2月10日 財政赤字削減法案成立 Source : President Signs S.1932, Deficit Reduction Act of 2005 (White House)

8日、Bush大統領が、財政赤字削減法案(S. 1932)に署名した。

成立した法案の内容で、当websiteの関心事項としては、次の2項目である。
  1. Medicare、Medicaidに関する支出の伸び率抑制
    ※ 詳細は、Fact Sheetを参照

  2. PBGC保険料の大幅引き上げ
    ※ 「Topics2006年2月8日(1) PBGC保険料引き上げ」参照
    ※※ PBGC公表資料 ⇒ Press Release 実務対応
いよいよPBGC保険料の大幅アップが現実のものとなったわけだ。当websiteの見方は、これまでも述べてきた通り、この保険料大幅アップは、確定給付プランの凍結、廃止に追い討ちをかけることになる、というものである。

今後は、連邦議会における年金改革法案に関する進展を注目しておきたい。

2月9日(2) 自動車ビッグ2のベネフィット削減策

8日に、Nissanのレガシー・コスト対策を紹介したが、GM、Fordも、当面打ち出せる対策を練っているようだ。以下、両社のベネフィット削減策の概要。

  1. GM (Press Release)
    1. ホワイトカラーの退職者医療プランを改定する。

    2. 2007年以降の退職者医療プランへの支出を、2006年の金額以下に抑える。

    3. 具体的な抑制メニューとしては、保険料の引き上げ、免責額の導入、自己負担上限額の引き上げ、処方薬の自己負担引き上げなどが考えられる。

    4. これにより、退職者医療プランに関する給付債務を$4.8B縮減することができ、年間支出を$900M削減することができる。
    5. 対象者は、約10万人の退職者と、1993年よりも前に採用された26,000人の現役従業員である(Kaisernetwork)。1993年以降の採用者には、退職者医療プランは提供されていない。

    6. ホワイトカラーの年金プランの見直しも検討されている。現在の確定給付プランを凍結し、確定拠出プランかキャッシュ・バランス・プランを新たに創設するという方向である。
  2. Ford (New York Times)
    5つの退職勧奨プランを提示している。これは、既に公表した大幅な人員削減を実現するためのものである。

    1. 年金給付以外の退職後ベネフィットを放棄すれば、$100,000の一時金を提供する。

    2. 年間$15,000の教育費補助を提供する。(詳細は、「Topics2006年1月25日 Fordのレイオフ対策」参照)

    3. 55歳以上で、勤続年数30年以上の従業員が、即座に退職した場合、退職後所得すべてに加え、$35,000の一時金を提供する。

    4. 55歳以上で、勤続年数10年以上の従業員が、即座に退職した場合、通常の退職後所得よりは低くなるものの、毎年一定額の給付を終身で提供する。

    5. 勤続年数28年に達している従業員の場合、休職に合意すれば、通常賃金の85%を勤続30年になるまで給付する。

2月9日(1) 会計基準を巡る米欧合意 Source : Accounting Standards: SEC Chairman Cox and EU Commissioner McCreevy Affirm Commitment to Elimination of the Need for Reconciliation Requirements (SEC Press Release)

8日、米欧の金融当局トップ同士(Cox SEC議長、McCreevy EC委員)の間で、会計基準を巡る合意が成立した。昨年10月のSECアトキンス委員の発言(「Topics2005年10月29日(1) 目標は「相互承認」」参照)が、トップ会談により、オーソライズされた形となった。ポイントは次の通り。

  1. IFRSと米国基準の間の差異調整表を廃止する必要がある。

  2. Cox SEC議長は、遅くとも2009年までに、IFRSに基づく外国企業財務諸表に対して求めている差異調整表を廃止するよう、努力することを約束した。

  3. それまでの工程表は、2006年半ばまでに合意する。

  4. SECとCESRの情報共有、協力関係が、極めて重要である。

  5. 差異調整表を廃止できるかどうかは、規制当局間の信頼とコミュニケーションの程度にかかっている。

  6. IASBとFASBの間で進行しているコンバージェンス・プロジェクトを評価する。

  7. Cox議長は、投資家の利益のためにコンバージェンスを加速しなければならないと認識している。

  8. 同時に、Cox議長は、コンバージェンスが一定の水準に達することが差異調整表を廃止する前提となる、との考え方には固執しない、とも述べた。

  9. 米国基準とIFRSを、互いの国内で利用できるようにするための環境整備について、協力することを確認した。
私見では、上記4、5にある「当局間の信頼関係」と、8、9にある「相互承認」がポイントだと思う。当局間の信頼関係をベースにして、相互承認を進めようというのが、このプレス・リリースのメッセージなのではないか。

翻って、日本の会計関係要人の間では、まだまだ「相互承認」と「コンバージェンス」を対立概念として捉えている人達がいる。上記の米欧合意は、簡単に言ってしまえば、『コンバージェンスを進めながら、相互承認しよう』ということである。会計基準同士の間で差異をなくす努力を進め、それと並行して、金融当局が、相手の基準に基づく財務諸表を市場で認めよう、ということなのである。


2月8日(2) Nissanのベネフィット変更 Source : Nissan Drops Company Health Care for US Retirees (New York Times)

Nissan(北米)が、工場労働者に関するベネフィットを変更すると発表した。もちろん、レガシーコストを早目に回避することが目的である。

変更内容は次の通り。

  1. 2006年1月1日以降の採用者には、確定給付プランへの加入は認めず、確定拠出プランを提供する。

  2. 65歳以上を対象とした退職者医療プランの提供を停止し、毎年$2,500(夫婦で$5,000)の定額給付(毎年3%ずつ増額)とする。

  3. 対象者は約500人だが、2015年までに3,500人となる見込みである。

  4. 工場労働者以外の従業員については、退職者医療プランの提供は65歳で終了する。定額給付も付与しない。(Kaisernetwork)
もちろん、これだけ早く意思決定ができるのは、労働組合(UAW)が組織されていないからである。

2月8日(1) PBGC保険料引き上げ Source : PBGC Premiums Increased Significantly by the 2005 Deficit Reduction Act (Segal)

PBGC保険料引き上げを規定した法案が、上下両院を通過し、大統領の署名を待つばかりとなっている。この法案は、Deficit Reduction Act of 2005 (S. 1932)で、財政赤字削減を規定したもので、その一部として、保険料引き上げの規定が含まれているのである。

この法案で規定されている提案の概要は、次の通り。
  1. 2006年のPBGC保険料(固定部分)を、$19から$30に引き上げる。2007年以降は、物価スライドを適用する。

  2. 積立不足のまま年金プランを終了した場合、特別保険料を課す。特別保険料は、加入者一人当たり$1,250とし、プラン終了から3年間支払う。Chapter 11を申請している場合には、再建が成功するまで支払い義務を延期する。

  3. 特別保険料の適用は、2010年末までとする。
連邦議会では、年金改革法案を別途議論している最中なので、そちらの結論がどうなるかで、この法案による規定は影響を受けることになると思われる。

しかし、上記sourceによれば、財政赤字削減法案そのものについては、Bush大統領は、近日中にも署名すると見られている。そうなれば、少なくともPBGC保険料の大幅引き上げは現実のものとなる。

2月7日(2) 団体屋冥利 Source : 百社百様、経営映す鏡 (日経金融)

日本でもやっとこういう記事が出るようになったか、と感慨深いものがある。

今日(6日)の日経金融新聞で、企業年金の特集シリーズが始まった。上記sourceは、それを紹介する同紙のwebsiteの内容である。

その中で、特に感じるところのある箇所が2つあった。

  1. 日本企業の経営への足かせとなり続けてきた企業年金が、急速に息を吹き返している。背景は3年続きの株高と、確定拠出年金(日本版401k)の導入や代行返上といった構造改革の進行だ。

    株高に貢献したとは主張しづらいが、確定拠出年金、代行返上という制度変更、構造改革については、先頭に立って働いたという意識がある。まさに、こういうのを、『団体屋冥利』につきる、というのだろう。こうした変革を利用して、各企業で、企業経営と企業年金を結び付ける運営ができているとすれば、嬉しい限りである。

  2. 10年前の企画以来親しくなった年金専門家は「企業年金の時代は終わったということ」とあっさり言います。要するに、ひとつの枠組み、ひとつのやり方では説明できない企業ごとの「個の時代」に企業年金は入ったというのです。

    その通りである。むしろ、私なら、「企業年金の時代がようやく始まった」と表現したいところである。紙面で紹介されている個別企業の制度も、その背景にある経営思想、従業員との関係を反映したものとして理解されている。
ここで2つ、裏話を紹介しておきたい。

一つは、代行返上に関するものである。上記sourceでも、代行返上と年金会計の導入は、それぞれ独立した流れの中で出てきたファクターのように認識されている。しかし、企業の経営者が代行返上に大きく傾いた背景の一つに、年金会計導入時の大論争があった。年金会計導入時に、厚生年金基金の給付債務、特に代行部分に関する給付債務をどのように認識すべきか、という議論が行われ、関係者の意見は二分されていた。この時、代行部分も一体のものとして債務認識すべき、と強硬に主張したのが、厚生年金基金を運営している企業経営者達であった。つまり、「年金会計を梃子に代行返上を実現する」という戦略だったのである。
「厚生年金基金の代行部分返上の選択を求める(1999年12月21日)」

もう一つは、確定拠出年金への取り組みである。もちろん、かなり早い時期から、野村総研の中村研究理事の一派など、先駆者達は確定拠出年金の導入の必要性を強く訴えていた。しかし、経済界が確定拠出を求めて大きな一歩を踏み出したのは、東芝の島上清明専務(当時)の次の一言であった。

『経済界として、退職金の受け皿を作らなければいけない。』
これは、平成10年度税制改正で、法人税率引き下げと引き換えに、退職給与引当金の段階的廃止が事実上決まった際、経団連で開かれた会合のあと、島上専務がおっしゃった言葉であった。つまり、退職一時金制度そのものは、税制改正でなくなることがはっきりしたのだがら、現行の退職一時金制度を移行して、従業員の退職後の所得を確保するための受け皿をちゃんと用意すべき、というご下問であったのだ。

この島上専務のご発言を機に、経団連は、確定拠出年金導入に向けて、大きく舵をきっていくのであった。
「企業年金制度の抜本改革を求める(1997年12月11日)」「確定拠出型企業年金制度の導入を求める(1998年9月17日)」

2月7日(1) Wal-Mart法案への懸念 Source : Forcing firms to spend on health (Philadelphia Inquirer)

上記sourceによれば、昨日紹介したカリフォルニアに加え、ペンシルバニア、コロラド、ニュー・ジャージーでも、同様の法案提出の動きがあるという。もちろん、これはこれで、一つの無保険者対策であることは間違いなく、アメリカ社会の選択の問題である。

ただし、同法案の推進者や、無保険者対策に詳しい学者の間では、Wal-Mart法案を推進するだけでは問題がある、との指摘がなされているそうだ。以下、その指摘事項を列記する。

  1. Wal-Martの実際の医療費支出は、同社の公聴会での証言が正しいとすれば、既に賃金の7〜8%に達しており、法案成立による追加支出はわずかである。

  2. 従業員規模で線引きしてしまうため、中小企業の従業員には効果が及ばない。むしろ、線引きで引っかかりそうな企業は分割して、対象となることを回避しようとする可能性がある。

  3. 支出額に着目しているため、医療支出の効率化や、コスト抑制という観点が出てこない。また、従業員負担(高免責額や窓口負担)に依存する医療保険プランを提供することで、実際には低所得者には手が届かないようになってしまう可能性がある。
とはいえ、企業が医療保険に対する責任を改めて考える好機になったことは間違いないだろう。上記sourceに掲載された、経営者の次の言葉は、非常に重みがあると思う。
"I am a businessman, and I don't like government interference. But the health-care system needs help, and maybe it needs government interference."

2月6日(2) Wal-Mart法案 in CA Source : Proposed Bill Is Aimed at Healthcare Benefits (Los Angeles Times)

State Sen. Carole Migden (D-San Francisco)議員が、Wal-Mart法案(「Topics2006年1月13日 MD Wal-Mart法案に再挑戦」参照)のカリフォルニア版を、今週中にも上程したいとしている。内容としては、州内で従業員1万人以上を雇用している企業は、賃金の8%を医療支出に使うか、州の無保険者対策基金に拠出することを義務付ける、というものである。

同州内で、Wal-Martは7万人を雇用しており、法案が成立すれば、5,000万ドルの医療支出が求められることになる。

上記sourceによると、同議員は、Wal-Martを標的にした法案ではない、としながら、Wal-Mart以外でどのような企業が対象となるかは分析していない、と支離滅裂なコメントをしている。民主党が多数を占める議会と共和党の州知事の間で、再び論争が繰り広げられることは間違いないようだ。

2月6日(1) HSAsの10の課題 Source : The Top 10 funding issues for HSA account owners and employers (Employee Benefit News)

大統領一般教書演説で、喧しくなっているHSAsだが、上記sourceは、演説前に公表されているので、直接、大統領提案と関連しているわけではない。むしろ、もっと実務的な課題について、列記しているものであり、HSAsへの理解を深めるのに役立つものと思われる。

10の課題とは、次の通り。なお、文中に出てくる医療貯蓄勘定の概要については、ここを参照。
  1. HSAへの拠出には、カフェテリア・プランを利用

    企業は、カフェテリア・プランの一つとしてHSAの選択肢を提供することができる。この場合、従業員は税引き前の拠出とみなされる。また、従業員個人の段階では税引き後の拠出としておいて、年末の所得税申告で、相当分を所得控除することもできる。同様に、企業拠出も、カフェテリア・プランを通じて行うことも、通じないで行うこともできる。

    従業員がカフェテリア・プランを通じて拠出を行うことにより、企業にとって、いくつかのメリットがある。

    1. カフェテリア・プランを通じた従業員拠出は、企業拠出とみなされ、所得税、FICA(Federal Insurance Contributions Act)、FUTA(Federal Unemployment Tax Act)等が求める源泉徴収の対象とならない。

    2. 既存のカフェテリア・プランにHSA拠出を追加することで、既存のベネフィットとの統合を図る(一括管理する)ことができる。

    3. 健康管理プログラムに参加している従業員により多くの拠出を行う、といった先進的なスキームを導入したいと考えている場合、§4980Gに規定される不公平拠出と認定されることを回避するため、カフェテリア・プランを利用することが必須となる。

  2. 拠出の類似性に関する新たな提案

    最近、IRSは、HSAsへの企業拠出の類似性に関する新たな規制を提案している(Prop. Treas. Reg. 54.4980G-1 through 5; 70 Fed. Reg. 50233 (Aug. 26, 2005))。この新提案は、従業員のHSAsに拠出している企業に適用されるもので、HDHP(高免責額医療保険プラン)の加入者全員に、同じような拠出をするよう求めているものである。もし、これに違反していると認定されると、当該企業の年間HSA拠出全額の35%を、excise taxとして課されることになる。

    この規制が施行されると、プランの制度設計を柔軟にすることが難しくなってくる。家族形態によって拠出額を変えるとか、健康管理に配慮している従業員には付加的に拠出する、あるいは慢性的疾患のある従業員に付加的に拠出する、といったことができなくなる。

    ところが、IRSの解釈では、カフェテリア・プランには、これらの拠出の類似性規則は適用されないこととなっている (IRS Notice 2004-50, Q&A-47; 49)。新規則の扱いがどうなるか、今後のIRSによる議論を見守る必要がある。

  3. FSA/HRAへの加入とHSAへの拠出

    一般的に、従業員がFSA/HRAに加入している場合、HSAへの拠出はできない。しかし、FSA/HRAによる支出が限定的な場合等、いくつか限られた条件のもとでは、HSAへの拠出も可能となる(Rev. Rul. 2004-45 (May 11, 2004))。

  4. インフレ調整

    拠出限度額、免責額等の数値は、毎年、消費者物価等によりインフレ調整(Cost of Living Adjustments, COLA)を付される。

  5. 受託者または財産管理者との契約

    銀行、保険会社等との間で、信託契約または財産管理契約を結ばなければ、税制非適格と認定され、HSAへの拠出は課税対象となる。

  6. IRSへの報告

    HSAに関するIRSへの報告は、従業員(加入者)、企業、受託者の3者から行われることになる。

  7. 州税

    多くの州では、連邦税と同様、HSAへの拠出は非課税となっているが、次の7州では認めておらず、非課税扱いとはならない。
    Alabama, California, Maine, Massachusetts, New Jersey, Pennsylvania, Wisconsin。

  8. 配偶者拠出の制限

    配偶者の医療保険プランへの加入状況により、HSAの当該配偶者への拠出額は左右される。

  9. 同性パートナー分の拠出

    配偶者の場合と異なり、同性パートナーに関しては、拠出制限は設けられていない。ただし、勘定からの支出に関しては、非課税とはならないことに注意しなければならない。

  10. 超過拠出額の引き出し期限

    HSAへの拠出上限額を超えて拠出してしまった場合、申告書提出期限前日までに、超過拠出額とそれに伴う利子分を引き出しておく必要がある。それを怠ると、6%のexcise taxが課せられる。
州税で非課税扱いとならない州が7つもある、というのは驚きだ。さすがは連邦国家である。Bush政権の目玉商品であるHSAも通用しないというのは、大変な州の権限の強さである。隣の州に行けば非課税になるのにそれを拒否するだけの強さと説明力がある、ということなのだから。また、これが、アメリカにおける医療の問題の難しさでもある。

ちなみに、上記7州のうち、2004年大統領選挙でBushが勝ったのは、Alabamaのみで、他の6州では、Kerryが勝っている。

2月3日 Visa問題 Source : President Discusses American Competitiveness Agenda in Minnesota (White House)

1月31日の一般教書演説(「Topics2006年2月2日(1) Pro-Growth Economic Policies参照)の後、Bush大統領は、この教書を持って全国遊説を行っている。事実上、中間選挙キャンペーンの開始である。

上記sourceは、Minnesotaにおける演説である。地方巡業ということもあって、かなり面白く話していると思う。その中で、特に気付いたことを2点、まとめておく。

  1. 研究開発促進税制 (該当箇所

    一般教書では、競争力強化策の一つとして、「民間企業の研究開発減税(税額控除)の恒久化」を求めている。これに関連して、カナダ、日本、中国、韓国、インドでも、研究開発減税を恒久化しているのだから、競争力確保のためには、アメリカでも恒久化が必要、と主張している。

    日本でも、税制改正議論の中で、海外の税制がこうだから、というのはよくある主張だが、アメリカ大統領もこんな手法を使うのかと、ちょっと気持ちが和んだところである。

    ちなみに、経済産業省の資料によると、研究開発減税は、日本の方が規模が大きいようである。

  2. Visa発給規制の緩和 (該当箇所

    これは、教書の中では触れていない提案である。セキュリティの観点から、外国人に対するWorking Visa (H-1B)の発給が大幅に制限されている。

    1990-2000年  65,000
    2001-2003年 195,000
    2004年-  65,000
    ※ ちなみに、大幅緩和期間は、私の在米期間とちょうど重なります。

    世界中から有能な研究者、技術者を集めてアメリカ国内で働いてもらうためには、どうしてもこの発給規制の緩和が必要である、と主張しているのである。

    これについて、Fiancial Timesの報道によれば、全米商工会議所、NAMなどの経営者サイドは一様に歓迎しているようだが、ハーバード大学の教授からは、「付焼刃の対策だ。反対はしないが、アメリカ国民への教育に重点を置くべきである」とのコメントが出ている。

    ここにはないが、労組からの反発も予想される。

2月2日(3) 労働市場の国際比較 Source : A Chartbook of International Labor Comparisons (US Department of Labor)

特に何かのコメントがあるわけではないが、アメリカ労働省がこうした比較を行ってウォッチしているというのが面白いな、と思って掲載しておきました。

2月2日(2) HSAsへの評価は様々 Source : Health Savings Accounts: A Survey of the Literature (Galen Institute)

1月31日のBush大統領の一般教書演説(「Topics2006年2月2日(1) Pro-Growth Economic Policies」参照)で、医療政策の中心的課題として取り上げられていたHSAsについては、制度創設間もないということもあって、評価は分かれている。当websiteでも、既にEBRIの評価レポートを紹介したところである(「Topics2005年12月28日(2) HSAに対する評価」参照)。

上記sourceは、そのEBRIレポートを消極的評価として紹介するとともに、積極的・前向きな評価を与えているレポートについて、そのポイントを紹介している。

このように、アメリカ社会の中で評価の定まっていないHSAsを主軸に据えた医療政策提言は、アメリカ国民の共感を得られなかったのではないかと思われる。

2月2日(1) Pro-Growth Economic Policies 

Sources :
Bush大統領演説
関連資料
A Strong America Leading the World
American Competitiveness Initiative
The Advanced Energy Initiative
Affordable And Accessible Health Care
冒頭の外交関係は、おそらく「かんべえ」さんが評価されるでしょうし、専門でもないので、割愛する。

今日の表題 "Pro-Growth Economic Policies" が、教書全体の意図を端的に表していると思う。以下、競争力強化、医療関係に関する記述のポイントをまとめておく。
  1. アメリカ経済の力強さ
    他の主要先進諸国よりも力強く成長している。この2年半の間、アメリカは460万の新たな雇用を生み出した。この数字は、日本とEUの合計よりも高い数字である。

    ※おそらく、「日本」に触れた箇所はここだけだと思う。

    しかし、世界経済はダイナミックに変化しており、中国、インドといった新しい競争相手が出現している。

    今宵、国民の信頼を高め、生活水準を引き上げ、新たな雇用を生み出すための政策を提案したい。アメリカ人は今後の経済を懸念する必要はない。なぜなら、これから我々がそれを作り出すのだから。

  2. 減税の恒久化
    5年間の所得税減税で、$880Bが国民に還元された。これが経済成長に結びついている。現行規定では、今後数年間で減税は廃止されてしまう。議会は責任を持って、減税を高級化すべきである。

  3. 歳出削減
    大統領就任以来、安全保障に関連しない政策経費の伸びを抑制してきた。昨年は、これを削減することに成功した。今年の予算案では、効果の低い140以上の政策プログラムを廃止し、$14Bの減税を実現したい。さらに、2009年度予算では、財政赤字を半減させたい。

  4. 年金改革
    今後、ベビーブーマー達が高齢者の仲間入りをする。2030年には、公的年金、高齢者医療、低所得者医療関連支出だけで、連邦政府歳出の60%を占めるようになる。早急な対応が必要である。両党議員からなる特別委員会を設置し、解決策を検討してもらいたい。

    ※公的年金改革にはご執心らしい。自らの提案は引っ込めるかわりに、全議会で検討してもらいたいとの提案である。

  5. 貿易・移民政策
    アメリカの競争力を維持するためには、より一段と踏み込んだ市場の開放が必要である。また、不法入国は厳しく取り締まりつつ、競争力強化に役立つ移民は積極的に受け入れるべきである。

    ※自動車メーカーを巡る保護政策への指向は、影も形もないようだ。

  6. 医療政策
    政府には、国民が医療を受けられるようにする責任がある。また、電子記録とITを有効活用することにより、医療費を抑制するとともに、医療過誤を防止する。

    HSAsを強化して、個人、小企業が医療保険プランを購入しやすくするとともに、ポータビリティを高める。職場とは関係なしに医療保険プランを購入した場合、HSA保険料を所得控除できるようにする。また、HSA保険料にかかった所得税分を税額控除できるようにする。さらに、窓口における自己負担についても非課税とする(現在は免責額分のみが非課税となっている)。

    他州の医療保険プランを購入できるように法改正し、保険市場の競争を促す。

    小企業が合同で購入できる、Association Health Plans (AHPs)を創設する。 適切な医療提供を確保するために、医療過誤改革法を制定する。

    ※医療政策には、かなり力を入れて提案している。しかも、従来の市場原理を追求する姿勢を、より強めているといえる。今年は中間選挙である。メリーランド州のWal-Mart法も効いているかもしれない。これまで同様、医療政策は、大きな争点の一つとなろう。

  7. 科学技術振興
    ナノテクノロジー、スーパーコンピュータ、代替エネルギーなど、最重要分野における基礎研究プログラムに対する連邦支出を、今後10年間で倍増する。
    民間企業の技術開発を促進するため、研究開発減税(税額控除)を恒久化する。この措置により、今後10年間で、$86Bの減税となる。
    また、小学校から高校の数学と科学を強化するとともに、世界的な教育・研究を行なっている大学を支援する。
    職能を高めるための教育・訓練を強化する。
    知財保護を推進する。

    アメリカ国民は世界の5%を占めているが、アメリカ国内で活動している科学者、技術者は、世界の3分の1を占めており、研究開発支出も3分の1を占めている。この先端的な地位を確保する努力を続けなければいけない。2007年予算案では、研究開発費が$137Bとなっており、これは2001年の50%増である。

    ※医療政策同様、科学技術振興にも、大変な力の入れようである。これでもか、これでもか、と人と金を集中させようという意図である。特に、人を世界中から集めようとする貪欲さには目を見張る。「科学技術創造立国」を標榜する国は、本当に対抗する競争力を確保できるのであろうか。それとも「科学技術"想像"立国」で終わってしまうのだろうか。日本のマスコミには、是非ともこの科学技術振興に対するアメリカ政府の熱の高さを、日本に伝えてもらいたい。

  8. 司法への期待
    多くのアメリカ人が、「結婚」を再定義しようとする風潮に、懸念を抱いている。最高裁は2人の若い優秀な判事を迎えることになった。我々は、法の番人たろうとする人々を判事と指名するのであって、法廷から立法しようとすることは許さない。

2月1日(3) 右傾した最高裁 Source : Alito Seen as Carrying the Torch of Reagan (Los Angeles Times)

31日、上院でAlito最高裁判事(「Topics2005年11月1日 右派の候補者指名」参照)の就任が可決された。実際の投票結果は58vs42と、ほぼ党派別の結果となっているが、その前の議論打ち切り動議については、72vs25で可決されているところからみても、民主党上院議員の多数からサポートが得られているとみてよいだろう。

この決定により、最高裁判事は、空席のない状態に戻ったことになる。そのメンバーを、保守派、中道派、リベラル派に分けてみると、次のようになるとのことだ。 こうしてみると、4対1対4ということで、ちょうど均衡が取れているようにも見えるが、次のような諸点から、やはり右傾したと見ておいたほうがよいだろう。
  1. 何といっても、長官が保守派、しかも最年少である。かなりの長期間、保守派最高裁長官が継続するとみられる。

  2. Alito氏の前任であるSandra Day O'Connor氏は、中道派とみられていたので、その意味で保守派が一人増えたことになる。

  3. 中道派であるKennedy氏は、どちらかというと中道派、ということであり、保守派に組することもある。

  4. 長官を含め、保守派の平均年齢は58歳と、リベラル派の72.5歳に較べ、14.5歳も下回っているのである。つまりは、交代の時期がなかなか来ないということである。

2月1日(2) State of the Union

1月31日夜、Bush大統領が一般教書演説を行った。スピーチ及び関連資料を掲載しておく。感想等は、全部読み終わってからとしたい。当websiteとしては、競争力強化、医療の項目に注目ということだろう。
Bush大統領演説

関連資料
A Strong America Leading the World
American Competitiveness Initiative
The Advanced Energy Initiative
Affordable And Accessible Health Care

2月1日(1) 経営者の年金 Source : Executives' Pensions Are the Deal of a Lifetime (Los Angeles Times)

企業経営者に対する報酬の開示について、議論が盛んになっている(「Topics2006年1月22日 経営者報酬の開示強化案」「Topics2006年1月26日 経営者報酬開示強化 何が変わるのか」参照)が、上記sourceは、LA Timesが、カリフォルニア州内の大企業(売上高トップ50)について、経営者を対象とした年金制度を調査したものである。

  1. 調査結果概要

    1. 25社がDBプラン(終身)を持っていたが、現在は凍結または終了してしまった。
    2. 現在、DBプランを持っているのは、わずか9社しかない。
    3. その他の16社のうち、6社は、一般従業員に年金プランを提供したことはなく、経営者のみの年金プランを提供している。
    4. また、HPを含む他の3社は、年金プランを縮小しつつあるが、経営者、一般従業員ともに提供している。
    5. 残る7社は、経営者を対象とした特別年金プランがある一方で、一般従業員対象の年金プランは廃止してしまった。

  2. 一般情勢

    1. S&P 500のうち、約3分の2の企業が、経営者特別退職プラン(SERPs)を提供しているとの調査もある。その金額は、現在価値で、約$15Mとなっている。
    2. 連邦税で、法人課税上損金算入できるDBプラン給付額の上限が設定されて以来、このような多額のSERPsが普及していった。それ以来、コスト抑制のために一般従業員の年金プランを縮小する一方、企業経営者の報酬を決定する取締役会は、こうした特別年金プランを認めてきた。

  3. 個別企業の実態及びコメント

    企 業 名
    経営者の年金
    一般従業員の年金
    企業側コメント
    Countrywide Financial Corp.特別年金あり。
    Angelo R. Mozilo(Chairman and CEO)は、年額$3Mの終身年金
    DBプランを徐々に縮小し、今年1月1日以降採用の従業員は加入資格なし。経営環境からいって新規採用者にDBプランを提供する意味はなく、特別年金についても見直しを行っている。
    First American Financial Corp.特別年金あり。
    Parker S. Kennedy(Chairman and CEO)(57歳)は、 65歳まで同社にとどまれば、年額約$1Mの終身年金
    2001年にDBプランを凍結有能な経営者を採用し、引き留めておくためには、必要不可欠なプランである。
    Hilton Hotels Corp.1996年に年金プランを凍結。
    4年後に特別年金プランを創設。終身年金ではないが、Stephen F. Bollenbach (President & CEO)は、退職時に70万株が付与されることになっており、現在価値で$19M近くに達する。あと10年以上勤務すれば、彼は年額$1.8Mの終身年金を獲得することになる。
    1996年に年金プランを凍結。 
    KB HomeBruce Karatz(Chairman and CEO)は、平均基本報酬と同額の年額(最低90万ドル)を、25年間保証されている。そのうえに、年額80万ドルの追加が20年間約束されており、医療保険、歯科保険も終身提供される。また、オフィスとスタッフの提供も望みのまま継続される。DBプランを提供したことはない。 
    Mattel Inc.2005年、Robert A. Eckert(Chairman and CEO)に対する退職プランを大幅増額した。昨年3月まで、平均報酬の35%を支払う予定になっていた。しかし、新プランでは、60%以上となっている。 過去DBプランを提供したことはない。全従業員を対象に、401(k)プランを提供している。特別年金は、引き留めるための重要なツールである。
    Ryland GroupR. Chad Dreier(Chairman, President & CEO)は、退職後15年間、年額$2.4Mの年金を受給する。 過去DBプランを提供したことはない。401(k)プランを提供しており、報酬6%までの従業員拠出に対し、同額の企業拠出を行なっている。6年連続、最高水準の業績をあげている。他者に引けをとらないプランを経営者に提供する必要がある。
    Sempra Energy特別年金制度は維持。
    Stephen L. Baum(Chairman)は、年額約$2Mの終身年金
    1998年にDBプランからCash Balanceへ移行。最適な経営者を獲得するためには必要と、報酬委員会が推奨。
    他の大企業と同様のことをしているだけ。

  4. 関係者のコメント

    1. Karen Friedman @ the Pension Rights Center
      こんなに多額の報酬が退職後に必要なはずがない。とんでもない話だ。

    2. Patrick McGurn @ IIS
      従来、特別年金プランについては十分開示されてこなかった。従って、経営者達が高額な年金を目当てに転職してきたとは言えないのではないか。それよりも、特別年金プランの存在のせいで、生産性、モラル、その他あらゆる種類の問題を惹起している可能性がある。
      例えば、企業が経営者と一般従業員に対し、それぞれ別の年金プランを提供する場合、他の面でも処遇が異なることになる。そうなった場合、従業員の経営者に対する見る目に影響する。経営者との比較において、従業員の価値を伝えるメッセージとなる。

    3. Rep. George Miller (D-Martinez)
      経営者の報酬・年金と一般従業員の大きな違いは、不道徳ともいえる格差である。経営者は株主にとっての価値について語るが、退職してもう働いていない人間の企業に対する価値とは何なのか。

    4. Paul Hodgson @ Corporate Library
      業績のよい企業でも、こうした特別年金プランのコストが過小評価されている。SERPsは、株主資本を無駄遣いしている項目の上位にランクされるはずである。企業経営者が退職して後の長い間、SERPsが企業の業績に大きな影響をもたらしているような企業は、きわめて少ない。