Topics 2003年11月11日〜20日      前へ     次へ


11月11日 FDA徹底抗戦
11月12日(1) 製薬メーカーもギアアップ
11月12日(2) 処方薬再輸入解禁法案
11月12日(3) Cash Balance Planを救え
11月12日(4) Pension Stability Actが上院委員会で可決
11月14日(1) PBGCの保証額
11月14日(2) CB Plan問題は先送り
11月17日(1) 共和党の踏ん張り
11月17日(2) 福利厚生のベスト・プラクティス
11月19日(1) Medicare改革法案 合意へ
11月19日(2) Cash Balance Planを救え(2)
11月19日(3) FASBの最終合意(DB情報開示)
11月19日(4) PBGCの悲鳴
11月20日(1) 年金基金と企業の共生
11月20日(2) CFOの悩み


11月11日 FDA徹底抗戦 Source : Letter to Ram Kamath, Scott McKibbon (FDA)

US Food and Drug Administration (FDA) は、医薬管理行政を司る官庁である。そのFDAが、処方薬の価格高騰を抑制するために、何らかの措置が必要である事は認めつつも、処方薬の再輸入に徹底的に反対している。上記sourceは、処方薬の再輸入を推奨する団体に対して、安全性を確保できないことから再輸入には反対であると言う、現在のFDAのスタンスを説明している。

FDAは、個人使用目的の個人による輸入については規制しないとの見解を示した時期もあった(「Topics2003年3月14日(2) カナダからの処方薬をめぐる攻防」参照)のだが、現在は、その個人輸入にも厳しい条件を課しており、旅行に出た際の処方薬購入にも警告を発出している。最近は、上記sourceと同様に、処方薬の再輸入がいかに問題であるかと言う警告を連発している。このページには、そうした警告集が集められており、ご関心のある方は参照していただきたい。

FDAが再輸入論議に神経を尖らせている背景には、Medicare改革法案を巡る議論があると思われる。現在、両院協議会で調整案が練られているところだが、処方薬を保険プランでカバーするために、少しでもそのコストを抑制したいという議会の意向が働き、処方薬の再輸入を認める条項をMedicare改革法案に盛り込もうという動きが活発になっているのだ(「Topics2003年10月21日(1) 大詰めを迎えたMedicare改革法案」参照)。

もともと、カナダ国境沿いの北部の州では、処方薬の再輸入は、人気の高い解決策と考えられている(「Topics2003年1月14日(2) 政治家 vs. 製薬メーカー」「Topics2003年1月15日(1) カナダからの処方薬」参照)。実際、下院でも、処方薬の再輸入を認める法案を可決した実績がある。その際には、どうせ大統領が署名しないという見通しがあるため、いわば無責任に可決したと思われるが、今回は違う。2004年大統領選挙を左右するかもしれない、大テーマであるMedicare改革法案に乗っかってしまえば、大統領も拒否権は発動しにくくなる。Medicareという大きな船に乗って、処方薬の再輸入が法的に認められる可能性が出てきたのだ。

従って、監督官庁であるFDAとしても、従来にも増して、神経質にならざるを得ないのである。

医薬品の価格抑制と安全性が天秤にかけられているともいえる今の状況は、Medicare改革の裏側の側面として、注目しておく必要があると思う。

11月12日(1) 製薬メーカーもギアアップ Source : Curtailing Medicines From Canada (New York Times)

昨日記述したFDAと同様、アメリカの製薬メーカーも、外国からの再輸入解禁阻止に向けて、さらに注力しているようだ。

これまでは、各製薬メーカーとも、カナダの医薬品販売会社に対する警告レベルにとどまっていた(「Topics2003年1月14日(2) 政治家 vs. 製薬メーカー」「Topics2003年1月15日(1) カナダからの処方薬」参照)。しかし、ここに来て、実力行使とも言うべき手段に訴えるケースが出てきている。次は、報道されている事例である。

  1. 夏以降、カナダにおける処方薬の価格を4〜8%引き上げる。

  2. 「輸出向けではない」旨を明記させるなど、従来よりは厳しい販売条件を付ける。

カナダでは、公的医療保険制度の中で薬価が公定されているために、アメリカ国内との薬価差は30〜50%にものぼる。この薬価差を求めて、アメリカからの注文が多額にのぼっており、そうしたアメリカからのオーダーを受け付ける、カナダのオンライン薬販売業者は140にのぼり、そうした業者のアメリカへの販売額は、ピーク時で年間$40M〜$60Mもあったそうだ。

しかし、この夏からの価格引き上げにより、カナダへの処方薬の出荷額の伸びは、鈍化しつつある。また、その価格引き上げは、カナダ国民を直撃しており、影響は今後も広がりそうだ。

このように、アメリカ製薬メーカーは、再輸入解禁への抵抗を強めつつあり、Medicare改革法案の審議とあいまって、製薬メーカーと政党、特に共和党との関係は、ぎくしゃくする可能性が出てきたと考えられる。

11月12日(2) 処方薬再輸入解禁法案 Source : Key Legislatoin in the 108th Congress (Williamm Mercer) (pdf)

昨日の「FDA徹底抗戦」で、下院が単独で「処方薬再輸入解禁法案」を可決した、と記した。

上記sourceは、第108議会各院で可決された主な医療関係法案のリストである。そのP.4にある、"H.R. 2427 Prescription Drugs: Reimportation"がそれで、2003年7月25日、243対186で下院で可決されている。また、両院で可決された、Medicare改革法案(P.3のH.R.1/S.1)にも、同様の内容が含まれている。

処方薬の再輸入をめぐり、政vs.官-業が戦っているという構図になっているのである。

11月12日(3) Cash Balance Planを救え Source : Cash Balance Letter Available for Faxing to Approps Staffers (American Benefits Council)

American Benefits Council (ABC)という団体は、福利厚生に関して大企業の立場を代表する団体である。そのABCが、会員企業にキャンペーンを呼びかけている。

確定給付型プラン(DB)からCash Balanceプラン(CB)への移行が年齢差別禁止法に触れるとして、IBMが敗訴した後、議会では、上院、下院とも、財務省がDBからCBへの移行ルールを検討することを事実上禁じる法案を可決した(「Topics2003年10月27日 Cash Balance Planへの移行禁止」参照)。近く、両院協議会で、この法案(実際には歳出法案)の調整が開始される見通しである。ABCは、両院協議で、CBへの移行ルール検討を禁止する条項をはずすよう、議員に働きかけを行おうと提案しており、そのために用意したレターの雛型が、上記sourceである。

以前にも記した通り、現状では、DBからCBへの移行は絶望的であり、例え年金救済法案が成立したとしても、この低金利下では、DBを放棄する企業が続出する可能性がある。ABCもそうした危機感を募らせた結果、このようなキャンペーンを呼びかけているのだと思う。このキャンペーンが功を奏すかどうか、注目しておきたい。

11月12日(4) Pension Stability Actが上院委員会で可決 Source : Senate HELP Committee Approves Interest Rate Reform Bill

Pnesion Stability Act (S. 1550) には、企業年金の予定利率を、30年国債利子率から社債の利子率に変更するという内容が含まれている。その法案が、上院のCommittee on Health, Education, Labor and Pensionsで可決された。下院でも、同様の法案 The Pension Preservation and Savings Expansoin Act (H.R. 1776)が、委員会で可決されている。(「Topics2003年7月23日(2) Portman-Cardin Billの行方」参照)。これらの関連法案も、今後、両院での審議が行われることになろう。

なお、関連資料を、それぞれ置いておく。


11月14日(1) PBGCの保証額 Source : PBGC Announces Maximum Guarantee for the Year 2004 (PBGC) (PDF)

PBGCの最高保証額が呈示された。金額及び最近10年間の推移は、上記sourceの通り。また、保証対象等は、次の通り。

 DBプラン全体PBGC保証対象対象プラン割合
プラン数32,5003,200以上約10%
人 数4,400万人約100万人約2%
この表を見てもわかる通り、たった2%の勤労者のために、多額の保険料を集め、しかも、今年は、大幅な赤字となっているのが、PBGCの実態である。しかも、保証対象となったプラン、つまり、廃止となったDBプランは、鉄鋼、航空会社という特定業界に偏っているのである(「Topics2003年3月14日(1) アメリカのDBプランの課題」参照)。民間企業が自己責任で決めたプラン内容を公的機関が支払保証することの難しさが、顕著に示されている。

11月14日(2) CB Plan問題は先送り Source : U.S. lawmakers hit cash balance pension rules (Reuters)

American Benefits Councilのロビー活動(「Topics2003年11月12日(3) Cash Balance Planを救え」参照)は、失敗に終わったようだ。

上院案にあった「財務省がDBプランからCBプランへの移行ルールを最終決定することを認めない」という条項を採用することで、12日夜、両院協議会の話し合いがついたようだ。ただし、同時に、「財務省は、180日以内に、最適な移行ルール案を提案すること」も定めることにした。

これにより、 ということになる。従来、DBからCBへの移行の目的の一つとして、財政的には中立を守りつつ給付額を平準化するというものがあったのだが、先のIBM敗訴(「Topics2003年8月2日 IBM敗訴」参照)の判決が生きている限り、この目的を達成することは不可能と考えられる。ますますDBは窮地に追い込まれつつあるようだ。

11月17日(1) 共和党の踏ん張り Source : GOP Begins Push for Medicare Bill (New York Times)

民主党の社会保障の大御所、Senator Edward Kennedyが、「Medicare改革法案は伝統あるMedicare制度を根底から揺るがす」と警告を発し、徹底抗戦の構えを見せている。しかし、この大詰めを迎え、共和党は一致団結し、Bush大統領再選に向けて、大きく舵を切ったようだ。しかも、高齢者団体最強のAARPの支持まで取り付けたようだ。

その裏では、大統領の政治顧問、Karl Roveがロビー活動を活発化させているらしい。大統領府の人間がロビーというのもおかしな話だが、まさしく、議会工作と言う意味で、ロビー活動を行っているのである。そのロビー活動に協力している団体を列挙すると、次のようになる。

一方、カナダからの処方薬の再輸入については、実質的に認めないとの結論が出たようだ。最後の最後で、議会は行政府の主張を認めたことになる(「Topics2003年11月11日 FDA徹底抗戦」参照)。

もちろん、Medicareに競争原理を導入することについて、全議員の理解を得られたわけではないので、最終的な票読みは、依然として不透明なところが残されている。そうはいいながらも、処方薬をカバーすると言う最大のメリットを捨ててまで、競争原理導入を阻止しようという行動を議員が支持する可能性は低いのではないだろうか。

11月17日(2) 福利厚生のベスト・プラクティス Source : Best Practices of The Principal 10 Best Companies for Employee Financial Security (Principal Financial Group)

中小企業における、福利厚生のベスト・プラクティスが紹介されている。医療保険プランと退職所得プランについて、そのポイントについて、まとめておく。

見てみれば、当たり前のことばかりである。福利厚生委員会などは、日本企業では労働組合がその役割を果たしていると言えよう。

11月19日(1) Medicare改革法案 合意へ

両院協議会で、Medicare改革法案に関する合意案が成立した。大統領府のロビー活動が功を奏したようだ。

しかしながら、Medicareに民間プランとの競争を導入するという点については、民主党は強く反発しているし、共和党の中にも不協和音が存在する。このあたりをどう解消するかが、今後の鍵になろう。ちなみに、今週中に、両議会で審議、投票まで持ち込む予定だそうだ。

合意内容に関するsourcesは次の通り。


11月19日(2) Cash Balance Planを救え(2) 

Xeroxが、和解に応じるとの声明を発表した(Xerox Press ReleaseNew York Times)。Xeroxのキャッシュ・バランス(CB)を巡っては、一時金払いの際の計算方法が間違っているとの訴訟が起こされており、原告の主張を支持する判決が出されていた。Xeroxは、最高裁への控訴を断念し、和解に応じるとの判断をした。

このXerox裁判は、CBまたはCBへの移行が年齢差別禁止法に触れるかどうか、という難問と直接関係があるわけではないが、次の2つの点で、注目しておく必要がある。
  1. アメリカ人は、年金プランにおいて「年金額=毎月の年金支払額」が確保されている、という意識を持っている。これまで何度も述べてきているように、日本の企業年金では、退職金ベースの考え方があり、日米の意識の差を見ることができる。
  2. 現在世の中で議論されているCB問題とは異なるが、とにかくCBの評判を落とすことにつながる。
Xeroxの和解問題は置いておくとして、CBプラン擁護のキャンペーン(「Topics2003年11月12日(3) Cash Balance Planを救え」参照)は、さらに広がりを見せている。

最後の4.の措置は、アメリカ公的年金の特徴をよくとらえたものと評価できる。アメリカ公的年金では、給付負担割合で見ると、圧倒的に低所得者層の方が高い(つまり負担の割りに給付が多い)仕組みとなっている。別の言い方をすれば、所得再分配機能jが強く作用している制度である。しかし、企業年金の給付に、この「公的年金との統合条項」が適用されてしまうと、折角割高な公的年金を受けられるのに、企業年金との合計では、そのメリットがまったく消えてしまうことになる。この統合条項をはずすという措置は、相当大きなメリットが与えられていると言えよう。

このように、CBプランを擁護する主張があちこちから噴出している状況にあり、こうした意見を議会がどのように扱うのか、単なる先送り(「Topics2003年11月14日(2) CB Plan問題は先送り」参照)で済ませることができるのかどうか、注目していきたい。

11月19日(3) FASBの最終合意(DB情報開示) Source : Decisions Reached at the Last Meeting (FASB)

公開草案(「Topics2003年9月22日(2) DBの情報公開:FASBの公開草案」参照)を示して議論が進められていた、DBプランに関する情報開示について、11月11日のFASB会合において、合意に至った。後は、12月15日以降適用となる情報開示の内容について、詳細を詰めた規約を作成するばかりとなった。

新たな情報開示の内容について、上記source以外にも、Mellonがその概要をまとめている。

11月19日(4) PBGCの悲鳴 Source : Special pension funding break would widen gap in worst-funded plans by $40 billion (PBGC)

PBGCが悲鳴をあげている。上院財政委員会が、年金債務削減のための強制追加拠出ルール(Deficit Reduction Contribution, DRC)を3年間免除する、という法案を可決したからだ。

このような特例措置については、業績が厳しい業界、例えば、鉄鋼や航空といった、毎度おなじみの業界から、要望が出されている。それでなくても、低金利で給付債務が膨らむ中、積立不足が拡大し、DRCが適用されてはたまらん、母体の倒産につながりかねない、との懸念も広がっていることは確かだ。

この法案に対して、PBGCは警戒を強めている。この法案が成立してしまうと、財政状況が厳しいDBプランの積立不足は、そのまま放置されることになり、最終的にPBGCが引き継ぐことになった場合の補填額が拡大してしまうからだ。これについては、PBGCも、他のプラン、加入者の負担が拡大するということで、強く反対意見を表明しているということである。

厳しい状況だからこそDRC、というのは、規律を求めるという意味で大切な考え方、特に民間の自主的なプランについては、重要な考え方である。DRCの停止は、民間の自主性に任せるとの考え方の放棄と考えるべきだろう。

11月20日(1) 年金基金と企業の共生 Source : US Airways, Alabama promote each other in ads (AP)

US Airwaysのwebsiteで、アラバマ州の観光ガイドやRobert Trent Jones Golf Trailのゴルフ・ツアー案内を掲載する。

アラバマ観光のオフィシャル・ラインにUS Airwaysを指定する。


US Airwaysとアラバマ州は、互いに広告を掲載することで、双方の利益を導き、共生を図っていこうという企画である。当Websiteで記した通り、Chapter 11から脱出したUS Airwaysの最大の株主(38%)は、Retirement Systems of Alabama (RSA) である。ちなみに、上記のRobert Trent Jones Golf Trailも、RSA所有である(「Topics2003年3月19日(3) US Airwaysの復活」参照)。

アラバマ州は、フロリダやニュー・オーリンズの間に挟まれて、特に目立った観光地があるわけでもない。US Airwaysを通じて、観光客やゴルフ客が増えてくれれば、アラバマ州民の所得は増える。加えて、ゴルフ場の収益が上がることにより、RSAの収益もあがることになる。さらには、US Airwaysの経営が順調になれば、最大の株主としてのRSAは、莫大な投資のリターンを獲得することになる。

年金基金とその投資先との共生がうまくいくのかどうか、新たな実験が始まっている。

11月20日(2) CFOの悩み Source : Rethinking Cash Balance Plans (CFO.com)

最近のCFOの間で、企業年金についての悩みが2つあるという。一つは、Cash Balance Plan またはそれへの移行に関する合法性が不明確なこと。もう一つは、DBプラン(含むCB)の拠出額が収益を圧迫していることである。

CBの合法性が明確にならないと、CBプランそのものの凍結や、401(k)プランへの移行も検討せざるを得ないとの考えが強まっている。実際、S&P 500に入っているAvaya Inc.は、DBおよびCBへの拠出を凍結し、来年1月1日から401(k)プランに移行すると発表した。

また、DBへの拠出が重いということから、議会では、当面の救済策を審議している(「Topics2003年10月10日 下院が年金救済法案を可決」参照)が、その努力も及ばず、AONの調査(1000のDBプランが対象)では、次のような結果が出ている。

  1. 2001年1月以降、15%のプランが拠出を凍結した。

  2. さらに、6%が凍結を実際に検討している。

  3. 凍結の理由としては、次の4点が指摘されている。

    1. DBプランへの拠出額が多額にのぼる (45%)
    2. 拠出額の変動が大きい (39%)
    3. 支出全体に占める拠出額の割合が大きい (35%)
    4. 事業一般への影響が大きい (35%)
底流では既にDBプランのmelt-downが始まっているのかもしれない。

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