カナダのオンタリオ州教職員年金基金(OTPP)が、アメリカのペットフード会社を買収したとのことである。前の記事のUS Airwaysでは、アラバマ州職員退職基金(RSA)が大株主として投資し、すっかりスッテしまった(「Topics2004年8月18日(1) RSAも諦観か」参照)。
ペットを飼っていないので、このペットフード会社がどれだけ有名なのかは知らない。しかし、買収規模が$840Mというから、かなり大きな企業であることがうかがえる。
この情報で驚いたのが、実際の買収を行ったのが、OTPPの子会社であるTeachers' Private Capitalという投資会社だということである。州政府年金基金が投資会社を保有しているのだ。また、年金基金の投資方針を見ると、資産の60%以上は伝統的な投資(債券、株式等)としながら、それ以外に不動産、企業経営など、様々な運用を行っている。非常に積極的な資産運用を行っていることがわかる。
ただし、こうした積極的な運用は、ここ数年の傾向であるらしい。そうした意味では、RSAとよく似た存在であり、その成否はこれから判断されることになると思われる。
US AirwaysとPBGCが年金引継ぎ内容について、合意に達したようだ。US Airwaysは、American West航空との合併(「Topics2005年5月23日 US Airwaysが合併」参照)により、再建を図ることにしており、今回のPBGCとの合意により、合併・再建は大きく前進することになる。具体的には、9月2日にこの合意事項に関するヒアリング、9月15日開催予定の破産裁判所における再建プランに関するヒアリングで、関係者の意見陳述があり、その後、正式なものになるとみられる。PBGCは、引継ぎにあたり$2.7B必要と主張していたことからすると、US Airwaysはない袖は振れぬとういことから、合併後の株式に置き換えられたということだろう。もちろん再建がうまくいけば、支障は生じないだろうが、もし再建が失敗すれば、PBGC大変な損失を被ることになる。PBGCは、債権者委員会にも参加しており(「Topics2004年9月22日(1) US Airwaysの債権者委員会」参照)、US Airways再建に責任を持つ立場にあるため、こうした合意に協力せざるを得ないのだろう。PBGCが債権者委員会に参加することに伴う問題点が、また一つ明らかになったようだ。
両者の主な合意内容は、次の通り。
- 年金の引継ぎにあたり、US AirwaysからPBGCに対して、@現金$13.5M、A手形$10M、B再建プランのもとで無担保債権者に配布される株式の70%を拠出する。
- 上記株式は、再建(合併)後、最低5ヶ月間は売却しない。
≪US Airwaysに関するarchives≫
従業員200人以下規模の小企業で、どのような医療保険が提供されているのか。上記sourceは、その実態をアンケート調査から描き出している。そのポイントは次の通り。
ここで、注目したいのが、上記4の「医療保険に加入させないインセンティブ」である。具体的な内容としては、
- 97.4%の小企業が医療保険ベネフィットを提供している。22.8%の小企業が保険料を全額企業負担としている。
- 27.6%の小企業が、就業当日からの加入を認めている。残る72.4%が何らかの加入資格基準を設けている。典型的には、正規社員の場合には69日間の就業を条件としている。また、パートタイマーについては、週28時間以上の勤務を条件としている。
- 92.8%の正規社員が加入資格を有しているのに対し、パートタイマーでは、38.5%しか加入資格を得ていない。ところが、実際に医療保険プランに加入している割合は、正規社員78.4%、パートタイマー12.8%に過ぎない。
- 14.0%の小企業が、従業員が医療保険プランに参加しなかった場合のインセンティブを用意している。
- 提供されている医療保険プランは、PPO、HMO、PSの3種類に絞られている場合が多い。
- 従業員1人が医療保険に加入した場合、そのコストは従業員の年間報酬の14.6%に相当する。
- 平均で、保険料の63.4%を小企業側が負担している。22.8%の小企業が保険料全額を負担している一方、10.7%の小企業が保険料全額を従業員負担としている。
- 医療コスト抑制策として普及しているのは、@従業員の自己負担増、A保険プランの変更、B従業員の保険料負担増である。
- 86.3%の小企業が、直接保険会社から保険を購入しているのに対し、他の企業と協力して(例えば仕入先との共同)購入しているのは、わずか1.7%しかない。
などが挙げられている。HSAへの拠出は、従業員自らが医療保険プランを選択しろということであろう。また、その他の例は、カフェテリア・プランの一選択肢と思えば、当たり前のようにも思える。こうしてみると、従業員選択の医療保険プラン(CDHP)、カフェテリア・プランというのは、企業側が医療保険プランの運営コスト・責任を一部回避することが可能となる方策ということにもなる。また、企業側も、そうした意図を持ってこれらの制度を導入しているということになる。何だかアメリカの医療保険の現実を垣間見たような気分である。
- 現金還元
- HSAへの拠出
- 報酬増
- 他のベネフィット(例えば401(k))への拠出
上記sourceは、アメリカで最初にプロフィット・シェアリング・プランが導入された1794年から現在に至るまでの、福利厚生に関する簡易年表である。
こうしてみると、福利厚生の世界では絶対視されがちなERISAでさえ、成立から30年しか経っておらず、近代的な福利厚生制度の歴史の中では、ほんのわずかの期間に過ぎない。また、冒頭、20世紀後半が、福利厚生の量的拡大のピークであったのではないか、との見解が示されている。これも、ERISAによる規制と無関係ではないだろう。福利厚生の規制が多くなれば、それに伴うコストをどうしても考慮せざるを得なくなる。その典型が、支払保証制度と時価会計であろう。
翻って、日本の歴史はどうであったかというと、公的制度の年表は普及しているものの、民間の制度を含めたものとなると、なかなか見当たらない。年金分野の「企業年金白書」くらいか。寂しいものである。
上記sourceは、アメリカにおける福利厚生の現状と趨勢をまとめたものである。企業年金、医療保険については、ある程度把握できているので、ここでは触れず、その他の福利厚生について、ポイントをまとめておきたい。
当websiteでは何度も紹介しているように、アメリカ企業は様々な福利厚生を提供している。そして、その内容、種類も多様化している。その一例として、アメリカの女性経営者は、ユニークな福利厚生を提供しているという。いくつかの事例が、この記事で紹介されている。
- 有給休暇
民間企業では、77%の従業員が有給休暇の取得が可能となっている。
- FMLA
FMLAは無償となるが、中大企業では14.5%の従業員が取得可能となっている。
- 生命保険
中大企業の従業員の70%近くが、生命保険でカバーされている。そのうちの58%の保険給付額が年間報酬と同額となっており、25%が2年分となっている。
- 障害保険
中大企業の従業員の40%以上が短期障害保険でカバーされている。6ヶ月の有給休暇というのが典型である。また、40%近くの従業員が長期障害保険でカバーされている。
- 弾力的な勤務時間
中大企業の従業員の62%が、勤務時間を弾力的に動かすことができる。
- 保育・高齢者ケア
保育サービスを利用できる従業員は、1990年代半ばには7%しかなかったが、2004年には32%となった。また、高齢者ケア・サービスは、中大企業従業員の21%が利用できる。従業員が仕事と家庭生活のバランスを図るために有効である。
- 介護保険
介護保険の提供は急速に普及している福利厚生の一つである。中大企業で介護保険の利用が可能となっている従業員は、2002年に20%であったのが、2003年には30%に伸びている。
- 大学教育支援
大学の学費高騰を反映し、大学生といえどもフルタイムで働く必要性が高まっている。大学卒業生の5分の1は、事業主から学費の支援を受けている。
この記事で、ある女性経営者が、次のような身につまされる言葉を述べている。
"While women employees are programmed to want more than work in their lives, men are learning to want the same. Men appreciate balance in their lives as much as women do."女性はもともとプログラムされている、というなら差があっても仕方がないか、とは思いながらも、家族が皆寝静まっている家で、夜中にこんなことをしている自分は、果たしてバランスを取ろうとしているのかどうか、少し不安になってしまう。
先週土曜日、Northwest航空の整備士がストライキに入ったが、同社の他の組合、例えば、パイロット、フライト・アテンダントなどの組合から協力を得られていないとのことである。原因は、同社の整備士の組合がAircraft Mechanics Fraternal Association (AMFA)に所属しており、AMFAはAFL-CIOとは反目していることにある。
従って、Northwest社にとっては、同組合のストライキはそれほどの打撃になっておらず、むしろ、同組合を崩壊に導く好機とみているようである。専門家によれば、そうした動きは、やがて、反目していた他の労働組合にも及び、同社における労組の位置付けが、極めて脆弱なものとなることが予想されるそうだ。
労働組合同士が反発していることで、従業員にとってのメリットとは何かを真剣に議論できない状況に陥ってしまったように思われる。AFL-CIOの分裂(「Topics2005年8月3日 3つめの離反」参照)は、こうした状況が全米で広がる可能性を秘めている。
22日、カリフォルニア州最高裁判所は、同性カップルに親権ならびに親としての義務を全面的に認める判決を下した。同性カップルの親権および扶養義務を巡る3件の事件について判断したものである。
この州最高裁の判決を受け、加州では同性婚に関する州憲法改正議論が再燃するだろう。また、判決が下った事件の中には、敗訴側が連邦最高裁に判断を仰ぐ手段を検討していることから、同性カップルの権利と義務に関する連邦最高裁の判断が示される可能性も出ている。
余談だが、3件の事件については、地元Los Angels Times紙の記事で、詳細に紹介されている。卵子の提供、人工受精、代理出産といった医学の最先端技術と、同性愛、離婚が複雑に絡み合っているという印象だ。