6月30日 医療保険改革法に合憲判決 
Source :Supreme Court upholds Obama’s health-care law (Washington Post)
Supreme Court Lets Health Law Largely Stand, in Victory for Obama (New York Times)
連邦最高裁の今期最終日である28日、医療保険改革法に関する判決が示された(「Topics2011年11月18日 連邦最高裁の審理課題」参照)。主なポイントは次の2点(「アメリカ医療保険改革法案比較」参照)。
  1. 個人加入義務付けの実効性担保のために規定されているペナルティは課税規定とみなせる。政策目的の課税は連邦議会の権限であり、違憲とはならない。(5 v.4)

  2. Medicaid拡充索は合憲だが、加入資格拡大策に応じない州政府に対して連邦負担分をすべて削除することは認められない(7 v.2)。
ちょっと驚きだったのが、1点目の賛成判事5人の構成である。中道派とみられているKennedy判事が反対に回り、何と保守派のRoberts裁判長が賛成票を投じたのである(「Topics2012年3月28日 連邦最高裁第一日」参照)。しかも、1点目は、州際取引条項のもとでの合憲性が議論されていたのに、わざわざ判事側から「課税である」との理屈を持ち出し、合憲と判断したのである。

法理論上のことはわからないが、州際取引条項に基づく判断をしてしまえばどうしても「違憲」との判決になってしまうため、裁判長が知恵を出して違う理屈で「合憲」にしたのではないだろうか。ここで「違憲」判決を出してしまえば、政治も生活も医療業界も大混乱に陥ってしまうことが容易に想像される。そうした混乱を回避する大人の知恵だったのではないだろうか。

とにかく、これで司法における論争はひとまず収束である。そして戦場は再び政治の世界に戻ってくる。連邦議会下院共和党は、来週にも医療保険改革法の撤廃法案を審議し、採決するという。もちろん、上院で可決されることはなく、医療保険改革法の可否は、大統領選及び連邦議会選挙で激しく問われることになる。Obama大統領と民主党は、自ら選挙で勝たない限り、医療保険改革法の継続はない。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「大統領選(2012年)

6月29日 GASB 新開示ルール確定 
Source :GASB Improves Pension Accounting and Financial Reporting Standards (GASB NEWS RELEASE)
6月25日、GASBにおいて新開示ルール案に関する投票が行われ、全員一致で承認された(「Topics2012年5月17日 新開示ルールのインパクト」参照)。

全米各自治体は、財政均衡圧力のもと、職員年金プランについて見直しを迫られているが、本件についても、2014年度以降の制度見直しの圧力になることは間違いない。

※ 参考テーマ「地方政府年金

6月28日 医療保険州際化が実現?:GA州 
Source :Georgia To Allow Cross-State Health Insurance Sales (NPR)
2011年5月、GA州議会は、全米で初めて、州境を越えた医療保険プラン購入を認める法案を可決した。州知事も署名し、法制化が実現した(NCSL)。

医療保険の州際化は、共和党の提唱する医療保険改革案の柱の一つである。州を越えて競争を促すことで、保険料を抑制し、購入しやすくできるという理屈である。今回の大統領選候補者であるRomney氏も提唱している(「Topics2012年6月16日 Romneyの医療政策骨子」参照)。確かに、GA州は、州知事も州議会上下両院とも共和党が握っている。

その医療保険州際化法の施行が来週に迫っている中、共和党にとっては誠に不都合な事態が生じている。他州の医療保険プランを販売しようとする保険会社が一つも現れないというのだ。もちろん、PPACAを巡り、今週木曜日(28日)にも連邦最高裁の判決が下ろうとしている時で、ビジネス条件が出揃っていないというのは事実である。しかし、最高裁判決が出たとしても、州際化法が施行になってから、当面の間、他州の保険プランが販売されることがないことは事実である。

共和党が提唱する政策は実現可能性が低い、という評価になっても仕方のない状況である。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/その他州

6月27日 Maine州の同性婚再挑戦 
Source :Gay Marriage Again on Ballot in Maine (New York Times)
上記sourceによれば、今年11月の大統領選時、次の4州で、同性婚に関する州民投票が行われる。
  1. Washington州:今年2月に成立した同性婚認可法の可否を問う(「Topics2012年2月10日 WA州:7番目の同性婚認可州」参照)。

  2. Maryland州:今年2月に成立した同性婚認可法の可否を問う(「Topics2012年2月26日 MD州:8番目の同性婚認可州に」参照)。

  3. Minnesota州:現時点では結婚は男女間のもののみとの法律が施行されている(NCSL)。これを憲法で同性婚を禁止するかどうかを問う。

  4. Maine州:同州は2009年秋の州民投票で、同年に成立した同性婚認可法(「Topics2009年5月7日 New Englandが同性婚の聖地に」参照)を否決している(「Topics2009年11月6日(1) 同性婚論議2敗」参照)。従って、今回は、全米で初めて、同性婚支持者達が州民投票を求めた。『同性カップルの結婚を認めますか』というポジティブな問いになるそうだ。
同性カップルの法的ステータス
MarriageCivil UnionDomestic Partnership他州の法的ステータスの承認
施行日州 法州最高裁判決
Massachusetts2004.5.17A@Same-sex marriage
Connecticut2008.11.10A@Same-sex marriage
Iowa2009.4.24Same-sex marriage
Vermont2009.9.1Same-sex marriage
New Hampshire2010.1.1Same-sex marriage
Washington, D.C.2010.3.3○ (1992.6.11)Same-sex marriage
New York2011.7.24Same-sex marriage
Washington2012.6.72009.7.26〜2014.6.30:異性間は62歳以上のみ
2014.7.1〜:同性間、異性間とも62歳以上のみ
異性婚配偶者と同等権利賦与
Same-sex marriage
Maryland2013.1.1Same-sex marriage
California2008.6.17〜11.4○→×(→○)*○ (2005.1.1)
異性間は62歳以上のみ
異性婚配偶者と同等権利賦与
Domestic Partnershipとして認知
New Jersey○ (2007.2.19)(同性間のみ)
異性婚配偶者と同等権利賦与
○ (2004.7.10)
同性間、異性間とも62歳以上のみ
同性婚を含めて認知
Illinois○ (2011.6.1)
異性婚配偶者と同等権利賦与
同性婚を含めて認知
Rhode Island○ (2011.7.2)(同性間のみ)
異性婚配偶者と同等権利賦与
同性婚以外は認知
Hawaii○ (2012.1.1)
異性婚配偶者と同等権利賦与
同性婚以外は認知
Delaware○ (2012.1.1)(同性間のみ)
異性婚配偶者と同等権利賦与
同性婚を含めて認知
Maine○→×○ (2004.7.30)-
Oregon○ (2008.2.4)(同性間のみ)
異性婚配偶者と同等権利賦与
-
Wisconsin○ (2009.8.3)(同性間のみ)認知しない
Nevada○ (2009.10.1)
異性婚配偶者と同等権利賦与
同性婚以外は認知

* CA州最高裁判決○ → Proposition 8× → 連邦地方裁判所○ → 連邦第9控訴裁判所小法廷○
"○→×"が記されているのはCalifornia州とMaine州だが、Maine州の場合は法施行が見送られていたため、CA州のように一定期間内に同性婚が認められるということはなかったようだ。

同性婚一つとってみても、各州の事情は様々である。

※ 参考テーマ「同性カップル

6月26日 AZ州移民法を一部支持:連邦最高裁 
Source :Blocking Parts of Arizona Law, Justices Allow Its Centerpiece (New York Times)
25日、AZ州移民法に関する連邦最高裁の判決が下された。争点は次の4点であった(「Topics2012年4月28日 最高裁はAZ州法に好意的」参照)。
  1. Require state and local law enforcement to verify the citizenship status of anyone stopped, detained or arrested when there is “reasonable suspicion” that the person is in the United States unlawfully.

  2. Authorize law enforcement officials to make and arrest without a warrant when an officer has “probable cause to believe . . . [t]he person to be arrested has committed any public offense that makes the person removable from the United States.”

  3. Make it a state crime to be in the United States unlawfully and require non-citizens to carry documents to prove they are legally in the country.

  4. Make it a state crime for a person who is not lawfully in the country to work or seek work. Federal law puts the burden on employers to verify the legality of those seeking work.
結論は、1点目は支持(判事全員が賛成)、その他の3点は不支持というものであった。要するに、最も世間的には関心が高い"show me your papers"規定だけが支持された、という形だ。

この判決は、不法移民に関する法的権限は連邦政府が優先することを明確にした。逆に言えば、連邦法の執行責任も連邦政府に負わされることになる。AZ州政府・警察が摘発した不法移民の扱い、端的に言えば拘留、国外退去措置の執行は連邦政府に委ねられることになる。Obama政権としては、複雑な対応を迫られることになろう。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

6月25日 報酬比較のツール 
Source :Retention of Key Talent and the Role of Rewards (WorldatWork)
企業にとって重要な役割を果たす有能な人材は貴重な存在である。上記sourceは、その有能な人材の確保に関して企業を対象に行った調査の結果である。
  1. 有能な人材が退職してしまう理由としては、@他社の方が高い報酬を得られる、A昇進の機会がない、といった項目が挙げられている。
  2. 有能な人材の引き止め策としては、@労働市場で示されている報酬よりも高い報酬を提供する、A賞与などのインセンティブを提示する、B誰が事業にとって重要な人材であるかを判別する、Cフレックスタイムなど勤務時間を柔軟にする、などが有効策として挙げられている。
1.の退職理由として、他社の報酬が高いから、というのが挙げられている。実はここにちょっと意外感があった。なかなか他社の報酬体系と単純比較するのは難しいと思っていたからだ。ところが、アメリカの労働市場には、こうした報酬を比較するサイトがいくつもあるらしい。 試しに、一番上の"salary.com"で、かつて住んでいたBethesdaエリアでリサーチャーの職を探してみると、「サラリー+ボーナス」の分布図やベネフィットの提供状況の概要が示される。こうした統計数値によって、自分の報酬が地域で見て高いのか低いのか、すぐに判別してしまうのである。

いわば、労働価格が内部労働市場にも外部労働市場にも明らかになっている。労働市場が有効に機能するためのインフラが、しかも民間活力によって整えられているということなのだろう。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制」、「労働市場

6月24日 労組資金に大打撃 
Source :Mid-year union dues increase: Hudson notice required, opt-in not opt-out (LawMemo)
21日、連邦最高裁は、労組の組合費徴収に関して、次のような判決を下した。
"公的部門の労働組合が、期の途中で組合費を引き上げる、または特別徴収を行う際には、新たに"Hudson notice"を発行しなければならない。また、非組合員については各人の同意を得ない限り、徴収することはできない。"
この判決で特徴的なことは次の2点だそうだ。
  1. 期中での組合費増額について、"Hudson notice"を発行しなければならないと判断したのは初めてである。

  2. 非組合員の同意がなければ増額を徴収できないとの判断も初めてである。
今回の判決の事案(Knox v. SEIU)は、概ね次のようなものであった。 最高裁判事の賛否は7対2で、さすがのリベラル派も、契約違反であると認めたのである。

さて、この判決の重みは、大統領選挙の年に出されたことにある。大統領選挙のみならず、連邦議会選挙、州知事・州議会選挙も予定されている中、選挙支援のための追加的な資金集めが最も必要になる時期なのである。

共和党は大喜び、労働組合は憤慨している(Financial Times)。

※ 参考テーマ「労働組合」、「大統領選(2012年)

6月23日 Romneyの中長期提案 
Source :In Speech, Romney Takes Softer Tone on Immigration (New York Times)
Romney氏は、バス・ツアー・キャンペーン中だが、その立ち寄り先の一つであるフロリダ州でスピーチを行った。不法移民対策にも言及し、大統領就任の暁にはObama大統領の行政手続き命令を覆すのか、という問いには相変わらず直接答えなかったものの、中長期的な対策案を示した(「Topics2012年6月18日(2) Romneyは態度保留」参照)。 もちろん、フロリダ州に多数居住するヒスパニックを意識しての発言である。Romney陣営によれば、不法移民対策についてこれまでのような厳しい姿勢の言葉を続けていると、ヒスパニックは、その他の政策については全く耳を貸さなくなる、というのである。立ち位置を少し修正することで、本件におけるObama大統領の優位を消していこうという作戦である。

しかし、これを保守層が強い中西部で問われた場合にどのような対応を取るのか。今から頭の痛いところであろう。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者」、「大統領選(2012年)

6月22日 前衛的なベネフィット 
Source :Is Beer In the Workplace an Employee Benefit? (Human Resource Executive Online)
上記sourceでは、いろいろな形でのベネフィットが提供されていることを紹介している。 いずれも新興企業で、伝統的なベネフィットと前衛的なベネフィットの組み合わせをトライしているようだ。従業員の特性、職場の雰囲気に合わせたベネフィット提供が、新たな社風を生み出していくのだろう。

※ 参考テーマ「ベネフィット

6月21日 医療費抑制策:MA州 
Source :Single-payer health care would save billions for Massachusetts (Boston Globe)
医師の団体 (Physicians for a National Health Program) が、MA州の医療費抑制策として6つの提案をしている。

  1. 単一保険プランに移行して、中間組織、中間コストを削減する。MA州では、$1の保険料で10¢の中間コストを負担している。カナダのオンタリオ州では、たった1¢だ。

  2. 消防署におカネを払うように病院にも支払え。患者一人ひとりに請求書を出したり、ペーパーワーク等に、病院収入の1/4が費消されている。これだけで2013年には$3Bの節約になる。

  3. 病院の設備投資競争を止めさせる。

  4. プライマリーケアの医師を増やし、専門医を削減する。報酬もそれに見合うように改める。

  5. 薬価も州内で単一とする。カナダの処方薬はMA州よりも40%安い。単一保険だから交渉力がある。

  6. 病院経営者の報酬に上限を設ける。どうして、病院経営者の報酬が大統領の報酬よりも高いのか。
(アメリカ医療界としては)かなり過激な提案が並んでいる。それもそのはず、この主張をしている医師の団体は、VT州の単一保険プラン法の立役者なのである(「Topics2011年5月27日 医者が単一プランを勧める訳」参照)。次はMA州にターゲットを定めたということか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/MA州