Kansas City FRBが、Jackson Hole (WY)で、人口の高齢化に関するシンポジウムを開催した。やはり、こういう国は、魅力的だし、世界の人材を集めることができると思う。
余談になるが、Jackson Hole (WY)とは、Grand Teton National Parkの南側入り口にある都市で、Yellowstone National Parkにも近い観光都市である。Wyoming州は、Kansas City FRBの管轄区である第10区(Tenth District)の西端に位置し、Jackson Holeは、そのまた西端に位置する。つまりは、観光を兼ねてのシンポジウムなのである。ちなみに、管理人も、同地で一泊したことがある。
さて、そんな観光気分のシンポジウムの基調講演など、真剣に聴いていたアメリカ人は少ないと思うが、それでも、Greenspan議長はアメリカ人に対して、警告を発するとともに、自信を持たせる発言をしている。
まずは、「退職者/現役労働者の比率が高まる間に、タイミングよくSocial Securityの見直しをしなければならない。特に、Medicareは、完全な賦課方式であるために、その影響は大きい」と警告を述べている。そして、講演の最後に、日本人には発言したくとも発言できない、自信に溢れた発言を行っているのである。
- [O]ur open labor markets should respond more easily to the changing needs and abilities of our population.
- [O]ur capital markets should allow for the creation and rapid adoption of new labor-saving technologies.
- [O]ur open society should be receptive to immigrants.
PCAOBから、2003年の4大監査法人に対する監査結果が報告された。監査結果といっても、かなり限定的な監査であり、結果の詳細は明らかにされていない。監査法人ごとのレポートも、上記sourceのwebpageに掲載されているので、参照されたい。
監査結果の中身が明らかになっていないものの、かなりの問題点の指摘があった模様であることが、報道されている(Washington Post)。中でも、関係記録の保存が適切でない例が多いらしい。
PCAOBが設立された切っ掛けは、Enron事件で、Arthur Andersen LLPが粉飾決算に加担したり、記録を破棄したりしたことにある(「2002年7月25日(1) 企業不正防止法」参照)。にもかかわらず、依然として記録保存がずさんらしいというのでは、本当に懲りない人達、との感想を持たざるを得ない。仕組みを作って現場が動かない、というアメリカらしい現象の典型(「Topics2002年10月31日 Executive達のseverance pay」参照)を見るようである。
企業年金の危険度といえば、積立不足額や年金資産の給付債務に対する割合などがすぐに思いつくが、上記sourceでは、次の2つの指標を用いている。
- 年金資産積立不足/資本金
- 年金資産運用益予測額/経常利益
この2つの指標で見て危険度が高い企業を20社ずつリストアップすると、次のようになる。Source: Camelback Research Alliance
1. The 20 most underfunded pension plans
Company Market cap Underfunded amount
at 12/31/03Ratio of amount
underfunded to market capDelta Air Lines (DAL, news, msgs) 645 million 5.65 billion 8.77 Northwest Airlines (NWAC, news, msgs) 746 million 3.74 billion 5.03 AMR Corp. (AMR, news, msgs) 1.35 billion 2.66 billion 1.97 Continental Airlines (CAL, news, msgs) 595 million 1.07 billion 1.81 AK Steel Holding (AKS, news, msgs) 721 million 1.18 billion 1.65 Goodyear Tire & Rubber (GT, news, msgs) 1.92 billion 2.75 billion 1.44 W.R. Grace (GRA, news, msgs) 381 million 361 million 0.95 Delphi (DPH, news, msgs) 5.3 billion 3.97 billion 0.75 Visteon (VC, news, msgs) 1.3 billion 870 million 0.65 McDermott International (MDR, news, msgs) 708 million 410 million 0.58 Alaska Air Group (ALK, news, msgs) 558 million 311 million 0.56 British Airways (BAB, news, msgs) 4.54 billion 2.4 billion 0.53 Crompton (CK, news, msgs) 684 million 337 million 0.49 Ispat International (IST, news, msgs) 2.17 billion 965 million 0.44 Vitro (VTO, news, msgs) 292 million 127 million 0.44 Ford Motor (F, news, msgs) 26.9 billion 11.68 billion 0.43 ArvinMeritor (ARM, news, msgs) 1.37 billion 561 million 0.41 Navistar International (NAV, news, msgs) 2.5 billion 994 million 0.40 Standard Register (SR, news, msgs) 313 million 123 million 0.39 Olin (OLN, news, msgs) 1.2 billion 457 million 0.38
Source: Camelback Research Alliance
2. 20 companies with largest percentage of income from assumed returns on pension funds
Company Market cap Income from pension
plan in last 3 yrs*Income before items
in last 3 yrs**Improvement to net
income from pension
income in last 3 yrs ***TRW Automotive (TRW, news, msgs) 2.05 billion 261 million 58 million 449% MeadWestvaco (MWV, news, msgs) 6.01 billion 186 million 83 million 223% Glatfelter (GLT, news, msgs) 584 million 57 million 58 million 99% Longview Fibre (LFB, news, msgs) 659 million 29 million 35 million 83% Duquesne Light (DQE, news, msgs) 1.45 billion 26 million -33 million 76% CTS Corp. (CTS, news, msgs) 414 million 28 million -51 million 55% Tredegar (TG, news, msgs) 633 million 17 million 34 million 51% Unisys (UIS, news, msgs) 3.42 billion 218 million 432 million 51% Prudential Financial (PRU, news, msgs) 24.7 billion 664 million 1.39 billion 48% Hecla Mining (HL, news, msgs) 639 million 3 million -6 million 44% Xcel Energy (XEL, news, msgs) 6.83 billion 150 million -367 million 41% Potlatch (PCH, news, msgs) 1.18 billion 29 million -77 million 38% Tecumseh Products (TECUA, news, msgs) 755 million 36 million 97 million 37% Pactiv (PTV, news, msgs) 3.54 billion 186 million 580 million 32% Northeast Utilities System (NU, news, msgs) 2.39 billion 169 million 558 million 30% Kerr-McGee (KMG, news, msgs) 7.89 billion 43 million 149 million 29% A.O. Smith (AOS, news, msgs) 844 million 32 million 118 million 27% Vector Group (VGR, news, msgs) 617 million 7 million -26 million 26% GenCorp (GY, news, msgs) 523 million 47 million 180 million 26% Samsonite (SAMC, news, msgs) 281 million 7 million -28 million 25%
*Reported pension income minus assumed corporate tax rate of 35%
**Income excluding unusual items
***For companies reporting losses, the loss would be lower by this percentage, without pension income
1.の指標で見ると、航空会社が軒並み上位に列記されている。こうしてみても、Delta航空は、やはり危ないと見られても仕方がないか。また、2.の指標で上位にランクされている企業は、運用利益の見込みが高すぎることによる。日本式でいえば、粉飾ともいえかねないものであり、相当危険であろう。
日本では、まだまだ年金資産のウェイトが低いために、こうした指標の適切性は不明だが、徐々にこうした研究もしておくべきだろう。
次の2表は、上記sourceから作成した、アメリカ大企業Fortune 250社CEOの報酬額と構成比である。
CEO報酬額 ($1,000) 2002年 2003年 増減率 現金報酬総額 2,891 3,484 21% 基本報酬 1,091 1,158 6% ボーナス 1,800 2,326 29% 長期インセンティブ 8,105 6,917 -15% Restricted Stock 3,874 4,084 5% Stock Option 7,255 5,336 -26% Performance Plans 2,613 2,620 0% 総報酬額 10,996 10,401 -5%
CEO報酬構成比 (%) 2002年 2003年 増減ポイント 現金報酬総額 26.3 33.5 7.2 基本報酬 9.9 11.1 1.2 ボーナス 16.4 22.4 6.0 長期インセンティブ 73.7 66.5 -7.2 Restricted Stock 35.2 39.3 4.1 Stock Option 66.0 51.3 -14.7 Performance Plans 23.8 25.2 1.4 総報酬額 100.0 100.0 0.0
これらからわかる特徴は、次の2点。
- 現金による報酬の額と構成比が高まっている。
- 依然としてStock Optionのウェイトは高いものの、額、構成比ともに大幅に低下している。
先週、ワシントン州破産裁判所が、DOMA(Defense Of Marriage Act)の合憲性を認める判決を下した。連邦裁判所としては初めての合憲判決となる。
DOMAを巡っては、その合憲性についても論議が行われている(「Topics2004年8月1日 同性婚と年金受給権」参照)が、司法の世界で、初めて、連邦裁判所が見解を示した、という意味で、その与える影響は大きいと思われる。
以下、事実関係を整理すると、次のようになる。
今回の破産裁判所の判決の意義は、次の2点と考える。
- 連邦破産裁判所(ワシントン州西地区)(United States Bankruptcy Court For the Western District of Washington)のスナイダー判事(Judge Paul B. Snyder)は、「DOMAは合憲であり、修正4条、5条、10条にも違反していない」との判決を下した。
- ある女性カップルがカナダで「結婚」し、その後、出身地であるワシントン州で、共同破産申請を行った。
- 彼女達の共同破産申請は、連邦法が定義する結婚の要件を満たしていないため、受理されなかった。
- 彼女達の一方が死亡した後、他方が、DOMAは意見であるとして、改めて共同破産申請を行った。
- この女性カップルの場合、共同破産申請が認められれば、死亡した一方の遺産は、債権者ではなく、カップルの他方の者のものとなる。
このような法廷闘争は各州で行われており、大統領選挙戦、州民投票などを通じて、全国レベルで議論が広がっていくものと思われる。
- 第1は、先述したように、破産裁判所とはいえ、連邦裁判所が、DOMAは合憲であるとの判断を示した点である。
- 第2は、ワシントン州で、合憲判断が示された点である。ワシントン州高等裁判所では、同性婚を禁じている州法は州憲法違反であるとの判決を下しており、州最高裁まで争われる見込みとなっている(「Topics2004年8月6日(2) 同性婚:ミズーリ州とワシントン州」参照)。実際、本件に関する判決文で、スナイダー判事は「州高等裁判所の判決には同意しかねる」と述べているようだ。
それにつれて、一般国民の間でも、本件に関する関心は徐々に高まっている。SHRMが実施した調査によると、次のような結果が出ているそうだ(SHRM Study)。
質 問 内 容 YES NO 過去6ヶ月の間に同性同居人に関する福利厚生についての問い合わせが増えたか? 15% 85% 過去6ヶ月の間に異性同居人に関する福利厚生についての問い合わせが増えたか? 20% 80% 同性婚パートナーに関する福利厚生を検討する用意があるか? 26% 74%
同性婚を巡っての議論は、様々なレベルで進んでいくことになりそうである。
上記sourceによれば、Delta航空には、自社株絡みの年金プランが2つあるそうだ。
年金プラン 401(k) ESOP 投資対象 Delta Stock Fund(Delta株のみ)
(401(k)プランの投資選択肢の一つ)Delta株 資産規模(2003年末) $85M $552M 資産全体($4.5B)に占める割合 2% 12% 事業主拠出 401(k)への従業員拠出にマッチング。
最初の$1,700ドルに対するマッチングは、自社株でESOPに拠出。投資先の変更 従業員による自社株売却可能 55歳以上かつ10年以上勤続の場合のみ自社株売却可能
Delta航空も経営難に陥っており、組合との間で$1Bにのぼる報酬見直し交渉をしている(「Topics2004年8月3日 Deltaに飛び火」参照)。また、株価の動きも芳しくない。
ESOPプランの方の規定を見ると、EnronのDCプランの轍を踏むのではないか、と懸念されるところ(拙稿「アメリカ倒産手続きにおける労働債権の取り扱い〜Enron倒産事件を例証に〜」参照)だが、Delta航空は、一つの改善策を採っているそうだ。それは、上記2つのプランに関する運営責任者を、Delta航空自身から、U.S. Trust Corp. という独立した投資顧問会社に移したことである。
US Trustという会社は、Special Fiduciary Servicesという、年金プランの運営や投資アドバイスなどの業務を行っている。その中には、
といったものもあり、Deltaの2プランの運営者としてうってつけと言える。実はAmerican Airlinesも、、昨年、Chapter 11の可能性が高まった時点で、このUS Trustを、年金プランの運営責任者に指名している。
- Employee benefit plan transactions involving employer stock, including mergers, restructurings, spin-offs, recapitalizations, and sales
- ESOP terminations
Chapter 11の可能性が高まった企業にとって、独立した第三者を運営責任者に充てるということは、どういうメリットがあるのか。上記sourceは、まさに、そのメリットについて報じているのである。株価低迷、従業員報酬抑制交渉の行き詰まりから、Delta航空の倒産の可能性が高まったことにより、US Trustは、運営責任者として、次のような措置を講じた。こうした措置を講じることで、従業員の利益を最大限保護することを狙っているのである。このようなメカニズムであれば、Enronの従業員が行った「Enron経営者が情報を提供しなかった、受託者責任を果たしていなかった」という訴えを起こされる可能性は低くなる。
- Delta Stock Fundを凍結する。従業員は、新たな拠出ができなくなり、他の資産からの移転も認められない。
- ただし、自社株の売却は認める。
- Delta社の倒産が避けられない事態になった場合、ESOPについても、凍結・廃止を検討する。
- その場合でも、ESOPの自社株の売却、他の資産への移行は認める。
経営者にとって、苦境の中で自社株を売却してよい、と従業員に向かって言うことは、相当な困難を伴うものであり、だからこそ、Enronのような事態が発生した。こうした事態を回避して、中立的な立場から、従業員への示唆ができるようにすることは、一つの解決策である。
企業年金の受託者責任の問題は、日本でも今後、重要な課題となるはずだ。こうしたアメリカ企業の知恵を、日本企業も利用することを検討しておいた方がよさそうだ。
CalPERSが、2005年の医療保険プランへの参加状況について、公表した。その概要は、次の通り。
まあ、何の変哲もないプレス・リリースを公表しているわけだが、これがメディアによる報道となると、一変して、かなりセンセーショナルな内容となっている。以下、Sacramento Beeの記事の概要。
- 今年1月からの新規加入団体は、25団体、9,155人。他方、2005年にCalPERSの医療保険プランから離脱するのは、17団体、8,324人である。
- 全体では、約1,100団体、46万2,000人を対象に、医療保険プランを提供している。
- 南部地域は、基準保険料よりも最大19%安く、北部地域のそれは、11%以上高い。
- 離脱した17団体のうち、南部地域は7団体、北部地域は10団体であった。
- 新規に加入した北部の団体は、CalPERSの保険料は他の保険プランよりも好ましいと評価している。
最後の60日ルール、5年ルールは、確かに厳しい。たった60日で加入員の意向を確認し、翌年の代替案に合意してもらわなければならない。しかも、代替プランの選考に失敗すれば、5年間は戻れないのである。相当に厳しい選択を迫っている。それでも離脱する団体が17も出たことは、CalPERSに対する不信感の表れとも読める。
- 保険料の値上げ幅が最大24%にのぼるうえ、HMOプランが廃止になってしまったために、17団体がCalPERSの医療保険プランから離脱するという、これまででは考えられないような事態が発生した。
- 北部地域の保険料は、HMOプランの伸び率の倍にのぼる最大24%増となっている。
- 加えて、Sutterの系列病院をカバーしていた、比較的保険料の安いHMOプランを廃止してしまったことも大きな影響をもたらしている(「Topics2004年5月21日(2) CalPERS 38病院との契約見直し」参照)。
- 離脱した団体の中には、保険料を抑えるために、加入者の本人負担(保険料負担+窓口負担)を増やしているところもある。
- CalPERSの医療保険プランには、離脱を抑制する効果を持つルールが2つある。
- 60日ルール:CalPERSが翌年の保険料を6月16日に公表し、離脱する場合には、それから60日以内に通告しなければならない。
- 5年ルール:CalPERSを離脱した場合、5年間は再加入できない。
また、通いなれている地域の総合病院へのアクセスが閉ざされたことに対する反発は強いだろう。実際、Sutterへのアクセスを確保するためだけにCalPERSを離脱して他の医療保険プランに乗り換えるケースもあったようだ。
カリフォルニア州内の公共団体、郡教職員がCalPERSを選択しないという事態は、やはり異常な事態と考えておいた方がよさそうである。
イリノイ州が公表した諸外国からの処方薬購入プラン(「Topics2004年8月18日(2) イリノイ州が処方薬輸入で前進」参照)について、アイルランド当局は、「話を聞いていないし、そんなことになれば、アイルランド国内の処方薬の需給や価格に大きな影響をもたらす」と、反発を示している。
こんな報道が出るところをみると、イリノイ州知事のスタンド・プレーか、お粗末様、という印象をもってしまう。