6月19日 UAL債務保証申請は却下 Source : United's request for loan guarantee rejected (Financial Times)
退職者の医療保険プランを縮小してまで練った、UALの再建計画は危機に瀕することとなった(「Topics2004年6月17日 UALの前途」参照)。ATSBに対する$1.6Bの債務保証申請が、17日夜、却下されたためである。
ATSBメンバー達(財務省高官を含む)は、今の経済環境の中で、債務保証はなくともUALが再建する可能性は高いと判断したらしい。しかし、UAL側は、債務保証を前提とした再建計画を立てており、どうも話が噛み合っていない感じがする。つまらないコミュニケーション不足で無用な混乱が生じないことを祈る。
6月18日(3) Los Angeles Timesも"John F. Kerry" Source : Kerry Is Raising Money at a Record Rate (Los Angeles Times)
上記sourceによれば、Kerryは、記録的な資金集めに成功したそうだ。対するBush陣営は、これまでのストックがあるせいか、余裕のコメントを示しているようだ。
そして、驚いたことに、Washington Post紙に続き、上記sourceであるLos Angeles Times紙も、"Sen. John F. Kerry"という表記を使っているのである(「Topics2004年6月11日 医療の政府再保険(Kerry提案)」参照)。
小さな変調だが、やはり潮目が変わったような気がする。
6月18日(2) 2つの予測(Social Security)
今年に入って、OASDIの財政について、2つの将来予測が公表された。
2つのレポートの特徴は、次の図に現れている。
SSA
CBO
| SSA | CBO |
収入<支出 | 2017年 | 2019年 |
ファンド=0 | 2042年 | 2053年 |
若干、CBOの方が甘めの予測になっているが、その原因は仮定のおき方の違いにある。
社会保障や公的年金の財政予測が公的機関からいくつも示されるという基盤があることは、政策論争をするうえで有益であることは間違いない。
6月18日(1) 連邦議会 vs FASB Source : Committee Approves Baker Stock Option Bill (the House Financial Services Committee)
会計基準設定主体と政治との間の軋轢が、欧州に続き(「Topics2004年6月16日(1) EU vs IASB」参照)、アメリカでも表面化しつつある(「Topics2004年3月25日 ストック・オプションの費用化と議会の動き」参照)。
FASBは、現在、ストック・オプション(SO)の費用化を提案し、コメントを公募している最中だが、これに対して、15日、下院金融サービス委員会が、費用化を限定する法案を45対13の圧倒的多数で可決した。概要は次の通り。
- 法案名:The Stock Option Accounting Reform Act (HR 3574)
- 経営者のトップ5人までのSOのみ費用化する。
- 小企業は費用化の対象外とする。
- 初上場後3年間は費用化しないことを選択できる。
- 一年間かけて、費用化に伴う経済的影響を調査する。
内容的には、FASB提案のSO費用化を非常に限定的なものに押し込める、というものである。法案提出者であるBaker議員は、早急に本会議で審議すべきとしており、金融サービス委員長のOxley議員もサポートしている。
他方、以前にも述べた通り、上院は比較的冷静な対応を見せており、下院議員の選挙向けパフォーマンスに終わる可能性は高い。しかし、「会計基準設定主体の政治からの独立性」という課題は、欧州の場合と同様、今後とも議論されるべきものとなろう。
それにしても、Oxley議員は、会計問題に対して政治的圧力をかけることに慣れっこになってしまったようだ。そもそも、彼は、企業不正防止法(「Topics2002年7月25日(1) 企業不正防止法」参照)の提案者であり、PCAOBの生みの親である。それまでの会計・監査システムを一変させてしまった実力者とも言える。上記の議論の中でも主役であり続けることは間違いないだろう。
6月17日 UALの前途 Source : Committee Approves Baker Stock Option Bill (the House Financial Services Committee)Agreements with Retirees' Authorized Representatives Will Deliver Cash Savings of More Than $300 Million Through 2010 (UAL Press Release)
UALは、退職者代表者達との間で、退職者医療保険プランと生命保険プランで、退職者の負担を増やす事で合意したと公表した。合意内容は明らかになっていないが、これにより、2010年までに$300M以上のコスト削減が達成できると言う。
おそらくは、退職者の保険料負担、窓口負担を増やしたものと思われる。
UALは、この案を破産裁判所に提出して承認を得るとともに、ATSBに対して$1.6Bの債務保証を再要望するとみられている(Kaiser Daily Health Policy Report)。UALは、2002年12月にも債務保証を申請したものの、再建計画が甘いとして債務保証を得られず(「Topics2002年12月5日 United Air Lines (UAL)の株取引停止」参照)、未だにChapter 11から脱出できずにいるのである。
退職者にとっては厳しい措置ではあるものの、企業再建のためには仕方のない事ではある。
6月16日(2) EU vs IASB (その2) Source : EU accounting rules run into hurdles (the International Herald Tribune)
下のTopicsの追加である。上記sourceは、FTの追っかけ記事だが、欧州委員会の意思決定メカニズムと現状を説明しているので、より緊迫した状況が伝わってくる。ご参考まで。
6月16日(1) EU vs IASB Source : Four EU states oppose IASB standards (Financial Times)
EU諸国とIASB(国際会計基準審議会)の間の折衝が続いている。EUは、2005年以降、域内企業の連結財務諸表にIAS/IFRS(国際会計基準)を用いる事を義務付ける。IASBは、これまでに主要基準を整備してきたが、そのうちIAS39と呼ばれる金融商品に関する基準を最終的に採択するかどうか、欧州委員会は今月中に決断することとしている。
ところが、このIAS39に対する欧州銀行界の反発は根強く、IASBと欧州銀行連盟とのぎりぎりの交渉がつづけられている。一方で、上記sourceにある通り、既に4ヵ国がIAS39の採択に反対の意思表明をしている。今後、EU各国が順次態度表明をしていくことになるが、その行方は決して楽観できない。
今後のシナリオとして、次の3つが考えられる。
- いくつかの諸国の反対を押し切って、欧州委員会が現行IAS39を採択する。
- IASBがさらに欧州銀行界に譲歩し、IAS39を修正したうえで欧州委員会が採択する。
- 欧州委員会がIAS39を採択しない。
- 欧州委員会の決定を延期する。
シナリオ1の場合、会計基準としては揃うものの、欧州諸国の間に溝が残る。また、今後、欧州銀行界からIASBに対する支援は望めなくなる。
シナリオ2の場合、欧州銀行界は満足するものの、欧州以外の諸国にとって、IAS、IASBとは何なのか、という問題が発生する。IASBは欧州のための基準設定主体という位置づけに変質してしまう。米国基準とのコンバージェンスも難しくなる。
シナリオ3の場合、EU諸国企業の財務諸表は、IAS/IFRSに基づくものとはいえなくなる。どこの国にも使われないIAS/IFRSとは何なのか、という問題になる。また、欧州以外の諸国の中で、IASを採用するとしていた国は、独自の判断(IAS39を含めるかどうか)をしなければならなくなる。
シナリオ4の場合、2005年1月1日からのIAS義務付けというタイムスケジュールの実現が困難になる。
いずれのシナリオでも問題が残りそうだが、その中でも一番問題が小さいのは、シナリオ1であろう。今後の動向を注目していきたい。
6月11日 医療の政府再保険(Kerry提案) Source : JOHN KERRY’S PLAN TO MAKE HEALTH CARE
AFFORDABLE TO EVERY AMERICAN
大統領選の民主党候補、John Kerryのwebsiteは、よくチェックしておく必要がある。現在でこそ、レーガン大統領のお葬式の関係でキャンペーンを停止しているものの、政策提案および改訂版が次々と公表されているようだ。
Kerry氏は、当然、民主党内の候補者選の際、医療に関する政策プランの公表を行っている(「Topics2003年7月30日 EdwardsとKerryの医療改革提案」参照)。最近、上記sourceをチェックしてみると、少しずつだが改訂されているので、大統領選候補者提案として、あらためてまとめておきたい。
- 医療コストの抑制
- カタストロフックな医療費に対する公的負担
2001年、民間保険において、$50,000以上の保険支払いがあったのは、全請求件数のうちのわずか0.4%であった。しかし、その請求金額は、全体のほぼ20%に達した。このような高額医療を取り除いてやることで、全体の医療費を抑制することができる。企業が提供する医療プランで、$50,000を超過するカタストロフィックな医療費については、その超過分の75%を(公費により)償還することを提案する。その際の条件は次の3点。
- 企業の場合には、全従業員に同等の保険プランを提供する。
- この償還により下がったコストを保険料引下げに反映させる。
- 病理管理、健康管理、健康増進策を徹底する。
- 処方薬価格の抑制
- Medicareに処方薬保険のプログラムを創設する。
- 薬価差益を明確にさせる。(「Topics 2003年2月20日(1) アメリカの薬価差益」参照)
- 処方薬に関する特許の抜け穴を塞いで、genericが市場に出やすいようにする。
- 処方薬の価格引き下げに関する交渉(Medicaid等)を本格化させる。
- 医療過誤保険料の抑制
- 医療過誤訴訟において、損害賠償額に上限を設けることには反対する。上限を設けても、医療過誤保険料を下げることはできないし、医療費全体をさげることもできない。
- 専門家が合理的な訴求であると判断しない限り、個人の医療過誤訴訟を禁止する。
- 不適切な目的等による訴訟等に対して、懲罰を課す。
- すべてのケースにおいて、提訴する前に州政府が調停を試みる。
- 故意の過失など悪意が認めなられない限り、懲罰的損害賠償には反対する。
- 医療の質を高め、コストを下げる
医療過誤により、毎年44,000〜98,000人が亡くなっているとの調査がある。こうした事態を改善するために、次の4点を提案する。
- 医療の質に関するベンチマークを定める。
- 電子媒体による医療記録システムを導入した医療機関に、経済的なインセンティブを提供する。
- コンピュータによる処方システムに経済的なインセンティブを提供する。
- 医療過誤について速やかに報告されるような体制にする。
- 無保険者をなくす、特に子供の無保険者をなくす
- Medicaidに加入している2,000万人の子供達の医療費を連邦政府で負担することとする。その代わりに、州政府はCHIPで子供達に医療保険を提供する。また、学校入学時に、児童の医療保険加入を強制する。
- CHIP加入資格を、貧困基準300%にまで緩和する。
- 子供がCHIPに加入しているのに無保険のままになっている働く親達が約700万人存在する。貧困基準200%以下のこのような親達も、州政府の医療保険に加入させる。
- すべてのアメリカ人に医療保険を提供する
- 小規模企業、大規模企業の従業員に関する別勘定を設けたうえで、すべてのアメリカ人に、FEHBP(州政府職員医療保険)への加入を認める。
- 小規模企業の医療コストについて、最大50%の税額控除を認める。加えて、FEHBPへの加入、連邦政府による再保険(前述)により、15%のコストを節約できる。総計で、約3分の2のコストを削減することができる。
- 個人の場合には、所得の6%を上回る医療費について、補助を提供する。
- 大企業の従業員にも、FEHBPへの加入を認める。
- 約800万人いる失業者については、医療費の75%の税額控除を認める。
- 55〜64歳の退職者についても、税額控除を認める。
- これらの提案により必要となる財源は、10年間で$653B。また、無保険者が約2700万人減少する。
Kerry提案について感想をいくつか。
- 全体的なバランスがよくとれた提案、という感じだ。しかも、企業が提供している医療保険プランを強化するという、ゲッパード提案にも配慮されている。
- カタストロフィックな医療コストを公費負担するというアイディアは、今まで提唱されていなかった。無保険者2700万人と推計しているが、このアイディアにより、既に保険に加入している人達の保険料が下がる、または抑制される効果は大きい。特に、企業が提供する医療保険の持続性が高まると期待される。
- 医療過誤保険料と損害賠償額の関係が整理されている。この部分の彼の提案は、正当と評価できる。
- やはり気になるのは、財政負担の大きさである。上記2を実施しようとすれば、公費が大きくならざるを得ない。
また、メディアによれば、「連邦政府の財源をふんだんに充てるのは、高額所得者から中低額所得者への移転である」との批判も出ている(Washington Post)。Bush減税がなくなってしまうことと合わせれば、高額所得者層にとってはダブルパンチとなりかねない。
ところで、そのWashington Postの記事で、ちょっと興味深い表記があった。Kerryの呼称を一箇所だけ、
"Sen. John F. Kerry (Mass.)"
と表記しているのである。こういう表記をされれば、否が応でも、
John F. Kennedy元大統領
を想起してしまう。Kerry氏自らのwebsiteでも、"John Kerry"と表記していて、ミドルネームを入れるような表記をしていないのに・・・。Washington Post紙のKerry応援ツールなのだろうか。