5月28日 SO法がもたらしたコスト
 Source : The Cost of Being Public in the Era of Sarbanes-Oxley (Foley & Lardner LLP)

Enron事件をきっかけに導入されたSarbanes-Oxley法(「Topics2002年7月25日(1) 企業不正防止法」「Topics2002年7月27日(1) 企業不正防止法案」参照)は、会計・監査の枠組み、実務に大きな変化をもたらした。上記sourceでは、その影響の大きさを、2002、2003、2004年のデータをアンケート調査により収集し、分析している。

その中で、最も印象的なデータは、次の表だ。

COST


上場を継続するためのコストが、立った2年間で130%増と、倍以上となってしまった。事業規模が大きくなれば、コストの絶対額は倍以上であり、大企業にとってのコスト増は、大変な負担となっている。

Enron事件発生当初、当websiteでは、次のように記述していた。
Enron問題は、大きく分けて、4分野にわたっている。

・会計監査
・企業年金
・エネルギー政策および取引規制
・政治資金

 私は、エネルギー政策についてはほとんど知らないので、あまり断言はしにくいが、それでも敢えて言わせてもらうと、この中で最も危機感を感じているのは、会計監査の問題だ。

Topics2002年2月7日「議会証言」より)
本当にとんでもないコストを企業は負担することになってしまった。

5月25日(1) 処方薬再輸入法案は夏前に決着か? Source : Lawmakers Call for Senate Vote on Prescription Drug Reimportation Legislation Before July 4 Recess (Kaisernet)

いよいよ処方薬再輸入法案(「Topics2004年4月25日 上院両党有力者による法案」参照)が本格的に審議されることになりそうだ。上記sourceによれば、上下院議員が上院Majority LeaderのFristに対し、7月4日の独立記念日前に投票を行うよう求めているそうだ。つまり、夏休み前に決着をつけろ、と言っているわけで、これは本気と見ておいた方がよさそうだ。

所管官庁であるHHSもゴーサイン(「Topics2004年5月6日(2) HHS長官の意外な発言」参照)を送っており、後は、共和党幹部とWhite Houseの決断が残るのみ、という状況である。

5月25日(2) 改正破産法成立(日本) Source : 破産法案要綱(法務省)

25日、衆議院本会議で、改正破産法が成立した。当websiteでは、労働債権としての未払い給与・退職金の優先順位という観点から注目していた(拙稿「アメリカ倒産手続きにおける労働債権の取り扱い」p.10〜参照)。

今回の改正により、労働債権としての未払い給与・退職金は、税・社会保険料に優先することとなり、ILO 第173 号条約第8条の要件を満たすことになる。具体的には、上記sourceのここの部分が該当箇所である。未払い給与等を財団債権とし、財団債権を破産債権より優先することにより、労働債権を確保するという形になっている。

日本もようやく、お国の徴税よりも国民の労働債権の方が優先されることとなった。

5月24日 Societas Europaea Source : 欧州会社法の概要(外務省)

"Societas Europaea (SE)" とは、European Company(欧州会社)のラテン語だそうだ。2004年10月から、EU加盟各国の会社法に縛られず、このSE法に基づく会社が設立できるようになる。

SE法に基づき設立されたSEは、EU加盟のどこの国でも設立でき、一旦登記した後も、本社登録をEU域内ならどこにでも変えられる。しかも、会社法が各国会社法に基づかないため、大きな組織変更もせずにすむことになる。

とはいっても、説明会等で聞いていると、SEが各国法制度に縛られないかというと、そうでもなさそうだ。例えば、法人税は、本社を設置した国の多国籍企業と同様に扱われることになる。つまり、税法は、まだまだ統合が進んでおらず、加盟各国の主権の違いにより、適用が異なっているわけだ。

また、労働法についても、加盟各国の違いが温存される形になっている。特徴的なのは、従業員の経営参加に関する規定である。欧州、特に大陸では、従業員の経営参加の度合いを強めてきた歴史がある。しかし、従業員の経営参加の強制度合いは、国によって異なる。法律事務所の説明では、フランス、ドイツ、イタリアでは、経営参加を強制する色合いが強いのに対し、スペイン、イギリス、東ヨーロッパ諸国では、それほど従業員の経営参加を求める度合いは強くないそうだ。

例えば、ドイツでは、次のような強制法規となっている。
  1. 従業員代表を含めた事業場単位の協議会を設ける。
  2. この協議会では、リストラ計画、工場閉鎖、解雇、雇用、従業員の移転等について決定される。
  3. 雇用規模2000人以上の企業では、経営側と従業員側同数で構成する経営協議会を設ける。
  4. 雇用規模500人以上の企業では、従業員側の構成比が3分の1以上となる経営協議会を設ける。
ここで、ドイツ国内の企業だけでSEを設立する場合は、上記のようなドイツの労働法がそのまま適用となる。しかし、イギリスとドイツの企業が共同でSEを設立し、ドイツ国内にも事業所が設立されるような場合、従業員参加の度合いが強い方、つまりドイツの労働法が適用となる。これは、税法と異なり、本社を動かせば適用が変わるということはない。つまり、SEを設立する段階で、この労働法の適用がどうなるかを見極めなければ、大変な思惑違いが発生する可能性がある。

労働者の経営参加という古くて新しい課題だが、その手法は世界各様である。ドイツ、フランスのように、強制法規により参加を促進させてきた国、アメリカのように、ESOPやストック・オプション、従業員持株制度で図ってきた国、日本のように、労使合意を基本とする文化を育ててきた国。EUは、経済統合を果たしたものの、まだ労働法という極めてセンシティブな分野では統一が進んでいない。今回のSE法施行に伴い、欧州における労使関係のモデルがどのように動くか、またアメリカ、日本にどのような影響をもたらすのか。時間をかけてじっくりと観察していきたい。
参考資料
  1. Council Directive 2001/86/EC of 8 October 2001
    Supplementing the Statute for a European Company with Regard to the involvement of Employees
    (欧州会社法「従業員関与指令」)

  2. 欧州会社法「従業員関与指令」(中野 聡)

  3. Labor Law Issues (Ingrid Deuchler, White & Case LLP)

  4. Council Regulation (EC) No 2157/2001 of 8 October 2001
    on the Statute for a European Company (SE)

5月21日(1) Enron年金の和解内容 Source : Memorandum (The Southern District of Texas, Houston Division)

「Topics2004年5月16日 Enron年金の和解」について、連邦地方裁判所から公表された公式文書である。ご参考まで。

5月21日(2) CalPERS 38病院との契約見直し Source : CalPERS Adopts Hospital Pricing Reform (CalPERS)

19日、CalPERSは、予定通り、理事会を開催し、38医療機関を2005年から契約対象外とする決定を行った(「Topics2004年5月18日 医療保険市場の支配力」参照)。もう少し正確に述べると、the Blue Shield HMOの契約対象からはずしはするものの、加入者の自己負担が高まるPPOでは対象となる。もし、加入者が2005年以降も診療を受けたいと希望するなら、PPOで継続することは可能となっている。

現在、CalPERSのBlue Shield HMOは、225の医療機関と契約を結んでいるとのことなので、今回、1割以上、契約病院を減らしたことになる。CalPERSでは、この決定により、年間$36Mが節約できると予測している。

この決定に対して、グループ医療機関のうち11を対象外とされたSutterは、「大変残念である。Sutterは医療コストの抑制に役立つ提案をしていた」とコメントを出している(Sutter Notice)。また、「CalPERSが他の医療機関とのコスト比較を開示しないために、Sutterの診療コストが高いのかどうか検証できない」との発言も報道されている(Sacramento Bee)。

CalPERS理事会では、10対1の圧倒的多数で決定したようだ。加入者の医療機関へのアクセスを大幅に縮小する重大な決定にしては、反対が余りにも少ないとの印象を持つ。

別の報道によれば、最近、CalPERSの理事会は、企業のコーポレート・ガバナンスを巡って、経営者との間で対決姿勢を強めており、Business Roundtableや全米商工会議所との間で論争を繰り広げているそうだ(LA Times)。その背景には、CalPERSの理事のほとんどが労働組合を出身母体としていることがあるようだ。労組出身の理事達が、株主としての立場を利用して、経営側に圧力をかけており、その行動は、政治的な色彩が強まっているらしい。

そういう背景を考えると、今回の決定も、「労働組合-民主党」vs「医療機関-共和党」という構図の中で行われたと見ることもできる。

そういった穿った見方をされないためにも、CalPERSの主張の論拠を数字で示すべきである(←日本とまったく逆だよな !)。