4月20日 引留め策とベネフィット Source : Study of Employee Benefits Trends (MetLife)

上記sourceは、Employee Benefitsのトレンドを毎年調査しているものである。今年のレポートが強調するのは、次の3点。
  1. 経営者がemployee benefitsを提供する最大の目的は、従業員の引留めにある。調査対象企業の55%がそう回答している。

  2. 一方、従業員の方は、企業が提供するemployee benefitsに満足している者のうち、80%が仕事の内容にも満足している。

  3. 従業員の7割が、今の企業に就職した理由としてemployee benefitsを挙げている。また、83%が転職しない理由としてemployee benefitsを挙げている。
こうした結果を総括して、MetLifeの幹部は、『benefitsの満足度、仕事の満足度、従業員の引留め、事業の成功は、それぞれ大きく依存しあっている』と評している。

おそらく、日本でも、benefitsで優秀な人材を奪い合う時代がやってくるだろう。管理人は、今年がその初年度であったのではないかと思っている(「Topics2007年3月31日 ベネフィットいろいろ」参照)。

4月19日(1) MD Wal-Mart法案完敗 Source : Maryland drops attempt to fine Wal-Mart over health benefits (AP)

MD州が、Wal-Mart法案に関する司法での争い(「Topics2007年2月1日(1) MD州は仕切り直し」参照)を完全に諦めた。最高裁に持ち込んでも勝ち目がないと判断したためだ。

これで、他州でのWal-Mart法案導入の動きはなくなるだろう。州レベルでの皆保険制度導入の流れは確定的となった(「Topics2006年3月16日 皆保険からWal-Mart法案へ」参照)。

4月19日(2) 処方薬価格交渉法案は暗礁に Source : Press Briefing by Dana Perino (White House)

18日、上院本会議で、Medicare処方薬価格交渉(S.3)が議論された。その中で、討議終了動議が出されたものの、投票結果は55 vs 42で、60に届かず、動議は拒否された。

また、Bush大統領も、上院案が可決されたとしても、拒否権を発動すると明言している(上記source)。同法案の成立はかなり難しそうである。

仮に、上院ですら可決できないとなると、処方薬でBush政権を追い詰める戦略で臨んだPelosi下院議長は、却って政策音痴、指導力・政治力の欠如が指摘されかねない。何だか、身内の民主党の長老達に苛められているような構図である。

4月18日 Medicare処方薬価格交渉 
Source : Senate Committee Approves Legislation That Would Allow Federal Government To Negotiate Medicare Prescription Drug Prices (Kaiser network)

Medicare処方薬の価格交渉を政府に認める上院法案(S.3)が、12日、Finance Committeeで、13-8で可決された。本法案は、今週後半に上院で審議、投票が行なわれる予定という。

上院法案のポイントは、次の通り。
  1. HHS長官が処方薬の価格交渉を行なうことを禁じている現行法を改正し、交渉することを認める。

  2. CBOのような連邦議会機関が、価格交渉の実績(値引き等)に関する情報を入手し、コスト抑制の効果を議会に報告する。

  3. 処方薬、治療器具の効能に関する研究調査をHHSが収集し、公表することを義務付ける。
下院では、処方薬の価格交渉に関する法案(HR.4)を、既に可決している(「Topics2007年1月15日(2) 連邦議会民主党の第一歩:Medicare処方薬」参照)。上院案と下院案との間で何が違うのかというと、上院案では『HHS長官に価格交渉を認める』となっているのに対し、下院案では『HHS長官に価格交渉を行なわせる』となっている。

どうしてこういう違いが生じるのか。その答は、Chuck Grassley (R-Iowa)の次の言葉で理解できる。
「Medicareの処方薬価格は、既に充分に低い水準になっている。政府が市場に介入してコストが削減できるかどうか、何も根拠はない。」
それを補強するかのように、CBOは、S.3による連邦支出への影響は微々たるものであるとのレポートを公表している。つまり、上院は、下院民主党の顔を立てつつ、現実的な解を示したということである(「Topics2006年11月14日 新連邦議会前哨戦:Medicare処方薬」参照)。

またしても、上院民主党は、Pelosi下院議長より一枚も二枚も上手であることを誇示して見せたことになる(「Topics2007年2月14日(1) Kennedy上院議員に軍配」参照)。そう言えば、最低賃金引上法案はどうなってしまったのでしょね。

4月17日 MA皆保険法のウェイバー Source : Affordability Standards Recommended to Connector Board (Press Release)

MA皆保険法では、州民に保険加入を義務付けており、それに違反すると罰金または税制上の不利益が課される。しかし、購入可能な保険がない場合には、その罰則を免除することとなっている(「Topics2006年4月10日 Massachusetts州の皆保険法案」参照)。

Connectorの理事会は、12日、そのウェイバーの基準案を全員一致で承認した。スケジュール通りである(「Topics2007年3月22日 MA皆保険:処方薬もカバー」参照)。今後は、ヒアリング等を行なった後、6月に最終決定となる。

この措置がそのまま成立すると、現在328,000人といわれる無保険者のうち、約65,000人、州民の約1%がやはり無保険でも罰則を課されないことになる(New York Times)。これを是とするか否とするか、議論は分かれるところだろうが、大事の前の小事と理解すべきなのだろう。

4月12日 従業員引留策 Source : Retention: What if 75% of Your Workers Found Other Jobs? (BLR)

上記sourceによると、ある調査では、従業員の4人に3人が年末までに転職を模索するとしている。それだけ多くの労働者が転職を考える理由として、次の3つが挙げられている。
  1. アメリカ経済が順調に成長している。
  2. 失業率が歴史的に見て低水準にまで落ちている。
  3. ベビーブーマーが退職期に近づいている。
そして、大事な従業員が転職してしまわないよう、引き留め策を真剣に検討すべきと助言している。ポイントは次の3つ。
  1. 転職を決断する理由を考える。多くの場合、直接の管理職が嫌で転職する。管理職と一般従業員の間の関係を改善することが重要。

  2. 世代別に対応する。ベビーブーマー達は、管理しやすく、内部昇進を前提にしていた。しかし、次の世代は、そういう考え方を持たず、労働も生活の一部に過ぎないとの考え方を持っている。

  3. 働き方や制度を柔軟に。フレックス、テレワーク、季節労働、部分年金など、既成のルールをなるべく柔軟にする。
労働市場が逼迫する中で、競争力を確保する企業努力は、果てしなく続くのではないだろうか。そして、やがては日本でも同じような流れが本流となろう。

4月11日 Circuit City のレイオフ 
Source : Circuit City Stores, Inc. Announces Additional Changes to Improve Financial Performance (Press Release)

3月28日、Circuit CityというPC・家電製品量販店が、リストラ策を公表した。内容は、@重点活動地域を10から8に絞る、A約3,400人をレイオフする、の2点である。

この、3,400人のレイオフに関する会社の説明は次の通り。
  1. 3月28日付でレイオフを実施する。
  2. 主に、販売部門の従業員3,400人が対象となる。
  3. レイオフの理由は、労働市場でみられる賃金水準よりもかなり高いことにある。(The Baltimore Sunの報道によれば、市場賃金水準よりも約51%高いといわれている(Knowledge@Wharton)。)
  4. 新たな採用者には、市場水準の賃金を支払う。レイオフされた元従業員も、10週間後に応募できる(Knowledge@Wharton)。
  5. 8週間分の賃金相当の離職手当を支払う(Los Angeles Times)。
このレイオフが、様々な反響を呼んでいる。主なものは次の3つであり、それぞれについて、管理人のコメントを添えておく。
  1. コスト抑制策として奇異Prof. Peter Cappelli @Wharton School

    "Circuit Cityのレイオフのやり方は、まるで「自分達の報酬政策が間違っていました。業績以上の賃金を払っていたので、その人達を首にします」と宣言するようなものである。こんなやり方は聞いたことがない。"(Knowledge@Wharton
    ⇒管理人コメント

    確かに変である。コスト抑制策としてのレイオフというのはあり得るが、事業の見直し、再編、選択と集中の結果、不要となる設備、事業、雇用を整理するというものが正当であろう。マーケットも、そうでないとレイオフを評価しない。ところが、Circuit Cityの場合、従業員を減らすためのレイオフではなく、賃金水準を切り下げる(または市場水準への是正の)ためのレイオフである。賃金水準が下がっても構わないなら、同じ人が再雇用される可能性がある、といっているのだから。
  2. 年齢差別

    実際、レイオフされた元従業員のうち3人が、加州年齢差別禁止法違反で提訴した。加州法では、直接年齢を理由にレイオフしたのではなくても、年齢の高い層全体でマイナスの影響を受けた場合には、年齢差別であると認定される可能性がある。(Los Angeles Times

    ⇒管理人コメント

    上記LA Timesの記事は、年齢差別訴訟という側面よりも、その原告の一人となった、Ms. Eloise Garcia (66)のルポをじっくり読んでいただきたい。あらかたこんなことが書いてある。

    • 約17年半、同社Oxnard店に勤務している。
    • 時給$15.13、年収$31,400である。(注:単純に割ると2075時間になる)
    • 若手の従業員は、時給$10未満である。
    • 仕事ぶりへの評価は、常に高得点であった。
    • 彼女にレイオフを告げた上司も泣きながら「すまない」と繰り返していた。
    • 新しい職を見つけなければならないが、見つけたとしても最低賃金水準(加州の場合は$7.50)から始めるしかない。

    評価の高い従業員を賃金水準が高いからといってレイオフする、というような企業は、成長を望めないのではないか。仕事を熱心にして生産性を高めると、評価があがり、賃金が上がり、挙句の果てにレイオフされる。そして一からやり直し。そんな職場で働きたいと思う労働者がいるだろうか。
  3. サービスの低下

    PC・家電製品量販店の売上高トップはBest Buyであり、Circuit Cityは2番手である。BusinessWeekの記事によれば、店舗における接客サービス、品揃え、レイアウトについて、Bust Buyに軍配を上げる消費者が多い、ということである。
    ⇒管理人コメント

    上のような賃金政策を見せつけられれば、従業員のインセンティブも殺がれて当たり前である。それは接客サービスにも現れるのだろう。対するBust Buyは、従業員のインセンティブを高めるために、究極のフレックス制を試行している(「Topics2006年12月13日(2) Bust Buy Goes Clockless」参照)。これでは、両者の間の差が広がっていってもしかたあるまい。
    ちなみに、両者の株価動向は、次の通り。 ⇒ Bust Buy  Circuit City
ところで、日本の労働市場の進むべき方向を議論する中で、「同一職種・同一労働・同一賃金」を目指そうという議論があるようだ(経済財政諮問会議・労働市場改革専門調査会第1次報告(P.13〜14))。こういう主張をする人々は、上記のようなCircuit Cityの事例をどのように見るのだろうか。企業がせっかく育て上げたスキルド・ワーカーなのに、市場価格よりも高いからといって切り捨てる。そのおかげで生産性も低下し、企業業績も低下する。こうした悪循環に陥れば、企業の競争力などは吹き飛んでしまう。

確かに外部労働市場の育成は重要だが、そのために、競争力の大切な源泉である従業員をおろそかにするような労働市場を目指すようでは、日本経済の競争力はがたがたになるだろう。今の日本企業にとって、労使協調体制(企業内組合)は唯一世界に誇れる競争力なのかもしれない。これだって、アメリカ企業は、チーム・スピリットの重視、職種別組合から企業内組合への実質的な転換により、日本企業に迫りつつあるのである。頭の中で考える理屈よりも、企業(労使)の実践はずっと進んでいるのである。