Topics 2003年3月1日〜10日
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3月4日(1) US Airwaysパイロットの企業年金は終了
3月4日(2) Bush大統領の医療改革提案
3月5日(1) HPQ株は不透明
3月5日(2) UAのESOPも終了
3月5日(3) 無保険者対策に妙案なし
3月4日(1) US Airwaysパイロットの企業年金は終了 Source : US Airways to Alter Pilots' Pension Plan (Washington Post)
破産裁判所は、3月1日、US Airwaysの再建のためには、パイロットを対象とした企業年金(確定給付型、DB)を終了することはやむを得ない、との判断を示した。これにより、US Airwaysのパイロット年金は終了することになる。パイロット組合は、ストライキも辞さないと強行姿勢を示していたが、今後どうなるのか、まだまだ予断を許さない。特に、US Airwaysの元幹部に対する離職手当が巨額過ぎるとして、訴訟を検討しているとも報道されており、これらの問題とからめたパイロット組合の反発が予想される。
ただし、破産裁判官は、終了する企業年金に代わる制度について、労使交渉に入るよう命じた。おそらく、相当程度規模を縮小した確定拠出型プラン(DC)の導入について検討することになると思われる。
以前からこのサイトで主張している通り、確定給付型プランが破綻した場合、PBGCの保証以上の給付を求めるのはお門違いだ。本来なら、そんな保証があることすらおかしいと言える。なぜなら、その保証に要する費用は、他の企業年金プランからの保険金で賄われているからだ。つまり、まともに経営している企業から経営に失敗した企業への所得移転で賄われるのだ。これでは、まともに経営されている企業の従業員はたまらない。実際、PBGCのお世話になっているのは、鉄鋼メーカー、航空業界が大半を占めている。産業間のアンバランスもいいところだ。
今後は、既存のDBプランからDCプランへの移行と、PBGCによるDBプランの引き取りが焦点となる。この際、PBGCの存在は、加入者(パイロット組合員)側から見ると、DB→DC移行に邪魔になる可能性がある。なぜなら、PBGCは件のDBプランの引き取りに際して、積立不足を負担しなければならない。仮に、DBプランからDCプランへの資産の移管が認められるのであれば、PBGCとしてはその移管総額をなるべく抑えようとするに違いない。なぜなら、PBGCによる積立不足の負担をなるべく軽減したいからだ(Topics 「2003年2月4日(1) PBGC保険料の見直しか?」参照)。
もし、こういう事態が起これば、パイロット組合を対象とした新たなDCプランは、ほとんど元金なしに、毎年の掛け金だけの累積を給付することになる。もちろん、パイロット達は、PBGCによる給付保証の上乗せとしてDCプランを受け取れるのだから、それでも恵まれていると言えるのだが。
このように、企業倒産における、PBGCと年金加入者(従業員)の関係は微妙である。これがUnited Airlinesのように、無担保債権者委員会にPBGCがメンバー(Topics 「2002年12月17日 いよいよ始まったUAL債権者会議」参照)として入っていれば、間違いなくDB→DCの資産移管には反対するだろう。
3月4日(2) Bush大統領の医療改革提案 Source : President Announces Framework to Modernize and Improve Medicare (The White House)
3月4日、Bush大統領は、American Medical Associationの年次総会で演説し、彼の医療改革案を示した。演説における医療改革提案のポイントは、次の通りである。
- 医療制度の目標は、すべてのアメリカ人がよい医療保険に加入し、良い医師を選択できることである。また、高齢者、低所得者も、彼らが必要とする医療が受けられるようにすることである。
- その目標達成のためには、連邦政府が運営する医療保険は適切ではない。
- 医療費が高い理由の一つに、訴訟の多さがある。訴訟にかかる費用、訴訟に備えての保険はどんどん高まる一方である。また、訴訟を回避するために、必要のない検査や投薬が行われている。間違った医療を受けてしまった患者は医師を訴える権利を持つべきだが、その際の非経済的損害賠償(noneconomic damages)は、$250,000という上限を設けるべきである。
(注)Patients' Bill of Rightsについては、September 11直前までは、上院、下院とも独自の法案を可決しており、その調整を2001年9月中に両院協議会で行う予定であった。両案の共通点は多いものの、訴訟に関する規定には大きな隔たりがある。簡単な比較表は、これの28、29ページを参照。ただし、演説で示された、25万ドルという金額は、下院案よりもさらに低い数字となっている。医者向けのリップサービスか?
- 患者の安全を確保するため、ITによる医療情報の保存が必要である。そのために、予算教書では、医療情報IT化予算の53%増を提案している。
- Medicareが施行された38年前とは医療事情が大きく異なっている。現行のMedicareは、本当の意味で高齢者を守ってはいない。医師の選択肢は狭い、入院日数が多くなればMedicareでカバーされる金額は小さくなる、処方薬や治療に必要な薬剤がカバーされていない。他方で、連邦議会議員や連邦政府職員の入院時の自己負担には、上限が儲けられている。
- 医師や保険の選択ができることが重要だ。連邦政府による医療の提供は、官僚的で、医療の進歩についていけず、結果として高齢者のためにならない。また、医療費の抑制のためにも、選択が重要である。
- Medicare改革の柱として、次の3つの選択肢を用意することを提案する。
- 現行Medicareに加入する。その際、処方薬については、割引カードを提供する。また、低所得者には、年間600ドルの補助金を提供する。さらに、(保険料を上げずに)自己負担の上限を設定する。
- 現行制度よりも充実したMedicare(新Medicare)に加入する。このプランでは、予防医療、処方薬、自己負担の制限を含む。また、専門医、病院、かかりつけ医の選択を認める。連邦議会議員には、出来高払い制の医療保険が提供されている。
- マネージド・ケアに加入する。このプランでは、処方薬をカバーし、ネットワーク内の医師を選択できるようにする。また、自己負担に上限を設ける。
なお、大統領提案の詳細、背景説明、改革工程表は、これを参照。
これは、事実上、2004年大統領選に向けたキャンペーンの開始と見ておいてよい。民主党の大統領候補に名乗りをあげた政治家達は、軒並み、医療改革をメインテーマに掲げている。しかも、皆保険を目指した改革を提唱している(Topics 「2003年2月25日 医療が大統領選の目玉になるか?」参照)。
Bush政権としては、「民主党のように大風呂敷はかかげない。足許かつ緊急の課題であるMedicare、患者の権利法、医療情報のIT化に重点を置く」というメッセージである。しかも、議会の主要メンバーとも緊密に連絡を取っていることを強調し、企業年金改革提案のように議会メンバーから「聞いていない」と怒られないよう慎重を期している(Topics 「2003年2月4日(2) 新貯蓄制度の提案」参照)。
また、連邦職員や連邦議会議員が受けられるメリットを高齢者が受けられないのか、と盛んに強調し、連邦政府を徹底的に信用しないという草の根的保守層にアピールしている。
対する民主党では、イラク問題、国内政策課題について、意見が真っ二つに分かれていると報じられた。Medicareの処方薬については、民主党リベラル派は、大規模な連邦政府予算を投じて広範囲にカバーしようとしている。他方、"New Democrats"と呼ばれる派は、連邦政府予算の均衡を重視し、処方薬をカバーする範囲を限定的にすべきと主張している。前者の代表がHouse Minority Leader Nancy Pelosi (CA)であり、後者の代表がHouse Minority Whip Steny H. Hoyer (MD)(下院民主党ナンバー2)と、始末が悪い。PelosiがアンチBushで突っ走ろうとしているのを現実路線派が抵抗しているといった構図だろうか。
このような構図がいつまでも続いていると、2004年の大統領選、議会選もBush Teamの思いのままになってしまいかねない。アメリカという超大国の政治がアンバランスになるのは危険と考えるべきではないだろうか。
(追加)
とUpしたところで、APが「ブッシュ提案に共和党は冷淡」という記事を出した。ブッシュ提案では、処方薬のカバレッジが低いことに加え、Medicareの実務を民間保険に委ねることに対する懸念があるため、ということのようだ。またまたBush Teamの根回し不足のようである。もうちょっと回りのサポートを大切にした方がよいのではないだろうか。
3月5日(1) HPQ株は不透明 Source : HP's Uppermost Problem: Its Top Line (BusinessWeek Online)
上記Sourceによれば、Hewlett-Packard(HPQ)株への投資は、まだまだ不透明らしい。昨年5月にCompaqを吸収合併(Topics 「2002年5月1日 HP-Compaq」参照)した後、業績があまり好ましくない。最新の四半期レポートでは、利益は増加したものの、売り上げが減少しており、これがアナリスト達の失望を買っているとのことだ。
3月5日11時35分現在、HPQ株価は、$15.28となっている。
Wall Streetのアナリストの意見は、真っ二つに分かれているという。半分は利益の増加は、このIT不況の中、よくやっており、期待が持てるというもの。他方の半分は、利益と売り上げが同時に伸びてこそ確実な成長が期待できるので、HPの四半期レポートは期待はずれであったとみている。
実際、同じような分野で競合しているDELLは、PCだけでなくビジネス用機器でも売り上げ、利益ともに増やしている。さらには、HPの牙城とも言うべきプリンター部門への進出も開始した。また、IBMのビジネス用機器も同様となっている。従って、IT不況の中でもライバル企業は順調に成長しているという訳だ。
HPQの業績に対する不透明感は、次の四半期レポートが公表されるまで続くと見られている。次の四半期でも売り上げが伸びないようであれば、Compaqの吸収合併による弊害と見られる可能性が高くなるのだ。
3月5日(2) UAのESOPも終了 Source : Ruling May End Employee Control of United Airlines (The Washington Post)
UAの企業年金、ESOPの資産管理を行っているのは、State Streetである。State Streetは、受託者責任の遂行という観点から、UALのESOPが保有しているUAL株を売却したいとしてきた。UAL側は、その株式売却により税制上の損失の繰り延べができなくなり、再建できなくなることを懸念していた。しかし、IRSが、株式売却をしても損失の繰り延べを認めるとの判断を示したため、UALも納得し、State Streetは、UAL株を売却することとなった。
これにより、かつては、労使協調路線の新たな形態として賞賛されたUALのESOPは、事実上消滅することになる。皮肉なことに、受益者の利益を守るという受託者責任の遂行により、従業員、労働組合は大株主としての地位を失うことになったのである。UAL-ESOPが大株主ではなくなることから、UALの無担保再建者委員会に参加している労働組合代表(Topics 「2002年12月17日 いよいよ始まったUAL債権者会議」参照)の発言力も大幅に低下することとなる。
これで一つの歴史が終わった訳だが、今後は、なぜUALのESOPがうまくワークしなかったのか、その原因をつきとめるための研究、調査が必要だろう。ESOPという制度がそもそも現実的ではないのか、大企業には向かないのか、それともUALの労使関係にその原因があるのか。様々な意見が飛び交っている(Topics 「2002年12月10日 UALの破産とESOP」参照)。そのような意見をある程度収束させるような検証が必要となろう。
私としては、ESOPという制度の欠陥ではなく、UALの労使関係に問題があったとの結論が望ましいと思っている。
3月5日(3) 無保険者対策に妙案なし Source : Kaiser Health Poll Report: Public Opinion on the Uninsured (Kaiser Health Foundation)
Kaiser Health Foundationが、医療問題に関する世論調査結果を公表した。その概要は次の通り。
- 医療の分野で何が問題であるか(2点列挙)という問いに対し、約4分の3が「無保険者」、35%が「医療費の高騰」、17%が「医療へのアクセス」を挙げている。
- ほとんどの回答者が、何等かの形で全国民が医療を受けられるようにすべきと考えており、約3分の2が、「連邦政府が医療保障をすべきだ」と回答している。
ここまでは、民主党リベラル派の主張が国民に受けているように思えるのだが・・・
- 無保険者の解決策となると意見が分かれてしまう。個々の案には賛成が得られるが、それらの中で何が最も優れているかとの問いに対しては、全くばらばらな意見となってしまう。
- 特に、それら対策のための財源については、まったくコンセンサスがない。約半数は、無保険者対策のために、税、保険料を上乗せして払ってもいいとしているのに対し、その他の半数は、今以上の負担は嫌だという。
結局、最後の負担の問題が解決しない限り、具体的な無保険者対策は採られない。SENTARAの幹部がこう話してくれたことがある。「アメリカ国民は無保険者問題が大切だと皆思っている。しかし、だれもそのための財源を払おうとしない」と。まさにそんな印象を裏付けするような世論調査結果であった。
こうしたアメリカ人の無保険者に対する厳しさは、医療の世界では悩ましいことではあるが、一国の経済という観点からは羨ましくもある。つまり、負担の限界を常に意識しているという点である。
日本は福祉国家となったものの、その負担に関しては無頓着であった。今でも一部の政治家、官僚は無頓着のままだ。つい10年前まで、(旧)厚生省は、厚生年金保険料を30%に引き上げれば制度は維持できるという試算を堂々と国会に提出していたのだ。年金保険料だけで30%とは、何を考えているのか。そんな試算をおかしいと指摘することのできなかった学者達の頭はどうなっているのか。
今は下火になってしまったが、アメリカの公的年金改革の論議では、だれも保険料の引き上げを提案していない。もう既に限界に近づいていることに気付いているからだ。こうした負担の限界を知ることが、経済の活力を左右することにつながるということを、国のリーダー達は真剣に理解してもらいたい。
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