタになりやすい。こうしたうやむやな市場では、質の評価というのは難しいのである。

日本では、2011年にレセプトの完全オンライン化が予定されている。医療の質を評価する第一歩として、基盤が整備されることになるのだが、ここではせいぜい異常値をはじくのが関の山だろう。積極的な意味で質を評価できるようになるためには、患者個人の医療情報が追跡できるようになること、医療機関の業績情報が比較可能になること、などが必要となろう。

アメリカでは市場の圧力で、日本では公的医療保険制度の改革として、というアプローチの違いはあるものの、医療の質の情報開示が強化される方向にあることは間違いないようだ。

7月12日(2) サンフランシスコ市の皆保険提案 Source : S.F. mayor urges health coverage for all uninsured (SF Gate)

6月20日、サンフランシスコ市(SF市)Newsom市長が、SF市に皆保険制度を導入するとの提案を行った。現在、SF市には、82,000人の無保険者がいると言われている。

市長の提案概要は、次の通り。
  1. 毎月保険料を負担するものの、医療サービスへのアクセスは、SF市内に限定される。そうした意味で、正確には医療保険プランではない。

  2. 制度の名称は、"San Francisco Health Access Program"。Medicaid対象とならない市民を対象とする。その際、勤務先、移民かどうか、これまでの病歴などは問わない。

  3. 年収$50,000以上または連邦貧困レベル500%の市民は、月額$201.25を保険料として負担する。

  4. 年収$19,600〜$40,000の市民は、月額$35を保険料として負担する。

  5. 任意加入ではあるが、従業員に医療保険プランを提供しようとする企業については、拠出金を求める。年間総額約$30Mを見込んでいる。

  6. また、市の財政からは、年間約$104Mを拠出する。

  7. その他は、保険料等で、年間プラン総額は約$200M、無保険者一人あたり$2,400の支出を見込んでいる。

これと並行して、翌21日、Tom Ammiano市議会議員が法案を提出した。同法案では、従業員20人以上の事業所に、無保険者対策への拠出金として、$1.60/h(小規模企業は$1.06/h)を求めている。市長提案が任意であることとは対照的となっている。

市議会議員提案と市長提案は、議論の進み具合によっては、統合される可能性もある。市議会は、今月中には議決したいとしているが、一方、市長の方は、市長提案は市議会の承認がなくても実施に移せると、強気の姿勢を見せている(USA Today)。

いずれにしても、提案が成立すれば、全米で初の市レベルでの皆保険制度となる。