9月30日(2) 退職者医療に光明か? Source : Employers Cheery Over Latest in ‘Erie County' Retiree Benefits Controversy (Plansponsor)

27日、連邦地方裁判所(ペンシルバニア州)は、今年3月の判決を覆し、EEOCに、退職者医療保険プランが年齢差別にならないようなルール作りを認めるとの判断を下した。ただし、原告であるAARPが連邦第3控訴裁判所に控訴し、その判断が出るまで、27日の判決は効力を発しないものとした。

AARPの主張は、「Topics2005年4月4日(1) AARPの勝訴」を参照いただきたい。

ところで、連邦第3控訴裁判所は、2000年、Erie事件で退職者医療保険プランが年齢差別禁止法違反であるという、今回の長期混乱のもとになった判決を下したところである(拙稿「年齢差別禁止法と退職者医療保険 (2002/7/18) 」参照)。第3控訴裁判所は、こうした混乱を起こした責任を感じて、EEOCにルール作りを認めるのか、それとも意地を通し、違反モデルを実質合法化しようとするEEOCに待ったをかけるのか、注目したいところである。

9月30日(1) 若き最高裁長官誕生 Source : Roberts Sworn In as Chief Justice (Washington Post)

50歳という若き最高裁長官が誕生した(「Topics2005年9月5日 最高裁長官候補にRoberts氏を指名」参照)。しかも、上院投票結果は、78対22の大差である。民主党としては、「保守派の大統領のもとでは」最良の選択だった、ということのようだ。

ところで、50歳の若さで長官に就任し、終身務めるとすると、約30年間、最高裁に君臨することになる。この意味するところは大きい。前任のRehnquist長官は、ちょうど80歳まで生き、19年間務めた。合計すると、約半世紀も保守派(conservative)が継続することになる。リベラルに向かう世の中の動きは、かなりの程度、阻まれることになろう。典型は、同性婚の法的認知の問題である。

9月29日(3) DB(k)プラン Source : The Principal DB(k) Fact Sheet  DB(k) Press Release

DB(k)プランとは、企業年金のDBプラン(Defined Benefit Plan、確定給付型)と401(k)プラン(Defined Contribution Plan、確定拠出型)の組み合わせという意味の造語である。つまり、DBとDCのハイブリッド・プランである。

上記sourceでは、中小企業(例えば従業員500人以下)については、DBとDCを一つの年金プランとして扱うように提言している。具体的には、制度設計説明書、内国歳入庁、SECへの報告書などを一本化するとともに、企業拠出の損金算入、従業員の課税繰延を認めるというものである。

この提案を法案化したものが、"Small Employer Defined Benefit Expansion Act"で、既に下院に提出された。また、同様の提案が、上院のNESTEGにも盛り込まれているとのことだ(「Topics2005年7月29日 NESTEG Act of 2005の概要」参照)。

命名は面白いが、実現可能性となると、解決すべき課題が結構出てくる。その中心になるのが、税制上の扱いであろう。今のところ、企業年金プランについて、IRSは、DBプランとDCプランを明確に区分して、拠出限度額、規制をかけている。これは、いわゆるハイブリッド・プランでも同様である。例えば、Cash Balanceプランは、DBに区分される。

私の直感では、その区分は、『資産運用の責任者が企業なのか、従業員なのか』で線引きされている。では、この新提案であるDB(k)は、どちらなのか。上記sourcesだけでは不明である。また、DBプランに区分されると、PBGCへの保険料が課される。また、PBGC保険料の可変保険料を決める積立不足はどのようにして計測するのか。さらに、会計上の積立不足はどのように計測するのか。と、こんな感じである。

9月29日(2) 州政府職員年金も危機的状況 Source : 2005 Wilshire Report on State Retirement Systems:Funding Levels and Asset Allocation (Wilshire Associates)

上記sourceは、Wilshire Associatesというところが、定期的に州政府職員年金の財政状況について調査しているレポートである。最新版は、2004年の財政状況を分析しており、そのポイントは次の通りとなっている。
  1. 資産を市場価値で算出した場合、州政府年金プラン総体の積立比率は83%であり、積立不足に陥っている年金プランは全体の84%を占める。

    FINANCIAL OVERVIEW

  2. また、積立比率の分布を見ると、70〜80%にピークが来ている。

    DISTRIBUTION
Florida州、North Carolina州の積立比率は100%を大きく超えているとのことである。上のグラフでいえば、110〜120%のところに入っているのだろう。他方、上記2の図から計算すると、積立比率が80%に達していないプランが28プラン、全体の44%を占めている。州政府年金プラン一つひとつを見ていけば、相当に悪化しているプランがあるということになる。偶然なのかどうかわからないが、ほぼ同時にいくつかの州政府年金プランに関する記事が出ている。概要は次の通り。
  1. Colorado (THE PUEBLO CHIEFTAIN)
    • 積立比率は71%。
    • 積立不足額は$11.3B。同州一般会計予算額は$6.3B。
  2. West Virginia (The Intelligencer)
    • 積立比率は40%。
    • 積立不足額は$5B。
  3. California (LA Daily News)
    • Los Angeles Countyの積立不足額は$5.6B。Los Angeles Cityの積立不足額は$1.1B。
    • San Diego Cityは、$1.4Bの積立不足があるにもかかわらず、給付額を引き上げた。FBI、司法省、SECは、違法な行為がなかったかどうか、調査中である。
  4. Illinois (THE PUEBLO CHIEFTAIN)
    • 積立不足額$43Bは、同州年間予算額の197%に相当する。
  5. New Jersey (Philadelphia Inquirer)
    • 積立不足額は$30B。
    • 2010年までに、年金、医療支出の州政府予算に占める割合は20%以上に達する。
また、州政府年金プランが積立不足に陥っている原因として挙げられているのは、次のような要素である。
  1. 株式市場の低迷
  2. 企業年金プランの場合は、ERISAにより積立義務が課されているが、州政府年金プランの場合にはそのような法的規制がない。
  3. 州知事、議会とも、短期的視野に立ちやすく、給付増には熱心だが、課題の解決は先送りする場合が多い。
  4. 労働組合が給付削減に強く反対する。
  5. 予算の単年度主義
  6. 今後10年間で、大量のベイビー・ブーマー(全職員の40%に相当)が退職する。

9月29日(1) 『小泉新党』 Source : Koizumi's new party (International Herald Tribune)

上記sourceは、長い付き合いのある方の寄稿である。ポイントは、
・今回の選挙で自民党は大きく変わり、ポスト小泉も改革路線を進むことになる。
・日本は、内外ともイギリスとよく似てくるだろう。
・国内は市場指向が強くなり、国際的には安全保障でより積極的な役割を果たすようになろう。
・アメリカ政財界にとって、新しい日本は付き合いやすくなるだろう。
当websiteでは、少なくとも経済分野では、日米は既に相当接近しており、欧州とはかなり違う世界を作り出しているというスタンスを取っている。むしろ、イギリスが、大陸欧州の社会システムと訣別し、日米に近づきつつあるものとみている。

しかし、おそらくアメリカ人の目には、イギリスはより親しく映るのであろう。歴史的に見ても、現在の人の移動・交流を見ても、それは仕方のないことなのかもしれない。

「イギリスに近づく日本は付き合いやすい」というのは、おそらく政治の側面では当たっていると思う。我々日本人にとっても、今回ほどわかりやすい選挙はなかったからだ。こんなところからでもいいから、アメリカ人の日本への関心が高まってくれればと期待している。

9月23日 PBGCのリスク度 Source : The Risk Exposure of the Pension Benefit Guaranty Corporation (CBO)

当websiteの関心にぴったりの素材が公表された。上記sourceは、CBOが、PBGCの危険度について分析、シミュレーションした結果である。以下、主なポイント。

  1. PBGCが現在カバーしている確定給付プラン数は31,000以上、人数は4,400万人である。

  2. PBGCが設立された1974年から2004年までに、約3,500プランがPBGCに移管された。その結果、PBGCから年金給付を受けているのは年間50万人、その支払い総額は$3Bにのぼる。さらに、今後退職して給付を受ける予定の加入者が55万人ひかえている。

  3. 1975年から2004年の間に移管されたプランのうち、PBGC負担の大きい順に並べたトップ10は、次の通り。これらに加え、US Airwaysの全年金プランを$3Bで引き継いだ。またUALのプランを$6B以上で引き継ぐことで合意した(「Topics2005年4月28日 UAL年金のPBGC行き決定」参照)。

    LARGEST TEN

  4. PBGCの単年度の財政状況(現金主義的アプローチ)は、$247Mの支払い超となっている。

    ONBUDGET OUTLAYS

  5. 一方、PBGCが公表しているI/E、B/S(発生主義的アプローチ)は、次の通りとなっており、ネットの負債(つまり、過去分の純負債)が$23.3Bにものぼっている。

    BS

  6. また、PBGCは、追加負担見込み額を公表している。これは、投資非適格の格付けを受けている企業の年金プラン積立不足の総額である。2004年末で、積立不足総額は、解散基準で$450B以上、うち追加負担見込み額は$96Bとなっている。

  7. さらに、シミュレーションにより、10年後の純負債の推計も公表している。これによれば、2014年の純負債は$29.9Bとなっている。つまり、今後10年間での純負債増額を$6.5Bと見込んでいることになる。また、2014年の純負債額が$60Bとなっている確率は5%、資産超となる確率は2%としている。

  8. 経済環境も考慮したCBOの推計によれば、今後10年間に新たに増えるPBGC純負債額は、$63.4Bに達する。過去分と合わせれば、2014年時点で、PBGCには$86.7Bの純負債額が残るということになる。

  9. PBGCの危険度を下げるための政策について、その効果をシミュレーションするが、ここでは、政策変更に伴うプラン数、加入者数の変化はないものと仮定する。危険度を下げる政策は、大きく分けて、@PBGC保険料を引き上げる、A積立不足に陥る可能性を低める、の2つになる。

  10. 現行PBGC保険料は、年金プラン加入者一人あたり$19(固定保険料)と、積立不足額$1,000あたり$9(可変保険料)で構成されている。今後10年間で新たに発生する純負債額$63.4B(上記8.)を、すべて保険料で賄おうとすると、現在の保険料を6.5倍(固定保険料$123.5、可変保険料$58.5)にする必要がある。現在、議会で審議されている法案では、固定保険料を$30に引き上げる提案が盛り込まれているが、これでは、純負債額を$1.8B減らす効果しかない。

  11. また、株式への投資割合の上限を、現行70%を30%に引き下げることにより、純負債額を$9.9B減らすことができる。

  12. 給付債務の計算に利用する利子率を、30年国債(4.8%)から高格付社債(6.0%)に変更すると、純負債額は$8.1Bの増額となる。

  13. その他の政策効果は、次の通り。

    EFFECT
こういう試算があると、現在審議されている企業年金改革法案がPBGCのリスクを下げることにあまり役立っていないことがはっきりしてくる。それに、上記9.で記した通り、政策変更に伴うプラン数、加入者数の変更は考慮しないことになっている。つまり、保険料の引き上げは、プラン数の減少を招くことは間違いなく、その効果は相当割り引く必要があるのである。しかも、過去分の負債額には手つかずのままである。

この試算は、支払保証制度の破綻を証明するレポートとも位置付けられるのである。

9月21日(2) Medicare保険料も急騰 Source : Medicare Premiums and Deductibles for 2006 (CMS)

来年のMedicare保険料の予測が発表された。多くの高齢者が加入するPart Bの保険料は、月額$88.50、前年比13.2%増である。さらに、Part Bの免責額も、$110から$124(12.7%増)に引き上げられる。これに、処方薬保険であるPart D保険料$32が加わるのである。ちなみに、Part B保険料の推移は、2003年$58.70、2004年$66.60、2005年$78.20である(Kaisernetwork)。日本であれば、暴動が起きそうな引き上げ幅である。

以下、上記sourceの概要。
  1. Part D導入のおかげで、窓口負担は軽減される。
  2. 加入者の3分の1がPart B保険料、4分の1がPart D保険料について、補助を受けられる。
  3. Part B保険料引き上げの要因分析は、次の通り。病院の外来診療のコストが急騰していることがわかる。

    PREMIUM B

9月21日(1) 企業年金改革法案の比較(2) Source : Comparison of Significant Pension Reform Proposals (ERIC)

9月8日に上院HELP委員会で可決された確定給付確保法(「Topics2005年9月8日(1) 再建企業に超過保険料を提案」参照)を含めた、年金改革法案の比較表である。