Topics 2003年4月21日〜30日     前へ     次へ


4月21日 家計の貯蓄目的
4月23日(1) Chapter 11を巡る攻防
4月23日(2) 医療過誤賠償法案の行方
4月29日 Gephardtの医療皆保険提案

4月21日 家計の貯蓄目的 Source : 2001 Survey of Consumer Finances (FRB)

FRBが3年毎に調査しているSurvey of Consumer Financesの2001年分調査結果が、先頃公表された。

全体は30ページを超える論文になっている。豊富なデータが掲載されているので、是非本文をご覧いただきたいが、ここでは、その中で注目したいトレンドについてまとめておく。

それは、回答者が貯蓄の理由として挙げている項目の変遷である。

REASONS

上記の表でわかるように、この10年間で、「退職後の備え」が13%ポイントも上昇しているのである。そして、貯金をしていないとの回答割合が7%ポイントも低下しているのである。

もちろん、この10年間は、アメリカ経済が絶好調の時期であり、退職後まで視野に入れる余裕があったということは容易に想像がつく。それにしても、3割以上の家計が、退職後の所得確保を貯蓄の目的としてあげているのだ。2003年現在で再調査を行えば、この割合が若干落ちるだろうが、このような傾向は大きく後退することはないだろう。アメリカの貯蓄行動は変わったと考えてよいだろう。

ASSETS

そのようなアメリカ家計の貯蓄行動を裏付けるように、株、mutual fund、退職プラン勘定による資産が増加している。明らかに、企業が提供する退職プランやIRAプランが、家計の貯蓄に貢献していることがわかる。

アメリカの貯蓄推進政策は、一応成功を収めたとみてよさそうだ。そして、EBRIが推進する貯蓄推進キャンペーン「Choose to Save」も成功したと言えるだろう。

4月23日(1) Chapter 11を巡る攻防

4月末のChapter 11からの復帰を目指してきたK-martは、最後の難関に差し掛かっている。経営陣は、先週にも破産裁判所から再建計画の承認を得られるのではないかと期待していたのだが、報道によれば、188の債権者からの反対を受け、先週中の承認は得られなかったそうだ。週末にかけて交渉が成立したのが101件となっており、依然として87件の反対が残っている状態だそうだ。

先日紹介した、MCI(旧WorldCom)のように、再建計画提出当初から大多数の賛成を得ている場合(Topics 「2003年4月15日 MCIセンターは残った」参照)と異なり、最後の最後まで説得の努力を続けなければならないようだ。

Chapter 11から脱出しようとしている企業がある一方、Chapter 11の瀬戸際に追い込まれながら、つまらないミスを犯した企業もある。

AMR

September 11以降、航空会社の経営は悪化の一途を辿っているが、上記の株価の動向は、American Airlinesのものである。AAは、Chapter 11を回避するために、労働コストの削減について、先週、労働組合からの合意を取り付けたばかりであった。ところが、経営幹部の報酬が一部開示されていなかったことが判明し、労働組合は完全に怒ってしまったというのだ。

労働組合は、労働コスト削減への同意を翻して再投票を行うかどうか検討しているという。倒産回避を理由に一般従業員の給与等を削減しながら、自らの報酬については充分確保しようとし、それを開示しないという姿勢は、この時期、最もまずい対応だった。折角株価が若干持ち直したというのに、またまたChapter 11の瀬戸際に逆戻りした感がある。

こういうところで経営陣が躓くというのを見ていると、アメリカの経営者達の志を疑いたくなる。

4月23日(2) 医療過誤賠償法案の行方 Source : Limited liability faces Senate hurdle (The Washington Times)
3月13日に下院を通過した医療過誤賠償法案(Topics 「2003年3月14日(3) 医療過誤賠償法案が下院を通過」参照)は、審議の場を上院に移したが、どうも暗礁に乗り上げてしまったようだ。

上記sourceによれば、上院民主党は、賠償金額に上限を設けても医療過誤保険の保険料は下がらないと主張しており、一枚岩になっているそうだ。この主張は、当websiteでも紹介した通り(Topics 「2003年3月19日(1) 医療過誤賠償法案への反対意見」参照)であり、まさに正論といえる。

上院のMajority LeaderであるFrist氏は、春の休会前にも上院案をまとめると威勢の良い発言をしていたが、議論に入る前の上院民主党議員との下交渉で失敗したらしい。その背景には、医師会等が下院案に固執し、賠償金額の上限を上げることに反対した経緯がある。そのため、上院での共和、民主妥協案の成立見込みが立たなくなってしまい、上院民主党は一枚岩になって反対を唱える結果となったようだ。

Bush大統領に近い議員として上院での地位を高めてきたFrist氏だが、いきなり躓いた格好となってしまったようだ。


4月29日 Gephardtの医療皆保険提案 Source : Guaranteed Care for All Americans (Dick Gephardt for President 2004)

23日、Dick Gephardt下院議員(Mo.)が、医療保険の皆保険制度の提案要旨を発表した。Gephardt議員は、大統領選挙候補の指名争いに名乗りを挙げてから、現役世代の医療保険について、皆保険にするとの提案を行ってきた(Topics 「2003年2月25日 医療が大統領選の目玉になるか?」参照)。今回の提案は、その概要を公表したものである。

そのポイントは次の通り。

  1. 既に医療保険を提供している企業については、医療保険料の企業負担分について、その60%の税額控除を認める。自営業者にも同様に認める。この措置により、600万人の無保険者がカバーされるようになる。同時に、既に医療保険を提供している企業にとっては、3年間で3160億ドルの減税となり、経済効果が見込まれる。また、GDPを少なくとも1%引き上げ、雇用の増にも貢献する。

  2. 医療保険を提供していない企業に対しては、新たに医療保険を提供するようになれば、保険料全額について、60%の税額控除を認める。そうすれば、新たな企業負担がなくとも、医療保険を提供できるようになる。これにより、1950万人の無保険者がカバーされるようになる。貧困レベル100%以下の低所得者がいる場合には、さらに25%の税額控除を提供する。

  3. 55から64歳の高齢者に、Medicareへの加入を認める。そのほか、COBRA、SCHIPの拡充を図る。これらにより、290万人の無保険者をカバーする。

  4. 州・地方政府の職員の医療保険について、コストの60%を連邦政府から補助する。これには、最初の3年間で1720億ドルが必要となる。

  5. これらの措置により、97%の無保険者がカバーされることになる。無保険者が減少すれば、全体の医療保険料を5〜7%抑制することができる。


このような提案概要を見ての感想を列挙する。

  1. 100%カバーされると大見得を切らず、97%という完璧ではないカバー率を示すところが、政治家らしくていい。どこかの国のように、「皆保険制度」を声高に叫びながら、無年金者、無保険者が増大しているのを放置している国とは違う。

  2. 他人の褌作戦。上記の措置に必要な財源には、2001年のブッシュ大減税をあてるということだ。財源調達が安易だ、との感もあるが、減税の組換えで政策主張の違いを浮き彫りにできる点は面白い。

  3. 連邦政府が医療保険者にならないような提案をすることで、クリントン大統領の失敗を繰り返さないようにしている。アメリカ国民は、連邦政府が皆保険の保険者になることで、医療の世界に官僚主義的な要素が入り込むことを嫌っていた。

  4. 企業側からは、強制保険となるようでは無理である、とのコメントが出ている。確かに、中小企業で、税額控除を受けられるからといって、簡単に医療保険を提供できるようにはならないだろう。従業員の負担能力、事務コストの問題は、これだけでは解決されない。また、政治的にも実現可能性はない、との論調も出ている。しかし、誰も3.で指摘したような連邦政府の介入を排除した皆保険制度を提案できていない。批判するのは簡単だが、無保険者問題を放置することとの比較考量でコメントすべきだ。

  5. 技術的な話だが、既に医療保険を提供している企業とそうでない企業との区分は、いつまで続けるのかが不明である。その区分は、永久ということはないだろう。どこかの時点で、制度を揃えることが必要になる。それはいつなのかによっても、企業の医療保険提供の進捗度合いが違ってこよう。

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