4月10日 Massachusetts州の皆保険法案 Source : Massachusetts Sets Health Plan for Nearly All (New York Times)

4日、Massachusetts州議会は、州民に医療保険加入を義務付ける法案(House, No.4850)を、圧倒的多数で可決した。Mitt Romney州知事も、同法案を支持しており、全米で初の州民に保険加入を義務付ける制度が成立する見込みだ。

法案の概要ポイントは次の通り(オリジナルの議会資料に基づく)。
  1. 法案の趣旨

    この法案は、保険購入が可能な州民には保険加入を義務付けるとともに、保険購入の難しい州民にも医療が受けられるようにすることで、ほぼ全州民が保険に加入することを求めるものである。

  2. Commonwealth Health Insurance Connector (CHIC)の創設

    創設の目的は、個人、小企業の保険加入促進である。雇用されている個人は、税引前所得で保険を購入できるようにする。CHICを利用して、ポータビリティを確保する。また複数の雇用主による保険料拠出も可能とする。

  3. 保険市場改革

    個人を対象とした保険市場と、小グループを対象とした保険市場を、2007年7月に統合する。これにより、個人保険の保険料を、およそ24%引き下げることが可能となる。また、HMOに、Health Savings Accounts(HSAs)(「Topics2006年3月30日 HSA増進法案」参照)を利用したプランの提供を認める。

    被扶養者の資格を失ってから2年間、または25歳になるまでの間、親の保険プランにとどまることができるようにする。さらに、19〜26歳の間は、CHICが提供する低保険料のプランへの加入を認める。新たな医療保険プランは、2008年までに創設する。

  4. 医療保険プランへの補助

    Commonwealth Care Health Insurance Program (CCHIP) という新たな公的医療保険プランを創設し、公的補助金を拠出する。連邦貧困基準 (Federal Poverty Level, FPL)の300%未満の所得で、かつMassHealth(低所得者層向け医療補助制度)の加入資格を有しない個人が対象となる。保険料は、各家庭の収入に基づいて決定され、免責額は設定されない。保険の運営者はCHICとし、事業主の拠出分を受け取る。

    FPL以下の所得しかない個人については、保険料負担を求めない特別プランを用意する。

    小企業が提供する医療保険プランの選択肢を広げるため、FPL200%以上300%未満を対象とした、現行のInsurance Partnership Program (IPP)の加入資格を拡大する。

  5. Medicaidの改革

    $3Mの予算をたてて、Medicaid加入資格がありながら実際には加入していない州民に説明するとともに、子供の加入資格を拡大することで、無保険者を減少させる。現行のMassHealthでは、子供の加入資格を、FPLの200%未満の家庭としている。これをFPLの300%未満に引き上げる。

  6. 個人の医療保険加入義務

    2007年7月1日時点で、全ての州民に医療保険加入を義務付ける。購入可能なプランがない個人については、罰則を課さない。これは、健康な州民も必ず保険に加入することで、リスクプールの機能を強化、安定させることを目的としている。本法案で必要となる公費は、すべてこれまで無保険者対策に使われていた公費を振り向けることで賄う。

    州民は、2008年に提出する州税申告書(2007年分)で、保険プランに加入していることを明示しなければならない。加入の確認は、保険加入に関するデータベースにより行う。保険プランに加入してない場合、まず、2007年の人的控除を認めない。その後は、購入可能な医療保険プランの保険料の一定割合にまで、罰則を高めていく。 (Washington Post紙の記事によれば、2007年の罰則はおよそ$150相当、その後の罰則は年間$1,200相当と見られている。)

  7. 事業主の責任

    「適正なコスト分担(Fair Share Contribution)」という概念を導入し、従業員に対して医療保険プランを提供していない事業主に適正なコスト分担を求める。正規従業員一人当たり年額$295程度と見込まれる。これは、医療保険を提供していない企業の従業員のために州が支出した分の一定割合に相当するように、算出される。対象となるのは、11人以上の従業員を雇っている企業である。季節労働者、パートタイム従業員を雇っている企業にも、部分的に適用される。

    医療保険を提供していない企業の従業員が州政府の医療保障制度を利用した場合、当該企業に課徴金を課す。具体的には、ある従業員が年間3回以上利用した、または従業員全体で年間5回以上利用した場合に課される。金額は、従業員の診療に要した費用の10%から100%の範囲で、従業員一人当たり最初の$50,000は免責とする。

    従業員11人以上の企業に対しては、カフェテリア・プラン(§125プラン)の提供を義務付ける。


上記sourceによれば、3年間で515,000人の無保険者を医療保険に加入させることにつながる。これは、同州無保険者の95%に相当し、州全体で無保険者は1%未満となる見込みである。

見てもおわかりの通り、この法案の無保険者対策は、様々なツールの組み合わせとなっている。例えば、Fair Share Contributionは、Maryland州で成立した制度(「Topics2006年1月13日 MD Wal-Mart法案に再挑戦」参照)を、対象となる企業の範囲をかなり拡大した形で取り込んでいる。また、公的医療保証制度の対象拡大も取り込んでいる。

当websiteでは、つい先月、『皆保険はどうも可能性が低いので、大企業から強制的カバーを増やしていこう、という流れのようである。』(「Topics2006年3月16日 皆保険からWal-Mart法案へ」参照)と書いたばかりであったが、これは間違いであったことになる。認識を改める必要がある。

ところで、この法案の成立は、もう一つ別の大きな意味を持つ。それは、Mitt Romney州知事が、2008年の大統領選に出馬する意向を持っているという点である。国民にとって最も関心の高い内政問題で、一つの解決策を示し、実現することは、大統領選に向けて大きな一歩を踏み出したと言える。しかも、民主党が多数党となっている議会で解決策を示せたことは、その政治的手腕についてもアピールしたことになるのではないだろうか。

4月5日(2) 労働法関連改正法案一覧 Source : Legislative Tracking Chart - Human Resources- (Towers Perrin)

上記sourceは、労働法関連の改正法案の一覧である。結構多くの法案が提出されていることがわかる。もちろん、大統領府との連携が取れているかどうか、支援議員が多いかどうかで、その成否が決まってくるわけだが、それにしても、こうした議員の積極的な立法活動は、議員の政治活動に対する説明責任を果たすという意味では大事なことだと思う。

4月5日(1) GM退職者医療に結論 Source : Cuts in Benefits for G.M. Retirees Approved (New York Times)

退職者医療の制度変更に関して、GMとUAWの間で暫定合意が成立していたが、正式には、裁判所の認可待ちであった(「Topics2006年3月2日(1) 退職者医療とUAW」参照)。

その裁判所の判断が示されたというのが、上記sourceである。おそらく、Fordについても、同様の司法判断が示されるのであろう。自動車産業における退職者医療の見直しが、いよいよ始まった。

参考までに、両社のこの1年間の株価動向は、次のようになっている。 ⇒ GM  Ford