アメリカ企業の確定給付型年金(DB)の財政危機が深刻化している。上記Sourceで例証されている企業をまとめておくと、次のようになる。
株式市場の低迷に加え、一昨年、昨年の急激な金利低下が、DBプランの財政に大きな影響を与えている。収入面では運用利益が低下し、給付債務は急膨張するという、ダブルパンチに見舞われたわけだ。金融政策による金利低下は、年金サイドからは負の効果をもたらしているのだ(Topics 2002年11月14日「(2) 確定給付年金の危機」参照)。
- GM。アメリカ最大の積立不足が生じている。昨年、26億ドルの拠出をしたにもかかわらず、193億ドルの積立不足となった。2003年度は、さらに拠出額を増やすことになる。
- IBMは、先月、約40億ドルの拠出を行った。
- Honeywellは、11月、約9億ドルの拠出が必要になると公表した。
- Johnson & Johnsonは、先月、7.5億ドルの拠出を行った。
- 3Mは、昨年、7.89億ドルの拠出を行った。
- Fordは、今月、5億ドルの拠出を行い、さらに近々5億ドルの拠出を行う予定。
The New York Times より
DBの財政危機に対して、企業側として考えられる手立てとして、次のようなことが考えられているが、いずれも、言うは易し、行うは難しである。
もちろん、上記Sourceでも指摘している通り、DBプランが危機に陥っているのは、自動車、鉄鋼、航空会社などの産業であり、多くの企業では、依然として積立超過状態にある。しかし、低金利が長引けば、現在は健全な企業でも、やがて積立不足に陥ることになるし、それ以前に、企業の利益を圧迫し続ける状態が続く。
- Cash Balanceプランへの変更。一般的に全体のコストは下げられるが、中高年の従業員の反発が強い。ブッシュ政権からは、かなり企業よりのルールが提案されているものの、年齢差別との反発がある(Topics 2002年12月11日「Cash Balance と年齢差別禁止法」参照)。
- 一時金での給付をやめる。低金利においては、一時金による給付のコストは高いものとなる。しかし、一時金による給付を希望する従業員は、増加を辿る一方であり、一方的に給付を停止することは困難。
- 政治解決として、給付債務の計算や一時金算出に使用する利子率を、市場実勢より高く設定することを認める。企業側や企業サイドの年金団体が、ロビー活動を展開しているようだが、これこそ、DBプランの首を締めることにつながる。現在でさえ、年金債務が過少見積もりされているのではないかとの懸念がある(Topics 2002年11月23日「年金債務過少見積りの可能性」参照)。そこに、そのような特例を認めると、低金利状態が長期化すれば、株式市場から疑念を持たれることになり、DBプランを保有している企業の資金調達はままならなくなる。
このことは、日本でも起きたことで、2000年度年金改正の中で、厚生年金基金の代行部分の利回りを、一時的救済措置として5.5%に据え置いた。これは、厚生省の親心だったのだろうが、市場は、帳簿に現れない積立不足が発生すると見て、厚生年金基金を持つ企業の財務諸表への信頼感が揺らいだ。その結果、代行部分返上議論に一気に火がついたという経緯がある。
他方で、Enron破綻以降、企業年金会計に対して批判的な意見も増えてきている。上記Sourceでは、FASBが3月にも 年金会計の見直しについて議論するのではないかと伝えている(Topics 2002年12月3日「FASBが企業年金会計を見直し」、9日「(2) 年金会計見直し論議が本格化?」参照)。経緯から見て、企業側にとって厳しい方向での見直し内容にならざるを得ないだろう。
蛇足だが、企業年金の議論に関する報道では、企業の負担と従業員の給付にばかり焦点があてられるが、私としてはちょっと不満だ。企業年金プランの選択、継続には、企業の金銭的な負担以外にも、多くの判断基準があるはずである。例えば、採用とか人事政策とか、動機づけとか。そういったからみの記事があまり出てこないようでは、企業年金に対する見方があまりにも一面的になり過ぎるのではないかと懸念する。
また、金融政策に関しても、低金利はいいことばかりのように報道される(特に日本)が、年金サイドや、個人の貯蓄、財団等の公的セクターには、むしろ負の影響が大きい。アメリカも日本も、そうしたセクターが徐々に大きくなっているにもかかわらず、こうした低金利による負の影響があまり考慮されていないまま、金融政策が評価されているのではないだろうか。
UALと労組の間の賃金削減交渉(Topics 2003年1月8日「(3) UALの賃金削減交渉」参照)は、パイロット組合の後、客室乗務員組合も合意に達した。しかし、整備士組合は、予想通り、賃金削減交渉に応じず、物別れとなっていた。
これに対して、破産裁判所は、10日、UALの申し立てを認め、整備士組合の賃金を、一時的(1月〜5月1日)に14%削減することを認めた。UALの賃金削減案が再生に不可欠なこと、他の労働組合が賃金削減案に合意していること、などが、理由となっている。
これにより、航空業界では初めて、破産法第1113条(11USC§1113)による、労働協約拒否が認められたことになる。UALは、3月15日までに、各労組と新たな労働協約を結ぶことができなければ、同じく1113条に基づいて、賃金の恒久カットと労働条件を一方的に課すつもりであることを、破産裁判所に伝えている。
労組と協調して経営を行うものと見られ、労組からも歓迎されたTilton CEO(Topics 2002年9月4日「(2) United Airlinesの最後の頑張り」参照)だが、ここにきて、賃金、労働条件に大鉈を振るい始めた。しかも、堂々と第1113条を利用しながら。UALの無担保債権者委員会(Topics 2002年12月17日「いよいよ始まったUAL債権者会議」参照)には、当事者である整備士組合も代表を送っている。この債権者委員会で、どのような議論が行われているのか、パイロット組合、客室乗務員組合の代表者と、整備士組合の代表者は、協調しているのだろうか、それとも反目しあっているのだろうか。興味のあるところである。
製薬メーカーといえば、アメリカでは政治力ナンバーワンの業界である。その製薬メーカーに対して、喧嘩を売っている下院議員がいる。Rep. Bernard Sanders (I-VT)である。彼は、自らのwebsiteで、アメリカの製薬メーカーGlaxoSmithKline(以下Glaxo)がカナダの薬卸業者に対して配布した手紙の内容を公表した。
その手紙の内容とは、『アメリカ国民に対して、Glaxoの処方薬を販売する業者またはそのような業者に対して薬を卸している業者には、1月21日以降、Glaxo製品を販売しない』というものだ。
アメリカでは、処方薬の値段が2桁の高騰を続けており、その価格抑制は、政治課題にも上がっている(Topics 2002年10月21日「(2) 処方薬の処方箋」参照)。価格抑制策としては、
1 安い輸入品(カナダ)を奨励する
2 genericの利用を促進する
3 薬市場の競争を促進するための法改正(特許の見直し)を行う
などが考えられる(Topics 2002年4月3日「薬価の抑制」参照)。上記Sourceによれば、実際にカナダから輸入されている処方薬は、年間200万件(FDA推計)にものぼると見られている。このようなルートが、製薬メーカーによって遮断されれば、アメリカ国内の処方薬の価格上昇は、歯止めがなくなるだろう。
Sanders下院議員は、早速、このような製薬メーカーによる締め付けを禁止する法案を提出するとし、上院民主党とも協調する構えを見せている。また、Glaxoの手紙のコピーも希望者に配布できるとしている。
Sanders下院議員の選挙区は、Vermont州であり、まさにカナダとの国境に位置する。おそらく、カナダから処方薬を取り寄せている選挙民も多数いるのだろう。
日本で言えば、安売りドラッグストアーに対して販売しないということであり、公正取引法違反になるのではないかと思うが、アメリカではどうなのだろうか。アメリカにも当然、そうした類の法律はあるのではないだろうか。それとも国境を超えると有効にならないのだろうか。
それにしても、Sanders下院議員のwebsiteを見ていると、処方薬問題に対する執念が伺われる。こうしたシングル・イシューをしつこく追いかける議員というのは貴重だ。日本では、すぐ族議員とかになって、利権調整に走ってしまいがちで、こういう方向で動かしたいという信念が感じられないことが多い。日本でこのような問題提起を行っていると、つい製薬メーカーからの政治資金目当てか、などと疑いたくなる。いかん、いかん。
タイトルを見て、『カナダからの手紙』なんていうのを思い出してしまうのは、頭の硬直が始まっている証拠でしょうか?
昨日のTopics 「(2) 政治家 vs. 製薬メーカー」に関連する記事が、New Yorkから出てきた。上記Sourceは、大変参考になる。
まず、アメリカ人がカナダから処方薬を入手することの是非について。
よって、Sanders下院議員の主張通り、カナダから処方薬を合法的に入手するためには新たな立法が必要となる。
- カナダでは、処方薬の価格は、日本と同様、公定価格になっており、政府が決定する。
- カナダの薬剤価格は、カナダ国内のみに適用されるものである。
- アメリカ産薬剤のカナダからアメリカへの再輸出は、当該生産者向けの場合のみ認められている。
- 従って、一般のアメリカ人がカナダから処方薬を入手するのは、違法行為となる。
しかして、現実はどうか。
Glexoの主張は合法的であり、当然の主張となるわけだが、他方で、カナダからの処方薬に依存せざるを得ないというアメリカの現実があるのだ。
- 約100万人のアメリカ人が、カナダから処方薬を入手しているものと見られる。
- カナダの薬剤販売会社は、彼我の価格差に着目し、インターネット等で受注、販売している。
- カナダからの処方薬の利用者には、高齢者が多いものと見られる。
- アメリカ側にも、組織的にカナダからの処方薬を斡旋しているところがある。
- アメリカFDA(Food and Drug Administration)も、大規模なカナダからの輸入には監視の目を光らせているが、個人使用の輸入を取り締まったりはしていない。
その現実肯定派の旗頭として、New York州会計監査官(New York' State Comptroller)Alan Hevesi氏が名乗りをあげたという。NY会計監査官は、州政府職員を対象とした年金制度も管轄している。NY州の高齢者の多くが、カナダからの処方薬を利用しており、高騰が続くアメリカの処方薬を手に出来ない人達がそれらに頼っていると主張している。
NYもVTと同様、カナダと国境を接しており、多くのNY住民がインターネット等を通じて利用していることは、想像に難くない。しかも、NY州年金基金は、Glaxo株を520万株保有しているというのである。
製薬メーカーの合法的主張と、国会議員・州政府年金基金による圧力の勝負。まるで、立場が逆なのではないかと思ってしまうのが、日本人的発想なのでしょうか?
なお、やはり製薬大手のEli Lilly and Co.も、販売停止は口にしていないものの、カナダの薬剤販売会社に対して、「アメリカ国民への販売は違法である。自社製品の販売先のリストを見せろ」という手紙を送付している、との報道があった。いよいよ国境を越えた論争に発展しそうである。
US Airwaysの再建計画が山場を迎えている。同社の再建には、Air Transportation Stabilization Board (ATSB)の債務保証が不可欠であり、その債務保証を得るためには、将来にわたって無理のない収支見通しが必要となる。その将来の収支見通しを現実的なものにするためには、現在、大幅な積立不足に陥っている年金制度をなんとかしなければならないのだ。
US Airwaysは、積立不足の解消策として、一旦、年金制度を打ち切り、直後に新たな年金制度を創設し、そのまま給付債務を引き継ぐという案を、PBGCに提案していた。この提案のみそは、新たな年金制度創設に伴い、積立不足解消に要する年数を、法定の7年から、30年に延長してもらおうというものであった。つまり、本来なら7年で積立不足分を拠出しなければならないものを、30年かけて拠出してもよいように認めてくれ、というものであった。
しかし、14日、上院HELP委員会で開かれた公聴会で、PBGCは、US Airwaysの提案を、@1社だけの特別扱いとなり、不公平である、Aこれまで議会が積立不足解消期間を縮小してきたことに逆行する、BPBGCの資金を使った企業再生策は、他の年金加入者の資産の犠牲の上に成り立つものである、として、拒否する姿勢を打ち出した。
議会には、US Airwaysにおける雇用を確保するため、何人かの議員が、積立不足解消期間をUS Airwaysに限って延長するという法案を模索しているが、とても大勢にはなりそうもない。
こうなれば、US Airwaysは、年金制度の打ち切りに踏み切らざるを得ないだろう。打ち切られた場合、その年金制度はPBGCにより引き継がれることになるが、おそらくパイロット組合員を対象にした年金制度の給付額は、大幅(最高75%程度)にカットされる見通しだ。PBGCが引き継ぐ際に、給付額の上限が定められており、パイロット組合の年金給付額は、その上限を大幅に超えているからだ。
当然だろう。アメリカでも日本でも、企業年金の給付額は、それぞれの企業で勝手に決めたものである。日本では、ほとんどが労使協議の結果である。その企業年金に保証がついているだけでもおかしいのに、勝手に高く設定した給付額まで保証しろというのは、どういう神経なのか。また、国会議員がUS Airwaysの企業年金を守るために、特別扱い法案を出そうとしているというのも、頷けない。単なる人気取り提案だ。
年金給付額カットというと厳しく聞こえるが、実際には、これまでそんな高いレベルの年金を放置してきたことの方がどうかしている。鉄鋼業界にしても航空業界にしても、政治力があるだけに、何とかなると思ってきたのだろうが、その傍若無人振りには辟易する。
Fortune誌が選考した、働きたい職場ベスト100である。半年前にも、同様のランキングを発表している(Topics 2002年6月3日「Best Companies to Work for」参照)。Fortune誌の記事でも記されているように、景気が思わしくない中で、従業員教育、福利厚生の充実を着実に図っている企業があるということである。
トップ100のリストは、ここに置いておくとして、前回同様、トップ10の評価ポイントを転載しておく。
Rank Company 評価ポイント 転職率 1 Edward Jones
(証券会社)No. 1 for the second straight year, this stockbroker spends 3.8% of its payroll on training, with an average of 146 hours for every employee. New brokers at the 7,781 branches get more than four times that much. Why does Jones invest so much in its people? "In order to grow, you have to be trained," says managing partner John Bachmann, "or you get trapped in the present." While Wall Street firms are contracting, this Main Street firm is still hiring. The company is owned by employees (25% of them have partnership stakes), and perhaps that's why they care enough to have serious profit sharing and no layoffs. Says one administrative assistant: "I have never experienced working for a company that has so many satisfied employees." 16% 2 Container Store
(収納家具販売)Container Store continues to offer one of the highest pay scales in retail. New this year: domestic partner benefits, free yoga classes at distribution centers, chair massages at headquarters. 8% 3 Alston & Bird
(法律事務所)The first law firm to crack the top five, Alston & Bird had zero layoffs and thrives on daily, weekly, monthly, and quarterly communications. Also proud of its celebrations--Bunny Brunch, Welcome Breakfasts. 6% 4 Xilinx
(半導体メーカー)Employees of the semiconductor maker have been protected from the tech downturn by the company's strict adherence to a no-layoff policy. Workers did take a 6% pay cut, but the CEO's salary was chopped 20%. 4% 5 Adobe Systems
(ソフト製作)Camaraderie is the byword at this Silicon Valley stalwart known for its graphics products: frequent all-hands meetings, job rotations, Friday night beer bashes. Three-week paid sabbaticals every five years. 4% 6 American Cast Iron Pipe
(パイプ製造)Turnover of less than 2% is lowest on the list, and more than a third of employees have been here for 20 years and up. On-site clinic offers free medical and dental for employees (and their families) for life. 2% 7 TDIndustries
(空調施設)Employee-owned construction firm links health insurance premiums to compensation--the less you earn, the less you pay. An entry-level worker can cover his family for $25 a week. 16% 8 J.M. Smucker
(食品メーカー)J.M. Smucker offers employees unlimited paid time off to volunteer, and Brenda Dempsey is just one of many who give back to the community with the Ohio company's support. At Orrville High School's business-economics class, Dempsey, the director of corporate communications, helps out with sessions on business ethics, problem solving, and decision-making. Back at headquarters the addition of Jif peanut butter and Crisco shortening to Smucker's pantry of jellies, jams, and ice-cream toppings has brought on about 450 employees and doubled sales. Led by the fourth generation of Smuckers, the 105-year-old company provides health care for retirees and their spouses, as well as on-site stop-smoking classes. And all employees in the Orrville area have the opportunity to be taste testers 4% 9 Synovus Financial Corp.
(金融機関)Great benefits at this Southeastern bank holding company--on-site child care, state-of-the-art gym, generous profit sharing and pension plans--reflecting what it calls a "culture of the heart." 11% 10 Wegmans Food Markets
(スーパー)The supermarket chain lets workers take off to volunteer and to care for sick pets; employees have mentored more than 1,000 high school kids. Workers also get free ESL classes. New: up to $5,000 for adoption. 6%
前回のトップ10と比較すると、転職率が圧倒的に低くなっている。しかも、両方ともランクインしている企業は、すべて転職率が低下している。この辺りからも、労働市場が緩くなっていることが伺える。