Topics 2004年1月1日〜10日      前へ   次へ


1月2日 PBGCに軍配
1月5日 大統領候補者達の無保険者対策
1月7日(1) 医療貯蓄勘定
1月7日(2) 非合法入国者の地位確認
1月8日 非合法入国者の地位確認(2)


1月2日 PBGCに軍配 Source : Statement of Executive Director Steven A. Kandarian on court ruling in dispute between PBGC and US Airways (PBGC)

昨年春にChapter 11から復帰したUS Airwaysだが、その際に終了させたパイロット年金の積立不足額をめぐって、PBGCと争っていた(「Topics2003年11月8日(3) 債権者PBGC」参照)。この問題について審議をしてきた破産裁判所は、昨年末(12月29日)、US Airwaysの主張を退け、PBGCの主張を支持する判断を示した。

この判決に対して、US Airwaysは、控訴を検討するとのコメントを公表しており、この問題に決着がつくかどうか、依然として予断を許さない状況にある。そのような状況にあることを念頭に置きつつ、今回の破産裁判所が示した判決の意味合いを考えてみたいと思う。

  1. 退職給付債務の計算方法
    企業再建中や再建後の企業であっても、PBGCにDBプランを引き継ぐ際には、PBGCが主張する利子率が採用されるということである。今回の破産裁判所での論争において、双方の主張が大きく乖離したのが、給付債務計算上利用される割引率であった。詳細は、上記の参照項目をみていただきたいが、PBGCは、市場で利用されている、より具体的には、市場で保険会社からannuity(年金プラン)を購入する際に利用されている利子率を使用すべきと主張し、それが認められたのであった。

  2. 年金救済法案に暗雲
    Chapter 11から復帰する、または復帰した企業といえども、PBGCの一般的なルールにはかなわないことを、 今回の判決は示したものといえる。より、一般的ないい方をすれば、企業の窮状を救済することよりも、ERISAで保護された受給権の確保の方が優先されるとの判断である。年越しとなった年金救済法案のうち、上院案では、特例掛け金の強制拠出額を減額しようという試みが盛り込まれている(「Topics2003年12月11日(1) 年金救済法案は来年早々の課題に」参照)。母体企業の窮状を勘案すべきとの考え方に基づいたものであり、今回の判決で否定された考え方となる。これで、年金救済法案の成立に、また一つ壁が立ちはだかったと見ておいた方がよさそうだ。

  3. ERISAの優位性
    上記1,2と関連するが、アメリカのDBプランにおけるERISAの優位性が、また明らかになった。アメリカの企業年金プランは、終了に関してはかなり柔軟性があり、企業経営側の意向が強く反映できるものの、過去の勤務に対する受給権部分に関する責任は厳しく問うというのが基本姿勢である。それが、Chapter 11企業といえども例外ではないことを、今回の判決は示したものといえる。

  4. 債権者間の力関係
    これは、当websiteで何度も指摘している点であるが、PBGCが無担保債権者としてChapter 11の再建計画に加わることの是非を改めて問い直す必要が出てくるのではないだろうか。PBGCは、US Airwaysの無担保債権者の代表として、再建計画の承認者という立場で関与してきた。実際、昨年3月には、pilot年金を終結させ、PBGCに引き継ぐことにより、再建計画を承認したのである。しかし、再建計画が成立した後でも、PBGCはERISAを盾に、PBGCへの支払い額を要求どおりにさせる法的権限を有しているのである。今回の判決が成立すれば、他の無担保債権者達は、昨年3月時点で確保した債権額が減額される結果となる。そのように、異なったレベルで債権の確保を担保できる債権者が、無担保債権者委員会に参加することは、本当に企業の確実な再建に結びつくのかという懸念が、実際に起きてしまったのである。無担保再建者委員会の構成のあり方を見直す必要があるのではないかと考える。

1月5日 大統領候補者達の無保険者対策 
Source : Side-by-Side Summary of Presidential Candidates' Proposals for Expanding Health Insurance Coverage (Kaiser Family Foundation) (PDF)

言うまでもなく、今年は大統領選挙の年である。昨年初め、民主党は無保険者対策をはじめとした医療政策を最大の争点の一つに据えることを決定した(「Topics2003年2月25日 医療が大統領選の目玉になるか?」参照)。対する共和党の首脳陣も、Medicare改革法の成立直後、無保険者対策を次の政策争点に掲げることで腹を固めた模様である(「Topics2003年12月15日(3) 次は無保険者対策」参照)。

大統領選までの10ヵ月間、無保険者対策を巡る議論が盛んになることは間違いなさそうだ。上記sourceは、改めて候補者達の無保険者対策のポイントを比較したものである。ここでは、そのうち、各候補者の特徴的なアプローチとそれに伴う財政負担についてまとめて、今後の議論のためのおさらいをしておきたい。

候補者名
特徴的なアプローチ
財政負担
Bush税額控除の拡大とMedicaidへの連邦政府助成の増額$88B/10Y
Clark22歳以下の子供の強制加入。低所得者、失業者への援助。$695B/10Y
Dean低・中所得者世帯の25歳以下の子供を対象とした公的医療保証制度の創設。
連邦政府職員医療保険プランと類似の制度とする。
$88.3B/Y
Edwards子供の保険加入の促進。企業による医療保険プランの推進。税額控除の拡大。$53B/Y
Gephardt医療保険プランの提供を企業に義務付け。公的医療保証制度の拡充。$214B/Y
Kerry連邦政府職員医療保険プランの一般開放。Medicaidへの連邦政府支出拡大。$72B/5Y
Kucinich全国単一の皆保険プラン。$2.2T/Y
Lieberman公的医療保証制度の拡張と子供を対象とした保険プランの創設。$747B/10Y
Braun連邦政府職員医療保険プランに類似した全国単一の皆保険プラン。
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Sharpton(提案なし)
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1月7日(1) 医療貯蓄勘定 Source : Overview of Health Savings Accounts(HSAs) (Miller & Chevalier) (PDF)

昨年11月に成立したMedicare改革法に、新たな医療貯蓄勘定"Health Savings Account (HSA)"の創設が盛り込まれていた(「Topics2003年12月3日 Medicare改革法の企業への影響」参照)。医療関連への支出に備えるための自助努力を促す制度であり、今回のHSA以外にも同様の主旨の制度が設けられている。上記sourceは、それら医療貯蓄勘定の詳細な制度比較表である。関連する法律条文並びに税法が付記されているので、さらに詳細を確認したい場合に大変便利になっている。

これら医療貯蓄勘定については、あまり勉強したことがなかったので、整理のためにできる限り詳しくまとめておきたい。

別表  『医療貯蓄勘定 比較表』
(2004/2/3 追記)

HSAに関するIRSのガイドラインが公表されたので、併せて掲載しておく。

1月7日(2) 非合法入国者の地位確認 Source : Bush Would Give Illegal Workers Broad New Rights (New York Times)

またまたBushチームのクリーンヒットである。

上記sourceによれば、7日(水)にも、Bush政権は、非合法入国者に新たな権利を付与するという、画期的な政策提案を行うそうだ。その概要は、次の通り。

  1. 非合法入国者が就労している場合には、一時的な労働許可を与える。
  2. 最低賃金等従業員福利厚生を適用する。
  3. 母国とアメリカの間を自由に往来することを認める。
  4. グリーンカードに応募することを認める。
  5. グリーンカードの発行数を増加する(現行は年間14万人)。
日陰で働いてきた非合法入国者にとっては、夢のような措置である。Bush政権が、この時点でこのように大胆な提案を行う政治的背景は、次の2点である。

  1. メキシコとの間の外交課題

    来週、メキシコで、Bush大統領とメキシコのFox大統領が会見する。アメリカとメキシコの間の最大の外交課題が、アメリカ国内にいる不法入国メキシコ人(350万人とも言われる)の地位確認である。その詳細は、拙稿「スペイン語が公用語に?」(2002/2/8)(PDF)をご覧いただきたい。Fox大統領は、2001年9月初頭にアメリカを訪問し、この問題でのアメリカ側の理解を強く求めた。就任したばかりのBush大統領としても、考慮せざるを得ない状況に追い込まれていたのだが、Fox大統領にとって不幸なことに、September 11が発生してしまい、この問題は棚上げされてしまったという経緯がある。Fox大統領の3年越しの要請がようやく実現に向かおうとしている訳である。

  2. 大統領選挙

    もちろん、こちらが最大の狙いである。ヒスパニックは一応マイノリティとして分類されており、基本的には民主党の基盤と考えられている。今回の大胆な提案は、この民主党の基盤を大きく切り崩そうという狙いである。もちろん、今回の提案により、不法入国者達に選挙権が与えられる訳ではないが、通常、こうした不法入国者達は、既に合法的に入国している親族や知人を頼って入国し、就労している。そうした受け皿となっている合法的な入国者=ヒスパニック達の支持を獲得しようということだろう。

    さらに、上で触れた、拙稿「スペイン語が公用語に?」(2002/2/8)(PDF)の末尾に添付している表をご覧いただきたい。この表の一番上に出てくるのがカリフォルニア州である。この表は、家庭で英語を話していない人口の割合の高い順に並べたもので、その右横の数字はスペイン系の人口割合である。この両者の割合が高いということは、今回の提案によって恩恵を受ける層がそれだけ多いということになる。その恩恵を受ける層が最も多いのがカリフォルニアということだ。カリフォルニアといえば、大票田であり、ここを押さえてしまえば、圧倒的な優位に立てる。今回の提案には、こうした意図が含まれていることは明々白々である。

    本来なら、民主党候補者達が積極的に、声高に叫ぶべきところを、医療とイラク問題に熱中する余り、Bush政権にお株を奪われてしまった格好だ。再三このwebsiteで指摘している通り、民主党が得意の領域で先制攻撃をかけ、民主党が抵抗しにくい構図を作り上げていきポイントを稼ぐという、Bushチームのいつもの戦略だ。議会では大きな抵抗は予想されるものの、Bush政権としては、この主張をし続けるだけで充分な効果を得られるという読みがあるのだろう。
とにかく懐の深い国である。

1月8日 非合法入国者の地位確認(2) 

昨日の続報で、7日午後、ホワイトハウスで、Bush大統領が、新たな法律改正の提案を行った。


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