「Topics2003年9月12日(2) ストック・オプション会計のFASB議論」で紹介した、ストックオプション会計に関するFASB会合の模様が、明らかになった。上記sourceは、その会合結果の概要である。以下、そのポイント。
- 今後は、「Eqiuty-based compensation」と呼称する。以前は、stock-based compensationと呼んでいた。
- Equityを利用した報酬は、「賦与時」の「公正価格(=時価)」で評価する。利用されるequityが上場されているか否かに拘らず、すべてのequityによる報酬に適用する。ただし、賦与時の公正価格の計測が不可能な場合には、「行使日までの届出日」の「本源的価値」により計測する。
- 賦与日に公正価格を計測するために利用するオプション価格モデルには、6つの要素を盛り込まなければならない、というFAS123の考え方は保持する。
- ESOPに、「賦与時」の「公正価格」を適用するのは、問題が多いと認識している。
- 公開草案は、2004年第1四半期に公表予定である。最終決定目標は、2004年後半である。
「Topics2003年7月4日 DBの情報公開」で紹介した、企業年金等資産・負債に関する情報開示ルールの改正案が、明らかになった。FASBは、10月27日までコメントを求め、12月15日以降の決算情報から適用する予定である。以下、改正案の概要。
年度の財務情報の開示なお、社債等については、満期構成についても、開示を求める。さらに、投資指針についても、開示を奨励する。
- 年金資産
大括りの資産区分ごとの情報開示を求める。大括りの資産区分とは、株、社債、不動産、その他などである。さらに、投資リスク、長期の期待利益率を理解するのに有益であれば、さらに細かい資産区分ごとの情報開示を奨励する。資産区分ごとに求められる情報は、次の通り。
- 年金資産の公正価値(=時価)全体に占める割合
- 配分割合の目標値
- 長期の期待利益率
DBプランのABO(累積給付債務)
DBプランの最低責任準備金を計測する際に使用するABOの開示を求める。
キャッシュフロー(CF)情報
- 今後の給付支払スケジュールの開示を求める。今後5年間については各年度ごとの支払額、それ以降の年度については支払総額を開示する。
- 今後5年間について、企業の拠出計画を開示する。企業の拠出額とは次の通りであり、それぞれの区分ごとに開示する。
- 法制度等により必要となる拠出額
- 任意で行われる追加的な拠出額
- 拠出総額および現金以外による拠出の定義
計算仮定
当期および今後の各期において使用された重要な計算仮定値について、表形式で開示する。開示を求める仮定値は、
割引率、報酬の伸び率、資産の長期期待利益率、など。
非上場企業
非上場企業に対しても、四半期財務情報以外の情報開示を求める。
仮定値の変更によるインパクト
長期期待利益率、割引率、報酬の伸び率などの仮定値を変更した場合のインパクトについても開示を求めるかどうか検討したが、それらの情報が有益であるとの結論には至らなかった。経済情勢が時時刻刻変化する中で、特定の仮定値のみが変動する、という仮定そのものが考えにくいばかりか、投資家を誤誘導する可能性がある。
計測の期日
財務報告作成日以外の期日で年金資産等が計測された場合でも、その期日の開示を求めていない。
年金資産、給付債務の期首、期末情報の調整
現行制度から変更して、期末情報のみの開示を求めることとした。ただし、当期における、資産の実現利益、給付支払、企業拠出額、加入者拠出額などの情報の開示を求めることで、現行制度と同等の情報が得られるようにする。
検討したものの開示は求めない項目
四半期の財務情報の開示
- 投資の方針、戦略
- ERISAによる年金給付、財政状況
- 解散基準に基づく年金給付額、財政状況(例えばPBGCによる基準)
- 加入者の属性別の人数構成(例えば現役、退職者)
- 加入者の属性別の給付債務
- 給付債務の加重平均年数
- 年金資産、給付債務に関する四半期情報
四半期情報で、次の情報開示を求める。適用期日
- 四半期中に認識されたネットの給付債務、金利コスト、期間中に認識された利益と損失等
- 年度中の企業拠出額が、以前開示した額と大きく異なっていた、または異なる見込みの場合、上記3.-b.の分類に従って開示する
2003年12月15日より後に終了する会計年度から適用とする。四半期情報開示については、最初の適用会計年度の翌年度第1四半期から適用とする。
今年も、働く母親に優しい企業のBest100が発表された(「Topics2002年10月1日 働く母親に優しい職場 ベスト100」参照)。
Best100の企業リストはここに掲載されているが、各企業を評価する中で、頻繁に使用されるキーワードは、次のようになっている。
- 従業員の中での女性の構成割合
- 女性の管理職割合、昇進プログラム
- 総合的な福利厚生
- 保育プログラム(child care)
- 勤務時間の柔軟性
- 家族と仕事のバランス重視
ここで大事なのは、これら企業が、従業員にとって居心地のいい職場を目指しているのではなく、優秀な人材を確保したいという真剣な人事戦略から、こうした制度を活用している点である。
参考までに、今年のBest100に選ばれた企業と全国企業の間の比較を掲載しておく(全国企業の数値は、SHRMの2003年調査結果である。従って、調査対象は、大企業中心となっていると思われる)。
Working Mother Best 100(%) 全国企業(%)(SHRM調査結果) 子供が病気の場合の保育プログラム 47 7 学校始業前、終業後の保育プログラム 44 4 保育施設等 96 18 フレックスタイム 100 55 週勤務日数の短縮 94 31 ジョブ・シェアリング 93 22 介護支援プログラム 98 20 従業員支援プログラム 99 67 有給親権者休暇(授業参観等) 39 12 有給産休 27 14 マッサージ治療プログラム 77 11
損害賠償請求を専門にしている弁護士達にとって、医療過誤分野は、成熟市場だそうだ。以下、上記sourceのレポートのポイント。
- 2000年に医療過誤訴訟により支払われた賠償額の中位数は、前年比43%増の$1Mとなった。2001年、賠償額が$1Mを超えた訴訟は全体の52%に達した。2002年の最高額トップ3は、$94.5M、$91M、$80Mで、いずれもNew York CityまたはLong Island近郊での訴訟であった。
- 訴訟の大半は、取るに足らないものばかりだが、訴訟に勝った場合の賠償額が巨額なため、医療過誤保険の保険料がうなぎ登りになっている。下の表にあるような州では、2000年から2002年の間に、30%から75%の保険料上昇となっている。
- 賠償額および医療過誤保険料の急騰の結果、全米最大の医療保険会社St. Paur Companiesは、昨年$1Bの損失を計上した。ペンシルバニア州では、医療過誤保険会社が、5年前には10社あったのが、2社しかなくなってしまった。ミシシッピ州では、1997年以降、全部で15の医療過誤保険会社が撤退した。ウェスト・バージニア州では、公立病院が産科を閉鎖してしまった。
- また、医者の方も過剰な防衛策を講じるようになっている。医療過誤訴訟を避けるために、80%近くの医者が不必要な検査を行っていると回答している。また、74%の医者が、必要性がないのに、専門医への照会を行っている。こうして生まれる医療費の無駄は、年間$60B〜$108Bに達すると見られている。
なお、上記sourceの説明用資料(ppt)も、参照されたい。
確かに流れるような説明だが、以前から指摘されているように、医療過誤訴訟に伴う賠償額と医療過誤保険料の関係が、やはり明確になっているわけではない(「Topics2003年4月23日(2) 医療過誤賠償法案の行方」参照)。もし、医療過誤件数が多いのであれば、賠償額と保険料の相関は必ずしも確実とは言えないことになるからだ。もう少し、冷静な分析が欲しいところである。
こうした医療過誤訴訟の実態の中で、専門の弁護士達は、政治力を高めている。彼ら弁護士達の献金先は、主に民主党であり、民主党への献金元としては、トップの業界に属する。
そして、医療過誤訴訟専門弁護士達の申し子とも言うべき存在が、Edwards上院議員である。1998年の上院選挙の際、彼が受け取った政治資金のうち、半分以上は、こうした弁護士達からの献金であった。また、今年第1四半期に受け取った政治資金の4分の3が弁護士達からのものであった(「Topics2003年5月7日 藪医者 vs. 救急車追っかけ弁護士」参照)。こうした背景を持つ上院議員が大統領選の候補者として名乗りを挙げているということを理解しておく必要があるだろう。
Medicare改革法案については、夏休みを越えて、両院協議会での議論が事実上停止している。9月中、両院協議会フルメンバーでの会合は、1度しか開催されていない。加えて、両院協議会メンバーの共和党議員同士のいがみ合いで、完全にスタックしている(「Topics2003年8月28日 Medicare改革法案で共和党内輪もめ」参照)。
このような状況に危機感を抱いたWhite Houseは、両院協議会メンバーに対する説得工作を強めている。まず、Bush大統領は、9月25日、両院協議会メンバーをWhite Houseに招き、成案に向けての協力要請を行った。また、24日、Cheney副大統領は、Senate Majority LeaderのFrist議員、House SpeakerのHastert議員と会談した。さらに、HHSのThompson長官は、有力議員との会合を精力的に重ねている。
こうしたWhite Houseの強い要請を受け、Senate Majority LeaderのFrist議員とHouse SpeakerのHastert議員の両共和党リーダーは、Medicare改革法案成立に向けて、強くコミットする旨を表明し、共和党の主要メンバーである、Bill Thomas 議員(R-Calif.)、Billy Tauzin 議員(R-La.)、Charles Grassley 議員(R-Iowa)の3氏に対し、10月17日をタイムリミットとして、具体的な検討スケジュール案を提示した。その概要は、次の通り。
第1週 9/22-26 公私の医療保険間の競争に関する課題について、両院協議会メンバーで合意する。 第2週 9/29-10/3 処方薬に関する制度設計について協議する。特に、自己負担のあり方、低所得者層の負担のあり方について協議する。また、コスト抑制策、連邦政府の関与体制についても議論する。 第3週 10/6-10 Generic drugs及び海外からの再輸入についての制度設計を議論する。 第4週 10/13-17 下院が提唱している「伝統的Medicareプランと民間保険プランとの競争促進」と、上院が提唱している「民間保険プランが少ない地域における、連邦政府による処方薬保険のカバー」について、協議する。
つまり、10月17日までに、成案を得るよう、デッドラインが設けられた、ということである。
このように、上から示されたタイムスケジュールに対して、関与している連邦議員達は、「実現不可能」との感触を口にしている。さらに、法案審議が2004年にずれ込めば、その成立の可能性はますます低下する、との見通しを示している。そうなれば、再びMedicare改革が議論されるのは数年後、ということになるとの見通しも、大っぴらに囁かれている。事実、既に第1週が終了しているが、公私保険プラン間の競争について、基本的な合意が得られたとの報道はなされていない。
さらに、Medicare改革法案の行く末には、2つの意味で、暗雲が垂れ込めている(Source : Shift against drug benefits in Medicare (The Christian Science Monitor))。
その第1は、財政赤字問題である。連邦財政は、9月末で、$400B以上の赤字となる見込みである。これに加えて、イラク対策として、Bush政権は、$87Bの追加支出を要請した。こうなってくると、Medicare改革に必要となる$400B(10年間)は、とてつもなく巨額の財政支出と見なされざるを得なくなる。
第2は、共和党議員、民主党議員とも、主張を先鋭化しつつあり、時間が経つにつれ、収束が難しくなっているということである。例えば、下院案は、たったの一票差で可決された(「Topics2003年6月28日 処方薬Medicare改革法案が両院で成立」参照)。これの意味するところは、主張を同じくする議員同士でグループ(日本流に言えば『派閥』)を組めば、それだけ主張が盛り込まれやすくなる、ということだ。
保守系共和党下院議員13人は、全員の署名付きで、House SpeakerのHastert議員に手紙を送付している。その内容は、次の通り。
- 処方薬保険プランのコスト上昇を抑制する規定が盛り込まれなければ、Medicare改革法案に反対する。
- Medicare改革に要する費用は、CBO予測の$400Bではなく、$450Bと見られる。
- 処方薬に上限価格制のようなものは導入すべきでない。
- 税制優遇措置のある医療貯蓄勘定を新設する。
- 民間保険プランとMedicareプランとの間の競争を促進する。
最後の5点目について、民主党議員は、「連邦政府プランの事実上の民営化である」ととらえ、強硬に反対する見通しである。
当Websiteでは、Medicare改革法案を巡る議論は、事実上の2004年大統領選の前哨戦ととらえ、ウォッチを続けてきた。同法案が成立すれば、Bush政権の現実的な内政政策は評価されるだろうし、成立しなければ、民主党候補者達からの格好の攻撃対象となろう。10月17日というデッドラインに向けて、White Houseのさらなる説得工作が講じられるのかどうか、注目していきたいところである。