3月18日 トップ交代 Source : HHS Names Members to Task Force on Drug Importation (HHS)

処方薬再輸入に関するタスク・フォースのメンバーならびにアジェンダが公表された。このタスク・フォースでは、次の日程でヒアリングを行う予定にしている。 メンバーならびにアジェンダを見ての感想を2点。

  1. タスク・フォースの座長が、当初予定されていたDr. McClellan(「Topics2004年3月1日 Bush政権は冷たい対応」参照)ではなくなった。Dr. McClellanは、メンバーとしては参加するのだが、座長は他の人が指名された。やはり、上院でのDr. McClellanのCMS長官就任の承認(「Topics2004年3月14日 上院でのかけひき」参照)を取り付けるために、妥協が図られたのだろう。

  2. タスク・フォースのメンバーは、すべてBush政権の役人(おそらくすべてpolitical appointee)である。また、アジェンダを見ると、再輸入を認めることの問題点を検証する方に力点が置かれているように感じる。2004年12月までに報告をまとめることとなっているが、このメンバーとアジェンダ設定では、否定的なポジションを離れることは難しいのではないだろうか。あとは、選挙の動向を見ながら、いかに味付けをしていくか、というツールとして使われるのではないかと思われる。
なお、Medicare改革第一弾となる、処方薬割引カードは、6月1日施行で準備が進められているとの報道があった(Reuters)。選挙に向けて、政策日程が着々と決められている。

3月16日 無保険者対策の検証
 Source : Coverage and Cost Impacts of the President's Health Insurance Tax Credit and Tax Deduction Proposals (The Henry J. Kaiser Family Foundation)

以前にも記述した通り、今回の大統領選の争点の一つとして、「無保険者対策」がある(「Topics2004年1月5日 大統領候補者達の無保険者対策」参照)。アメリカには、医療保険に加入していない国民が4,300万人もいると言われており、大きな社会問題となっている。Bush政権・共和党も、無保険者対策を重要な政策課題として位置付け、力を入れている(「Topics2003年12月15日(3) 次は無保険者対策」参照)。

そのBush政権が、2005年予算案で示した無保険者対策は、主に次の2点である。

  1. 税額控除(Tax Credit)

    主に低所得者層の保険料補助の意味を持つ。従って、所得が上がるにつれて、控除額は減少する。

    Single Adult
    Adjusted Gross Income$15,000 and Less$20,000$30,000
    Maximum Credit
    $1,000
    $556
    $0

    Two Adults, Two Children
    Adjusted Gross Income$25,000 and Less$40,000$60,000
    Maximum Credit
    $3,000
    $1,714
    $0

  2. HDIプラン所得控除(以下、「所得控除」)(Tax Deduction for High-Deductible Health Insurance Premiums)

    新たに提案された医療貯蓄勘定のうち、高免責額医療保険プランに対する税制措置。
    「Topics2004年1月7日(1) 医療貯蓄勘定」参照。

上記sourceでは、上の2つの政策の効果について、ミクロモデルにより推計している。その推計結果のポイントは次の通り。

項  目税額控除のみ税額控除+所得控除
利用者数1,030万人1,560万人
無保険者削減効果182万人127万人
(企業プランから無保険者へ)132万人263万人
税コスト46.7億ドル60.5億ドル
新被保険者一人当りコスト2,570ドル4,780ドル

税額控除と所得控除を併用すると、それらの優遇税制の利用者は増えるものの、無保険者の削減効果は、税額控除単独よりも、むしろ低下してしまう。その最大の原因は、企業が医療保険プランの提供をやめてしまうことにある。つまり、税額控除も所得控除も用意すると、従業員の自助努力に任せようという企業が急増するという分析である。また、無保険者一人を被保険者にするためのコストは、倍近くに達してしまう。これでは、政策効率が悪いことこの上ない。

こうした分析を踏まえてなお、実現を試みることはないだろうが、議会共和党がどのような判断を下すのか。巨額の財政赤字を抱える中での減税提案に、それほど寛大ではいられないだろう。

3月15日 企業にとっても医療プランは大事 Source : Job-Based Health Insurance in the Balance: Employer Views of Coverage in the Workplace (Commonwealth Fund)

アメリカ国民にとって、職場で医療保険プランが提供されるかどうかは、非常に重要と考えられているが、アメリカの企業側も同様の意識を持っている。上記sourceは、アメリカ企業を対象としたアンケート調査の結果である。以下、その概要。

  1. 高騰する医療費に対して、従業員などの加入者の負担を増やす方向で対応している企業が多いが、医療保険プランそのものをやめてしまうことで対応する企業はそれほど多くない。
    CMWF1


  2. また、Bush政権が強く打ち出している、医療支出に関する税額控除制度は、企業には評判がよい。
    CMWF2


  3. 医療保険プランを提供することが、企業にとって重要であると認識している割合は、6割近くに達する。
    CMWF5


  4. 無保険者を減らす対策として、公的保障制度の拡張よりも、企業の提供を求める方が望ましいとの意見が多い。
    CMWF6


  5. また、連邦・州政府職員が加入している保険プランに、一般企業の従業員も加入できるようにするとの案には、賛成が多い。
    CMWF7



こうしてみると、項目2はBush政権のお得意項目、項目4はKerryのマイナスポイント、項目5はKerryのプラスポイントというところだろう。企業としても、一様にどちらをサポートするとは言いにくいというのが実情だ。医療に関して企業のサポートを確実にするには、どちらももう一歩踏み込んだ提案が必要なようだ。

3月14日 上院でのかけひき Source : Senate Confirms McClellan as CMS Chief (Kaiser)

12日、上院は、既定方針通り、Dr. McClellanのCMS長官就任を承認した。その過程で、Majority Leader Mr.Fristは、処方薬の再輸入を認める法案の成立に向けて努力することを約束した。ただし、その具体的な検討スケジュールまではコミットしておらず、どこまで拘束力のある発言かは疑問である。加えて、Fristは医師でもあり、そう簡単に再輸入を認めるとも思えない。

他方、ミネソタ州知事は、他州の知事達に、処方薬の価格抑制に連携してあたろうとの呼びかけを開始したという(phillyburgs "Minn. Governor Asks for help on Drug Costs")。また、ミネソタ州の年金基金で所有する製薬会社株を使って、製薬会社にプレッシャーをかけていこうという計画も持っているようだ。処方薬をめぐる関係者があらゆるツールを利用して攻防を開始した。大統領選の裏舞台としては、充分に注目に値する課題と考えられる。

3月11日 処方薬再輸入に本気で取り組むか? Source : Medicare Nominee Backs Drug Imports (New York Times)

Dr. Mark B. McClellanのCMS長官就任を承認するかどうかを判断する、上院Finance Committeeが開催(「Topics2004年3月1日 Bush政権は冷たい対応」参照)され、Dr. McClellanは、カナダからの処方薬再輸入について、「議会とともに、再輸入薬の安全性の確保に努めたい」として、再輸入を一定の制限のもとに認める方策を模索するとの意思表明を行った。

上記sourceによれば、このDr. McClellanの発言は、政治的妥協の産物だという。というのも、大統領選の民主党候補にほぼ確定したKerry氏が、カナダからの再輸入に積極的な州知事と共闘して、再輸入を促進すべきとの立場を明らかにしたからだ。当然のことながら、Kerry氏は、Medicare改革により製薬会社がまるまる儲けとなることは許さない、との批判的な立場にあり、Bush政権を攻める格好材料の一つとしてとらえている。

また、上記sourceでは、先に紹介した、AARPの製薬会社に対するキャンペーン(「Topics2004年3月5日(2) 処方薬再輸入にAARPも参戦」参照)が本格化してきたことも伝えている。

これで、『Bush政権+製薬会社(供給サイド) vs. Kerry+州・高齢者(需要サイド)』という構図が確定し、大統領選挙の政策論争の一つとなることがはっきりした。Bush政権としては、Medicare改革の第一弾である割引カードの発行をスムーズに、つまり選挙キャンペーンとして有効な時期に行いたいし、製薬会社とタッグを組んで高齢者に負担を負わせる、というイメージを少しでも和らげたい。従って、これまで強硬な姿勢をとってきたDr. McClellanにも、柔軟な対応をするよう求めた、ということは容易に想像できる。

ただし、ここでちょっと問題視しておきたいのは、Dr. McClellanが、再輸入を拡大する条件として、『FDAの予算・人員の拡大と調査権限の強化』を打ち出していることである。これは、日本でいうと、『規制緩和に伴う行政当局の焼け太り』という。これでは、Bush政権ならびに共和党主流が求める「小さな政府」に逆行することになり、選挙民からも支持を得られない可能性がある。

そういうことを考えると、今回のDr. McClellanの発言が、どこまで本気か、一応疑ってみる必要があると思う。