Topics 2004年1月11日〜20日      前へ     次へ


1月11日 非合法入国者の地位確認(3)
1月12日 HSAに対する現場の評価
1月13日(1) 失業率は改善傾向
1月13日(2) 無保険者対策に関する経済界のアプローチ
1月14日 Bushチームの結婚キャンペーン
1月15日 製薬会社の苛立ち
1月16日(1) HSAと確定拠出型医療保険プラン
1月16日(2) 医療保険への選挙民の関心
1月19日 医療過誤賠償法案の効果
1月20日(1) Bush大統領の無保険者対策
1月20日(2) 処方薬再輸入のパイロットプラン


1月11日 非合法入国者の地位確認(3) Source : Plan Packs Political Bonuses for President (Los Angeles Times)

非合法入国者に法的地位を提供しようというBush大統領の政策提案(「Topics2004年1月7日(2) 非合法入国者の地位確認」参照)は、大きな反響を呼んでいる。大統領選では間違いなく争点の一つとなりそうだ。

上記sourceは、そららのうち、最も影響が大きいとみられるカリフォルニアで最もメジャーな新聞、Los Angels Timesに掲載された記事である。その概要は次の通り。

  1. 大統領提案は、政治的にはダブル・パンチであった。長く大統領を支持している経済界にメリットを提供すると同時に、ラテン系選挙民に好感をもたらす。

  2. 大統領提案は議会で厳しい抵抗にあうだろうが、Bush政権は、選挙の年の最初の政策提案としてこの提案を行うことで、実質的なポイントの獲得を狙っているようだ。

  3. しかし、リスクがないわけではない。Bush大統領の支持基盤である保守層からの反発があるからだ。保守層は、このような措置は、犯罪者に対する恩赦のように考えている。また、不法入国、凶悪犯罪、麻薬、テロリストの増加をもたらす惧れもあると指摘している。

  4. 民主党は、Bush提案について、@余りにも小規模であり、A対応が遅すぎる、と批判している。大統領選候補者達は、一様に、より大規模かつ寛容な措置を取るべきであると主張している。

  5. しかし、両党とも、Bush提案に対して過剰反応していると思われる。ラテン系投票者は一枚岩でもないし、すべてが移民問題に関心を寄せているわけでもない。

  6. Howard Dean候補は、「Bush提案は、選挙年における単なるジェスチャーにすぎない」と評している。また、John Kerry候補は、「移民問題を使って経済界にメリットを提供している」と批判している。

  7. 一方、全米商工会議所(USCC)Bush提案を歓迎しており、全米レストラン協会は、「会員が直面している問題に対応するものだ」と評価している。カリフォルニアのトマト生産農家は、「クリスマス・プレゼント」と大歓迎している。

  8. Bush大統領は、1998年のテキサス州知事再選挙の際、移民問題については現実的な提案を行っており、ラテン系投票者の約半数の支持を得ていた。2000年の大統領選では、ラテン系投票者のうち、約3分の1を獲得した。大統領就任後も、様々な対策を講じている。例えば、ラテン系であるAlberto GonzalesをWhite Houseの法律顧問に任命している(「Topics2003年6月9日 もう一つのキャンペーン」参照)。しかし、ラテン系投票者全体に影響が及ぶ政策提言は初めてである。共和党系世論調査担当者は、「今年の大統領選でラテン系投票者の約半数を獲得するかもしれない」と読んでいる。

  9. 従って、一つの可能性としては、Bush提案よりももっと限定的な措置を認める法案を、議会が可決するということが考えられる。メキシコ・シティで会見した上院Majority Leader Bill Fristは、「直ちに現実的に対応する」と述べた。

  10. 問題は、Bush大統領がどれほど固い決意で提言を行っただが、あるベテラン共和党上院議員は、「White Houseからの第一メッセージは、『この問題は重要だが、今年成案に持ち込まなければならないほど喫緊の課題ではない』というのものであった」と述べている。

  11. 参考として、ラテン系投票者がどれほどの影響力があるのかを検証しておく。次の9州は、2000年大統領選挙でラテン系投票者が多かった順である。


    州 名 全投票者数 ラテン系投票者数 ラテン系投票者割合
    California 11.5 million 1.6 million 14%
    Texas 7 million 1.3 million 18.6%
    Florida 6 million 678,000 11.3%
    New York 7 million 502,000 7.2%
    Arizona 1.6 million 247,000 15%
    Illinois 5 million 218,000 4%
    New Mexico 647,000 191,000 30%
    New Jersey 3.4 million 179,000 5%
    Colorado 1.6 million 158,000 10%
    Nationwide 110 million 5.9 million 5.4%


大統領提案は、功罪あるものの、大統領選挙にはかなり有利な影響をもたらすようだ。特に、最後の表にあるように、カリフォルニア、テキサスのラテン系投票結果には大きな影響がありそうだ。

なお、日本のメジャー新聞では、読売と毎日で紹介されただけであり、その意味合いを中立的に伝えていたのは、読売のみである。このような情報の質で大統領選を評価しようというのは、とても無理なような気がする。

1月12日 HSAに対する現場の評価 Source : Practitioners' debate on HSA (BNA Tax Management Insights & Commentary)

Medicare改革法で導入で、現役世代の関心を集めているのが、Health Saving Account (HSA)だ(「Topics2004年1月7日(1) 医療貯蓄勘定」参照)。上記sourceでは、昨年12月9日に開かれた、法律事務所に勤める関係者による討論会の模様を切り出してきたものらしい。医療貯蓄勘定の比較表を参照しながら読んでいただくと、より理解が高まると思う。


1月13日(1) 失業率は改善傾向 Source : Tracking the Long-Term Unemployed and Discouraged Workers (The Heritage Foundation)

なかなか陽射が強くならない雇用市場だが、それでも改善傾向がかなり見えてきた感がある。上記sourceでは、労働省発表の失業率に加え、次の2つの要素を加えている。

  1. Discouraged Workers
    過去には職探しをしていたが、なかなか見つからず、あきらめてしまった失業者。過去4週間、職探しを行わなかった者を指し、正式な統計上は労働力に含めないこととなっている。

  2. Marginally Attached
    過去1年間に職探しをしたものの、過去4週間に職探しをしなかったものの、就職できた者を指す。正式な統計上は失業者とみなされない。上記のdiscouraged workersは、このmarginally attachedの部分集合となる。

    この長期的に見た失業率でみると、一昨年12月6.9%、昨年6月7.4%、昨年12月6.7%となっている。

    040109 HF LTUNEMPLOYED

失業率の高さは、民主党がBush政権を批判する第一の玉である。予備選が本格化する中、雇用の動向も注目しておく必要がある。

1月13日(2) 無保険者対策に関する経済界のアプローチ Source : America's Uninsured: Myths, Realities and Solutions (U.S. CHAMBER OF COMMERCE)

無保険者対策は、今年の大きな政治課題になりそうだが、経済界が望ましいと考えるアプローチ、政策がまとめられた文書があったので、そのポイントを簡単にまとめておく。

  1. 官民の協調
    公的な医療保障制度(Medicare、Medicaid)は、一定の役割を果たしており、重要な社会制度である。しかし、公的資金が限られている中で、現行制度のカバレッジを上げていくことは適切ではないと考える。

  2. 事業主への義務付け反対
    事業主に医療保険の提供を義務付けることは望ましくない。雇用・就職の目的は労働であり、医療保険の提供ではない。

  3. 市場競争を通じた医療保険コストの削減
    医療市場で競争を促すことにより、医療保険に関わるコストを削減する必要がある。そのためには、@特に中小企業の従業員を一つの保険対象グループとしてまとめる制度を認める、A新設されたHSAを普及させる(「Topics2004年1月7日(1) 医療貯蓄勘定」参照)、ことが必要である。

  4. FSAの改善
    FSAの翌年繰越が認められていない(「Topics2004年1月7日(1) 医療貯蓄勘定」参照)ため、余計な診療や医療サービス購入が行われている。また、課税となるものの、従業員による目的外引出しを認めるべきである。

  5. 税額控除の活用
    中所得者層にターゲットを絞って税額控除の活用を検討すべきだ。

  6. 情報提供によるコスト抑制
    医療機関に関する情報、ITによる医療ミスの削減、医療行為の標準化などにより、医療コストを抑制すべきだ。

1月14日 Bushチームの結婚キャンペーン Source : Bush Plans $1.5 Billion Drive for Promotion of Marriage(New York Times)

今度は、保守派へのサービスである。来週に予定されている"State of the Union"で、Bush大統領は、『健全な結婚("healthy marriages")推進キャンペーン』を盛り込むらしい。その政策提言の内容は、次のようなものとなるようだ。

  1. カップル、特に低所得層のカップルのトラブル解消を援助する。
  2. 結婚を強制したり、離婚を妨げたりするものではない。
  3. 結婚の価値、結婚のための条件整備などについて広告キャンペーンを行う。
  4. 高校生、結婚に関心を持つ若年層、婚約者同士、子供を産みながら結婚していないカップルなどに焦点をあてて、結婚前の教育を行う。
  5. これらのキャンペーンのために、連邦政府予算として15億ドルを用意する。
こうしたBushチームの提案の背景には、昨年11月の、マサチューセッツ州最高裁判決がある。この判決で、ゲイのカップルは州憲法のもとで結婚する権利を有する、との判断が示されたのだ。これに対して、保守層は、「伝統的な結婚形態を死守しろ」、「同性同士の結婚を禁止するよう連邦憲法を改正しろ」と声高に叫んでいるのである。

一方、女性団体、リベラル派は、「個人のプライバシー侵害、家庭内暴力を引き起こすとともに、女性に結婚を強要するものである」と反発している。

厚生省(HHS)副長官であるDr. Hornは、「連邦政府のキャンペーン予算は、異性同士のカップルに使用される。だからといって、ゲイのカップルに障害が生じるわけではない。もし、ゲイのカップルが子供を養育し、貧しければ、フード・スタンプ制度や資金援助プログラムの対象となるのだから」と述べているそうだ。

このような社会の価値観は、企業の福利厚生にも大きな影響をもたらす。企業の福利厚生の対象に、domestic partner、つまりゲイのカップルの相方も含めるかどうかは、意見の分かれるところである。全体的には、domestic partnerを認めようという動きが徐々にではあるが強まっているといえる。しかし、連邦政府がこのようなキャンペーンを始めて社会の風潮に変化があれば、そうした動きも沙汰止みになるかもしれないのだ。

ちなみに、1996年に成立した"the Defence of Marriage Act"では、連邦政府による制度における「結婚」の定義をしているそうだ。そこでは、「結婚とは、一人の男と一人の女が夫と妻として法的に一緒になること」とされている。

今度のBushチームの提案は、この「結婚」の定義をめぐる、保守とリベラルの攻防というわけだ。「非合法入国者の地位確認(「Topics2004年1月11日 非合法入国者の地位確認(3)」参照)」といい、「結婚キャンペーン」といい、Bushチームは、民主党の候補者達が予備選で争っている間に、次から次へと玉を打ち出している。民主党候補者達は、党内とBushチームの両方と戦わなければならず、落ち着かない毎日を過ごしているに違いない。

1月15日 製薬会社の苛立ち Source : Pfizer Moves to Try to Stop Drugs From Canada (New York Times)

カナダからの処方薬輸入について、製薬会社は一段と厳しい対抗措置を講じつつある。上記sourceによれば、Phizerは、昨年12月に「新規販売店への卸売り、ならびに一定量を超える卸売りについて、すべて許可制とする」とのレターをカナダの卸売り会社に送付している。さらに、今月12日の卸売り会社へのレターでは、
  1. 卸売り店は、個別販売店からのPhizer製品の注文について報告する。
  2. カナダ国外にPhizer製品を輸出する惧れのある者には、一切当社製品を提供してはいけない。
  3. もし違反があれば、当社製品を将来にわたって提供しないこととする。
と述べている。

カナダからの処方薬再輸入については、昨年11月に成立したMedicare改革法で、「カナダからのみとし、FDAの認可が必要」との決着がついている(「Topics2003年11月27日 Medicare改革法概要」参照)。

ところが、FDAは、個人使用目的であれば少量の再輸入は黙認するとの行政措置を採っている(「Topics2003年3月14日(2) カナダからの処方薬をめぐる攻防 」参照)。穴は相変わらず残されているのである。従って、オンライン購入ばかりでなく、アメリカからの買い付けバスツアーまで行われているそうだ。

さらに、Medicare、Medicaidを抱える州、特にカナダと境を接している北部の州では、医療費抑制のために安いカナダの製品を輸入したいという意向がどんどん強まっている。

こうしたアメリカ国内の需要に応じるため、カナダの小売業者は、あの手この手で、アメリカ製薬会社からの圧力を回避する販売方法を開発している。製薬会社と小売業者の、いわばいたちごっこが繰り広げられている。

アメリカの議会でも、再輸入を合法化する方向が強まっている(「Topics2003年11月12日(2) 処方薬再輸入解禁法案」参照)。

アメリカの製薬会社から見れば、どんどん再輸入が既成事実化しつつあり、アメリカ市場での利益を確保できなくなるとの惧れが現実化しつつあるのである。製薬会社がこれからどういう圧力をWhite House、共和党にかけていくのか、また政治からの反応はどうなるのか。処方薬再輸入問題は、ますます政治色を強めつつあるようだ。

1月16日(1) HSAと確定拠出型医療保険プラン Source : 15 Big Predictions for '04: Our Experts Weigh In on CDH Trends for the New Year (AIS)

Medicare改革法に盛り込まれたHealth Saving Accounts (HSA)(「Topics2004年1月12日 HSAに対する現場の評価」参照) は、やはりかなり注目されているらしく、特に、確定拠出型医療保険プラン(Consumer-Driven Healthcare, CDH)の世界では、画期的な出来事になりそうだとの評価が多いらしい。既に大手保険会社では、HSAを利用した新商品を発表している。

なお、CDHについては、「Topics 2002年10月29日 医療保険の新顔 Consumer-Driven Health Care」をご参照いただきたい。

上記sourceは、そうした画期的な機会を迎えたCDHの世界で、2004年にどういった動きが出てくるか、関係者15人の予測を載せたものである。以下、その概要。

  1. 保険会社と金融機関の新たな提携
    CDHプランを提供してきた保険会社と、HSAを提供する金融機関との間で、新商品開発を契機に新たな提携関係を深めていく動きが出てくる。

  2. CDHは2006年に急増
    CDH加入者数は、全体からみればまだ『大海の一滴』である。2004、2005年に新商品が出てきて大企業に普及すれば、2006年には中小企業を中心に急増する可能性がある。

  3. CDH加入者数は急増せず
    HSAを活用したプランは、CDHへの認知度を高め、導入への抵抗感を減らす効果を持つかもしれない。しかし、従業員の間には、高免責額の保険プランへの抵抗も強く、CDH加入者数はそれほど増えないのではないか。

  4. HSAは小規模企業に普及
    小規模企業にとって、既存のHRA、FSAは採用しにくいため、HSAの採用が一般的になるだろう。

  5. HRAを利用したCDHの方が効果的
    HSAはMSAよりは効果的だが、HRAを利用したCDHの方が柔軟な制度設計が可能となるし、コストも抑制できる。

  6. CDHを利用した新たなプラン
    保険会社は、CDHを利用した新たなプランを開発してくるだろうが、利用者はより総合的な保険プランを求めているので、そうした統合型のプランが普及するようになるだろう。

  7. 加入者への情報提供が鍵
    CDHでは、加入者への支援プログラム、情報提供が大変重要となるが、これらの提供がうまく行わなれなければ、加入者は不満を抱き、CDH離れを起こす可能性もある。

  8. CDH提供会社も保険会社も短所あり
    保険会社は広いネットワークで低価格での提供が可能だが、加入者支援ツールが貧弱。CDH提供会社は加入者支援ツールはしっかりしているが、低価格での提供ができていない。どちらも虻蜂取らずになりかねない。

  9. 医療機関同士の価格競争、質の競争が激化
    CDHとHSAが普及してくれば、事業主も加入者も、医療機関の価格と質を気にするようになり、医療機関同士の競争が厳しくなる。

  10. 事業主と従業員の緊張関係がCDHの増加を促す
    従業員のコスト負担割合が高まるのに伴い、事業主と従業員の緊張関係が高まる。この緊張関係の高まりがCDHへの関心を高める結果となり、2005年には小規模企業でCDH導入が増加しよう。

  11. 負担増に対する従業員の不満が高まる
    HSAを採用したとしても、一旦自己負担し、その後、保険金の償還を受けるという構図は変わらない。

  12. 加入者の医療情報に対する需要が高まり、新たなサービスが開発される
    医療保険プランに関する自己判断が重要になるのに伴って、治療の選択肢、医者の選択、薬剤コストとその効果などに関する情報への需要が高まる。これらの需要に対応するための新たなサービスが開発されることになろう。

  13. CDHの先駆者が成功すれば普及は早まる
    今年に入って医療保険プランを全面的にCDHに変更した企業がいくつか出てきている。これらの先駆的企業が成功すれば、CDHの普及は早まるだろう。

  14. CDH加入者の増加は顕著となる
    2004年のCDH加入者増加率は、30〜50%と大幅になる。

  15. CDHによるアクセス制限が加入者に受け容れられる
    CDH加入者はプラン選択の責任をこれまで以上に負うことになる。CDHがコスト抑制に成功すれば、加入者のアクセス制限に対する理解は深まるだろう。
全体的には、HSAおよびCDHが普及するとの見通しが強いようだ。

1月16日(2) 医療保険への選挙民の関心 Source : AHA National and Selected Statewide Surveys (American Hospital Association) (PPT)

全米病院協会が行った世論調査の結果が発表された。大統領選挙を強く意識した調査内容で、「適切な負担による医療保障」が重要な政策課題として認識されていることを強調した結果となっている。なお、世論調査機関は、共和党系、民主党系の両方を利用している。

ポイントは次の通り。

  1. 「適切な負担による医療保障」は、「経済と雇用」に次いで2番目に重要な政策課題として認識されており、「テロ対策及び国家安全保障」と同レベルの重要性と認識されている。

    CHART1


  2. 医療システムがニーズに適応していると考えている選挙民の割合は低下傾向にある。

    CHART2


  3. 皆保険にするために追加的な連邦税を支払う意思があるとの回答が、69%に達している。

    CHART3


  4. その内訳を支持政党別に見ると、民主党、無党派、共和党の順に支持率が高くなっている。

    CHART4


  5. ところが実際に負担してもよいと考える具体的な金額については、明確な回答は少ない。

    CHART5

こうした結果をどう読むか。医療に対する選挙民の関心が高まっていることは事実であり、民主党支持者の中に皆保険制度を支持する意見が強いことも確かである。しかし、負担する金額について具体的なイメージがないことについてどう判断するか。皆保険実現までには、まだまだ相当な議論が必要という感触を持った。

いずれにしても、最初の予備選、Iowa Democratic Presidential Caucus は、もうすぐ(1月19日)である。

1月19日 医療過誤賠償法案の効果 Source : Limiting Tort Liability for Medical Malpractice (CBO)

昨年春以来、暗礁に乗り上げてしまった感のある医療過誤賠償法案(「Topics2003年4月23日(2) 医療過誤賠償法案の行方」参照)だが、上記sourceは、再びこの法案による効果に疑問を投げかける内容となっている。その概要は次の通り。

  1. 2000年から2002年にかけて、医療過誤訴訟保険の保険料が急騰している。

    FIGURE1

  2. その保険料を抑制しようといくつかの法案が提出されているが、それらに盛り込まれている手法は、州レベルでは既に認められており、既に40州以上で採用されている。

  3. 確かに、損害賠償額が制限されている州の医療過誤保険料は低くなっている。しかし、そのことによる医療費全体を抑制する効果は、極めて小さい。医療過誤に伴うコストが医療費全体の2%にも満たないからである。賛成論者、反対論者ともに、損害賠償額を制限することに伴うその他の効果を主張しているが、それらの効果には疑問を持たざるを得ない。

  4. 医療過誤賠償を議論する目的は、経済効率の向上と公平性の確保である。そのうち、経済効率の議論は、医療機関に対して、事故を抑制し、医療過誤に伴うコストを抑制するインセンティブを与えようとするものである。しかし、実際の現場では、適切な治療と過失の区別、医療過誤かどうかの判断と賠償額が正確に判断できるかどうか、極めて疑問である。従って、医療過誤賠償額を抑制することにより、経済効率を改善できるかどうかは明らかではない。

  5. 医療過誤保険料の急騰の原因は、次のようなものと考えられている。

    1. 損害賠償額の増加
      損害賠償が認められた場合の賠償額(一件当たり)は、過去17年間に平均8%で伸びている。他方、医者100人当たりで損害賠償請求で訴えられる件数は、約15件であり、そのうちの成功率(損害賠償が認められるケース)は約30%である。これらの数値には、ほとんど変化がない。

      FIGURE2

      また、医療過誤訴訟を起こされた場合の弁護士費用や、医療過誤保険の再保険料も高まっている。

    2. 保険会社の投資収益の低迷

    3. 保険会社の収益の低迷

  6. 損害賠償額を制限することにより考えられる効果には、次のような事項が考えられる。

    1. 損害賠償額を制限することにより、医療機関が適切と判断する医療を提供できるようになるとの主張がある反面、過失が増えたり、安全な治療が行われなくなる惧れが出てくるとの主張もある。

    2. 損害賠償に伴う弁護士報酬を制限すれば、乱訴を回避することができるとの主張がある一方、患者側が訴訟を起こしにくくなるとの主張がある。

  7. 州レベルで損害賠償責任を制限することで、確かに損害賠償額、そして医療過誤保険料も引き下げることができている。しかし、そのことで、社会全体の効率が高まるかどうかは明らかではない。

    1. 医療過誤保険料への影響
      1993年から2002年の州レベルでのデータを分析すると、損害賠償額に制限を設けることで、保険料を約3分の1引き下げることができたと見られる。同様の効果を、昨年3月に下院で可決した医療過誤賠償法案(H.R.5)法案(「Topics2003年3月14日(3) 医療過誤賠償法案が下院を通過」参照)で得られると仮定した場合、CBOの推計では全国平均で25〜30%保険料を引き下げることができる。

      しかし、それが医療費全体にどの程度の影響をもたらすかというと、明らかではない。医療過誤に係るコストは、2002年度で$24Bと推計されているが、これは医療費全体の2%にすぎない。従って、保険料が25〜30%下がったところで、医療費全体の0.4〜0.5%にしかならないのである。

    2. 防衛的な医療行為への影響
      損害賠償額を制限すれば、医療機関による自己防衛的な医療行為が少なくなり、医療費全体が抑制できるとの主張がある。しかし、いわゆる自己防衛的医療行為と呼ばれる診療行為は、損害賠償請求ではなく、報酬の増大化、患者の積極的な利益のために行われている場合が多い。

      CBOがMedicare加入者に関するデータを利用して分析したところ、損害賠償額の制限と医療支出の間には、明確な相関関係は見られなかった。また、別の手法による分析では、損害賠償額に制限を設けた州とそうでない州での、一人あたり医療支出に、有意な差異は見られなかった。

    3. 医療サービス提供への影響
      医療過誤保険料が高騰すると医療機関が撤退してしまい、医療サービスの提供が極端に減少してしまうとの主張がある。しかし、GAOの調査では、明確な関連性は見られていない(「Topics2003年9月3日 医療過誤保険料の影響は小さい?」参照)。

    4. 医療過誤事態への影響
      損害賠償額を制限すると、医療過誤を避けようとする意欲が削がれ、医療過誤が激増するとの主張がある。しかし、医療機関は医療過誤に関するファイナンス・リスクに直接さらされているわけではない。医療機関はたいてい医療過誤保険に加入しているし、その保険料に、個々の医療機関の診療結果、医療過誤件数などが反映されているわけではないからである。

      また、医療過誤が実際に損害賠償請求にまでつながるケースは極めて少ない。1984年、NY州で27,179件の医療過誤が発生したと推計されている。ところが、そのうち訴訟になったのは、たった415件、1.5%に過ぎなかった。

    つまり、損害賠償額に制限を設けることは、プラスの効果もマイナスの効果もはっきりしないというのが結論なのである。
このようなCBOのレポートに関連して、私自身のコメントは次の通り。


1月20日(1) Bush大統領の無保険者対策 Source : Bush Looks at New Health Care Initiative, Advisers Say(New York Times)

Bush大統領は、20日に予定されている"State of the Union"で、無保険者対策に関する提案を行うようである。Bush大統領は、既に税額控除を利用した保険購入促進策を提案(「Topics2004年1月5日 大統領候補者達の無保険者対策」参照)しており、さらに、どのような具体策が提案されるかが注目されるところである。また、大幅な財政赤字を抱えてしまった中で、無保険者対策に伴う財政負担の規模にも注目しておきたい。

昨年末、議会共和党幹部が、「次は無保険者対策」と意気込んでいた(「Topics2003年12月15日(3) 次は無保険者対策」参照)政策課題が、いよいよ表舞台で議論されようとしている。

かたや民主党の大統領予備選がIowaで始まった。結果は、
  1. Kerry
  2. Edwards
  3. Dean
  4. Gephardt
となり、中道派のKerryが一歩リードした。このKerryの医療改革提案は、民主党候補者中No.1と、医療政策の専門家の評価を得ている(「Topics2003年7月24日(2) 候補者達の医療政策提言を評価する」および「Topics2003年9月18日 大統領選候補者達の医療改革提案比較」参照)。このことを考えれば、やはり医療政策は大統領選の最重要課題の一つとなることは間違いなさそうだ。

次の表は、Washington PostのWebsiteに掲載されていた、Iowa Caucusの入口調査の結果である。

040120 IOWA ENTRANCEPOLL


この最後の質問と回答を見ていただきたい。「経済と雇用」重視が29%、「医療保険」重視が28%と群を抜いて注目されており、その両項目で、Kerryが最も高い人気を得ている。こうした分析が、今後の候補選の予想に役立つのではないだろうか。

なお、4位に終わったGephardtは、候補選から下りる決意を固めつつあるようである。彼の無保険者対策(「Topics2003年4月29日 Gephardtの医療皆保険提案」参照)はオリジナリティが高く、アメリカ国民の評価を聞いてみたいという気持ちがあっただけに、少し残念ではある。

1月20日(2) 処方薬再輸入のパイロットプラン Source : Minnesota Governor Meets With FDA Officials To Explain Reimportation Plan (Kaiser Foundation)

1月15日、Minnesota州知事のTim Pawlenty (R)FDAと会談し、処方薬の再輸入プランを提示した。その概要は次の通り。

  1. 処方薬購入のためのwebsiteを、2月に創設する。このwebsiteを通じて、州民は、州政府が公認したカナダ小売業者から、直接処方薬を購入できるようにする。

  2. 州政府職員のための処方薬の再輸入を州政府が行う。

  3. 州政府は、カナダから大量の処方薬を購入する。

  4. 処方薬再輸入の安全性を確認するために、ミネソタ州のプロジェクトを(FDAの)パイロットプランとする。
このような提案に対して、FDAは、いずれも違法となる可能性が高い、として、事実上認めない方針を示した模様だ。しかし、ミネソタ州政府自体がこのような再輸入プランを示して公然とカナダからの再輸入を開始すれば、他の州も追随することは間違いないだろう。いよいよ州政府が実力行使を行う瞬間がやってきそうだ。その時、FDA、製薬会社はどう反応するのか。FDAは黙認、製薬会社は真っ向から反対と叫ぶのではないだろうか。

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