12月10日 医療費支出の伸び鈍化 
Source :National Health Spending In 2013 Continued Pattern Of Low Growth (Health Affairs)
CMSの推計によれば、2013年の医療費支出の伸びは3.6%と、2012年の4.1%を下回った。これは、一人当たり医療費支出も同様で、特にどこかが特別減ったということではなく、万遍なく伸びが鈍化しているようだ。

Health Affairs
長い目で見ると、医療費の伸びが経済成長率を上回る時期が多く、医療費支出のGDPに占める割合は徐々に高まっている。しかし、下図のように、2012〜3年は、医療費の伸びと経済成長率がパラレルになっているため、その割合は横ばいとなっている。

Health Affairs
2014年からはPPACAの本格実施を踏まえ、この指標がどう動いていくのか、関心が集まるところである。今までのところ、PPACAには、明確な医療費支出抑制策が盛り込まれておらず、医療費がGDPに占める割合が下がってくるとは思われないが。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

12月9日 SHOPへの関心が低い 
Source :Despite fixes, Obamacare’s small business site still isn’t luring employers. What gives? (Washington Post)
Websiteのトラブルはほとんどない、保険料もそう高い訳ではないのに、SHOPへの関心が高まらないようだ。

上記sourceでは、その理由として次の3点を挙げている。
  1. PPACAでは適格でない既存プランへの加入が来年まで認められている。そのため、今年の加入期間でSHOPの新プランに加入する必要性が乏しい。

  2. Exchangeのみで提供される保険料補助金(tax credits)の額が小さく、手続きも面倒くさい(給与も払っているので、自社の従業員が受け取る補助金額は小さくなるのは致し方ないだろう)。

  3. 依然として、複数プランの選択肢を提供できないExchangeが存在する。これでは、従業員に多様な選択肢を提供するというExchangeの魅力がなくなる。
個人市場と中小企業のExchangeはPPACAの大事な二本柱だが、しばらくは一本柱の状態が続きそうである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/州レベル全般」、「無保険者対策/連邦レベル

12月8日 最高裁も反転攻勢か 
Source :With executive action, Obama risks losing Chief Justice John Roberts (Los Angeles Times)
上記sourceは、今回の不法移民保護のための大統領令によって、大統領は連邦最高裁長官の支持を失うのではないか、と示唆している(「Topics2014年11月25日 不法移民保護大統領令(2)」参照)。

John Roberts連邦最高裁長官は、2012年6月の判決で、Obama政権をサポートする意見を示している(「Topics2012年6月30日 医療保険改革法に合憲判決」参照)。Medicaid拡充については連邦政府の意向は却下されたものの、ペナルティ課税の合憲性を認める意見を出し、これがcasting voteとなって、PPACAのペナルティ課税の実効性が担保されたのである。

この時、Roberts長官の投票は、驚きと憶測をもたらした(「Topics2012年7月2日 最高裁判決を巡る噂」参照)。当websiteでも、制度施行後の混乱を回避するためのRoberts長官の『大人の知恵』と評していた。しかし、そのお蔭で、PPACAは何とかスタートを切れたのも事実である。

ところが、その最高裁長官の親心も知らず、Obama大統領が連邦議会を無視して大統領令を連発していることに、長官は愛想を尽かしているのではないか、との観測が広がっている。既にその兆候は表面化している。今年6月に、連邦最高裁は、Obama大統領の"recess appointment"は正当性がないとの判決を全員一致で下している(「Topics2014年6月29日 Obama大統領の完敗」参照)。もちろん長官も同じ意見である。

そして、今回の不法移民保護のための大統領令は、中間選挙で民主党が惨敗した直後に発せられただけに、最高裁長官としては考えるところがあるのだろう。また、州政府からも反旗が掲げられていることも大きい(「Topics2014年12月5日 17州が大統領令反対訴訟」参照)。

上記sourceによると、歴代大統領の中で、連邦議会の意見を尊重せずに大統領権限を拡張しようとした大統領は、悉く連邦最高裁からしっぺ返しを食い、政治的パワーを失っているという。既に中間選挙以前からレームダック状態と言われるObama大統領に、連邦最高裁がどのような姿勢で対峙するのか。

来年、連邦最高裁は、PPACAで施行されている保険料補助金の合法性について判決を下す予定である(「Topics2014年11月11日 最高裁が保険料補助金を審議」参照)。合法性がないとの判決が下されれば、現在27州で運されている連邦立Exchangeは、ほとんど壊滅的な打撃を受けることになる。そうなれば、医療保険制度は大混乱になること間違いない。再びRoberts長官が大人の知恵を搾り出す余地があるのか、またその意思があるのかどうか。

アメリカ民主主義の三権分立がどのように働くのか、注目していきたい。

※ 参考テーマ「司法」、「政治/外交」、「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般」、「移民/外国人労働者

12月7日 複数事業主プラン給付削減法案 
Source :Congress could soon allow pension plans to cut benefits for current retirees (Washington Post)
先に、複数事業主プランが苦境に陥っていることを紹介した(「Topics2014年12月2日 複数事業主プランの苦境」参照)。その対策として、連邦議会は、現在の年金給付を削減することを可能とする法案を検討しているそうだ。議員側近達によれば、合意さえできれば、年末までの連邦議会会期内に法案を成立することも可能だとみられている。

労働組合や年金関連団体は強く反対する意向を示している。もっともな話ではあるが、PBGCの複数事業主プラン保証制度がほとんど破綻状態にある中、対案を示すことはできまい。考えられる対策としては、@連邦政府から税金を突っ込む、APBGCの単独事業主プラン用と複数事業主プラン用を統合する、ぐらいしか考えられない。

@はそもそも議会の合意を得ることは難しかろう。そもそもDBプランに加入している国民などごくわずかしかいない。Aは、単独事業主側から猛反発を受けよう。支払い保証制度そのものがモラルハザードを招きかねないのに、そのうえ複数事業主まで救済することに、単独事業主は合理性を感じないだろう。

座して破綻を待つよりは、給付削減で持続可能性を確保すること方が得策だと思う。

※ 参考テーマ「DB/DCプラン」、「PBGC/Chapter 11

12月6日 CA州:不法移民を医療給付対象に 
Source :California pushes to expand immigrant health care (Sacramento Bee)
California州(CA)では、不法移民保護のための大統領令に端を発し、不法移民を医療給付の対象にしようとする動きが活発化している(「Topics2014年11月25日 不法移民保護大統領令(2)」参照)。

CA州には、不法移民が260万人、そのうち今回の大統領令で国外退去猶予の対象となるのが120万人と言われている。不法移民の約1/4がCA州に住んでいることになる。その不法移民を、公的医療保障制度の対象にしようとする動きが出ているのである。
  1. California Department of Health Care Services

    • 元々、CA州のMedicaid制度("Medi-Cal")では、国外退去猶予となった不法移民で低所得者の者を加入対象にしている。

    • その財源は、全額CA州政府負担である。

    • 今回の大統領令に伴って国外退去猶予となる不法移民で低所得の者を、新たにMedi-Calの対象に加える計画をしている。

    • 連邦政府からの許可はまだ出ていない。

  2. 州議会民主党

    不法移民全員を対象に、Medi-Cal、Exchange保険プランへの加入資格を開放することを内容とする法案("Health 4 All" Act)を再提出する。
1.の方は、大統領令の対象者はPPACAの給付を受けられないことに対するCA州独自の対応である。従って、財源も州政府が全額負担することになっている。

いずれにしても、100万人単位で加入対象者が増えるプランであり、州政府の財政負担が重くなることが確かである。また、不法移民に正規のアメリカ市民と同じレベルの社会保障給付を賦与することへの反発も大きい(「Topics2014年11月30日 不法移民保護大統領令(3)」参照)。

一方で、不法移民といえども国外退去猶予者に一定の社会保障給付を提供することは、同化政策としては重要であり、その効果も絶大だろう。理論的には次期(共和党)大統領が今回の大統領令を覆すことは可能だが、こうして着々と不法移民の社会への定着策を打っていくことで、その実現可能性はどんどん低下していく。

※ 参考テーマ「無保険者対策/CA州」、「移民/外国人労働者」、「無保険者対策/連邦レベル

12月5日 17州が大統領令差し止め訴訟 
Source :States File Suit On Immigration (New York Times)
12月3日、17州が不法移民保護大統領令の執行差し止めを求めて、TX州連邦地方裁判所に訴訟を起こした(「Topics2014年11月25日 不法移民保護大統領令(2)」参照)。17州は次の通り。
Alabama, Georgia, Idaho, Indiana, Kansas, Louisiana, Montana, Nebraska, North Carolina, South Carolina, South Dakota, Texas, Utah, West Virginia, Wisconsin, Mississippi, Maine
これだけ多数の州が一斉に連邦政府に対して訴訟を起こすのは、医療保険改革法(PPACA)以来である(「Topics2010年4月17日 連邦政府 vs 州政府」参照)。

17州の主張のポイントは次の通り。
  1. Obama政権は、連邦議会が定めた法律の執行責任を果たしていない。

  2. 権限がないままに、移民法を書き直そうとしている。

  3. 大統領令により不法に入国しようとする外国人が増えるため、国境警備に要する州の財政負担が増大する。
大統領側は、今回の大統領令は大統領権限の範囲内だ、との主張を崩していない。法律の専門家の間でも意見が真っ二つに割れているそうだ。

大統領権限はどこまでなのか、連邦政府と州政府との間の権限の境目はどこなのか、最終的には連邦最高裁で判断が下されることになろう。

もう一つ、今回の訴訟と併せて、Texas州(TX)は、州政府関係機関(state agencies)に"E-Verify"の利用を義務付ける行政命令を発出した。これ自体は、連邦議会で議論されていた超党派移民制度改革法案にも盛り込まれていたものであり、全うな政策ではある(「Topics2013年4月21日 超党派移民改革法案」参照)。

しかし、この局面で義務付けることを明確にすれば、大統領令に基づく就労資格が"E-Verify"によって合法化されるのか、という問題が生じてくるだろう。大統領側は、合法化するよう手続きやシステムを変更するだろうし、大統領令を認めない立場の州政府は、それは法律に基づく就労許可ではないとして、再び争点として浮上させることができるようになる。

なお、州による"E-Verify"の義務付け状況は次のようになっている(「Topics2011年4月15日 E-Verifyの義務付け」参照)。
州 名"E-Vefiry"利用義務付け対象雇用主
All Employers (public & private) Publice employers State agencies Contractors Sub contractors
Alabama        
Arizona        
Colorado      
Florida    
Georgia    
Idaho      
Indiana      
Louisiana        
Michigan    
Mississippi        
Missouri    
Nebraska      
North Carolina        
Oklahoma    
Pennsylvania      
South Carolina        
Tennessee
(従業員6人以上)
       
Texas        
Utah    
Virginia    
West Virginia   ○     

Source : E-Verify: Frequently Asked Questions (NCSL)。TXは上記source。
こんなに大規模な州政府の反乱を二度も招いた大統領はかつていたのだろうか。Obama大統領はまるで国を二分するために登場したような存在のように思える。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

12月4日 ACO制度変更公開草案 
Source :New ACO Rules Would Delay Penalties An Extra Three Years (Kaiser Health News)
12月1日、CMSACOに関する制度変更のための公開草案を公表した(CMS Press Release)。コメントの募集は来年2月6日まで。

公開草案のポイントは次の3点。
  1. パフォーマンスが基準よりも低かった場合のペナルティの免除期間を、当初の3年間から6年間に延長することを可能とする。これに伴い、当初の3年間は合理化できたコストの50%を収入とすることができていたが、ACOが6年間に延長することを選択した場合、収入としてキープできる割合は40%に抑えられる。

  2. 新しい類型のACOを創設する。この類型("Track Three")では、合理化できたコストの75%を収入とすることができる一方、基準以下のパフォーマンスとなった場合には、余計にかかったコストの最大15%(現行では最大10%)を負担しなければならない。

  3. ベンチマークの設定方法を変更する。これまでは、ACOの加入者が使った過去の費用をもとにベンチマークを設定していたが、これでは過去の効率化努力が反映されないとの不満が高かった。そこで、同じ地域でACOに参加していない医師、医療機関の平均的な費用をもとにベンチマークを設定することとする。
ACOのインセンティブを高め、ペナルティ免除期間を長くすることで、ACOを増やしていこうという政策意図である。ACOの評価は定まっていないものの、Obama政権はACO誘導へ舵を切ったようである。

※ 参考テーマ「ACOs

12月3日 高額給付従業員の移行は違法 
Source :Administration Warns Employers: Don't Dump Sick Workers From Plans (NPR)
労働省、財務省、厚生省が、『疾病が重く、高額な給付が必要となる従業員をExchangeに移行させることは違法と判断される』との見解を公表した(「Topics2014年5月15日 高額給付従業員はExchangeへ?」参照)。

PPACAでは違反と規定されていないものの、"Health Insurance Portability and Accountability Act"と"Public Health Service Act"で禁止されている健康状態に基づく差別にあたるという。

いくらコスト節減ができるといっても、病気の人だけ公的なExchangeへ行け、というのはおかしく、3省の見解は妥当だと思う。

※ 参考テーマ「医療保険プラン」、「無保険者対策/連邦レベル

12月2日 複数事業主プランの苦境 
Source :Time is Running Out for Multiemployer Pension Plans (U.S. Chamber of Commerce)
全米商工会議所が、複数事業主プランの制度改革が必要だと訴えている。 PBGCが保証してくれないとなると、プランに残った企業がすべてを負わなくてはならなくなるから大変だ、という訳だ。

どこかの国にもそんな年金プランがあったっけ。

※ 参考テーマ「DB/DCプラン」、「PBGC/Chapter 11

12月1日 苦境が続くNJ州年金 
Source :New GASB rules result in New Jersey's funded status plummeting to 44% (Pensions & Investments)
新会計基準を適用したNew Jersey州(NJ州)の職員年金の積み立て比率が、6月30日時点で44.1%となった(「Topics2014年7月2日 GAS新ルール適用開始」参照)。新基準適用前の昨年の6月30日時点では63%であった。

もともとNJ州政府年金は厳しい状況にあり、それなりに改革も進めてきた(「Topics2011年6月27日 NJ州の厳しい決断」参照)。しかし、新基準により、積み立て比率が半分を切ってしまった。

州政府は当面の問題はない、としているが、本当に対応して積み立て比率を100%に持っていこうとすると、州政府予算の20%を振り向けなければならなくなる。実際には、対応できない、というのが本音だろう。

各州政府年金の財政状況の悪化が進んでいる。

※ 参考テーマ「地方政府年金