4月20日 受託者責任のアウトソーシング Source : Company stock continues to pin plan sponsors between a rock and a hard place (Plansponsor.com)

確定拠出型プランの投資先に自社株が含まれている場合、企業経営者の受託者責任はどう考えるべきなのか。当website立ち上げ当初からの課題(「Topics2002年1月25日 Website立ち上げ記念日」参照)であり、おそらくアメリカ社会においては、永遠の課題とも言うべき難しいテーマである。

上記sourceは、この難しい課題について、考え方と現状についてまとめたエッセイである。ポイントは次の通り。
  1. 確定拠出型プランの投資先に、自社株が含まれている場合、経営者の受託者責任については、どのように考えるべきか。

  2. SECは、インサイダー情報の提供を禁じている。他方、労働省(DOL)は、プラン加入者の利益を最優先すべきという。経営者は、両方からの要請の狭間に陥って、どのように行動すべきなのか、明確になっていない。

  3. 全米で約40の係争案件があるが、いずれも経営者が充分な情報提供をしなかったという理由で、加入者が経営者を訴えている。

  4. 一つの解決策として、一部の企業では、社外の受託者にプラン運営の責任を移行しようという動きが出ている。

  5. しかし、ERISA専門の弁護士によれば、『究極の受託者は、企業の取締役である。たとえ社外の責任者を指名したとしても、それは単に一歩距離を置いたに過ぎず、受託者責任から解放されたことにはならない。』

  6. もう一つの解決策として、運用の選択肢から自社株を落とすことが考えられる。Hewittの調査によれば、大企業の確定拠出型プランのうち自社株を選択肢として提供している割合は、2001年で55%あったのが、2005年には43%まで低下している。

  7. また、個人勘定資産に占める自社株の割合を制限しようという考え方がある。同じくHewittの調査では、17%のプランで、何らかの制限措置を設けている。自社株を選択肢として提供しているプランのうち、プラン資産の中で自社株が50%超を占めているプランの割合は、8年前には28%であったのが、2005年では13%に過ぎない。

  8. こうした投資の分散化を促す立法は、遅々として進んでいないが、現在、連邦議会にかかっている年金改革法案では、一部盛り込まれている(「Topics2005年7月29日 NESTEG Act of 2005の概要」参照)。
こうしてアメリカ社会で起きている難問への対応について、日本の企業もそろそろ考えておいた方がよいだろう。

4月16日 年金会計見直しの公開草案 Source : Proposed Statement of Financial Accounting Standards - Employers' Accounting for Defined Benefit Pension and Other Postretirement Plans (FASB)

だいぶおそくなってしまったが、3月31日、FASBは、退職給付会計見直しに向けた公開草案を公表した。いずれも、先に決定した内容を公開草案の形でまとめたものである(「Topics2005年12月26日(1) 年金会計見直しの第一歩」参照)。そのポイントは次の通り。
  1. 確定給付型年金プラン、退職者医療保険プラン等退職給付プランの積立状況を、貸借対照表において認識する。適用は、2006年12月15日より後に終了する事業年度からとする。

  2. 数理計算上の得失等についても、その他包括利益として認識する。

  3. 積立状況は、プラン資産の時価と、給付債務総額の差額とする。

  4. 確定給付型プランの給付債務総額は、PBO(Projected Benefit Obligation)で計測する。

  5. 資産、給付債務の計測時点を、貸借対照表と同じにする。適用は、2006年12月15日より後に始まる事業年度からとする。

  6. 今後の主な日程は、次の通り。
    1. 公開草案に対するコメントの締め切りは、5月31日。
    2. 6月27日に、公開のRoundtable会合を開催する。
    3. 9月までに結論を得る。
FASBでは、積立状況については既に注記で開示しているため、変更の事務負担は小さいとみている。しかし、内容としては、退職給付プランの時価評価に向けて大きく踏み出したものといえる。予めRoundtableまで予定しているなど、FASBも慎重な対応をとらなければならないと考えているものと思う。

4月13日 MA皆保険法案成立 Source : ROMNEY SIGNS LANDMARK HEALTH INSURANCE REFORM BILL (The Commonwealth of Massachusetts)

12日、Mitt Romney州知事が、法案に署名を行った。これにより、MA皆保険法案(「Topics2006年4月10日 Massachusetts州の皆保険法案」参照)は成立したことになる。

ところが、署名セレモニーの後、Romney州知事は、保険プランを提供していない企業に対するペナルティ($295/employee)その他の項目について、部分的な拒否権を発動するとのことである。民主党の圧倒的多数である議会は、当然、拒否権を覆すことになるが、それは、数週間後とのことである(New York Times)。

Romney州知事の拒否権発言は、議会関係者にとっては寝耳に水であったらしいが、これも大統領選に向けたポーズであるとの解説がなされている。共和党である同氏としては、企業負担に抵抗したという証拠を残しておきたいのだ、ということだ。

実際、州知事は、やはりセレモニー後の会見で、今年秋の知事選には出馬しないと明言したそうである(Washington Post)。つまり、皆保険制度が施行される2007年1月には、知事の座を去ることになるのである。道筋をつけて大統領選に臨む、ということなのだろうが、制度の詳細が詰まっていない状態で離任するのは、少し無責任なような気がする。

4月12日 MA皆保険法案への評価

10日に掲載したMA皆保険法案(「Topics2006年4月10日 Massachusetts州の皆保険法案」参照)への評価が、マスコミで紹介されているので、大まかに括ってまとめておく。
  1. 州ベースでの皆保険導入の試みが、連邦レベルでの政策論議を突き動かす時が来たようだ。(Century Foundation

  2. あらゆるアイディアを取り込んだという意味で、理念にとらわれた政策論争の突破口になりうる。(Los Angeles Times

  3. 皆保険制度は大増税を伴うという認識を打ち砕くことにつながるかもしれない。クリントン構想は、そうした認識により葬り去られた。(Century Foundation

  4. 若者の保険加入を義務付けることで、全体の保険料の水準を引き下げることができる。(New York Times

  5. MAは、全米でも特殊な状況下にあるため、他の州にとっては真似はできないだろう。(Los Angeles TimesNew York Times
    • MAの無保険者率は11%強 ⇔ 連邦平均は16%強。25%に達する州も存在する。
    • 事業主保険によるカバー率は、ほぼ3分の2 ⇔ 連邦平均は56% (Century Foundation
    • 失業率も低い。

  6. 安い保険料のプランを保険会社が実際に提供できるかどうかが、成否の鍵を握っている。MAでは、現在、個人で加入すると月$600、家族だと月$1,000以上の保険料が必要となる。従って、個人で加入している州民は50,000程度にすぎない。しかし、州政府は、MA法案の成立により、その保険料は月$200強というレベルにまで引き下げることができると見込んでいる。また、それだけの安い保険料で、十分な診療を提供できるプランを、保険会社が販売できるかどうかが今後の重要課題である。(New York Times

  7. 事業主が、ペナルティと、保険を提供し続けるコストを比較して、保険提供を止めるようになった場合、ペナルティを引き上げざるを得なくなる。(Century Foundation

  8. 保険加入の義務付けがどこまで徹底できるか疑問である。全員が自動車保険に入っているわけではないし、州税を払っているわけでもない。(CATO via New York Times

  9. MA法案は幻想に過ぎない。保険会社が本当に安い保険料のプランを提供するのかどうか、まったく固まっていないからである。事業主へのペナルティが$295ということだが、そんな安い保険料になるなら、無保険者問題は本当になくなるだろう。免責額が0というのも問題である。また、MAでの医療コストは、一人当たり$6,000である。つまり、税金で$5,700を賄わなければならない。そんな制度が成り立つのだろうか。(Wall Street Journal

  10. 医療機関のコスト、質に関する情報を、webで容易に得られるようになる(議会が用意した法案概要にはなかった)ため、州民は、医療機関や医師をショッピングのように選択できるようになるだろう。(Boston Herald