3月6日、下院の教育労働委員会が、Pension Security Act案を可決した。これは共和党議員提出のものであるが、法案の作成段階や委員会の採決において、一部民主党議員の賛成も得ているため、上記sourceでは、"bipartisan"であることを協調している。
その法案の内容だが、Enron、WorldComの破綻に伴い、DCプラン加入者の資産が激減したことに対する反省(Topics 「2002年1月26日 401(k)の見直し議論」参照)から、もっと加入者を保護しようという主旨のものだ。そしてそれら保護規定は、かつての大統領提案(Topics 「2002年2月4日 401(k)プラン改革 大統領提案(その2)」参照)、昨年4月に下院が可決した法案(Topics 「2002年4月12日 401(k)改革法案」参照)をほぼ踏襲している。
同法案に対して、多くの民主党議員は、加入者に対する保護がまだまだ不足しているとして、反対を唱えている。可決前日には、対案を出して抵抗したものの、委員会メンバーの民主党議員からも賛成者が出てしまい、6日に採決、可決となった。今後は、下院本会議、上院と審議が行われていく。下院は昨年同様、問題なく可決すると思われるが、上院がどうなるか。昨年とは違い、共和党がMajorityを占めているので、少なくとも審議日程は明確にされ、委員会での審議には付されるのではないかとみられる。
Bush政権-共和党の、「国民生活に関連する政策について、政府、共和党はこんなに努力しているのに、上院民主党が改善策を阻んでいる」という構図作りが、また着々と始まっているようだ。
参考までに、同法案、下院民主党案のポイントをまとめておく。
Pension Security Act、下院民主党対案のポイント 主な項目 Pension Security Act 下院民主党対案 投資先の選択 ・401(k)プラン加入者は、拠出された自社株を3年後に売却できる。
・加入者拠出分を強制的に自社株に投資させることを禁止する。401(k)プラン加入者は、拠出された自社株を1年後に売却できる。 投資アドバイス 加入者が投資アドバイスを受けられるようにする。そのための税制上の優遇措置を導入する。 投資先の選択肢に自社株がある場合、従業員に対して、(企業側から)独立した立場にある投資アドバイスを提供しなければならない。 Blackout Blackout期間中、企業は加入者に対して受託者責任を負う。 - 情報提供 企業は加入者に対し、四半期毎に、個人勘定、資産の現在価値、分散投資の重要性などを含む情報提供を行わなければならない。 ・ミスリーディングな情報を提供してはならない。
・資産の現在価値、分散投資の重要性などの情報を提供しなければならない。
・資産全体の10%超が自社株に投資されている場合、分散投資の重要性につき警告しなければならない。
・経営幹部が一定規模以上の自社株売却をした場合、その旨加入者に通知する。年金委員会 - 一般従業員を年金委員会に参加させなければならない。 支払保証 - 一定額の受給額を確保するため、支払保証制度を用意する。 DBプラン ・小規模企業について、DBプランの報告義務の簡素化を図る。
・小規模企業のPBGC保険料を減額する。DBプランからCBプランに移行する際、中高年齢加入者の受給額については、従前のDBプランに基づく受給額を確保しなければならない(財務省提案の修正)。 その他 ・Blackout期間中の経営幹部の自社株売却を禁止する。
・Blackout開始の30日前に、その旨を加入者に伝えなければならない。
(いずれもSarbanes-Oxley corporate accountability lawにより法制化済み。(Topics 「2002年7月27日(1) 企業不正防止法案」参照))-
3月11日、下院のthe Committee on Energy and Commerceは、上記法案を可決した。同法案は、医療過誤に関する賠償責任を限定することにより、医療費の高騰を抑え、医療機関へのアクセスを容易にすることを目的としている。
同法案の中で、最も注目されているのが、賠償額の上限であり、以下の通りとなっている。
医療過誤損害賠償上限額 Malpractice Liability Bill 患者の権利法(下院案) 患者の権利法(上院案) 経済的損失に対する賠償 無制限 無制限 無制限 非経済的損失に対する賠償 25万ドル 150万ドル 無制限 制裁的賠償 「25万ドル」または「経済的損失に対する賠償額の2倍」のいずれか大きい方の額 認めない 500万ドル
これは、先だって、Bush大統領が演説で説明した、医療改革提案の内容に沿ったものである(Topics 「2003年3月4日(2) Bush大統領の医療改革提案」参照)。
しかし、上の比較表からもわかるように、2年前に上院、下院でそれぞれ可決したPatients' Bill of Rightで定めた医療過誤賠償額とは、一桁以上異なる。いくら間に中間選挙があったとはいえ、上記法案が成立するようでは、議会の良識が問われかねないのではなかろうか。
そういった意味からも、この法案は、医療機関向けの政治キャンペーンと位置付けておいた方がよいだろう。上院で成立しないことを前提に、下院議員が一所懸命キャンペーンを張って、上院のおかげでできませんでした、とするのだろう。
この法案を巡っては、賛成派、反対派が真っ向から対立してキャンペーンを行っている。賛成派はもちろん、医者、病院である。損害賠償保険(Liability Insurance)の高騰が医療費高騰の大きな要因であり、そのために、適切な医療を受けられない人たちが大量に出ていると主張する。他方、反対は、医療訴訟を手掛けている弁護士達だ。この法案が通れば、患者の権利は著しく侵害され、医療過誤はなくならないとしている。もちろん、本音ベースでは、これだけ賠償金額が抑えられれば、医療過誤訴訟を引き受ける弁護士がいなくなり、その結果、患者側から医療過誤訴訟を起こせなくなる、という現実的な理屈もある。
Bush大統領は、先の演説で、この上限額を強く推奨していたが、つい半年くらい前までは、患者の権利法の下院バージョンを推していたのである。ちょっと節操がないのではないだろうか。また、「最も困難な状況に陥っている国民を援助する」という、一般教書演説で打ち出した政策目標にも反するのではないだろうか。
3月11日、PBGCのExecutive Directorである、STEVEN A. KANDARIANが、上院財政委員会で議会証言を行った。この証言は、アメリカのDBプラン(確定給付企業年金)の今日的課題をまとめたものである。PBGCという、アメリカのDBプランの生死に深くかかわっている機関がまとめただけに、切実な問題が多々列挙されている。企業年金にご関心の向きは、是非ご一読されることをお勧めする。
その証言の中で、ポイントとなりそうなところを列挙しておくと、次のようになる。
- 2002年のDBプランの積立不足額は、合計で3,000億ドルに達する。うち、270社のDBプランで、積立不足額が5,000万ドルを超えている。
- 最近、PBGCが引き取り、補填した積立不足額は、過去に較べ、巨額なものとなっている。この表に出ていない企業で、まだまだこれらよりも補填額が大きくなりそうなDBプランがある。
- DBプランの課題
- ERISAやIRCが定める積立ルールが不適切である。前述の積立不足額を抱える企業は、ルールをおかしているわけではない。ルールの方が不適切であり、積立不足を放置する結果となっている。
- DBプランに関するコストが高くなっているため、DBプランをDCプランに変更するケースが増えている。さらに、退職後の余命が長くなっていることも、DBプランのコストを高めている。
- 情報公開が充分ではない。特に、プラン資産の現在価値に関する情報が不透明である。
- PBGCによる支払保証(積立不足補填)が、特定業界(鉄鋼、航空サービス)に集中している。
- 改革のためのアプローチ
- 政府、議会としては何もせず、自己修正を待つ。しかし、これは、今日の課題を先送りするにすぎない。
- 支払保証保険料を大幅に引き上げる。このアプローチは、適正な積立を行っているDBプランから見れば、不公平な措置となる。
- 適切な期間内に、積立額の水準を引き上げるような措置を講じる。
- 見直すべき現行ルールのポイント
- 現行ルールのもとでは、積立水準が必要額の60%を満たしている限り、給付を引き上げることができるようになっている。この60%基準が果たして適切なものなのかどうか、吟味する必要がある。
- 積立不足になっていたとしても、追加拠出を求められていない企業も多い。積立ルールや保険料の算定に、当該企業の財政状況を勘案する要素がないことも問題ではないか。
- 情報公開が不足している。一定の積立水準以下になった場合にのみ、積立状況が従業員に知らされる。しかも、その情報には、PBGCが引き継ぐことになった場合の積立不足額は示されていない。(通常、PBGCによる引き継ぎが行われると、積立不足額は拡大する。)
- 支払保証制度は、長期にわたってDBプランの安全性を確保することを使命としている。モラル・ハザードを防ぐためにも、適切な保証を提供すべきである。例えば、離職手当(severance pay。支払保証の対象とならない)と同じような性格を持つ閉鎖手当(shutdown benefit。)が支払保証の対象となっており、補填額の大きな割合を占めている。
- 支払保証制度の存在は、モラル・ハザードを引き起こし、経営陣や従業員は、財政が苦しくなると、プランにとって必要な積立を先延ばししようとする。しかし、これは、積立不足を、責任を持ってプランを運営している企業、従業員に不公平に転嫁しようとするものである。適切に運営されているDBプランは、充分な積立額を有しており、いつでもDCプランに移行することができる。もしそうなれば、補填の危険が高いプランだけが残されることになる。そうしたことにならないようなインセンティブを設ける必要がある。
つまりは、積立不足解消のためのルールの見直しが必要と訴えているわけである。実は、FASBの方でも、自社株を利用したプランの情報公開について見直しを始めることとなった。
財政余力のない企業にとってはもちろんのこと、財政余力のある企業にも、このようなルールの見直しは、負担増につながるであろう。しかし、だからといって、DBプランの方がコストのかかる制度だとはいえない。景気が上向き、金利が上昇してくれば、DBプランの方が有利になってくる。ただし、支払保証制度は、確実に健全なDBプランのお荷物になっていることは間違いない。
カナダからの処方薬問題(Topics 「2003年2月21日 製薬会社へのボイコット運動」参照)をめぐる攻防が激しくなってきた。
まず、担当の官庁であるFDAは、「カナダからの処方薬輸入を斡旋する第3者の行動は違法である」との見解を示した。これは、対立する製薬メーカー、ユーザーの中間をとった、奇策である。第3者が斡旋するのは違法であると警告する一方、個人ユーザーが自ら輸入してくることについては見逃そう、という主旨だからだ。
ところが、既に、個人ユーザーを対象に大規模に輸入を行っている団体があったり、それに頼っているユーザーも多いことから、ユーザーサイドに立つ人々を納得されることはできていない。その納得しない代表者が、Rep. Bernard Sanders (I-Vt.) (Topics 「2003年1月14日(2) 政治家 vs. 製薬メーカー 」参照)であり、製薬メーカー側に有利な判断を示していると怒っている。他方、製薬メーカー側は、当然だとして、FDAの見解を全面的に支持している。
この問題は、まだまだ尾を引きそうだ。
13日、一日間の議論を経て、下院本会議で、医療過誤賠償法案が可決された。採決は、賛成229(うち民主党16)、反対196(うち共和党9)であった。ほぼ党派にそった投票結果といえる。
今後は、上院での議論となる。可能性としては、上院で同様の法案について採決をするか、上院独自案が審議されるか、ということになる。100票中60票の賛成が必要になると見られていて、それだけハードルが高い。実際、上院共和党の中でも、この法案に対して一般国民があまり評価していないとして、反対の立場に立ちそうな人達がいるようだ。
もし、後者であれば、両院協議会において、上院案、下院案をつきあわせての議論となる。これまた、互いが譲歩するところがどこなのかを探りながらということになり、さらに時間がかかることになろう。
下院議員で同法案の提案者であるRep. Jim Greenwood (R-Pa.)は、後者になることを恐れていると伝えられている。そして、上院で同法案が審議され、可決する可能性を、上院majority leaderのBill Fristにかけていると言われている。なぜなら、Fristは医者であるからだ。実際、Fristは、上院での議論を今月中に限定するとしたそうだ。
ひょっとして成立するのかな。繰り返しになるが、それでは余りにも節操がないよな。
上記Sourceは、レイオフを実施した場合の、短期的、長期的コストを計算し、レイオフにより節約できる費用とを比較して、レイオフが適正かどうかを判断するためのワークシートである。
アメリカの企業で、どういう損得勘定でレイオフを行うのか、レイオフに伴うコストにはどういった要素が含まれているのか、という点を知るには、便利なワークシートと言えよう。
ただ、ちょっと残念なのは、失業保険料のことが記されていないことだ。アメリカの失業保険の保険料率は、可変料率となっており、過去にレイオフが多ければ料率もアップする仕組みとなっている。その要素が、上記のワークシートには含まれていない。
もちろん、ここに掲載されている費用、便益は、金銭的に客観評価できるものだけである。レイオフを実施することにより、残った社員の生産性はどうなるか、新規採用が難しくならないか、投資家の評価はどう変化するか、といった心理的な要素は含まれていない。レイオフに関する本当の判断は、そうした計量不可能な要素が大きく成否を判断するのではないだろうか。また、そうした計量不可能な要素に対して、企業としての対応を予め用意しておくことも、重要と思われる。
上記sourceは、下院を通過した医療過誤賠償法案への反対意見である。
この意見に拠れば、医療過誤保険の保険料が高騰しているのは、訴訟に伴う賠償金額が高いせいではないという。近年の賠償金額の上昇は、それほどでもないというのだ。それは、いくつかの議会証言でも主張されているそうだ。
もしこれが本当なら、なぜ医療過誤保険の保険料が高騰しているのか?単純に考えれば、賠償金額の上昇がそれほどでもないなら、医療過誤が増えているからということになる。
下院を通過した法案は、賠償金額に上限を設けている。Bush政権ならびに下院共和党は、損害賠償金額に上限を設定することで、医療過誤保険料の抑制を図ろうとした。しかし、この意見が真実に近いのであれば、この法案を施行しても、医療過誤保険料は下がらないことになる。なぜなら、医療過誤の件数は、この法案では減らないからだ。
真相を判断できるほどの知識を有していないので、何とも言えないが、上院でこの点についてしっかりと議論してもらいたいものだ。
Sourceは、DBプランの積立状況に関するレポートである。このハイライトを読んだだけだが、感想を2点。
- 資産が給付債務を超えているプラン数が激減している。これは、最近このwebsiteでも、何回か指摘してきたことだが、経済情勢、金利の低下により、資産の目減り、給付債務の上昇によるものだ。これが改めて確認されたということ。
- アメリカのDBプランのうちの63%が、依然として、最終報酬を算定根拠にしているということだ。DCプランがどんどん増えている中で、せめて平均報酬を算定根拠にするとか、日本のポイント制のように、報酬金額との関係を薄めてしまうとかの工夫が行われてしかるべきだったのではないか。やはり、労組の強い産業では、なかなかDBプランの設計を変更することが難しいということなのだろう。
いよいよUS AirwaysがChapter 11から復帰する。18日、破産裁判所は、3月31日の復帰に向けて手続きを進めることを許可したのだ。US AirwaysがChapter 11を新制したのが、昨年8月11日だった(Topics 「2002年8月24日 ESOPと企業倒産」参照)。それから約8ヶ月で復帰できるのだから、相当に早いペースト言えよう。無担保債権者の再建プランに対する投票も、8割を超える賛成を得ている。やはり、アラバマ州年金基金(RSA)からの出資が、大きな効果をもたらしたようだ(Topics 「2002年9月30日(1) Labor Friendly Investor」参照)。
US Airwaysによれば、3月31日の復帰に向けて残された課題の中に、パイロット組合の年金問題(Topics 「2003年3月4日(1) US Airwaysパイロットの企業年金は終了」参照)があげられている。組合との合意ならびにPBGCによる引き取りの最終決定を指していると思われる。
大企業の再建を支えるのが年金制度なら、障害になりかねないのも年金制度。アメリカの企業における年金制度の重要性が伺える事例である。