Topics 2003年2月11日〜20日     前へ     次へ


2月11日 医療の数量解析
2月20日(1) アメリカの薬価差益
2月20日(2) 新貯蓄制度提案に対する評価(2)


2月11日 医療の数量解析
昨日に続き、今日もSENTARAの最新病院(2002年12月オープン)を見学したあと、SENTARAにおけるBenchmarkingについて、レクチャーを受けた。

Benchmarkとは、一般的には評価基準を指す。日本でも、投資運用の評価や、PC機能の評価などで、よく使われている用語だ。SENTARAでは、事業部門毎、治療行為毎にBenchmarkingを行って、コストの抑制、治療方法の改善などを行っている。

事業部門毎のbenchmarkingには、HMC社の"ibenchmarks"というシステムを利用している。HMCは、全米のHealth Care事業体から提供されたコストに関する様々なデータを分析可能な形に修正したうえで、データを提供した事業体にその結果をフィードバックしている。例えば、Sentaraの病院における医療用具のコストについて、同様の規模、事業内容を持つ他の病院と比較可能になっている。このような比較によって、どの事業部門のどのコストを抑制する必要があるのかを分析し、経営改善に役立てるのである。データを提供している事業体同士なら、どのようにコストを抑制しているのか、情報を提供しあうことも可能である。

また、医療行為毎のbenchmarkingには、Thomson Companyの"Medstat"というシステムを利用している。これにより、病院全体だけでなく、各医者毎の医療行為結果(例えば、入院日数、死亡率など)を分析し、評価する。

このような医療コスト、医療行為内容について、常に外部との比較で評価することにより、コストの抑制、医療内容の改善に努力しているのである。

日本でも、外部からの病院評価ということは行われているが、数量による評価ではないこと、結果が公表されていないことなどから、あまり有効な評価とはなっていないのが実情である。このような評価行為は、病院経営にとって必要であることは間違いないが、何よりも利用者のために必要なのである。コストを抑制すること、医療行為を改善することは、最終的に利用者である患者のためである。

日本の医療機関は、外部からの評価を極端に嫌う傾向にある。担当の医師が最良と判断した医療行為を外部から評価するのは何事か、と。Sentara幹部の話では、アメリカでこのような評価が一般的に行われるようになったのは、わずか15年くらい前からで、それ以前は、医師からの感情的な反発が強くてなかなかできなかったという。加えて、インターネットやITの進歩によって、データの収集、解析が飛躍的に容易になったことも、評価の推進に役立ったともいう。

日本でも、早期にこのような評価システムを導入する必要があると思うが、そのためのインフラが不足していると考える。一つは、医療行為の分類である。治療行為の定義が明確かつ一般的にならなければ、医療機関同士の比較は無意味となる。

もう一つは、人材である。医療、経営、統計解析がわかる人材またはチームがなければ、評価もできないし、評価に基づいた改善もできない。この意味で、数年前から始まっている医学部定員の削減は、間違いである。医療機関における医師だけでなく、保険者サイドのために働く医師、評価を行う医師なども必要になるはずだ。弁護士にしてもそうだが、入り口を絞る政策は間違いだ。できるだけたくさんの専門家を養成して、その後の具体的な活動のなかで競争する方が、社会的な効率は高まるものと思う。

SENTARAが用意してくれた資料の中に、医療機関、医師を評価した上で、消費者に情報を提供しているWebsiteの一覧があったので、ここに抜粋しておく。


(追加)(2月13日)
SENTARA訪問3日目(2/12)、先方のご招待で、こんな所に行ってきました。

2月20日(1) アメリカの薬価差益 Source : New York Will Sue 2 Big Drug Makers on Doctor Discount (The New York Times)
恥ずかしながら、アメリカにも薬価差益問題があるというのは、今まで気付かなかった。考えてみれば、保険会社なり州政府が特定の薬剤について償還額を一定期間固定すれば、薬価差益を生み出そうとする人達が出てきてもまったく不思議ではないのだ。日本では、医療機関で使用する薬剤について、薬価基準が設けられている。薬価基準は、一応製薬業者から医療機関に納入される価格の平均を取るようにしているのだが、一度薬価基準が決まり、それを下回る価格で業者が納入すれば、その差額が医療機関のポケットに入るというわけだ。2、3年前までは、日本医師会はどうどうと薬価差益をとって何が悪いと主張して、その確保に懸命だったが、さすがに世の中の不評に抗しきれなくなり、薬価差益縮小の方向で行政も動いているはずだ。

アメリカの薬価差益も同様の手口だ。州政府が運営するMedicare(高齢者医療)で、ある薬剤の償還価格を決める必要がある。その価格決めに必要な価格情報は製薬メーカーから提出され、それを参考に州政府が決定する。一度決定されれば、製薬メーカーは、有力顧客(例えば大病院)へは大幅な割引を行って納入する。すると、その顧客は、州政府の決定した価格で償還を受けることになるので、その差額が病院の儲けになるわけだ。

上記Sourceでは、NY州のMedicareで薬剤Aについて、次のような事例があると紹介している。 これはいくら合法とはいってもひどすぎる。日本医師会だってこんなレートの薬価差益は求めていなかった。先に訴訟を決めているCalifornia、Texas、Minnesota、Nevadaなどに追随して、NY州も、製薬メーカーであるGlaxoSmithKline(以下Glaxo)とPharmaciaを訴えるという。

Glaxoといえば、処方薬のカナダからの再輸入を阻止するため、カナダへの薬剤の供給を停止すると警告している製薬メーカーだ(「Topics 2003年1月14日(2) 政治家 vs. 製薬メーカー」「15日(1) カナダからの処方薬」参照)。これについても、NY州職員年金基金が同社の動きに明確に反対しており、NY対Glaxoの対立は、ますます深まっているようだ。

さらに、アメリカ、カナダの高齢者グループが、Glaxoの株式売却、製品ボイコット運動を展開しており、Glaxoは消費者からの抵抗も受けているそうだ。加えて、18日には、あのSanders下院議員(Topics「1月14日(2) 政治家 vs. 製薬メーカー」参照)が、Glaxoの動きを封じ込めるための法案を提出した。まさに四面楚歌状態にあるわけで、今後Glaxoはどういう行動を取っていくのか、興味津々である。

2月20日(2) 新貯蓄制度提案に対する評価(2) Source : Bush's Retirement Rx Is Bad Medicine (BusinessWeek)
2月3日に財務省が公表した新貯蓄制度提案(Topics 2003年「2月4日(2) 新貯蓄制度の提案」参照)は、専門家の間ではすこぶる評判が悪い。

上記Sourceでは、大統領提案は、中小企業だけでなく大企業のDCプランをも減少させてしまうと主張している。代老庁提案が通れば、中小企業は、LSAs、RSAsを従業員個人が勝手にやればいいじゃん、といって従来のような401(k)プランへのマッチング拠出をしなくなる。また、大企業では、次のようなことがおこる。即ち、一般の従業員は、引出ペナルティのないLSAsを最優先する。次に個人の自由のきくRSAs、そして最後に事業主拠出のあるERSAsという優先順位が付けられる。かくしてERSAsに加入する従業員が少なくなり、ERSAsも止めざるを得なくなる。そうなれば、大企業の従業員でも、引出ペナルティのない貯蓄という、不安定なファンドしか従業員に残されなくなるというのだ。

貯蓄をしようとしない従業員のために、企業は強制貯蓄を続けるべきだというのが、その本旨だろう。

アメリカの企業でも、従業員の自立というのは、まだまだ達成されていない課題となっているようだ。

ただ、議論を続けていく際に、考えておかなければいけないのは、大統領提案は貯蓄増進策であり、退職後所得強化策ではないということだ。経済刺激のための大きな意味での貯蓄を念頭に置いているのか、公的年金の将来と考え合わせたうえでの退職後所得確保策として見るのかで、評価の基準が変わってくるのだろう。

ところで、大統領提案に「聞いていない」と激怒したと噂されていた下院有力議員Rob Portman (R-Ohio)は、公式には大統領提案の方向性を支持する、と明確にした。そして、大統領提案は議会における法制化議論の出発点であると位置付けた。この辺り、同議員と大統領の間にどのような話し合いが持たれたのか、興味の尽きないところであるが、取りあえず、下院対大統領の激突は回避されたようだ。

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