Topics 2003年2月21日〜28日
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2月21日 製薬会社へのボイコット運動
2月25日 医療が大統領選の目玉になるか?
2月21日 製薬会社へのボイコット運動 Source : Seniors groups boycott Glaxo over Canada move (Star Tribune)
昨日、製薬メーカーのGlaxoが四面楚歌になっていると記したが、その状況は、どんどん悪化しているようだ。同社の製品に対するボイコット運動 "Tums Down to Glaxo" を展開している団体は、次の12州にまで広がっているそうだ。
- New York
- California
- Wisconsin
- Indiana
- Pennsylvania
- Maine
- Vermont
- Massachusetts
- New Hampshire
- Washington
- Texas
- Minnesota
このリストからもわかるように、圧倒的に北部でカナダ国境に近い州が多い。アメリカ北部の高齢者達にとって、カナダからの処方薬がいかに重要かがわかる。上記Sourceによれば、Minnesotaの高齢者グループは、アメリカよりも約45%低い価格で、同じ薬をカナダから購入できているそうだ。高価な処方薬になればなるほど、その格差は大きくなるのだろう。
Glaxoは、利益追求のためではなく、安全性の問題だと主張しているようだが、ここまで火の手が広がると、その主張も通りにくいだろう。特に、各州の高齢者グループに押された形で、議員達が行動を起こし始めているのは、Glaxoにとっては厄介だ。政府のFDAでは、当然、カナダからの米国製処方薬の輸入は違法であるとしているが、実際にはこれまで黙認してきている。その輸入高は、年間5億ドルから10億ドルといわれている。これだけの再輸入を黙認しておきながら、いまさら安全性に問題があるといっても、説得力がない。もし本当に安全性が問題となるなら、これまで大量に黙認してきたこと自体が行政の怠慢と指摘されても仕方ない。
今後、Glaxo、FDAがどのような収拾策を出してくるのか、議員立法が迅速に進むのか、注目しておきたい。
2月25日 医療が大統領選の目玉になるか?
2004年の大統領選に向け、民主党(系)の候補者達が動き始めた。そのうち、大物候補と言われる二人が、医療の無保険者をなくそうという政策を、最大の目玉に掲げようとしている。
その第1は、Rep. Richard Gephardt (D-Mo.)。2002年中間選挙敗北の責任を取って、Minority Leaderを辞任した。彼の選挙キャンペーン用のwebsiteを見ると、"Health Care for All"が政策課題のトップに掲げられている。
まだまだ詳細なプランは明らかにされていないが、その主張は、次の通りとなっている。
- 4120万人の無保険者のうち、55%はフルタイムで雇用されている労働者とその家族である。
- 全ての被用者は、雇用主から医療保険を提供されるべきである。
- 雇用主が提供する医療保険が増えるよう、雇用主にTax Credit(税額控除)を提供することを提案する。
- この提案の特徴は、単純であり、しかも現行の民間医療保険制度を活用した制度となることである。
- 現行の医療保険料に関する控除(所得控除)は、実際に必要となる医療費全体の35%程度しかカバーしていない。これを60〜65%のカバー率にまで引き上げる。
- そうすれば、既に医療保険を提供している大企業とその従業員の負担は軽減される。また、新たに医療保険を提供しようとする企業の負担もなくなる。
- (専門家の推計では、同提案に伴うコストは、10年間で2兆ドルを超えると見られる。その財源は、先の大減税を停止することで求めるのではないかと見られる。)
第2は、Howard Dean(元Vermont州知事)。彼は、全国レベルではまだ知名度が低いらしいが、医者でもあり、医療保険改革については、並々ならぬ意欲を持っている。彼のWebsiteでも、政策課題のトップに、"Universal Health Care"が掲げられている。
彼の提案は、次のようなものとなっている。
- 州政府が23歳未満の国民への医療を保障する(Vermont州と同様に)。
- 連邦政府は、65歳以上の国民の医薬品と適正な医療について保障する。
- 23〜64歳については、現行の医療保険控除(雇用主の所得控除)を活用することとし、中低所得者層の無保険者には、連邦の補助金を提供する。
- 財源は、先の大減税の取り消しによるものとする。
Dean氏の主張は、Gephardt提案のように中規模、大規模企業にまで税額控除を認めると財政負担が重過ぎるとしており、そこは自助努力に委ねるものとしている。それだけ、Dean氏の方が財政バランスに気を使っているとも言える。
それにしても、無保険者対策として、民主党の幹部であるGephardt氏が企業の税額控除を提案し、共和党出身のBush大統領が個人の税額控除を提案している(Topics 2002年2月11日「大統領医療改革提案」参照)のは面白い。民主党の方が企業頼り、というイメージになるからだ。
また、もう一つ認識しておくべきことがある。それは、連邦政府が保険者となる仕組みを、避けている点である。企業であれ、個人であれ、税額控除による還付という考え方を取る限り、税を支払うだけの所得のあったところにしか恩典はいかない。しかも所得が大きくなればなるほど、その恩恵は100%になる。逆にいえば、所得の少なかった人、企業にはあまりメリットがないことになる。そういう欠点を承知のうえで、税額控除を全面に出しているのは、連邦政府が直接の支払者になることを避けているからだ。
この点に関して、Dean提案では、連邦政府の役割が必要としている。中低所得者層の無保険者への補助金は、連邦政府によるコントロールを意味するからだ。
無保険者を限りなく0%に近づけたいのなら、税額控除方式では無理である。ユニバーサルを謳うならば、Dean提案の方が有効であろう。しかし、連邦政府を信じないアメリカ国民にとっては、無保険者が残ることよりも連邦政府のコントロール、介入を回避する税額控除の方が好ましいのだろう。
2000年の大統領選挙では、Social Security(公的年金)の改革が争点の一つとなった。Bush大統領が提案した公的年金の個人勘定制度は、今では実現から程遠い状況となっている。医療保険、企業年金で小刻みかつ現実的な改革を提案してきたBush大統領と対抗するためには、国民の間で重大な関心が持たれている医療の分野で大きな改革を提案する必要があるのだろう。今後の民主党内の論争に注目していきたい。
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