5月7日 Cash Balanceの会計基準
Source : FASB TO PROPOSE RADICAL CHANGE IN ACCOUNTING FOR CASH BALANCE PLANS (Mellon)
3月31日のFASB会合において、Cash Balance Planに関する会計基準の見直しに関する仮決定が行われた。
今後の予定としては、5月中に見直し案の公表、パブリック・コメントの募集(最低60日間)、2004年第4四半期に最終決定、2004年12月15日以後適用というスケジュールが見込まれている。
上記sourceは、見直し案に盛り込まれるであろう事項とその影響についてまとめたものであり、そのポイントは次の通り。
- FASB仮決定の概要
- 付与利子率が変動する場合は、PBOを仮想個人勘定の総計と等しくする。
- ルール改定に伴うPBOの増減は、追加費用として即時認識する。
- 資産がABOを下回っている場合には、ABOの増分はスポンサー企業の資産を減少させる。
- 見直し案の背景(FASBメンバーの思考)
- 将来時点での給付額をもとに給付債務を計算することに疑問がある。しかも、現時点での仮想個人勘定の総計を下回るようなケースは問題である。
- 欧州の最低保証年金プランについて、IASBが同様の仮決定をしている。国際会計基準との統合を念頭に置いている。
- 企業幹部を対象とした退職給付DCプランは、現時点での個人勘定を給付債務として認識している。このDCプランとCBプランの間には、本質的な差異はない。
- 将来の付与利子率に関する見通しが不透明である。
懸念される問題点
- 他のDBプランとの不一致
新ルールでは、財務報告書作成時点で受給権を有する従業員が退職するという想定で給付債務を計算することになる。他のDBプランでは、受給権を有する従業員が将来のある時点で退職するという想定で給付債務を計算することになり、同じDBプランでありながら、給付債務の考え方が異なる。大幅なルール変更は、DBプラン全体に適用されるべきである。
- 同じCBプラン同士の不一致
付与利子率が固定されている場合には現行ルールを適用し、変動する場合には新ルールを適用することになる。このため、付与利子率の制度設計によって給付債務が異なることになる。また、付与利子率が違っても、PBOが同じになる場合も考えられる。
仮想個人勘定の総計を給付債務を認識するというのでは、大数の法則に基づくDBプランの特徴が全く活かされないことになる。付与利子率変動プランを狙い撃ちにするようなルール変更を行えば、これらのプランはDCプランへの移行を選択することになるだろう。会計ルールにより年金プランの選択肢が狭められるような事態は回避すべきと考える。
5月6日(1) EEOCの決定
Source : EEOC APPROVES PROPOSAL TO EXEMPT RETIREE HEALTH PLANS FROM AGE DISCRIMINATION IN EMPLOYMENT ACT
長い間懸案となっていた退職者医療保険プランと年齢差別禁止法の関係に、ようやく終止符が打たれようとしている。
4月22日のEEOC会合において、昨年7月にEEOCが提案した解決策(「Topics2003年7月17日(1) 年齢差別禁止法と医療保険 その2」参照)について、3対1の賛成多数で、認めるとの判断が下った。
内容的には、伝統的な退職者医療保険プランを是認するものだ。すなわち、Medeicareを受けられる65歳以降とそれ以前の退職者の間で、給付内容に格差を認めるという内容である。いわば、常識的な判断が優先された訳だが、司法判断との食い違いが依然として残っているため(拙稿「年齢差別禁止法と退職者医療保険」参照)に、ことはそう簡単ではない。実際、高齢者団体としては最強のAARPは、このEEOCの裁定に、猛然と反対している。
今後は、政府内部での合議の後、正式にEEOCのルールとして公表されることになるが、その時期は、今年の夏と見られている。民主党幹部であるSen. Kennedyは、Bush政権のミスとして攻撃する構えを見せているものの、常識的な判断との見方が強く、大きな政治的課題となることはないと見ておいた方がよさそうだ。
5月6日(2) HHS長官の意外な発言
Source : Bipartisan Prescription Drug Reimportation Legislation Will Likely Pass Congress, Bush Should Not Veto, HHS Secretary Thompson Says (Kaisernetwork)
処方薬の再輸入法案について、思わぬ援軍が現れた。処方薬輸入の解禁に慎重な姿勢を見せていたHHSの長官が、「超党派が支持する法案は可決されるだろうし、その場合、大統領は拒否権を発動すべきではない」との見解を示したのだ。
「Topics5月2日 注目されども進展なし」で、処方薬の再輸入法案が今年成立する見込みは低いとの見方を紹介したばかりだったので、私自身も驚いた。
もちろん、HHS長官は、安全性確保のための手段が必要であり、そのために要するコストのために、再輸入処方薬が劇的な値下げをもたらすことはないということについて釘をさすことも忘れていない。それでもよければどうぞ、という感じなのかもしれない。
官僚的な発想に立てば、これは「焼け太り」であり、権限強化のまたとない機会でもある。
HHS長官が強く反対しないとの立場を表明したことで、本件の焦点は、再輸入解禁が処方薬コストの低下に効果的かどうかという、現実的な政策効果に移っていくものと考える。
5月2日 注目されども進展なし Source : Health Care Issues in 2004 Election Campaigns (BusinessWeek)
BusinessWeek誌で、選挙年で注目される医療問題について、特集を組んでいる。上記sourceは、特集記事を一つにまとめたものであるが、そのうち、選挙民の関心を集めているであろうと思われる項目3つについて、その概要ポイントをまとめておく。
- 無保険者対策
- 無保険者対策について、なかなかコンセンサスができない。政治的には大きな課題であるが、2000年の投票者の92%が保険加入者であることからわかるように、実際の選挙では、大きな争点とはなりにくい。
- 従って、現実的に無保険者を減らすためには、いくつかの現行制度を拡大するしかない。
- 州のMedicaidの対象者を拡大する。
- 雇用者が提供する医療保険プランを増やす。
- 個人の保険購入を促すために、税制優遇措置を拡大する。
- 国民の間で、無保険者対策への関心が低下していることも確かである。実際、医療費の高騰、Medicare、処方薬の高騰など、他の医療保険プランの課題への関心の方が高い。
- 医療費の高騰
- 医療費の高騰は、患者一人あたりの医療費が約3.5%伸びていることに加え、診療を受ける頻度も高まっていることにもよる。そのため、この10年間で、国民一人あたりの医療費は、$3,400から$6,000に増えている。
- 医療技術が高まり、診療を受けやすくなっている。例えば、ある種の手術は、入院日数が大幅に減っている。
- 医療保険による診療、処方薬の購入も、価格への感度を低下させている。
- 他方、医療機関でのIT導入が遅れていることも、原因の一つである。
- まだまだ医療の世界に市場原理が持ち込まれている部分が小さいと見られている。
- 処方薬の再輸入
- 処方薬の再輸入は、個人利用に限り認められている。カナダからの再輸入は、2002年$414M、2003年$695Mと推計されている。
- 再輸入の多くは、Internetを経由した注文によるものだが、個人が実際に国境を越えて購入してくるケースも多い。
- 今年に入って、にわかに関心は高まっており、連邦議会でも、有力法案が提出されている(「Topics2004年4月25日 上院両党有力者による法案」参照)。しかし、行政の方では、HHSによるヒアリングが行われており、2004年末までに、再輸入に関する報告書が作成されることになっている。従って、実際に再輸入が進むとしても、報告書を待ってからと考えるのが常識的である。
- また、処方薬の再輸入が認められたとしても、処方薬の価格を引き下げる効果は限定的にならざるを得ないとの見方が多い。
(本件に関しては、CBOから最新のレポートが発表されている。)
- むしろ、改定されたMedicareにより処方薬が購入されるようになる2006年以降は、Medicareプランが強力な購入者として市場に参入してくることになり、その購買力による価格引き下げの方が期待できるかもしれない。