12月20日(2) GM白襟労働者のベネフィット・カット Source : GM Freezes 401(k) Outlays for White-Collar Staff (Wall Street Journal)

GMが、ホワイト・カラーのサラリーマンについて、401(k)プランに対して行っていたマッチング拠出(20¢/1$)を凍結するとともに、離職手当も削減するとのことである。ブルーカラーの人員削減、賃金抑制に対応した措置という説明である。S&Pの格付け引き下げ(「Topics2005年12月19日(2) GMの信用度低下」参照)後、さらに手の打てる対策を打ったということなのだろう。

ここでも気になるのは、ビッグ3のレガシーコストの重さと、日本、韓国の車会社のベネフィットの違いについて、言及していることである。違いがあるだけならよいが、日本、韓国の車会社が不当な賃金政策をとっている、とか、不当な政府補助を受けている、といった論調に発展しないよう、しっかりとした意見発信をすべきである。特に、医療負担については、@アメリカが公的保険を選択していない、A退職者、高齢者医療のコストを国内で分担している、といったことを明確に主張すべきと考える。

12月20日(1) 下院が年金改革法案を可決 Source : House Passes Bill to Fortify Pension Plans (New York Times)

15日、下院が年金改革法案(HR 2830)を、賛成多数(294 - 132)で可決した。

以前、民主党からの賛成が出てこないと採決にまで至らない、との下院共和党幹部のコメントを紹介した(「Topics2005年12月8日 下院は採決せず」参照)が、実際の投票を見ると、民主党から70票の賛成が出ているので、採決に至ったということなのだろう。

ただし、このような圧倒的多数による可決というのは眉唾物であることは、既に述べたとおりである(「Topics2005年11月29日 上院議員の懸念」参照)。実際、上記sourceでも、多くの議員が法案に問題あり、としているとのことである。

加えて、法案の内容を後退させると、大統領が拒否権を発動する可能性が高い。このような状況で、両院協議会での折衝は、かなり長引くものと思われる。一部の報道では、来年2月頃、という説も流れている。いずれにしても、非常に困難な状況が続くことになるだろう。

12月19日(2) GMの信用度低下 Source : S&P Downgrades GM Credit Rating (Wall Street Journal)

12日、Standard & Poor's Corp(以下、S&P)が、GMに対する信用格付けを引き下げた(Press Release)(S&Pの格付け定義)。"BB-"から"B"、しかも、さらに悪化する見通しつき、ということで、上記sourceによれば、Bの格付けを受けてから1ヶ月以内に破産する確率は、5.7%だそうだ。もちろん、かなり低い確率ではあるものの、さらに格付けが下がるということであれば、破産ということも念頭に置いておく必要が出てくるだろう。

GMは、11月21日に、3万人の雇用削減計画を発表したが、それがほとんど評価されていないということになる。

自動車産業がセンシティブなステージに入りつつある時(「Topics2005年12月12日 日本車へのとばっちり」参照)に、GMが揺らぐようだと、日本車へのとばっちりは、現実のものとなる可能性が出てくる。

ちなみに、GMの株価の動向は、格付け引き下げを受けて、こうなっている(→Yahoo Finance)。

12月19日(1) 高齢者人口の割合 Source : Labor force projections to 2014 (BLS)

高齢者人口(65歳以上)割合の推移
 19842014
日  本9.9%25.3%
アメリカ15.0%17.8%
アメリカのベビーブーマーが退職して、高齢者人口割合が急増する、ということが騒がれているが、上の表を見ての通り、日本の高齢化ペースは、はるかに速い。逆にいえば、この程度の高齢化速度で、政策課題として認識できる繊細さが羨ましいのである。

12月13日 時限爆弾-GAS45 Source : The Next Retirement Time Bomb (New York Times)

GASとは、Governmental Accounting Standardsの略である。つまり、公的部門の機関に関する会計基準のことである。会計基準そのものは、GASB(Governmental Accounting Standards Board)という基準設定主体が開発している。要するに、FASBの姉妹団体である。

そのGAS45に、何が書いてあるかというと、年金以外の退職後所得(other postemployment benefits、以下OPEB)に関する会計基準、開示方法等が記されている。企業会計で言えば、FAS106に対応するものである。主なポイントは次の通り。
  1. ほとんどのOPEBプランは、賦課方式(pay-as-you-go basis)となっており、約束されたOPEBが実際に支払われるまで、財務報告で言及されないのが一般的である。そこで、次のような会計基準、開示方式を規定し、財務報告に含めることとする。

  2. 累積ベースで計算した場合の、年間OPEB費用を計算し、開示することとする。従って、年間OPEB費用は、必要拠出額と同額となる。拠出額は、通常の費用増分と、積立不足償却額(償却期間は30年以内)の合計となる。

  3. OPEB純債務は、年間OPEB費用と拠出額の差額の累計となる。

  4. 適用時期は、次の3段階に分ける。
    1. 第1段階:歳入額が$100M以上の自治体
      2006年12月15日以降開始される財政年度から
    2. 第2段階:歳入額が$10M以上$100M未満の自治体
      2007年12月15日以降開始される財政年度から
    3. 第3段階:歳入額が$10M未満の自治体
      2008年12月15日以降開始される財政年度から
つまり、2007年から、順次、自治体が開示を始めなければならない。アメリカの自治体でOPEBといえば、民間企業同様、医療がらみが大半である。しかも、今まで、実際の給付に要した費用しか認識してこなかったため、将来の給付については、極めて寛大なプランとなっている場合が多いようである。上記sourceで紹介されている事例をまとめてみると、次のようになる。

こうした事例を積み上げていくと、全自治体の給付債務総額は、$1Tに達するかもしれないとの推計(Mercer Human Resources)もある。2年後の2007年から、年金、退職者医療の拠出、積立不足が、自治体財政に大きなインパクトを与えることが予想されるのである。アメリカの場合、恐ろしいのは、「自治体が破産する」ということが現実に起こりうる、ということである。確か、今年初め、オレゴン州のキャッシュ・フローが詰まってしまい、行政サービス(含む公立学校)が全面的にストップするということが起きている。

放漫な福利厚生給付のツケが一気に爆発しようとしているのである。

12月12日 日本車へのとばっちり Source : US carmakers at crossroads (Christian Science Monitor)

上記sourceでは、自動車・部品メーカーのレガシー・コストが、「収益悪化→人員削減→退職者増→レガシー・コスト増」という悪循環を招いている、との紹介を行っている。

それはそれで一般的な論調なのだが、気になるコメントが2点あった。
  1. "The Japanese companies operating in the US are operating without any of these pension burdens and healthcare problems."
    労働経済では有名なPeter Cappelli教授の発言だけに、気になるところである。

  2. "You could probably characterize it as a last-ditch effort to ask the government to step in and reconsider the trade laws."
    UAW幹部の発言で、自由貿易が行き過ぎている、とのコメントである。
Bush大統領が不人気の中で、来年の中間選挙が予定されているだけに、気になるところである。トヨタ自動車あたりには、充分にアメリカでの理解活動を展開してもらいたいものである。