2月28日 インパクトのないスピーチ Source : A New Commitment for America (Wal-Mart)
予告通り(「Topics2006年2月27日(1) 小出しにするWal-Mart」参照)、26日、Wal-MartのCEO、Lee Scott氏 が、全国州知事会議でスピーチを行った。上記sourceは、その予定原稿である。
内容的に目新しいものはなく、せいぜい、「数週間後にはさらに目覚しい改善策を提示する」との発言があったことくらいである。
それよりも、医療保険の問題は、「Wal-Mart一社の問題ではない」、「全米の企業が医療負担の問題を抱えている」、「Wal-Mart法では何の解決にもならない」、「アメリカ連邦・州政府全体で解決すべき問題」というメッセージ群が強調されていた。
最後には、州知事一人ひとりのところに訪問して、Wal-Martの改善策と、企業が直面する問題について説明する用意がある、とまで発言している。これは、逆に取れば、全州知事にロビーイングする、と宣言しているようなもので、あまり好印象は持てなかった。
2月27日(2) FASB/IASB合意 Source : Press Release、Memorandum of Understanding (MOU) (FASB/IASB)
FASBとIASBの間で、2008年までに差異を縮小するプロジェクト計画が公表された。これは、今月9日の当局トップ同士の合意(「Topics2006年2月9日(1) 会計基準を巡る米欧合意」参照)を実現するために必要となる、両会計基準の今後の開発工程表とみておいてよい。トップ合意では、遅くとも2009年までに差異調整表をなくすよう努める、となっており、そのために2008年まではここまでコンバージェンスを進めます、という宣言のようなものである。
とはいっても、短期コンバージェンスの対象となる項目は限れらており、コンバージェンスが難しいと見られてる会計基準については、かなり曖昧な目標設定となっている。その好例が年金会計であり、2008年までに、いくつかのデュー・プロセスに基づく文書を公表する、という程度である。
ご案内の通り、年金会計について、FASBでは既に2段階の見直しに着手している(「Topics2006年2月17日(1) FASBの決意」参照)のに対し、IASBは、ほとんど検討を進めていない。そのように、問題意識のレベルさえ合っていない会計基準について、これから2年程度で大きな進展が望めるはずもない。
ただし、コンバージェンスという大きな流れが既に現実のものとなっていることだけは確かである。
2月27日(1) 小出しにするWal-Mart Source : Wal-Mart to Expand Health Plan (New York Times)、Wal-Mart Says It Will Boost Health Benefits (Los Angeles Times)
23日、Wal-Martが、従業員への医療保険プラン提供を拡大する旨、プレスに表明した。しかし、公式発表は、26日にCEOが行うと言っており、詳細は不明である(27日時点では、websiteには公表されていない)。また、プレスを通じて得られた情報をまとめてみると、既に公表した改善策(「Topics2005年10月26日(2) Wal-Martの無保険者対策」、「Topics2005年10月28日(2) Wal-Martのコスト抑制戦略」参照)に追加となっているのは、次の2点だけである。
- パートタイマーの子供も、医療プランへの加入を認める。
- 免責額を従業員本人$1,000、家族の上限$3,000とし、免責額が発動となる前に、3回の外診と、3つの処方薬(ジェネリック)を認める。
この時期に、Wal-Martがこうした表明を行った理由は、2つある。一つは、25〜28日にかけて、全国州知事会が開催され、医療問題が討議されることになっていることである。Wal-Martとしては、自助努力をアピールし、Wal-Mart法案の広がりを阻止しようということであろう。
もう一つは、反Wal-Mart運動への対抗措置である。23日、Wake Up Wal-Martという団体が、レポートを公表した。そこでは、2006-2010年の5年間で、Wal-Mart従業員の医療費のうちの$9.1Bを、公費で負担することになる、という推計を示している。当然、Wal-Martは、根拠に薄い推計だ、と一蹴しているが、従業員のカバー率が上がらなければ、公費負担が増えていくことも確かである。
いずれにしても、Wal-Martが、大きく舵を切るつもりはない、ということだけははっきりしている。これは、「Topics2005年10月28日(2) Wal-Martのコスト抑制戦略」に示された戦略と一致する。しかし、州知事会にアピールするためには、これだけの内容で充分かどうかは、素人目にも明らかである。
2月23日 公立大学の授業料 Source : Should Illegal Immigrants Get Tuition Help ? (Wall Street Journal)
違法移民の子供達に、大学授業料を州内レートにするか、州外レートにするか、世論が分かれているそうだ。少し前までは、違法移民の師弟に州内レートを適用しようという動きが主流であったが、このところの違法移民の増加に、悲鳴を上げ始めた州が出てきたようだ。
上記sourceの地図で色が付けられている州は、今のところ州内レートを提供しているが、これを廃止しようという動きが出ている州である。
州内レートを提供しようとの主張は、違法移民に教育、技術を身に付けさせることで、稼得能力をつけさせ、州経済に貢献してもらおうという考え方である。
他方、州内レートを提供すべきではないとの主張は、違法移民の師弟は教育が長続きしない、というものもあるが、連邦法で違法移民者にベネフィットを提供してはいけないことになっている点を根拠としているものもある。
いろいろな主張はあるものの、連邦政府がコミュニティ・カレッジなど公立大学への補助金を削減しつつあることが背景にあることも間違いない(「Topics2005年6月29日 厳しくなる教育支援の要件」参照)。
移民の国も世知辛くなったものだ。
ところで、州内レートと州外レートではどれだけ異なるのだろうか。少し馴染みのある、メリーランド州立大学(University of Maryland, UM)の場合を見ると、このような違いになっている。州外レートは、州内レートの3倍近い高さになる。これは大きな格差である。
また、州内レートの適用を受けるためには、このような資格要件を満たさなければならない。これだけの厳しい要件を課されている州内レートを違法移民に提供することに、反発がうまれることも納得なのではある。
2月22日 加州のGAS45対策 Source : Retiree Health Care : A Growing Cost for Government (LAO)
GAS 45については、「Topics2005年12月13日 時限爆弾-GAS45」を参照いただきたい。
GAS 45の2007年適用を控え、各州とも対応策を講じなければならない。上記sourceは、カリフォルニア州議会法制調査局(The Legislative Analyst's Office, LAO)が公表した対応案のメニューである。そのポイントは、次の通り。
- 州政府として、まず、徹底的な情報開示をすべき。
- 現在、州政府職員の退職者医療のために支出している金額は、年間$1Bに達しようとしており、今後も急増していく見込みである。ただし、これは、賦課方式に基づく支出であり、これを続ける限り、GAS45が求める積立にはまったく追いつかない。
- GAS45が求める計算によれば、給付債務は$40Bから$70Bにのぼるとみられる。また、毎年必要となる拠出額は、$6Bにもなるかもしれない。その内訳は、現役職員に対する給付債務の増分が$2B、積立不足を30年で償却する場合の償却額$4Bということになる。
- 事前積立を可能な限り早期に完了させる方が好ましい。好ましい理由としては、将来世代の負担が軽減されること、将来の給付がより確実になること、州債の格付けが高まること、などが指摘できる。
- しかし、現在の支出額に較べると巨額の拠出が必要になる。一挙にそれだけの巨額の拠出を行うことは、現実的ではない。州職員退職者へのベネフィット給付のあるべき姿を議論したうえで、将来コストの抑制策を検討すべき。
- その際、退職者ならびに既に受給権を賦与されている現役職員のベネフィットを削減することは、法的制約もあり、現実的ではない。むしろ、将来の加入者に関するベネフィットの抑制、給付債務の見直しを進めるべきだろう。
- その具体策としては、州政府の保険料負担の抑制、職員自身の保険料負担、窓口負担、免責額等の見直し、受給権発生までの勤続年数の延長、確定拠出型プランの導入、などが検討対象となる。
- しかし、これらの具体策により、給付内容、水準をドラスティックに変更してしまうと、世代間の断絶が生まれ、将来の新規採用が困難になる可能性もあるので、慎重な対応が必要である。
要するに、年金プランの見直しと同じような対策が必要になるということである。