7月6日(1) 年金改革法案の行方(2) Source : Pension Conferees Recess without Reaching Agreement (Buck)

内容は、上記sourceのタイトル通り。両院協議会は、6月中に何とか結論を出したいとしていた(「Topics2006年6月22日(1) 年金改革法案の行方」参照)が、やはり無理であったようだ。

今月4日は独立記念日。アメリカ社会は、完全に夏休みモードである。ちなみに、現在、拙宅には、アメリカの中学生がホームスティしており、11日に帰国するが、その後はすぐにNorth Carolinaへ家族でバカンスに出てしまう。そういう時節なのである。

10日に連邦議会は戻ってくるが、8月7日から9月4日までは、再び休会となる。つまり、公式の夏休みまで残り4週間であるが、この間に大きな懸案が議会で決定したのは、例の2002年のSO法くらいしか記憶にない(「Topics2002年7月25日(1) 企業不正防止法」参照)。しかも、今年は、中間選挙の年であり、下院はもちろん、上院も浮き足立っているに違いない。特に、民主党は、Bush大統領の不人気に乗じて、議席数を伸ばすことに全力を挙げていると思われる。

果たして、解決すべき課題が多く残っており、しかも国民からは少し距離のある法案内容について、画期的な結論が得られるのかどうか。また大統領の署名は得られるのかどうか。最後の瀬戸際に来たようだ。

7月6日(2) PBOよりABO Source : Business Objects to FASB's Plan for Measuring Future Pension Costs (AccountingWEB.com)

6月27日、FASBで、年金会計見直しに関する公開意見陳述(public roundtable)が開催された。年金会計見直しの第一弾については、4月に公開草案(「Topics2006年4月16日 年金会計見直しの公開草案 」参照)が公表されており、今回のroundtableは、この公開草案に対する意見陳述である。

上記sourceによれば、経済界ならびに数理人代表から、給付債務の認識は、PBOではなくABOで行うべきだ、との反論が示されたようだ。一方、機関投資家などからは、PBOを支持する意見が示された。PBO、ABO、VBO等の概念については、ここを参照してください。

日本でも、初めて退職給付会計を導入する際、給付債務認識の手法について議論があったが、結局、PBOが導入された。管理人の私見を述べると、やはりABOが自然ではないかと思う。PBOは、要するに「ベア」があることを前提にした予測値であり、いまやそういう賃金制度はあり得ない。過去勤務に対応した給付、アメリカのERISA的に言えば「受給権が賦与された給付債務」という考え方に立てば、VBOであっても構わないくらいである。ただ、VBOで除かれる「受給権が賦与されていない部分」は、数年で受給権が賦与される確率がかなりの程度あるため、ABOの方が望ましいと思う。

こういったビジネス感覚、時代の変化を読み取って会計基準を設定していかないと、実態に合わない財務諸表が公表されることになってしまう。こうした意見を受け取って、FASBがどのような判断をしていくのか、注目していきたいところである。

7月6日(3) MA州の退職者医療給付債務 
Source : Commonwealth Actuarial Valuation of Liabilities for "Postemployment Benefits Other than Pensions" prepared in accordance with GASB Statement 45 (Massachusetts Office of the Comptroller)

6月28日、MA州のComptrollerが、GAS 45に基づく給付債務を公表した。オリジナルのレポートはここ

GAS 45は、年金プラン以外の退職給付債務についても、年金同様の給付債務の認識と開示を求める公会計基準である(「Topics2005年12月13日 時限爆弾-GAS45」参照)。各州とも開示義務期日よりも前に、開示を試みている(「Topics2006年2月22日 加州のGAS45対策」参照)。

上記sourceによれば、MAとしては初めての開示のようである。

年金以外の退職給付債務として、MAが開示しているのは、退職者医療保険プランと生命保険プランであるが、ほとんどが退職者医療保険プランで占められている。また、2006年1月時点では、積立金は皆無であり、今後、積立に必要となるコストが州財政にのしかかってくる。

ポイントとなる計数は、次の表の通り。



Total(1)+(2)で示された、実際に発生している給付債務は$13.3Bであり、償却を含めた年間コストは、初年度$574Mにのぼるという訳である。GASは実際には実効力がなく、地方政府が本当に準拠するのかどうか疑問視する向きもあるようだが、CA、MI、MD、UTなども対応を始めており(Plansponsor記事)、この流れは広がってくるのではないだろうか。


7月6日(4) San Diego City年金プランを巡る訴訟合戦 Source : Judge says pension decision could take time (SignOnSanDiego News)

San Diegoといえば、軍港、メキシコへの入り口、Sea World、whale watcingという連想で、明るくて陽気な街、という印象を持っている。ところが、その楽天的な発想が年金プランに大きな問題を発生させている。

当websiteでは、昨年9月、ほんの触りの部分だけを紹介したことがある(「Topics2005年9月29日(2) 州政府職員年金も危機的状況」参照)。その際の記述は次の通り。
「San Diego Cityは、$1.4Bの積立不足があるにもかかわらず、給付額を引き上げた。FBI、司法省、SECは、違法な行為がなかったかどうか、調査中である。」
上記sourceは、San Diego Cityの職員を対象とした年金プランを巡り、泥沼の訴訟合戦が繰り広げられていることを報じたものである。

訴訟の当事者の一方は、City Attorney Michael Aguirre。その主な主張は、次の通り。 もう一方の当事者は、San Diego City Employees' Retirement System (SDCERS)のMichael Leone弁護士。彼の主張は、次の通り。 州最高裁Jeffrey B. Barton判事は、SDCERSの訴えを退ける仮処分を示しているものの、最終決定までにはまだまだ時間が必要との認識を示している。

こうした話題が報じられるのも、上記のような自治体財政の開示が強く求められているためと思われる。

7月3日 MA皆保険法の実施案 Source : Proposed Amendments and Public Hearings (DHCFP)

6月30日、Division of Health Care Finance & Policy(DHCFP)が、MA皆保険法(「Topics2006年4月10日 Massachusetts州の皆保険法案」参照)のうち、事業主に関連する規定の実施案を公表した。上記sourceからは、パブリック・ヒアリングならびに実施案のオリジナル・ページに跳ぶことができる。

MA皆保険法の事業主関連の規定は、次の通り(「Topics2006年4月10日 Massachusetts州の皆保険法案」参照)。
事業主の責任

「適正なコスト分担(Fair Share Contribution)」という概念を導入し、従業員に対して医療保険プランを提供していない事業主に適正なコスト分担を求める。正規従業員一人当たり年間$295程度と見込まれる。これは、医療保険を提供していない企業の従業員のために州が支出した分の一定割合に相当するように、算出される。対象となるのは、11人以上の従業員を雇っている企業である。季節労働者、パートタイム従業員を雇っている企業にも、部分的に適用される。

医療保険を提供していない企業の従業員が州政府の医療保障制度を利用した場合、当該企業に課徴金を課す。具体的には、ある従業員が年間3回以上利用した、または従業員全体で年間5回以上利用した場合に課される。金額は、従業員の診療に要した費用の10%から100%の範囲で、従業員一人当たり最初の$50,000は免責とする。

従業員11人以上の企業に対しては、カフェテリア・プラン(§125プラン)の提供を義務付ける。

以下、具体的なポイント3点について、要点をまとめておく。

  1. Fair Share Contribution (案文

    1. 従業員に対して医療保険プランを提供していない事業主について、"Fair Share Contribution"の拠出を求める。

    2. 対象は、11人以上の正規従業員を持ちながら、「医療保険プランを提供していない」事業主。

    3. 「医療保険プランを提供している」事業主の定義(つまり、Fair Share Contributionの免除要件)

      1. 第1要件
        • 10月1日から9月30日までの間の1年間で、次の値が25%以上となる。
          (事業主が提供する医療保険プランに加入している正規従業員の勤務時間数)÷(全正規従業員の勤務時間数)×100
        • 正規従業員とは、週35時間以上勤務する従業員。1年間のうち一定期間のみ正規従業員であった場合には、正規従業員であった期間の勤務時間を計算する。
        • 年間16週以下の勤務の季節従業員は、正規従業員に含めない。
        • 年間90日以下の勤務の臨時雇従業員は、正規従業員に含めない。
        • 独立契約者は、正規従業員に含めない。

      2. 第2要件
        • 第1要件を満たさない場合、年間90日以上勤務した正規従業員について、保険料の33%以上を事業主が負担している。

    4. Fair Share Contributionは、「従業員一人あたり$295」と「"Fair Share Employer Contribution"+"Per Employee Cost of Uncompensated Physician Care"」の少ない方の額とする(つまり従業員一人あたり$295は超えない)。

      1. "Fair Share Employer Contribution"は、公的医療保障プランの中で、医療保険を提供していない事業主の従業員に提供されたとみなされる費用。

      2. "Per Employee Cost of Uncompensated Physician Care"は、高齢者を除く無保険者に提供された診療サービス(要するに無償で提供されたサービス)の総額を、医療保険プランを提供している事業主の従業員数で割った値。
        (注:おそらくFair Shair Contributinを計算する際には、従業員数をかけるものと思われる。)

    5. Fair Share Contributionの総額は、初年度(2006年10月〜2007年9月)で$25.99Mになるものと見込まれている。

  2. 事業主課徴金 (案文

    1. 課徴金の対象となる事業主は、次の3つの条件をすべて満たす事業主。
      1. 医療保険プランを提供していない。
      2. 州の公的医療保障プランを利用した従業員が存在する。
      3. 従業員が利用した公的医療保障プランのサービス総額が年間$50,000以上。

    2. 「医療保険プランを提供していない事業主」とは、次の要件にすべて該当する場合である。
      1. 州法によりカフェテリア・プランを提供する義務を持つ従業員11人以上の事業主。
      2. 医療保険プランを提供しておらず、カフェテリア・プランの提供義務を果たしていない。

    3. 「州の公的医療保障プランを利用した従業員」とは、次のいずれかを満たす従業員である。
      1. (扶養者を含め)年間3回を超えて、公的医療保障プランを利用して入院または外来診療を受けた者。
      2. 従業員全員(含む扶養者)の総計として、年間5回以上、公的医療保障プランを利用して入院または外来診療を受けた企業の従業員

    4. 課徴金は、次の4つの要素を考慮して決定する(詳細は上記案文参照)。

      1. 従業員数
      2. 利用頻度
      3. 診療サービス総額
      4. 医療保険プランを提供している従業員の割合

  3. 保険プラン加入者記録届 (案文

    事業主、従業員それぞれについて、医療保険プラン加入状況について、記録を届け出なければならない。

    1. 事業主
      法人名、事業主番号、従業員数、医療保険プラン提供の有無、カフェテリア・プランの有無、自社運営保険プランの有無、等

    2. 従業員
      従業員名、社会保障番号、医療保険プラン提供への加入状況、加入している場合の被保険者範囲、加入していない場合の他保険プランへの加入状況、等
他方、比較的低所得者層を対象にした保険プランの設計も進んでおり、その保険料率は、月額$200前後になりそうとの観測記事も出ている。こちらも、無保険者の半分を解消しようという新制度であり、特に保険会社がその制度設計に注目しているところである。

現在、皆保険法実施までに想定されている今後の主なスケジュールは、次の通り。