3月8日 GMも年金凍結 Source : GM Announces Restructuring of its U.S. Salaried Retirement Benefits (Press Release)

既に計画を公表していた通り(「Topics2006年2月9日(2) 自動車ビッグ2のベネフィット削減策」参照)、GMが、ホワイトカラー向け確定給付プランを凍結することとした。ポイントは次の通り。

  1. 制度変更は、2007年1月1日より実施する。

  2. 2001年1月1日より前に就職したDBプラン加入者については、積立を凍結する。制度変更後の勤務期間については、報酬月額の1.25%を賦与する。

  3. 2001年1月1日以降に就職した、キャッシュ・バランス・プラン(CB)加入者についても、積立を凍結する。利子分のクレジットは賦与する。制度変更後は、事業主が年俸の4%分をDCプランに拠出する。
上記sourceでは、堂々と、「競争相手の国では、年金、退職後医療について、大半が政府負担となっているため、我々はハンディを負っている」と主張している。日本の場合、公的保障制度であっても、企業と現役労働者が負担しているのに。

3月6日 The Best is the Enemy of the Good Source : Keynote Adress by Mr. Michel Prada (IOSCO)

少し古い話になるが、上記sourceは、さる2月16日、パリで開催されたフォーラムで、IOSCOTechnical Committeeの委員長、M. Michel Prada氏が、会計のコンバージェンスについて演説した内容である。彼は、フランス財務大臣であり、講演した場所がパリということもあり、フランス財務大臣としての本音をかなり話しているものと思う。

全体に会計基準のコンバージェンスが必要だし、実際にその方向に進んでいる、と評価しながらも、随所でIASBTweedie議長に対して、批判的な表現を入れている。

その典型例が、標題に掲げたフレーズである。"The Best is the Enemy of the Good."

実は、このフレーズ、会計の世界で新たな主役となった、Tommaso Padoa-Schioppa IASCF議長も、2月8-9日の来日時に使っていた。両者とも、「会計基準の開発にあたっては、理論ばかりでなく、現行実務や慣習も充分に配慮すべき」という主旨でこのフレーズを使っているのである。 Prada委員長はフランスの財務大臣、Schioppa新議長はイタリア金融界の代表。いずれも大陸欧州の金融界の考え方を強く反映しているものと思われる。

以下、上記sourceのうち、IASBに対する批判と思われる箇所について、列記しておく。
  1. 会計基準の設定は、理論的な勉強ではなく、あらゆる関係者の考え方が充分に配慮されるべきである。そうでなければ、そのような会計基準は、利用者、ひいては政治により拒絶されてしまう。

  2. 最近でこそ、会計基準にも哲学があったのだということが知られてきたが、そのような認識が根付くまでには、まだまだ時間がかかる。

  3. 米国基準とIFRSの間の不必要な差異をなくしていこうという流れは続けていかなければならないが、それは新しい会計基準を開発することを目的としている訳ではない。米欧間のロードマップは、完全統一を目指すものではなく、むしろ、緊急性と重要度を熟慮したうえで進めるべきものである。

  4. Tweedie議長は、「コンバージェンス対安定性」という対立概念は間違いである、と主張している。しかし、現実には、中小規模の上場企業が多数存在している。中小企業を対象としたIFRSを開発することだけではなく、中小企業の間でIFRSが根付くまでの猶予を持たせることもまた重要である。私は、そのためには3年以上が必要だと思っている。

  5. 次のような、3段階のアプローチが必要である。
    1. 短期的には、IFRSが実務的に確実に根付くための猶予を設ける。
    2. 中期的には、IFRSと第3国基準の間の重要な差異を最小にするためのコンバージェンスを進める。
    3. 長期的には、全市場参加者が、公正価値による価値の計測の意味と限界を理解しつつ、さらに革新的な基準開発を進める。
ちなみに、IOSCOのTechnical Committee副委員長は、米国SECMr. Roel Campos委員 である。SECは、金融商品、年金会計をはじめとして、公正価値による価値計測を積極的に支持している。Campos委員は、このPrada委員長の講演を、どのように受け取っているのだろうか。

3月2日(2) "Pay or Play" Bills Source : Wal-Mart Critics Cite Health Insurance (New York Times)

Wal-Martの医療プランについては、泥仕合の様相となってきた。

Wal-Martを批判する団体"Wake-Up Wal-Mart"(「Topics2005年6月6日 Wal-Mart Taxの広がり」参照)は、同社の現役・退職従業員個人による会見を全米各地で開催し、Wal-Martが医療プランの提供に如何に消極的であるかをPRする予定である。

対するWal-Martも、同社の医療プランを歓迎しているという現役従業員の会見をセットしているという。

従業員の内部で対立が生じるようなことになってくれば、同社の経営そのものも揺らぎかねない。

ところで、"Wal-Mart法案"は、タイトルにある通り、"Pay or Play" Bills と総称されている。The National Conference of State Legislaturesという、州政府のための調査機関が、各州で同種の法案をどのように扱っているかをまとめて公表している。ここを時々チェックしておけば、各州の動向を把握できる。

3月2日(1) 退職者医療とUAW Source : Ford-UAW health care deal gets tentative OK (The Detroit News)

FordUAWの間で、退職者医療プランの変更に関して、暫定合意が成立した。退職者の保険料負担、免責額、窓口負担が増加することになるが、これによる退職者は、本人で年額$370、家族で年額$752負担することになる。

たったこれだけか、というのが第一印象である。同様の措置は、GMとUAWの間でも暫定合意が成立している(「Topics2005年11月14日 GMの労使合意成立」参照)。

ここで、『暫定合意が成立した』というのは、『労使合意について、裁判所の暫定承認が得られた』という意味である。退職者医療プランの受給者は、企業にとっての従業員でもなければ、UAWの加入員でもない。つまり、労使合意とはいっても、当事者抜きでも合意ということなのである。特に、UAWは、退職者を代表している訳ではない。そこで、裁判所の承認(=第3者のオーソライズ)が必要になる、というわけである。

当然、退職者本人達にとっては、勝手に当事者抜きでベネフィット・カットが決められていることに怒っている。その対応として、GMの場合は3月6〜7日、Fordの場合は5月31日〜6月1日、裁判所は両社の退職者から異議申し立てを聴取する予定になっている。

ERISAがありながら、退職者医療については受給権が曖昧になっているという訳である。

参考までに、両社のこの1年間の株価動向は、次のようになっている。 ⇒ GM  Ford