1月20日 受託者責任の実践 Source : Lessons from Enron (Plansponsor)

当websiteで最近頻繁に取り上げている「受託者責任」の問題だが、上記sourceは、弁護士(Fred Reish @ Reish Luftman Reicher & Cohen)のペーパーだけあって、簡潔かつ実践的な指摘をしているので、大変参考になる。概要は次の通り。
  1. Enron事件の判決で、取締役、特に報酬委員会委員は、ERISAの受託者である、との判断が示されている。Enronのプラン規定では、会社がプラン委員会の委員を指名することとなっていた。取締役会または報酬委員会は、プラン委員会の指名及びモニターを行なう役割を持っており、ERISAのもとで、報酬委員会委員は受託者であるとの判断が示された。つまり、受託者を指名した人間は受託者なのである。

  2. このような司法判断が示されたために、多くの企業では次のような改善措置を講じている。

    1. プラン委員会メンバー、管財人、その他受託者の選定、モニターに関する規定を見直す。
    2. 取締役に受託者責任に関する教育を施す。
    3. リスク管理の手続きを改善し、取締役が受託者責任を果たすために役立つよう、プラン委員会に年次報告書を提出させる。
    4. 取締役、プラン委員会の責任に関する規定を明文化する。

  3. Enron事件では、総額約$100Mで和解した。そのほとんどは受託者過誤保険でカバーされたものの、個人で負担した分は約$1.5Mに達した。(「Topics2004年5月16日 Enron年金の和解」参照)

  4. その結果、なすべきことは2つ。

    1. 取締役、報酬委員会委員は、適切な受託者過誤保険に加入すること。
    2. 取締役、報酬委員会委員は、自らの受託者責任を全うすること。加入者に対する忠実義務を果たし、退職後ベネフィットの提供を最優先に義務を果たすことである。

  5. 自社株が絡んでくると、この忠実義務を果たすことは、極めて困難となる。経営者としての役割と、プラン委員会委員などの受託者の役割とは、根本的に利益相反の関係になる。忠実義務を果たせないと判明した場合には、受託者は意思決定の過程から離脱し、独立した受託者を指名すべきである。

1月19日 最低賃金も拒否権反覆(MD) Source : Minimum Wage Raised In Maryland Over Veto (Washington Post)

民主党主導のMaryland州議会と対峙するEhrlick知事は、再び拒否権を覆されてしまい、かなりの苦境に立っているのではないだろうか。

今度覆されたのは、最低賃金法改正(SB 89、HB 391)である。これにより、Maryland州の最低賃金は、連邦法よりも$1高い、$6.15/Hということになる。参考までに、ほぼ同一経済圏をなしている隣接州をみると、DC:$7、VA:$5.15、DE:$6.15となっている(最低賃金率一覧)。

1月18日 Wal-Mart法案の波紋 Source : Law Aimed at Wal-Mart May Be Hard to Replicate (New York Times)

Maryland州議会が可決したWal-Mart法案が及ぼした影響は大きい。労働組合や民主党は、こうした動きがさらに他の州にもどんどん広がっていくだろうと、力説している。他方、ビジネス界では、他州への拡大を阻止するための動きも目立ち始めている。

ところで、必ずしも全米中の州に速やかに広がっていくわけではない、というのが、上記sourceの主張である。また、Maryland州法案ですら、まだまだ確定となったわけではない、との見方もできるようである。

そうした観測の裏にある最も有力な要素は、Maryland州の法案が、事実上、州内のWal-Martのみをターゲットとしているからである。他州の議会に上程されている法案は、もっと欲張った、対象をかなり拡げた内容となっているらしい。

以下、関連事項、主張をまとめておこう。
  1. Maryland州

    1. Maryland Chamber of Commerceは、可決された同州のWal-Mart法案は、連邦法ERISAの専占に違反していると主張しており、いずれ司法判断を仰ぐことになろう。このような問題提起は、学者の間からも行なわれている。
    2. また、Wal-Martでさえ、会社を分割してしまえば、適用を逃れることが可能と見られている。
    3. 税金、政府サービスの対価以外に、企業に拠出を命じることができるのか。また、8%という数値の根拠は何か。そうした疑問に適切に応える必要がある。

  2. 他州

    1. Rhode Island、Washington、Colorado、New Hampshireで、Maryland州と同様の法案が真剣に検討されている。
    2. Rhode Island州の法案では、1,000人以上の従業員を抱える企業に、賃金の8%を医療保険プランに拠出するよう求めている。これにより、32企業が適用を受けることになる見込みである。
    3. Maryland州の法案は、Wal-Martのみをターゲットにしており、無保険者対策のモデルにはなり得ない、との評価も見られる。
    4. Washington州では、Fair Share Health Care Actという法案(H. 2517 & S. 6356)が審議されている。5,000人以上の従業員を抱える企業に、賃金の9%を医療保険プランに拠出する、または9%と医療支出の差額を州に拠出するよう求めている(Seattle Post-Intelligencer)。

  3. 民主党・労働組合関係

    1. 労働組合等は、30の州で、同様の法案を成立させようとのキャンペーンを展開していく。
    2. 大企業は、医療プランを提供する責務を負うべきである。

  4. ビジネス界

    1. The National Retail Federation、the National Restaurant Association、the International Franchise Associationは、Wal-Mart法案の広がりを阻止する為に、共同歩調を取ることで合意した。
    2. 必ずしもすべての企業が反発している訳ではなく、むしろ賛成の意向を示す企業も出てきている。例えば、同じMaryland州でも、Giant Foodという小売業者は、同法案に賛成している。
    3. 限定的な保険給付しか行なわない医療プランを導入する企業が増えている(Wall Street Journal)。例えば、年間4〜10回の通院のみを給付対象とする、処方薬の一部を対象とする、月額保険料を$40程度に抑える、年間の保険給付総額の上限を$10,000とするなどである。実は、その典型的な最近の導入例が、Wal-Martである(「Topics2005年10月26日(2) Wal-Martの無保険者対策」参照)。

1月13日 MD Wal-Mart法案に再挑戦
Source : Maryland Legislature To Vote on Override of Governor's Veto of Bill That Would Require Large Employers To Provide Certain Level of Health Benefits (Kaisernetwork)

昨年5月に、Ehrlick知事が拒否権を発動した"Wal-Mart Tax"法案(正式には、Fair Share Health Care Fund Act)「Topics2005年5月20日 Marylandの医療改革法案」参照)について、メリーランド州議会が、拒否権無効を狙った再投票を行おうとしているそうだ。投票は、今週にも行われるとの見込みだ。

当時の記録を見ると、上院で30-16(65.2%)、下院で81-49(62.3%)の賛成多数であった。州知事の拒否権を覆すためには、両院とも、60%の賛成を得ないといけない。昨年の投票では、両院ともぎりぎりの賛成票数である。従って、政党内の引き締めや、ロビーストの活動が、盛んになっている。例えば、メリーランド州共和党は、こんなメールを支持者に送付して、州知事の拒否権を守るよう、厳しい調子で訴えている。

メリーランド州議会の投票結果を、全米が注目しているところである。

と、ここまで書いたところで、Washington Post紙を確認したところ、12日、上院30-17、下院88-50で、州知事の拒否権を覆すことに成功したそうだ。ついに、Maryland州は、大企業に医療保険プランまたは医療支出を義務付ける最初の州となった。

1月11日(2) カナダの会計基準 Source : Canada’s Accounting Standards Board ratifies its strategic plan Approves convergence with international reporting standards (AcSB)

10日、カナダの会計基準設定主体であるAcSBは、今後のカナダ基準の開発の方向性を示した。概要は次の通り。
  1. 会計基準の適用対象を、上場企業、非上場企業、NPO法人の3つに分ける。

  2. 上場企業に関する会計基準は、IFRSとのコンバージェンスを進める。約5年間の移行期間後、上場企業に対するカナダ基準の適用は停止する。詳細な移行計画は、今年後半に公表する。

  3. アメリカ基準を利用したいというカナダ上場企業については、金融当局が従来通り、SEC登録を条件として認めることとしている。

  4. 非上場、NPO法人については、今後AcSBが基準開発を進める。

  5. 上場企業に適用する基準について、カナダ基準をアメリカ基準に近づけるべきか、IFRSに近づけるべきか、という課題について真剣に討議してきた。しかし、大部分のカナダ上場企業、投資家は、極めて詳細なルール・ベースのアメリカ基準をコピーすることに、ほとんど関心を持っていない。
上述の最後の5点目について、私は注目したい。日本でも、IFRSに近づけるべきなのか、US GAAPに近づけるべきなのか、といった議論が行われつつある。ビジネスの世界では、アメリカ基準を利用してきた企業があること、アメリカ流ビジネスに慣れ親しんできていること、何よりもアメリカという世界最大市場で長い間運用されていること、などから、US GAAPへのこだわりもある。

しかし、これで、独自の会計基準設定を行う国は、アメリカと日本だけになったといってよい。また世界中で、US GAAPを利用する外国企業はあっても、日本基準を利用する外国企業はない。こうした情勢を冷静に見つめれば、日本の会計基準の方向性も定まるのではないだろうか。既に、日本国内においても、日本基準の今後の方向性を真剣に議論すべき時期が来ているようである。

それにしても、このカナダの規律ある判断は、どういうところから来ているのだろうか。国境を接し、NAFTAという共通の経済圏に所属しながら、会計基準はアメリカから訣別しようという、この心意気は、どういった心情から生まれるのだろうか。

当websiteでも、再三紹介してきたように、カナダには、現役層を対象とした公的医療保険制度が存在する。同じ移民の国でありながら、基本的な生活インフラが決定的に異なっている面を守ってきているのである。そして、今は、会計基準も訣別しようとしている。もちろん、その前提として、IFRSが調整表なしにアメリカ市場で受け容れられそうである、との見通しがあるわけだが。

少し話はそれてしまうが、アメリカ在住時代に、アメリカからカナダへ、カナダからアメリカへと、車で国境を越えた経験が2回(カナディアン・ロッキーナイアガラ)ある。いずれの時も、アメリカからカナダに入った途端、なぜか心がほっとするのである。セキュリティの関係なのか、レストランの清潔さなのか、従業員のまじめさなのか、観光客慣れしているのか、なぜだかわからないのだが、ほっとするのである。逆にアメリカに入ってくると、どんな田舎に入っても、緊張感が増すのである。これは、アメリカからメキシコ(Tijuana)に入った際にも、感じた緊張感である。

少し当websiteには似合わないかもしれないが、アメリカとカナダの比較文化的考察が必要かもしれない。

1月11日(1) 2006年CFOの10大関心事 Source : FEI top 10 financial reporting issues for 2006

恒例のFEI発表である。昨年も同様に発表(「Topics2005年1月6日 CFOの10大関心事」参照)しており、開示項目の関心事項10項目を、去年と今年で比較してみると、次のようなことがわかる。
  1. 相変わらず、ストック・オプションへの関心が高い。アメリカ企業において、報酬に占めるストック・オプションの割合が高いことから、当然のことといえる。

  2. SO法関連の内部統制開示が、昨年は高い関心を持たれていたのに、今年はリストにも載っていない。喉元過ぎれば、ということなのか、やってみたところ大した実害はないということなのか、一度できてしまえばメンテは楽勝ということなのか。要確認。

  3. XBRLへの関心が徐々に高まっている。これは、日本には馴染みが薄いが、やがて会計の世界では、必須アイテムになることは間違いない。日本でも、既に国税庁、日銀が採用しており、金融庁もEDINETへの採用を検討している。当局への報告、一般投資家への開示にとどまらず、企業内の管理会計にも普及すると見られている。

    関連サイト


  4. 昨年なくて、今年入ってきたものが2項目。一つは、"Complexity"。会計基準の内容が複雑になりすぎていることに対する懸念、不満が高まっているようだ。もう一つは、いわずと知れた、"Pension Accounting"。FASBの検討状況(「Topics2005年12月26日(1) 年金会計見直しの第一歩」参照)が気になるところであろう。当然、年金会計の動向は、当websiteでも充分関心を持っている分野であり、今年の注目事項の一つである。