9月10日 処方薬再輸入法案は先送り Source : Dems may try to force drugs vote (AP)
上記sourceによれば、上院Majority LeaderのBill Frist議員が、8日、「処方薬再輸入法案を大統領選前に議決する予定はない」と発言した。理由は、大統領選まで23日しかなく、安全性確認のための充分な議論ができない、というものである。
本件については、州、自治体レベルでの要望が強く、また、超党派のサポートも得られそうなところから、夏前にも決着するのではないか、との観測が流れていた(「Topics2004年5月25日(1) 処方薬再輸入法案は夏前に決着か?」参照)。これまでの経緯からいって、法案支持派からすれば、Frist議員の上記発言は約束違反であり、とんでもない、ということになる。
そうした批判を予測しながらも、Frist議員が今この時点で発言したのは、やはりWhite Houseの意向であろう。現時点で上院採決になれば、おそらく賛成多数で法案が通過する。すると、最終決断は、Bush大統領に委ねられることになる。Bush大統領が署名すれば、製薬業界が反発する。署名を拒否すれば、州・自治体や、高齢者からの反発が予想される。いずれにしても好ましくないので、取り敢えず、Bush大統領が決断せざるを得なくなるような状況は回避しよう、ということなのではないだろうか。
それにしても、あれだけ明白な取り引きをしておきながら、それを反故にするというのは、相当なリスクのような気がする。
9月9日 HSAsの課題 Source : Health Savings Accounts and Other Account-Based Health Plans (EBRI) (要約のみ・本文有料)
医療貯蓄勘定(Health Savings Accounts、HSAs)への期待が高まっている(「Topics2004年7月27日 HSA滑り出しは好調」参照)。そうした中、EBRIから、その課題に関する研究論文が公表された。なお、HSAsの制度詳細については、「Topics2004年1月7日(1) 医療貯蓄勘定」を参照。
上記sourceで指摘されている課題及び論点は、次の通り。
- 経営者の関心度合
- National Small Business Association(NSBA)の調査によれば、中小企業経営者の73%が、HSAsに関心を寄せている。Hewitt Associatesの調査では、61%の企業がHSAsを提供したいと考えている。また、Mercer Human Resources Consultingの調査では、19%の経営者が2006年までにHSAsを提供したいと考えており、さらに54%の経営者が提供を検討している。
- 従業員の意識と負担
- HSAsは、従業員の医療費に対する関心を高める効果があるとの意見がある一方、企業から従業員へのコスト移転であるとの批判もある。
- 医療費増加に対する影響
- 企業が提供する医療保険プランの場合、2001年の一人当り平均医療費は$2,454である。この平均を上回るのは、全体の25%しかいないが、この25%が医療費全体の80%を使っている。この25%の人達全てがHSAsを利用したとしても、医療費全体の増加を抑制することは難しい。また、医療費の消費が少ない層の医療費を、HSAsでさらに減らすことも難しい。
- 逆選択
- HSAsは、比較的健康な人が選択するとの批判がある。しかし、もし、HSAsが比較的裕福な層にとって魅力的であれば、この逆選択の効果は相殺される。なぜなら、比較的裕福な層とは中高年層であり、したがって比較的健康ではないからである。
- 企業側の選好
- 大企業は、HSAsではなく、HRA(Health Reimbursement Arrangement)を好む傾向にある。HSAsでは、予め従業員の勘定に拠出しなければならないが、HRAは、仮想勘定であり、実際に医療費を支払う必要が生じた際に拠出すればよい。また、HSAsは、高額免責プランに加入した従業員全員を対象にしなければならないが、HRAなら企業側で対象者を限定する(例えば、高額医療費利用者に限定する)ことが可能となる。
(詳細は「医療貯蓄勘定 比較表」参照)
中小企業の場合は、伝統的な医療保険プランの方が、人材の確保や生産性向上に役立つと考えているため、HSAs等への移行はそれほど進まない。
- 免責額のトリック
- HSAsの要件として、個人の免責額$1,000以上、家族の免責額$2,000以上となっている。夫婦のみの場合、一方が健康なら、他方の実質免責額は$2,000になってしまう。それなら、夫婦それぞれが個人で加入する方が得ということになる。
- 受診行動への影響
- HSAs等は、従業員の医療保険プランへの関心を高め、コスト意識の高揚に資すると見られる。多くの企業では、HSAsの提供とともに、低価格の医療機関での受診や処方薬へのインセンティブを用意している。
9月8日 フレックスタイムの実態 Source : Flextime Bids Fond Farewell To the 9-to-5 (Washington Post)
- 医療保険プランの適用除外
- 有給病気欠勤の対象外
- 有給休暇を年間15日から6日に削減
- サラリーの約半減
これらは、ある企業の会計部門で勤務する女性で、1年間の育児休暇を取った後、週3日の勤務を選択した従業員への待遇変更措置である。
アメリカでは、フレックスタイムの人気が高いと言われるが、実態はこうしたものであるらしい。実際にフレックスタイムを利用しようとすると、同僚や上司から、特別扱いの従業員、仕事に没頭していない従業員と見られてしまうらしい。こうしたレッテルと怖れて、フレックスタイムを利用しようとしない従業員も多いという。
労働省の2001年5月時点の調査によれば、28.8%(男30%、女27.4%)のサラリーマンが、何らかの形でフレックスタイムを利用しているが、実態がこういうことであれば、優秀な従業員ほど、敬遠することになろう。
アメリカ人といえども、世間の目が気になるということのようだ。
9月7日 過誤保険料の高騰 Source : D.C. Malpractice Insurer Feels Squeeze (Washignton Post)
上記sourceは、Washington D.C.周辺で、過誤保険料が高騰している、との記事である。具体的には、次のような事象が起きている。
極めつけが、West Virginia(WV)州である。ことの経緯は、概ね次のようになっている。
- 1970年代半ば、今と同様に、医療過誤に対する損害賠償が高騰した。各州では、医療過誤訴訟の条件を厳しくするなど、法改正で対処しようとしていた。
- 一方、医師達は、自ら保険会社を設立することで対応しようとした。Washington, D.C.では、1980年、NCRICが設立された。
- 1980年代半ばまでは、訴訟が増え続けたためにNCRICの経営は苦しかったが、1990年代は順調な経営を続けた。その間、営業範囲も、Virginia、Maryland、Delaware、そして1999年にはWV州にまで拡大した。
- 景気の下降と医療費の高騰が重なり、NCRICは、昨年、損失を計上した。2004年も経営は苦しい状況にある。
- 昨年、NCRICは、WV州に対して、2004年の保険料を35%引き上げたいと要請した。
- これに対し、WV州 West Virginia Insurance Commission は、9.8%の引き上げを認めた。
- NCRICは、直ちに、WV州内の保険契約対象の医師250人に対し、更新をしない旨連絡した。つまり、WV州から撤退することを決定した。
- 最終的には、今年8月に、West Virginia Insurance Commissionがさらに9.5%の上乗せを認めたので、NCRICはWV州に復帰した。
このように、州レベルでは、医療過誤保険の提供者がいなくなりつつあるのである。医療過誤保険高騰の理由は、様々に指摘されているが、実際、こうした形で医療過誤保険の提供がなくなるようなことになれば、医師にとっても患者にとっても、不幸な事態となる。
話は少し変わるが、Maryland(MD)州で活動する医療過誤保険会社、Medical Mutual Liability Insurance Society of Marylandも、上記NCRIC同様、もともとはMD州の医師達が自ら設立した保険会社であったとのことだ。自ら設立したとはいっても、ビジネス・ベースに載せて立ち上げているために、ビジネスの論理で運営され、最終的には医師達に高額の保険料を請求せざるを得なくなるというのが、いかにもアメリカらしい現象だと思う。
最後に、本筋とはまったく無関係なのだが、上記sourceに、懐かしい人物名が引用されていた。Dr. Mark S. Seigel, MDである。上記sourceでは、Maryland State Medical SocietyのPresidentとして紹介されている。 実際の役職は、2003-2004の理事長ということらしいが、ともかく、MD州では、最も名誉ある医師であることは間違いない。彼は、産婦人科の開業医で、我が家の第四子は、彼に取り上げてもらった。とても親切で、説明もわかりやすく、好印象を持っている。中でも、彼が、「日本の産婦人科医は、何回まで帝王切開ができるのか。自分は5回までできる」と自慢していたのをよく憶えている。実際、腕の立つ名医ということで、ベセスダ周辺の日本人は、彼の医院によく訪れていた。上記sourceは、そんな懐かしい生活を思い出させてくれる記事であった。
9月6日 Medicare保険料大幅引上げ Source : Medicare Premiums to Rise 17.5 Percent Next Year (Washington Post)
Medicare保険料は、例年、10月下旬に公表される予定である(「Topics2003年10月22日 Medicare保険料引き上げ」参照)。しかし、CMSのMcClellan長官は、プレスに対して、2005年のMedicare Part Bの保険料が、17.5%もの大幅上昇になる見込みであると述べたようだ。新任長官(「Topics2004年3月14日 上院でのかけひき」参照)であるために、すこし口がすべったのかもしれない。
背景はともかく、Part Bの保険料の上がり方は、半端ではない。10年間で84%増、ここ2年間だけで、30%増にもなっている。
Medicare Part B Premium
年 | 保険料($/M, 月額) | 上昇率(%) |
2005 | 78.20 | 17.4 |
2004 | 66.60 | 13.5 |
2003 | 58.70 | 8.7 |
2002 | 54.00 | 8.0 |
2001 | 50.00 | 9.9 |
2000 | 45.50 | 0.0 |
1999 | 45.50 | 3.9 |
1998 | 43.80 | 0.0 |
1997 | 43.80 | 3.1 |
1996 | 42.50 | - |
こうした保険料値上がりの原因として、CMS長官は、医療機関への支払を増やしていることを挙げている。
ただ、この時期に、長官自ら来年の保険料の大幅値上げについて言及するというのは、理解しにくい。曲解すると、『例年通り、10月下旬に公表した場合に、サプライズが大きく、大統領選に及ぼすネガティブ・インパクトが大きい。これを回避するため、今から流しておいて、折込済みという状況を作り出しておく』ということも考えられる。
9月2日 シュワちゃんのDream Source : No country more welcoming than the USA (CNN)
8月31日の共和党大会で、シュワ加州知事が演説を行った。上記はその全文である。昔、"I Have A Dream"という名演説があったが、やはり、アメリカ人にとって、そしてマイノリティにとって、夢は尊いもののようだ。
シュワちゃんの「夢」演説を読んで、感想を3点。
- Greenspan FRB議長の名ぜりふ(「Topics2004年8月31日 FRB議長の名ぜりふ」参照)とも合い通じるものを感じる。移民者にとってオープンな社会は、強いぞ、という自信である。
- 同じ移民とはいえ、アメリカで最も人気のあるKennedy家の女性と結婚できた(「Topics2003年8月7日 シュワちゃん起つ」参照)というのも、シュワちゃんにとって、大きな夢の達成と感じているだろう。もっとも、Kennedy家を共和党に引っ張り込むことには成功していないようだが・・・。
- 最後に、この演説は、加州知事のものではなく、アメリカ大統領その人が行うべき演説のように聞こえる。実際、シュワちゃんの23分間の演説の中で、アメリカが47回、共和党が15回、そして、Bushが6回、出てくる(LA Times)。読んでいただければわかるのだが、共和党もBushも文末に付け足しのように出てくるだけで、これらの単語を省いてしまっても、充分説得力のある演説になると思う。もっとも、こればかりは、最後まで夢のまま、ということであろうが。
9月1日 US Airways取締役交代 Source : FORM 8-K (to SEC) (US Airways)
8月27日、US Airwaysの取締役が交代した。
US Airwaysが従業員向けに説明した資料によると、15名の取締役の構成は次のようになっている。
- アラバマ州職員退職基金(RSA)による指名 → 8名
- CEO → 1名
- 社外取締役 → 2名
- 従業員組合代表 → 4名 (*Preferred Stock=優先株式
)
- Series 1 of Class C Preferred Stock → The Air Line Pilots Association
- Series 2 of Class C Preferred Stock → The International Association of Machinists and Aerospace Workers
- Series 3 of Class C Preferred Stock → The Association of Flight Attendants-Communications Workers of America AFL-CIO, International and the Transportation Workers Union of America
- Series 4 of Class C Preferred Stock → The Communications Workers of America
今回退任したのは、Perry L. Hayes氏といって、US Airwaysの従業員であり、かつフライト・アテンダント組合の代表者であった。その代わりに就任したのは、Thomas R. Harter氏という、コンサルタント会社The Segal Companyの、senior vice president and consultantである。 Harter氏は、従前と同様、フライト・アテンダント組合の代表ではあるが、US Airwaysの従業員でもなければ、組合員でもない。
上記sourceによれば、Harter氏は、Segal社で、組合側のコンサルタントとして、年金プラン・医療保険プランの設計に携わっていたし、Segalの前には、AARPで活動していた。つまり、労働者側の立場を充分理解したベネフィットのプロなのである。
そういう人物を、この時期に取締役に就けたということは、明らかに年金プランに関する事業主側の防衛策、特に、受託者責任の遂行を怠ったとの批判を受けないように対策を講じたものと理解できる。Delta航空の対策(「Topics2004年8月24日 Deltaの年金プランと受託者責任」参照)と同様、Enron事件の教訓が生きているものと思われる。
また、組合側・従業員側も、自分達の代表者を取締役に送り込みながら、みすみす利益を喪失するよりも、ベネフィットのプロに経営参加してもらうことで、自分達の利益を最大限確保するように図ったのだろう。
このように、今回の取締役交代は、事業主・従業員双方の利益が一致した結果ということができよう。ただ、穿った見方をすれば、X-Dayが近いという、双方の危機感の現れということかもしれない。