やっぱり、Hewlett-Pacard-CompaqのPC部門の業績が、先行き怪しくなってきた。上記Sourceでは、PC部門を統合するメリットがほとんど出切っていない、という指摘が行われている。
安売り競争に耐え切れなくなったHPとCompaqがシェア拡大を狙って統合したわけだが、対抗馬たるDellとは、決定的にPC販売チャネルが異なる。Dellが直販オンリーであるのに対して、HPQのPCの7割が販売店経由である。これでは、価格競争の懐の深さが違うことは明白である。
HPQの株価は、ようやく買収劇前の水準に戻りつつあったところだが、この業績結果により、低下も見込まれる。20日の終値は、▼$2.31の$19.8だった。
以前から、HPQについては、benefitの動向と絡めて注目してきた(「Topics2003年3月5日(1) HPQ株は不透明」参照)ところだが、PC部門の業績悪化は、benefitの見直しに繋がる可能性が高い。
DB(確定給付型年金プラン)にとっては、厳しい時代が続いている。Enron倒産で一気に噴出した企業会計不信、企業年金不信は、まだまだ根深いものがある。特に、資産価格の下落、金利の低下により、多くのDBが積立不足に陥っているため、投資家の間には、DBに関する情報開示を求める声が後を絶たない。また、政治家(特に、Mr. Matsuiなどの民主党議員)からも、より多くのディスクロージャーを求める意見が出ている。
こうした投資家からの要請や、会計士からの提案を受け、FASBは、8月20日の会合で、DBプランに関するさらなる情報開示を求める方針を固めた。新たに求められる情報の内容は、次の通り。
FASBでは、秋には、さらなる情報開示に関する公開草案を公表、パブリック・コメントを求めた上で、今年12月15日以降適用したいとの方針である。
- 年金資産の構成、目標値ならびに、各資産グループ毎の運用益の見込み
- 給付債務、拠出額予測
- 四半期ベースでの情報開示(「Topics2003年6月27日 FASBの新ルール」参照)
こういった情報開示が求められるようになれば、四半期ごとにDBプランの積立不足が報じられることになり、DBを持つ企業にとっては、頭の痛い話となる。
こうしたDBプランの苦境を反映して、DBプランの支払保証制度を司るPBGCもまた、大きな課題を抱えていると指摘されている。8月18日に公表された「The Next Big Bailout? How Underfunded Pensions Put Taxpayers at Risk」(The National Taxpayers Union Foundation)の概要は、次の通り。
- S&P 500の企業が持つDBプランの積立不足総額は、少なくとも$182Bに達すると見られている。
- また、PBGC自体の損失も、史上最悪の水準に陥っている。(「Topics2003年2月4日(1) PBGC保険料の見直しか?」参照)
- 保険料の設定が、積立状況を強く反映していないため、モラル・ハザードが起きている。積立状況が良好なDBプランは、この点を嫌って、DCプランへの移行を進めている。こうした悪循環が、PBGCの保険料収入をさらに悪化させている。
- 倒産等により、DBプランを廃止する企業が続出したため、PBGCが給付義務を引き継いだプラン加入者は、2000年から2002年までの2年間で、53%も増加した。加えて、そうした加入者の平均余命も著しく伸びている。そのため、実際に支払った給付額も、2001年$1.043Bから2003年$2.5Bと急増した。
- こうしたPBGCの財政状況の悪化を放置すれば、いずれ、納税者の負担(連邦政府による補助・穴埋め)につながる可能性がある。
- PBGCの財政を改善するために、3つの「C」を提案する。
- Correction of the insurance pricing schedule
現行の支払保証制度保険料は、「加入者一人当たり$19+積立状況に応じた可変保険料」となっている。これを、可変保険料のウェイトを大幅に高めることで、積立不足解消のインセンティブにするとともに、健全な積立を行っているDBプランの運営負担を軽減する。
- Conversion of DB plans into DC plans
可変保険料が中心となれば、不健全な積立しか行ってこなかったDBプランにとっては、補助金がなくなるのと同じ効果をもたらし、より従業員に好評なDCプランへの移行に拍車がかかる。
- Competition among insurance firms
支払保証制度をPBGCの独占にするのではなく、複数の民間保険会社にも参入させる。効率化を図るとともに、不健全なDBプランは生き残れなくなる。
このNTUの3C提案は、PBGCへの税金による補助という道筋を絶つことにより、支払保証制度の健全化、DBプランの健全化には役立つものの、少しでも調子の悪い企業はDBプランを継続できなくなるため、ますますDBプランの廃止に拍車がかかるだろう。つまり、DBプランはDBの世界に封じ込め、そこでの存続に耐えられないDBプランはどんどん潰していこう、DCプランに移行させよう、という提案である。こうした考え方が、アメリカの企業年金の世界で、徐々に広まっているのかもしれない。
こうした流れを知ってか知らずか、8月11日、IRSが、DBプランからDCプランへの移行時における税制を整備する旨公表した。上記sourceのp.291〜2が、その内容である。
今回、IRSが通達を出した課題は、次のような場合である。
ある企業が、それまで運営してきたDBプランを終了し、DCプランを新設する。DBプランを終了した際に、余資を企業に払い戻すと、20%の超過税(excise tax)が課せられる。したがって、余資の税務上の取り扱いが課題となるのである。ところが、この税務上の取り扱いが、これまで問題含みであった。その変遷を記しておくと、次の通りである。
DBプラン終了時における給付債務に見合う資産を確保(または一時金支払いで相殺)し、その後に残る余資の中の25%を超える金額をDCプランに移行する。
最後に残った余資を企業に払い戻す。
つまり、DBプランを廃止して余った資金のうち、25%以上をDCプランに移行すれば、その移行分は、あらゆる意味で無税であることを確認したのである。もっと言えば、余資全額をDCプランに移して従業員に配分してしまえば、拠出限度額に拘らず、完全無税になるという訳だ。
- 1998年:1998 Private Letter Rulings(PLRs) 9839030 & 9839031
取扱い 余資の25%を超えるDCプランへの移行額 → 「20%超過税の課税対象」+「企業の益金不算入」 問題点 DCプランへの移行額が、「企業への払戻金」として扱われ、超過税が課されるにもかかわらず、法人税が課されないという矛盾が発生する。
- 2002年:2002 PLRs 200227040 & 200227041
取扱い 余資の25%を超えるDCプランへの移行額 → 「20%超過税の課税対象」+「益金算入」+「DCへの企業拠出として所得控除」 問題点 年金プラン拠出総額が控除限度額を超えてしまった場合、その超過分にさらに超過税を課すことになる。
- 2003年:Revenue Ruling 2003-85
取扱い 余資の25%を超えるDCプランへの移行額 → 「益金不算入」+「DCへの企業拠出としての所得控除は不可」+「企業への払戻金としては扱わない」 問題点 問題は発生しない。DCへの移行は、無税で行われることになる。
今回のIRS通達は、純粋に税務技術上の問題を解決するために発出されたのだろうが、IBMの敗訴(「Topics2003年8月2日 IBM敗訴」参照)、FASBの情報開示要請、PBGCの保険料議論などが行われているこの時期に発表されると、いかにも「DBからDCへの移行」のための誘い水に見えてくる。
「Topics 8月11日 Checkが届いた!」でご報告しました扶養子女税額控除の還付に関する顛末期です。
そこでは、『なお、我が家では、このcheckは、将来のアメリカでの支出に備えるために、アメリカの銀行に預金するつもりです。日本の景気回復には貢献できません。悪しからず。 』と書いたのですが、実は、アメリカの銀行に預金することができませんでした。
アメリカの銀行に、預金ができるかどうかを事前にメールで確認したところ、「私の場合、口座名義が私のみであるのに対し、checkの宛名は夫婦になっている。この場合は、家内がアメリカの銀行の店頭に行って、本人と顔写真付きIDを照合する必要がある。」という返事が返ってきました。つまり、家内は身元確認をしたことがないので、その手続きを店頭でする必要があるということです。
アメリカでの納税申告で、私は夫婦合算による申告(joint tax return)を行っていました。家内にはもちろん所得はありませんでしたが、申告者は、私と家内の連名になっていたのです。従いまして、税額控除還付もまた、連名でのcheckにより行われたわけです。
この返信を見て、アメリカに夫婦で行けば、$1,600くらい吹っ飛んでしまうよな、とバカなことを考えて、頭が白くなっていました。
2、3日たって、落ち着いたところで、上記の問い合わせを行ったアメリカの銀行の日本店に出向き、照会したところ、家内の同意書とパスポートのコピーで、受け付けるということでした。取立手数料が1000円かかり、預金口座に入るまで約3週間かかりますが、取り敢えずアメリカまで行かなくても、現金を入手できそうです。ただし、ドル預金となるため、やはり、しばらくは国内で使う見通しはありません。
同じ系列の銀行でも、checkの取扱いは、国によって異なるのだということがよくわかりました。
今回は、アメリカ系の銀行に口座を持っていましたので、迷うことはありませんでしたが、アメリカ財務省のcheckについて、民族系の銀行でも取立を引き受けてくれるのでしょうか。誰かご存知でしたら、後学のために教えてください。
ブッシュ大統領のロング・バカンスは、日本でも頻繁に報道されているが、アメリカ議会も夏休み中で、議員達も地元に戻ったり、バカンスに入ったりしている。しかし、ワシントンでは、9月の議会再開に向けて、議員スタッフ達が暑い夏を過ごしている。
上下両院で可決され、両院協議会に付されたMedicare改革法案(「Topics2003年7月17日(2) Medicare改革法案の協議開始」参照)は、残る短い会期(およそ2ヶ月)の間に両院協議会で妥結、改めて上下両院で可決、大統領署名まで辿り着かなければ、廃案となる運命にある。
以前にも書いたが、夏休みを挟んでの議論は、流れる可能性が高い。議員が重要と考える法案は、夏休み前に決着を見ることが多い。議員だって、お荷物を抱えて夏休みに入りたくないのだ。それだけでも、Medicare改革法案の行く末に暗雲がかかっているというのに、上記NY Timesの記事によれば、両院協議会メンバー間、しかも共和党メンバーの間で、鋭く意見が対立しているという。
現在、Medicare法案をめぐる両院協議会メンバーは、次のようになっている。
そこで、対立しているのが、リンクを貼ってある二人、つまり、上院のCharles Grassley議員 (R-IA)と、下院のBill Thomas議員 (R-CA)である。Conference Committee Members
Senate House of Representatives Republican Bill Frist (R-TN)
Charles Grassley (R-IA)
Orrin Hatch (R-UT)
Jon Kyl (R-AZ)
Don Nickles (R-OK)Michael Bilirakis (R-FL)
Tom Delay (R-TX)
Nancy Johnson (R-CT)
W. J. Tauzin (R-LA)
Bill Thomas (R-CA)Democrat Max Baucus (D-MT)
John Breaux (D-LA)
Tom Daschle (D-SD)
John Rockefeller (D-WV)Marion Berry (D-AR)
John Dingell (D-MI)
Charles Rangel (D-NY)
記事によれば、各議員スタッフ達は、両院協議会での妥協点を探るため、夏休みの間も会合を繰り返してきた。そのスタッフ会合は、Thomas議員のスタッフが仕切っているらしいのだが、ボス同士の争いが昂じて、Grassley議員のスタッフが、スタッフ会合をボイコットしているそうだ。
発端は、Medicare改革法案では人口密度の低い田舎の地域にある病院への償還額を増やすことを求めているが、上院案と下院案では、その額や仕組みが異なっていることにある。田舎地域への割増償還額そのものは、上院案で$25.3B (2005〜2014年)、下院案で$27.2B (2004〜2013)となっており、それほど大きな差があるわけではない(「Topics2003年7月8日 処方薬Medicare改革法案の争点」参照)。しかし、下院案では、同時に、Medicareそのものの支出を抑えようとしており、10年間で$12Bの支出カットを提案しているのである。つまり、下院案では、実質$15B程度の増額にしかならないのである。また、都市部の病院でも、例えばNY州の病院は、上院案では$509Mの増額となるが、下院案では$439Mの減額となる。
この田舎地域の病院への割増償還という、処方薬保険とは全く違う問題で頓挫してしまっているというのが現状なのである。実は、この二人は、以前から犬猿の仲らしく、ここに来てついにGrassley議員が爆発してしまったということらしい。 Grassley議員は、Iowa州選出で、来年改選を迎えることになっているそうである。地元では、Medicare改革法案への反応は芳しくなく、そのうえ地域の病院への償還額が減らされるような提案はとても飲めない、ということらしい。今のアメリカの国会議員にとってのpork barrelは、公共工事から病院に移っているということであり、そこで地元の意向が反映できなければ、力のない議員という烙印を押されてしまう。
地元での選挙を意識してのボイコットだろうが、ここでMedicare改革が頓挫すれば、Bush大統領再選にとっては大打撃となることは間違いない。政権維持と議員個人の主張が天秤にかからないところが、共和党らしいということか。
民主党の大統領選候補者として、Howard Deanの人気が急上昇しているそうだ。たまたま、2つの記事が同じ動きを報じている。今月初め、本命はKerryではないのか、との見方を紹介した(「Topics2003年8月5日(2) 民主党候補者の本命」参照)。しかし、同時に、ワシントンでの注目度No.1は、Deanであることにも触れていた。
なぜDeanが注目されたか、その理由は、資金集めの勢いであった。6月末に正式な立候補表明をしたことから、第2四半期はすごい勢いで資金が集まった。私は、これは一過性のものではないかと見ていたが、その勢いはとどまらず、第3四半期も$10Mを集めそうな勢いだという(「Dean to Top $10 Million for Quarter」(Washington Post)) 。
おさらいのために、第2四半期までの資金調達額を再掲しておこう。
候補者名 4〜6月 上半期 Sen. John Kerry $6M $13M Sen. John Edwards $5M $12.4M Dr. Howard Dean $6.5M $10.1M Sen. Joseph Lieberman $5M $8M Rep. Richard Gephardt $4.5M $8M Sen. Bob Graham - $3M Rep. Dennis Kucinich - $1M Rev. Al Sharpton - - Carol Braun $0.15M $0.225M President G. W. Bush $34.2M -
こうしてみると、$10Mというのは、民主党候補の中ではすごい数字だ。四半期だけで$10Mも集めた候補者は、まだ出ていない。もちろん、Bush大統領の集金力には遠く及ばないものの、その勢いは大変なものである。インターネットによる少額寄付がたくさん集まっているそうで、それなら票も集まっていることになる。他の候補者は、金だけで決まるわけじゃないさ、とは言ってはいるものの、内心、脅威に感じているに違いない。
それに、金だけじゃないさ、とは言っても、金が大きな影響力をもたらすことも事実である。
AP通信によると、New Hampshire州での世論調査(Zogby International poll)で、Deanが突出してきたそうだ。主な結果は次の通り。
Bush大統領は、再選されるかとの問いに対する回答率。
候補者名 Aug. Feb. Howard Dean 38% 13% John Kerry 17% 26% Dick Gephardt 6% 11% Joe Lieberman 6% John Edwards 4% Bob Graham 1% Dennis Kucinich 1% Carol Moseley Braun 0% Al Sharpton 0% undecided 23% 29% President Bush 64%
Deanは、New Hampshire州で、「Sleepless Summer」というツアーとテレビ広告を大々的に打っている。まるでアイドル歌手並みのキャンペーンであるが、着実に地盤を固めつつある、という感じがする。老若男女、都市部・地方部に関わらず、広く支持を得ているそうだ。何よりも大事なのは、この世論調査が、New Hampshire州の結果であるということである。同州は、予備選挙が全国で最初に行われる州である。ここで大勝すれば、地すべり的勝利も夢ではなくなる。
こうして注目度No.1にのし上がったDean候補だが、注目されればボロも出る訳で、良かったか悪かったか、これから政策の中身の議論が進んでからが勝負だろう。