上院のFinance Committeeで、企業年金に関する新法案が提出された。内容的には、今までいろいろな場面で議論されていたことを集大成した感じのものである。企業年金関連の法規制に関する課題をまとめたとも言えるので、ここでまとめておきたい。
- 法案名:National Employee Savings and Trust Equity Guarantee Act (NESTEG)
(英語で年金プランのことを"Egg Nest"と表現することがあり、その語感が法案名となっている。)
- 確定拠出プランにおける投資対象の分散化を図る。具体的には、公開企業に勤める従業員の勤務期間が3年を越えた場合、事業主拠出の自社株を売却することを認めなければならない。従業員拠出分はいつでも自社株を売却を認める。ただし、ESOPは例外とする。
(Enron以来の課題だ。)
- DCプラン加入者に対して、事業主は、証取法上投資家に公開しなければならない情報すべてを提供しなければならない。
(おそらく情報開示のタイミングも同時でなければならないと思われる。また、従業員に対して優先的に情報を提供することまでは求めていないことに留意する必要がある。)
- Blackoutの告知義務を怠った場合、超過税(excise tax)が課される。
(Sarbanes Oxley法で導入された規制の強化。)
- 年金関係の違法行為を通報した場合も通報者保護法(whistleblower protections)の対象とする。
- 従業員100人以下の企業がDBプランを開始した場合、開始当初の5年間、PBGC基本保険料を加入者一人あたり$5(通常は$19)とする。
(中小企業を対象とした優遇策だが、中小企業がDBを新規に導入することはほとんど想定できない。)
- 必要積立額、PBGC保険料を計算する際に利用する割引率を、次の通りとする。
- 2004〜2006年:長期社債バスケットの利子率
(年金救済法(「Topics2004年4月7日 年金救済法案は最後の山場」参照)では2005年までの2年間)- 2007〜2010年:長期社債バスケット利子率から社債yield curveへ移行。毎年yield curveのウェイトを20%ずつ高める。
- 2011年〜:社債yield curve
(社債yield curveの利用は、もともと財務省の提案(「Topics2003年7月14日(1) 企業年金のルール改正提案」参照))
- 確定給付プランの積立限度額を、給付債務の130%とする。
(現行は100%。よほど余裕のあるところでないと超過積立は難しいだろう。)
CalPERSといえば、企業年金の世界では有名だが、アメリカでは、医療保険の世界でも有名である。全部で5万3千人の医療保険プランを運営しており、カリフォルニア州では最大、全米でも第3位の規模を誇る医療購入者である。
その規模を背景に、90年代は保険料上昇をかなりの程度抑制してきた。ところが、これまで医療保険市場で力を発揮してきたCalPERSの支配力は、徐々に低下してきている。1997年に契約していたHMOが14あったものを、わずか3つに削減したにもかかわらず、保険料上昇は抑制できず、過去3年間で57%も上昇したのである。
このように、医療保険のスポンサーが加入者の規模を背景にしても保険料を抑制できない理由の一つに、医療機関の交渉力の向上がある。具体的には、医療機関の統合・連携が進み、地域寡占状況になっているのである。この点は既に紹介済(「Topics2003年8月8日 階層化された医療機関ネットワーク」参照)だが、いよいよその効果が現れだしたといえよう。
そこで、CalPERSは、交渉力の強い医療機関を契約対象からはずすことを検討している。具体的には、Sutterという医療機関で、もしCalPERSがSutterを対象外としたら、契約する医療機関は13減ってしまう(契約対象からはずすことが検討されているグループ医療機関の一覧はここ)。CalPERS側は、Sutterの医療費は、他の医療機関に較べて60〜80%も割高だと主張しているが、当然、Sutter側は否定している。
CalPERSとしては、加入者数を背景に、契約対象からはずすという脅しにより医療コストを下げたいところだが、苦しいところだ。Sutterという医療機関グループが地域寡占状況を作り出しており、加入者の利用も多いということになれば、契約対象外となったとたんに、加入者はCalPERSに文句を言うことになり、責任者への不満が高まることになる。従って、CalPERS側も簡単には結論を出せない。
CalPERS側は、18日(火)に医療ベネフィット委員会の勧告、19日(水)に理事会の決定を予定している。Benefitの世界の主役交代が現実となるのか、興味を持っているところである。
Enronの401(k)プラン、ESOPについて、一部ではあるが、和解が成立した。これは、2003年10月に裁判所から示された、受託者責任に関する判決(「Topics2004年10月20日 Enron受託者責任裁判」参照)に基づいて、成立したものと考えられる。
主な内容は、次の通り(Houston Chronicle)。
- 和解金総額は$86.5M。
- 従業員による集団訴訟(対取締役、年金委員会、人事部門責任者)に関する和解金・・・$85M
これはEnronが契約していた保険から支払われる。
- 労働省(DOL)による訴訟に関する和解金・・・$1.5M
関連する経営責任者12人が分担する。
経営責任者12人は、Robert A. Belfer, Norman P. Blake, Ronnie Chan, John H. Duncan, Wendy Gramm, Robert K. Jaedicke, Charles A. LeMaistre, John Mendelsohn, Paulo V. Ferraz Pereira, Frank Savage, John Wakeham and Herbert S. Winokur。Wendy Grammは、former U.S. Sen. Phil Grammの妻で、元先物取引委員会委員長であった(The Washington Post)。
- 従業員の受取総額・・・$69.2M(一人当たり平均$3,500)
- DOLへの罰金・・・$0.3M
- 弁護団の報酬・・・$17M
- 労働省に和解金を払う12人については、今後5年間、労働省の許可なしに、適格年金のtrusteeに就任することはできない。
今後、この和解が裁判所から認められれば、実際の支払が行われることになる。なお、今回の和解では、former Chairman Ken Lay、former CEO Jeff Skilling、Enron社、Arthur Andersen、Northern Trust Co.など、より責任が重かったと思われる主体は対象となっていない。
このような和解が進まなければ、Chapter 11からの再建計画もめども立たないことになる。年金プランの失敗は、いつまでも尾を引きそうである。
当初の予定通り、FASBはストック・オプション会計の修正案を提案している(「Topics2004年 3月25日 ストック・オプションの費用化と議会の動き」参照)。修正案は、3月31日に公表され、現在、パブリック・コメントに付されている。期限は6月30日なので、通常のペースであれば、今年第3四半期に修正案の確定、2004年12月15日以降の財務諸表からの適用となる。
本件については、政治の方での関心が高く、FASB議長のRobert Herzは、4月20日、議会証言を行い、修正案への理解を求めた。その際のFASB提出資料は、既に公正価値で費用表示をしている企業のリスト、修正提案内容などを含んでおり、大変参考になる。
修正提案のポイントは次の通り。
FASBでは、政治家、IT関連企業等の関心が高いことに配慮して、公開草案提出期間中、異例とも言うべき丁寧な対応を取ろうとしている。
- 公開企業が付与したストック・オプション(SO)は、付与日の公正価値で測定し、コストとして認識する。適用は2004年12月15日以降。
- 非公開企業のSOは、公正価値での測定と本源的価値での測定(費用認識しない)の選択を認める。適用は2005年12月15日以降。
- ESOP、401(k)の自社株拠出、従業員持株制度などについては適用しない。
また、関係者の間でも、SO費用化の強制について、賛否が分かれているそうだ。
- 関心を持つ関係者を招いて、ラウンドテーブルを開催し、意見表明をしてもらう。
- FASBに中小企業問題諮問委員会(Small Business Advisory Committee)を設け、公開草案を説明するとともに、委員から意見を聴取する。
賛 成 反 対 Alan Greenspan (FRB)
Warren Buffett (金融グループCEO)
William Donaldson (SEC Chairman)
Big Four CPAPaul Atkins (SEC Commissioner)
Rep. Richard Baker (Louisiana-R)
また、公開企業でSOを費用化しても、それほど影響は出ないのではないか、とのレポートも出ている(CBO、Towers Perrin)。
FASBは、関係者への丁寧な対応や、非公開企業を対象外とすることで、なんとか理解を得ようと必死である。他方、Baker議員は、費用化の動きを議会で止めることを計画しているようだ。会計基準設定主体の独立性の議論と絡み、まだまだ動きがありそうな気がする。
いよいよ処方薬に関する割引カード制度が始まった。この割引カード制度は、Bush大統領が提唱し、昨年決定されたMedicare改革の第一弾となるものだ。
その概要は、次の通り。
- Medicare加入者は、割引カードを持つ事ができる。ただし、一人1枚に限る。
- 低所得者には、年間$600のポイントが与えられる。
- 2004年5月から登録開始、6月から利用開始。
- 割引カードの有効期限は2005年末。
- 登録料は年間$30以下。低所得者は無料。
Bush政権としては、この割引カード制度のスタートで、高齢者にアピールし、選挙戦を有利にしたいところである。
ところが、高齢者の間では、割引カードについて混乱が起きており、人気は今ひとつということらしい(The New York Times)。
その混乱の原因は、割引カードの種類の多さである。現時点で、認定された割引カードの発行体は28機関、割引カードの種類は、73種類に及ぶ。その73種類のカードが、それぞれ特徴を持っており、処方薬ごとに独自の割引率を設定している。このため、カードの有利不利は単純な比較ではわからない。自分がよく利用する処方薬があれば、その割引率だけを見ればよいのかもしれないが、それでもいつどの処方薬を利用するようになるかわからない。
高齢者は、複雑かつ膨大な情報量を判断して、一枚の割引カードを選択しなければならない。高齢者にとってはかなり難しい作業が必要となるため、今ひとつ、高齢者の間での人気が高まらないようである。
割引カードは、もともと医薬品販売業者が独自の制度として既にあったものを、Medicare制度に取り込んだために、統一する事は難しく、このように乱立状態を許容せざるを得なかったという事情はあるものの、Bush政権としては、思わぬ誤算であったに違いない。