11月10日 中間選挙結果と医療政策 Source : Election 2006 (New York Times)

バージニア州で上院議員選挙結果の確認作業が続いていたが、アレン候補(共和党・現職)が敗退を認め、中間選挙結果がほぼ確定した。バージニアの得票差は、僅か0.3%ポイントであった。

これで連邦議会は民主党がコントロールすることになる。確かに、民主党の上院51は、上出来であり、これまでの構図をひっくり返すものではある。しかし、これまでの上院で共和党が握っていたのは55であり、それに較べれば、まだまだ小さい。さらに、Filibusterを阻止するのに必要な60票には程遠いのである。そういった意味で、大統領が共和党である限り、必ずしも民主党の主張する政策が、ばんばん通っていくということにはならない。

そうした中で、国民的に関心の高い処方薬関係は、議論が進む可能性がある。中でも、処方薬関連で、製薬会社を標的にした法案が出てくる可能性はあるだろう(「Topics2006年11月7日 民主党議会で影響を受ける産業」参照)。特に、下院議長就任が確実視されているNancy Pelosi院内総務は、強い関心を持っている(「Topics2006年11月6日(3) 女性が握る連邦議会?」参照)。

具体的には、FDA改革(「Topics2006年10月31日(1) 新薬上市後の安全性確保」参照)、Medicareにおける処方薬価格抑制、Medicare Part Dの見直し、製薬会社の広告規制、などが考えられる。

他方、連邦レベルでの無保険者対策について、議会で議論は行われるかもしれないが、共和党大統領のもとで、実現性はかなり低いものと思われる。むしろ、無保険者対策については、州レベルでの動きが活発になるだろう。保険、医療に関する政策は、州の影響力が強い。

その意味で、28vs22という結果が将来にもたらすものは大きいと思う。また、22(共和党知事)の中でも、加州シュワ知事(再選)のように、高い関心を示している知事もいる。加州では、来年1月には皆保険制度導入に向けた選択肢の議論を開始することが決まっており、具体化が進むものと思われる。皆保険制度導入への動きが各州で高まったところで2008年大統領選を迎え、Mrs. Clintonが選出され、さらに連邦レベルでの議論が進む・・・。民主党にとって最高のシナリオとは、こんなところだろうか。

11月8日(1) DBとDCの定義 Source : Post-Employment Benefits (IAS PLUS)

IAS PLUSによれば、11月16日に開催されるIASB会合で、退職後給付会計が議論される予定という。

いよいよ4年のプロジェクトの議論が開始される。10月のIASB会合では、何も決定されなかったものの、DBとDCの区分基準について議論が行われ、その中心にあったのが、「リスクの帰属」であった。つまり、運用のリスクを、企業と従業員のどちらが負うか、という問題である。上記sourceによれば、ベルギーのDCでは、利回りの最低保障(フロア)が義務付けられており、このようなタイプは、今のIAS 19ではDBと定義される。

実は、大陸欧州では、この手のDCが結構あるらしく、オランダのCDCにも同様の性格があるそうだ。区分基準の設定次第では、DCがDBと見做され、給付債務を認識しなければならなくなる。当然、ベルギーのような国は、なるべく自国の制度がDCに分類されるように基準を求めていく事になろう。

ここで重要になるのが、この退職後給付会計プロジェクトが、FASBとの共同プロジェクトであるという点である。アメリカでは、税法により、DBとDCが定義付けられており、そこでは、厳格に運用指図とリスクの帰属により、DBとDCを区別している。欧州側でDCの定義を広げようとすれば、FASBを説得するだけでは済まず、アメリカの税制も動かさなければならない、というのが理屈である。

なかなかに大きな課題なのである。

といって、対岸の火事のような気分で居ると、いつの間にか日本のDCだけが、古色蒼然とした定義で残ってしまいかねない。欧米の議論の動向を注視するとともに、柔軟な対応が取れるように、関係者は備えておくべきだろう。

11月8日(2) 2008年大統領選へ Source : Eyes turn to 2008 presidential prize (Fiancial Times)

これをアップする時点で、中間選挙は、 となっている。上院で残っているバージニアとモンタナの結果は、とてつもなく大きな影響を持つ。どちらも共和党が現職であり、これが2つともひっくり返って民主党となれば、連邦議会は、完全に民主党が掌握する事になる。しかも、現時点で、どちらも民主党チャレンジャーがコンマ差でリードしているのである。明朝が楽しみ。

ところで、上記sourceは、投票結果が明らかになる前にFinancial Timesに掲載された記事であり、政治の世界は、既に2008年の大統領選に関心が移行しつつあるという。これによれば、大統領候補有力者は、次の通り。

民主党
共和党
Mrs ClintonMr McCain
Mr ObamaMitt Romney
John EdwardsRudolph Giuliani
Tom VilsackNewt Gingrich
Evan BayhBill Frist


当websiteでおなじみのMrs.ClintonとMitt Romneyの対決、なんてことになれば、面白い論戦が見られるのではないだろうか。

11月7日 民主党議会で影響を受ける産業 Source : Big business keeps eye on election (Financial Times)

昨日に続いて、民主党が連邦議会を握ったら、というFTの記事である。当websiteの関心事項で言えば、企業経営陣の報酬への監視強化、最低賃金の見直し、処方薬の価格抑制(特にMedicaid関係)あたりが注目されるところである。

選挙結果が判明するのは、いよいよ明日である。

11月6日(1) 加州無保険者対策の選択肢 Source : Covering California's Uninsured : Three Practical Options (California HealthCare Foundation)

何とかして皆保険に近い制度を入れようとする加州の試みは、涙ぐましいものがある(「Topics2006年9月10日 加州知事が拒否権発動」参照)。しかし、それだけ社会コストも、精神的コストも嵩んでいて、限界値に近づいているということなのだろう。

上記sourceは、加州に皆保険制度(または皆保険に可能な限り近い制度)を導入する場合に考えられる、3つの選択肢を比較衡量したレポートのダイジェスト版である(本文はここ)。3つの選択肢の背景にある思想がなるべく明らかになるように、そのポイントをまとめてみる。
  1. 諸前提

    1. 個人に医療保険プランの加入を義務付ける。企業、州政府の役割は、各選択肢で異なる。
    2. 企業が医療保険プランを提供する場合には、税制優遇措置を利用する。そうすることで、個人、州政府の負担は軽減される。
    3. 個人の加入が可能となるよう、段階的な補助金を用意する。

  2. MA皆保険法との共通点「Topics2006年4月10日 Massachusetts州の皆保険法案」参照)

    1. 州民に医療保険プランへの加入を義務付ける。
    2. 企業が医療保険プランを提供していない従業員については、"Exchange"(上記sourceのP.2)が選択肢を用意するとともに、企業が所得控除、保険料の天引き制度を利用できるようにする。
    3. あらゆる所得階層が保険加入できるよう、保険料補助を行う。

  3. 3つの選択肢の主な相違点 (詳細は、上記sourceP.3 Table 1)

    1. Basic Individual Mandate
      個人に医療保険プランへの加入を義務付ける。企業の保険プラン提供は義務付けない。

    2. Pay-or-Play Plus(MA型)
      企業に医療保険プランの提供を義務付ける。提供しない場合には、特別拠出を求める。

    3. All-Consumer Choice Exchange(ACE)(CA型)
      州単一の医療保険を提供する。企業には賃金の10.5%、個人には2.6%の拠出を求める。

  4. 試算の結果
    保険料負担と窓口負担の合計で、最も高くなるのがプランa。また州政府の財政負担が最も重くなるのもプランaとなった。
最後の試算をみる限り、州単一保険が最もハッピーというわけだが、それなら加州型皆保険法案を葬ったのはどういうことになるのか。生理的に単一保険がお嫌い、ということなのだろうか。それとも、役所仕事では、試算通りになんかならない、という州民の知恵なのか。

11月6日(2) MA皆保険法適用が半年遅れ Source : State to delay health care reform provision deadline (Boston Business Journal)

10月、MA州議会は、皆保険法適用について、半年間の猶予を与えることを決定した。具体的には、「従業員11人以上の企業に対しては、カフェテリア・プラン(§125プラン)の提供を義務付ける」との規定の適用(「Topics2006年4月10日 Massachusetts州の皆保険法案」参照)を、2007年1月1日から7月1日に延期した。表向きの理由は、安価な保険プランをさらに検討するため、とのことである。

事業主の義務関係の適用が遅れ、州民の納税申告書への記入記載、低所得者向けの保険プランの詳細が公表になっていない。

一方、法律では、州民の医療保険プランへの加入義務付けは、2007年7月1日となっており、周辺の準備が進まないまま、義務付けまでに8ヶ月足らずというところまで来てしまっている。しかも、Mitt Romney州知事は、今回の中間選挙では立候補せず、大統領選を目指すという。後任は民主党候補Deval Patrick氏が優勢と言われているが、いずれにしても、今から来年1月までは政治的空白が生じることになる。

仮に、民主党知事が誕生した場合、皆保険は民主党の重要な政策課題だとして、民主党がコントロールする議会と協力して全力を挙げて法の施行に間に合わせるのか、共和党知事が、しかも大統領選を目指す共和党知事が通した法を、そんな手垢にまみれたものを引き継げるか、と放置するのか。MA皆保険法の取り扱いは、次の新知事の手に委ねられたことになる。

11月6日(3) 女性が握る連邦議会? Source : In the Spotlight: Nancy Pelosi - waiting her turn to speak (Financial Times)

今年の中間選挙は、争点がイラク戦争になっているので、ほとんど興味が湧かないのだが、選挙結果には大いに関心を持っている。その選挙結果について、上記sourceの通り、Nancy Pelosiが下院を率いることになるのではないか、との観測記事が、Financial Times紙に掲載された。選挙直前に、こうした記事を掲載すること自体、ほとんど結果を占っているようなものである。

仮に、下院議長がPelosi女史になるとすると、上院がMrs. Clinton、下院がMrs. Pelosiがリーダー的存在ということになり、連邦議会は女性がリードすることになる。

Mrs. Clintonが中心になってまとめた政策綱領は、"The American Dream Initiative"(「Topics2006年8月1日 民主党の政策提言」参照)。また、Pelosi女史がまとめた民主党行動規範は、"A New Direction for America"。どちらも、医療、年金、教育、労働市場について、ウェイトを置いたものとなっている。今後のBush政権の2年間、議会との関係をどのように保つのか。当websiteにとって初めて体験する、新しい状況が生まれるかもしれない。