8月9日 Pension Protection Act of 2006 概要

  1. EGTRRAの恒久化

    The Economic Growth and Tax Relief Reconciliation Act of 2001 (EGTRRA) で決められた年金関係の規定について恒久化する。これにより、確定拠出、確定給付に関する拠出額の拡大が、時限ではなく、恒久措置となる。(参照:CRSレポート

  2. 最低積立基準

    従来の最低積立基準と積立不足解消のための要拠出額の基準を、一本化する。施行は2008プラン年度から。

    1. 基礎となる最低拠出額
      次の3項の合計額とする。
      1. 給付債務の増加額
      2. 積立不足償却額(7年償却)
      3. 積立猶予償却額

      積立不足がなければ、a.から積立超過額を引いた額を拠出する。ただし、その値はマイナスにはできない。

    2. 利子率
      給付債務を算定する際の利子率を、@0〜5年、A5年超〜15年、B15年超の3段階で設定する。投資適格の社債利子率より算出した利子率曲線をベースにする。

    3. 積立不足プラン
      大きく積立不足に陥っている年金プランについては、特別の仮定をおいて給付債務を認識する。この特別規定を適用されるのは、積立不足が2008年65%未満、2009年70%未満、2010年75%未満、2011年以降80%未満となっている場合である。

      特別の仮定とは、10年以内に退職する予定の従業員全員が、最も早い時期に退職し、最も現在価値の高い受取方法を選択した場合、というものである。

    4. 評価日
      プラン年度の初日とする。ただし、加入員数が100人以下の場合は別途規定。

    5. 資産評価
      一般的には公正価値を使用する。ただし、24ヶ月を超えない期間による激変緩和措置(移動平均など)を認める。激変緩和措置によって、現在価値の上下10%を超えて評価することは認められない。

    6. クレジット・バランス
      一般的には、2種類のクレジット・バランスを保有できる。一つは、2007年からの繰越分。もう一つは、2008年以降の最低拠出額を超えた拠出分。最低拠出額を満たすためにクレジット・バランスを利用できるのは、積立比率が80%を超えている場合に限られる。

    7. 拠出期限
      プラン年度末から8 1/2ヶ月後。前年度に積立不足がある場合には、3ヶ月毎の拠出が求められる。

    8. 積立状況に応じた給付制限

      1. 事業所閉鎖給付
        積立比率が60%未満の場合、事業所閉鎖手当ての給付は認められない。PBGCの保証は、閉鎖から5年間かけて段階的に受けられる(注:閉鎖して1年目でプランが廃止となった場合、PBGCは給付の20%しか保証しない)。プラン発足5年間は、適用されない。

      2. 給付増額の制限
        積立比率が80%未満の場合、制度変更による給付増額は認められない。プラン発足5年間は、適用されない。

      3. 割増給付・一時金払いの制限
        積立比率が60%以上、80%未満の場合、年金給付額を割増する場合には何らかの追加拠出が必要となる。また、一時金払いは、@通常の規定額の50%、A当該加入者のPBGC保証額の現在価値、のいずれか少ない方の額が限度となる。

      4. 将来分の受給権付与の停止
        積立比率が60%未満の場合、将来分の受給権付与を停止しなければならない。プラン発足5年間、または事業主が特別の手当てをした場合は適用されない。

      5. 加入者への通知
        上記の給付制限適用になった時点から30日以内に、加入者にその旨を通知しなければならない。

      6. 適用期日
        原則2008年。ただし、労使協議の場合は、2010年より前に適用。

  3. 一時金払い

    一時金算出のための利子率を、現行30年財務省債の利子率から、最低積立基準で規定した利子率(上述)に移行する。2006-2007年は、現行通り。2008年から2012年の5年間で、20%ずつ移行していく(注:2008年は、財務省債利子率80%、社債イールドカーブ20%のウェイトをつけて算出)

  4. PBGC

    1. 保険料(一律部分)
      PPAでは規定していない。既に、Deficit Reduction Act of 2005で、加入者一人当たり$30に引き上げ済みである(「Topics2006年2月8日(1) PBGC保険料引き上げ」参照)。

    2. 保険料(可変部分)
      2006-2007年は、2004-2005年と同様とする。その後は、新たな積立基準で利用される利子率を反映させたものに修正する。従業員25人以下の場合には、可変部分の上限を$5とする。

    3. 特別保険料(課徴金)の恒久化
      Deficit Reduction Act of 2005で規定された特別保険料は、2010年までの時限となっていたが、これを恒久措置とする(「Topics2006年2月8日(1) PBGC保険料引き上げ」参照)。

    4. 倒産
      Chapter 11の申請日を、年金プラン終了日とする。

  5. ハイブリッド・プランの給付

    DBプランで定めた給付ルールが一定の基準を満たしていれば、年齢差別に当たらない。

    1. "Wear away"の禁止
      2005年6月29日以降のハイブリッド・プランへの移行では、"wear away"を禁止する(注:"wear away"は、「Topics2003年8月12日(2) アメリカのキャッシュ・バランス・プランの課題」参照)

    2. Whipsawの解消
      計算に利用する利子率の違いにより、年金給付原資と一時金額の間に差が生じていた(whipsaw:「Topics2003年8月12日(2) アメリカのキャッシュ・バランス・プランの課題」参照)。これが、利子率が統一されるために、解消される。

    3. 受給権付与
      2008年以降、3年以内に完全な受給権を付与しなければならない。

    4. 遡及適用なし
      同法は、過去に遡及して適用することはないため、過去の事例について合法性を判断することはできない。

  6. 損金算入限度額

    DBプランへの拠出

    2006-2007年は、「給付債務の150%−資産」。
    2008年以降は、「@通常の事務コスト+A目標積立額の150%+B将来の給付増加分対応−C資産」。
    損金算入限度額を超えて拠出した場合には、超過額に10%の課徴金が課される。

  7. DCプランの分散投資

    2007年以降、従業員拠出分については、いつでも投資対象を変更することができる。また、マッチング拠出を含む企業拠出分については、勤続3年以上の加入者については、投資対象を変更することができる。
    (注)Enron以来の懸案事項がようやく解決をみたということになる。(「Topics2002年2月1日 401(k)プラン改革 大統領提案」「Topics2004年5月19日 企業年金の新法案」参照)

  8. 情報開示

    1. DBプランの積立状況
      2008年以降、プラン年度終了後120日以内に報告する。

    2. 年金プランの強制終了
      年金プランを強制終了する場合、PBGCに提出する資料と同じ情報を、15日以内に加入者に伝えなければならない。

    3. 分散投資の権利の明確化
      2007年以降、投資対象を事業主が発行する証券から他の金融商品に転換する権利が従業員に付与される場合、権利付与の30日前に告知されなければならない。

    4. 給付額の開示
      @投資指図が従業員の場合のDCプラン:四半期毎
      A一般のDCプラン:年毎
      BDBプラン:3年毎


8月8日(1) Bush大統領は署名の意向 Source : President Looks Forward to Signing Pension Reform Legislation (The White House)

上記sourceで、Bush大統領は、"I look forward to signing this important legislation into law soon. " と明記している(「Topics2006年8月7日 年金改革法案 両院可決」参照)。管理人の見通しが甘かったことがはっきりしました。急いで、法案概要をまとめたいと思います。

8月8日(2) アメリカ人の有給休暇 Source : Americans: Are They Reluctant Vacationers? (Wharton School)

アメリカ企業では、有給休暇を拡充する動きが目立っているという(Washington Post)。特に、中小企業、NPOなどでは、大企業のようなストック・オプションでインセンティブを提供することは難しいため、あまり大きな費用がかからない有給休暇を拡充することで、人材を確保しようという考えが強いという。

確かに、アメリカ人は、有給休暇を長く取っているように見えるが、欧州企業、特に仏独の企業に比べれば、まだまだ短い。平均的な姿として、アメリカ人が4週間に対し、フランス7週間、ドイツ8週間となっている。

なぜ、アメリカ人は、欧州人に比べて有給休暇が短いのか。上記sourceでは、諸説を紹介している。

欧州人がレジャーに高い価値を見出しているのに対し、アメリカ人は収入と消費に関心を持っている、という文化的な側面を強調する説がある。また、欧州人は仕事との関係を断ち切る性向があるのに対して、アメリカ人は仕事との関係を常に持っていたいという性向があるとも言われている。

また、所得税の累進度に答えを見出そうという説もある。欧州では一般的に累進度がきつく、欧州人の方が、追加的労働(=追加的収入)への関心が薄い、というのである。

これらの諸説に対し、わがPeter Cappelli教授は、次のように主張している。
  1. 普通のホワイトカラーに、限界税率は影響しない。なぜなら、ほとんどのホワイトカラーは、年俸制で、追加的な労働をしようとしまいと、収入、そして税額は変わらない。

  2. また、多くの調査結果では、アメリカ人も、収入が減ってもよいから休暇を取りたいと思っている。それにも関わらず、労働時間は長くなっている。

  3. アメリカ人は、自ら働きたいと考えている時間よりも長く働いている。その方が、経営者にとって新人を雇用するよりもコストが安くなるからである。このような流れに対して、アメリカでは従業員が抵抗する手段は少ない。労働組合の組織率が極めて低く、しかもブルーカラー中心だからである。
同教授に賛同する研究者達も、次のように主張している。
  1. 欧州の労働組合は、労働者の組織率が大変高く、政治面でも経営面でも、力を行使している。

  2. 1970年代の不況期、西欧企業は労働者の解雇を主張したのに対し、労働組合は、雇用の維持と労働時間の一律削減を求めた。これが欧州での大きな流れとなり、ますます休暇を求める動きが強まっていった。
さらには、こんな開き直りとも言えるような主張も示されている。
  1. 労働者がリフレッシュするには、3日程度が望ましい。

  2. 長期休暇には、航空代、ガソリン代などのコストもかかる。それとのバランスの問題でもある。

  3. 子供連れなのであれば、長い旅行はストレスのもとになる。ベビーシッターを連れて行く位の余裕があればよいが、そうでなければ働いていた方が望ましい。
最後のコメントは、管理人にとっては「実感」である。

それはさておき、ここで述べておきたいのは、労働組合の社会における力の強さは、ライフスタイルまでも左右する、ということである。当websiteでは繰り返し主張している通り、日本の労働組合の社会における位置付けは、アメリカに近く、欧州とはほど遠い。90年代の不況期を経て、その傾向はますますアメリカ型に傾いていると思われる。社会の仕組みを考える時、革命でも起こさない限り、大陸欧州に近づいていくことはないということを念頭に置くべきである。

最後に、サバティカルなど、一定の勤務期間に達した場合に与えられる長期有給休暇については、その要件となる勤務期間中に債務認識をすべきである、という実務指針が、FASBEmerging Issues Task Force (EITF) から公表された(概要解説オリジナル)。有給休暇も、簡単には賦与できないようである。

8月8日(3) 控訴裁判所がIBMを支持 Source : Court rules in favour of IBM in pension case (Financial Times)

長い訴訟が続いているが、全米で初めて、控訴裁判所レベルで、DBからキャッシュ・バランス・プランへの移行が、年齢差別に当たらないとの判決が示された(「Topics2003年8月2日 IBM敗訴」参照)。キャッシュ・バランスへの移行については大きな前進だが、時既に遅し。IBMは世界レベルでDCへの移行を既に確定している(「Topics2006年1月10日(2) IBM DBに訣別宣言」参照)。司法手続きが現実のペースについていけなかったということだろう。

8月7日 年金改革法案 両院可決 Source : Key Provisions of HR 4 ; Pension Protection Act of 2006 (ASPPA)

先々週、下院で可決された年金改革法案(HR 4)「Topics2006年7月30日 年金改革法案はほぼ絶望」参照)が、3日、上院でも圧倒的多数(93 vs 5)で可決された。まったくの無修正である。

上院での圧倒的多数による可決というと、胡散臭く、また、航空会社の積立義務も緩和されていることから、本気ではなくやっつけ仕事なんだとばかり思っていたが、Bush大統領は署名するだろうと報道されている(Washington Post)。管理人の見通しが間違いということになる。済みません。

もし署名されて法案成立ということになると、かなり大きな影響が出るだろう。とりあえず、概要となる資料をsourceに掲載したが、さらに詳しい解説書も掲載しておく。

8月1日 民主党の政策提言 Source : The American Dream Initiative

上記sourceは、7月22〜24日、Denverで開催された、Democratic Leadership Councilにて示された、政策提言集である。つまり、中間選挙に向けた民主党政策綱領といったものである。なぜこれに注目するかというと、この政策提言集のとりまとめ責任者が、クリントン上院議員だからである。

管理人からみたポイントは、次の通り。
  1. 中間層(middle class)に夢をもってもらうことを最大の特徴としている。

  2. 最初に、高等教育を受ける機会を高めることを主張している。

  3. 退職後の所得を確保するために、次の措置を講じる。
    1. すべての事業主に、全従業員向けの退職後所得勘定を開設することを求める。
    2. 6人以上の従業員を持つ事業主には、全従業員を、DBプランまたは401(k)プランに加入させることを求める。
    3. 年金プラン、Mutual Fundに対する監督を強化する。

  4. 医療費を抑制するために、次の措置を講じる。
    1. ITをフルに活用する。
    2. 小規模企業向けの一元的な医療保険プランを創設する。
    3. CHIPの拡大その他の方策を講じて、子供の無保険者をなくす。
気付きを5点ばかり。
  1. 医療について、クリントン上院議員は、みずからのスピーチの中で、「皆保険が理想だ」としながら、政策提言の中では、子供の無保険者対策を最優先の課題に挙げている。

  2. 民主党の中には、皆保険構想を主張している有力議員がいる。先日紹介したStark下院議員(「Topics2006年7月31日 連邦レベルの皆保険提案」参照)に加え、Kerry上院議員も、2004年大統領選時の提案(「Topics2004年6月11日 医療の政府再保険(Kerry提案) 」参照)を再提案している(AP)。

  3. 政策提言全体を通じて、非常に規制色の強いものとなっている。無から有を生み出すような感覚である。規制緩和に慣れている国民、市場が納得するかどうか。

  4. また、クリントン上院議員のスピーチが、優等生過ぎて面白くない。スクリプトを見てもわかる通り、Applauseはあっても、Laghterは一回のみ。この辺り、Bush大統領のスピーチとはかなり様子が異なる。

  5. とはいえ、こんなにクリントン上院議員が頑張っている中、クリントン「元」大統領は、カナダの国会議員との恋仲説が報道されてしまっている(the First Post)。どこまで足を引っ張るつもりなんだか。