2月18日(1) 開示強化に抜け穴 Source : Executive-Pay Summaries Conceal as They Reveal (Washington Post)

Cox委員長(SEC)が胸を張って開示強化を進めてきた経営者幹部の報酬開示強化だが、初年度は抜け穴が存在していたために、必ずしも実態を表してはいないとの指摘がなされている。

抜け穴とは、どうやら次の2つを指すらしい。
  1. 執行期日の前倒し

    FASBにより、ストック・オプションは費用計上されることとなり、新たな会計基準FAS123Rが、適用となっている(「Topics2004年12月17日(1) ストック・オプション会計決定」参照)。大企業の場合、適用期日は、「2005年6月15日以降に始まる年度から」となっている(「2005年4月17日 ストック・オプション費用化 再延期決定」参照)。つまり、たいていの大企業は、2006年度からの適用となっており、その新ルールに基づく開示が、この時期に始まっているわけである。

    ところで、ストック・オプションの費用計上されると、企業の収益が大きく落ち込んだように見えてしまう。そこで、多くの企業が、ストック・オプションの受給権の付与、受け取る方からみれば執行権の行使期日を早めるという行動を採ったそうだ。つまり、2005年中に受給権を与えてしまい、費用計上の対象としないようにしたというわけだ。上記sourceによれば、そうした企業は、900社以上にのぼるという。

    こうした措置は、会計上、何の問題もないらしい。しかし、本来なら、2005年以降、順次発生する受給権が、2005年に集中して与えられてしまったために、措置前なら2006年以降に計上されるはずであったストック・オプションによる報酬が計上されなくなる、という事態が発生する。つまりは、2006年以降の経営幹部の報酬が、実際よりはかなり小さく見えてしまうことになる。

    上記sourceによれば、こうして見えなくなってしまった経営幹部の報酬は、約$8B、個別企業でも、Dellで$591M、Sun Microsystemsで$400Mにのぼるという。

  2. SECによるルール変更

    これも、上記の受給権と関連するのだが、2006年12月22日、SECが開示のルール変更を行った。それまでのルールでは、経営幹部に付与されたストック・オプションの総額となっていたのを、毎年受給権が発生したストック・オプションの総額でもよいこととした。

    当然、会計基準に合わせたとのことだろうが、結局、ストック・オプションによる報酬が見えなくなってしまうことを確実にしてしまったことになる。
こうした技術的な措置によって、経営幹部の報酬が小さく見えてしまったり、社内の順位が変更になってしまったりしているため、簡易な開示表では、本当の姿が見えなくなってしまったという。もちろん、こうした措置が採られたことは、開示表のどこかには記載されているのだろうが、一般の株主にはほとんどわからなくなってしまった。

SECは、長い目で見れば改正後の開示は正しいとしているが、おそらくこれから5年くらいは、正確な開示は期待できないだろう。

2月18日(2) 最低賃金引き上げがほぼ確定 Source : House Advances Minimum Wage Hike (Washington Post)

16日、下院が最低賃金引上法案を可決した(「Topics2007年2月14日(1) Kennedy上院議員に軍配」参照)。投票結果は、360 vs 45 と圧倒的多数による可決であった。

これで、

・最低賃金を引き上げる
・中小企業関係の減税措置をセットにする

という大枠は決定したことになり、今後は、上下両院で、減税規模と内容について協議することとなる。もちろん減税内容によるだろうが、両院協議さえ整えば、大統領は署名することになるだろう。

中小企業団体は、この段階でほぼ納得ということらしいが、収まっていないのは、大企業が主導する全米商工会議所である。同所は、上院案に含まれる後払い報酬への課税強化策(「Topics2007年1月31日 最低賃金引上法可決」参照)を葬るために、最後まで下院案を支持する活動を続けるそうだ。

2月16日 PBGC一律保険料引き上げ Source : PBGC and DOL Provide Guidance to Defined Benefit Plans (Pension Analyst)

PBGCに関する事実関係の記述を2点。
  1. インフレ調整に基づき、2007年の一律保険料を、$30→$31に引き上げ(参照)。
  2. 2007年のPBGC年金給付上限額は、65歳で$4,125/M(参照)。

2月15日(1) DBプラン凍結と資産運用方針 Source : Russell Pension Report 2007 (Russell)

上記sourceは、主にDBプランに関する環境と今後の資産運用について、考え方を述べている。読んでみて、面白かった点を3点。
  1. DBプランに決定的な影響をもたらしたのは、
    @PPA2006(「Topics2006年8月9日 Pension Protection Act of 2006 概要」参照)
    AFAS 158(「Topics2006年10月3日 FAS 158」参照)
    の2つであるということは、共通の認識になっているようだ。

  2. 上記sourceの"Frozen Plans"(P.7〜)で示されている、4つのステップとそれに対応する資産運用戦略は、わかりやすい。これだけをみても、DBプランの凍結が、どれだけ労力を要するかがわかる。

  3. 最後に、執筆者が、「将来的には、DCのDB化を考える必要があるだろう」と述べているところに注目したい。欧州諸国で実際に行われているDCプランとは、まさにこの「DB化されたDC」といえるものがある。これが、IASBでのDB/DCの定義論議に影響をもたらすことは、先に述べた通りである(「Topics2006年11月8日(1) DBとDCの定義」参照)。アメリカでもこういう考え方が主流になってくると、IASBでの議論も大きく動く可能性が出てくる。

2月15日(2) ブランド品メーカーを狙い撃ち Source : Generic drugs law plans threaten makers (Financial Times)

連邦議会民主党によるブランド品メーカーへの攻撃が続いている。ジェネリック・メーカーとの金銭取引を禁止する法案(「Topics2007年1月18日(2) Genericsを巡る密約 」参照)に続き、今度は、生物工学を利用したジェネリックの製造を認めようという法案が検討されているという。

もちろん、ジェネリックが進出してくれば、ブランド品メーカーの収益は脅かされる。

通常のジェネリックは、短期の治験で認可されている。ジェネリック・メーカーは、生物工学を利用したジェネリックについても、治験期間を短くする必要があると主張しているが、これに対して、ブランド品メーカーは、安全性には代えられない、と訴えている。

安全性は何よりも優先するとの考えには共感できる(「Topics2006年10月10日 FDAへの業務改善勧告」参照)。そもそも、民主党は、FDAに予算をつけて、新薬の安全性確保策を強化しようという考え方を持っていたはずである(「Topics2007年2月10日(5) 民主党 vs FDA」参照)。生物工学(遺伝子工学)を利用したジェネリックの安全性が充分検証できないうちに、その製造、販売を認めようとする試みには賛成できない。

2月14日(1) Kennedy上院議員に軍配 Source : House Wage Bill Gets Tax Breaks (Washington Post)

12日、下院Ways and Means Committeeは、最低賃金引上法に中小企業、レストランを対象とした減税措置を付加した法案を、全員一致で可決した。法案は、今週中にも下院で採決する予定らしい。

減税規模は、10年で$1.3Bと、上院案(10年で$8.3B)(「Topics2007年1月19日(1) 後払い役員報酬にキャップ」参照)に較べるとかなり小さい。ちなみに、上記下院案には、後払い役員報酬へのキャップは含まれていない。

とはいえ、最低賃金と中小企業向け減税措置をセットで、というフレームが整ったことになり、あとは減税幅と項目の調整ということになる。政治的には、Kennedy上院議員に軍配が上がり、Pelosi下院議長は一敗地にまみれた、という形になる(「Topics2007年2月3日 最低賃金引上法案を巡る分裂」参照)。こうした民主党内の主導権争いが、政権奪取の障害になりかねないのではないだろうか。

2月14日(2) Love Contract Source : 'Love Contracts' Help Fend Off Harassment Suits (Workforce Management)

正式には、"Consensual Relationship Agreements"と呼ぶそうだ。要するに、企業経営幹部がセクハラで訴えられないための予防策。

"Love contract" letterの概要は、次の通り。
  1. 一般社員すべてを対象にする必要はなく、部長クラス以上の経営幹部が対象となる。つまり、職場における幅広い権限を有する役職に就いている者が対象。

  2. この書類には、主に次の3つの合意事項を書き込むのが一般的である。

    1. 社内恋愛の関係が、お互いの自発的なものである。両者とも社内にセクハラに関する規定があり、関係が終了したとしても、雇用関係に影響を及ぼさないことを充分認識している。

    2. 仮に問題が発生しても、セクハラに関する社内規定により解決する。

    3. 職場・雇用に関する問題が発生した場合、ADR(alternative dispute resolution)により解決し、裁判には持ち込まない。

  3. 片方がセクハラがあったとして訴えた場合、当事者、企業は、何が真実であるかをこの文書により説明する。

  4. この文書がどれだけの法的効力を発揮するのか、見解は別れるが、少なくともないよりはあった方が、経営幹部にとっては有利である。
ちなみに、どんな文書なのか、このサンプルを参照するとイメージがわくかもしれない。

どうしてこんな文書が流行りだしたかというと、例のクリントン大統領とモニカ・ルウィンスキーの「不適切な関係」が表面化してからという(Los Angeles Times)。企業のトップが同様の問題に巻き込まれた場合にどうすればいいのか、企業関係者はパニックに陥ったそうだ。

そうして編み出された文書だが、実際の法廷でその有効性を争われた案件はないそうだ。企業幹部にとっては、お守り札みたいなものだろう。

社内恋愛、しかも不倫関係であれば、内密にしておきたいというのが、自然である。しかし、企業幹部となると、将来のリスクを考えれば、それも文書にして人事部に届け出ておかないといけない。こんな手続きまでして社内恋愛、不倫を続けたいと思う人間が、どれだけいるのだろうか。

2月13日 Obama氏の皆保険提案 Source : Full Text of Senator Barack Obama's Announcement for President

10日、Obama上院議員が、正式に大統領選候補者として名乗りを上げた。上記sourceは、その際のスピーチの全文である。

ここで、Obama上院議員は2012年までの皆保険制度の導入を主張しているのだが、該当部分は、これだけである。
"Let's be the generation that finally tackles our health care crisis. We can control costs by focusing on prevention, by providing better treatment to the chronically ill, and using technology to cut the bureaucracy. Let's be the generation that says right here, right now, that we will have universal health care in America by the end of the next president's first term."
つまり、何も具体的な提案は行っていないのである。まあ、選挙戦は長いので、これから、ということなのだろう。
※ 余計なことだが、上記引用にあるように、Obama氏の演説で、"Let's be the generation that ..."というフレーズが連発されている。若い世代で解決していこう、ということのようだが、あまり世代交代を強調しすぎると、ベテラン政治家の反感を買うかも。私自身も、少し鼻白む感じがする。
他方、注目したいのは、Obama上院議員の出馬表明を受けた、Clinton上院議員に関するWashington Post紙の記述である。
"She pointedly refused to offer a comprehensive proposal over the weekend, instead theorizing on how the current system is failing and criticizing those who she said believe that throwing more money at the problem will solve it."
この一文で、何も提案していないObama上院議員と、大増税による皆保険を提案したEdwards元上院議員(「Topics2007年2月7日 Edwardsの皆保険提案」参照)を批判しているのである。

では、Clinton上院議員は、皆保険を提案するのか、しないのか。どちらにしても、その発言は注目せざるを得ない。