3月28日 連邦最高裁第一日 
Source :Justices Have Hard Questions on Insurance Requirement (New York Times)
27日、いよいよ医療保険改革法の核心部分である「保険加入義務規定」に関する連邦最高裁の審判が始まった。上記sourceは、その一日目の判事の発言を伝えたものであるが、連邦政府にとっては予想以上に厳しい質問があったようだ。次の表は、連邦政府に対して発せられた判事達の質問事項である。
保 守 派Chief Justice John G. Roberts Jr.(連邦)政府は携帯電話の購入を強制することができるのか
Antonin Scalia何かを購入しなければ、規制されることが可能なのか
Clarence Thomas-
Samuel A. Alito Jr.葬儀保険(burial insurance)への加入義務についてどう考えるか
中 道 派Anthony M. Kennedy規制を設けるために商取引を創出することができるのか。
保険加入義務は先例のないものであり、正当性を確認することは極めて難しい。
リベラル派Ruth Bader Ginsburg保険加入義務は、無保険者がただ乗りしていることに対する解決策である。
Stephen G. Breyer(保険加入義務を支持)
Sonia Sotomayorアメリカ人は、重体の子どもが救急治療室から追い出されることような医療制度にもう耐えられない。
Elena Kagan(保険加入義務を支持)
もちろん、質問の内容が判事の考え方を直接表しているとは限らないので、早計は禁物である。しかし、リベラル派の楽観論(「Topics2012年3月21日 70年前の判例」参照)が吹き飛んでしまったことは確かのようである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

3月27日 従業員の総報酬 
Source :Employer costs for legally required benefits in December 2011 (BLS)
上記sourceでは、アメリカ企業に勤める従業員の平均的な総報酬の構成を示している。
時間当たり総報酬(構成比、%)(2011年12月)
  • $28.57 (100)
    • 給 与 $20.14 (70.5)

    • ベネフィット $8.43 (29.5)
      • うち法定福利 $2.33 (8.1)
        1. Social Security $1.34 (4.7)
        2. Medicare $0.33 (1.2)
        3. 州失業保険 $0.21 (0.8)
        4. 連邦失業保険 $0.2 (0.1)
        5. その他 $0.41 (1.4)
もちろん、これ以外に、半分以上の企業では医療保険プランを提供している。これがおよそ8%程度と言われているので、法定福利のほぼ倍を負担していることになる。

ところで、医療保険改革法が完全施行となり、医療保険プランを提供していない場合のペナルティは、法定福利に含まれることになるのだろうか?

※ 参考テーマ「ベネフィット」、「無保険者対策/連邦レベル

3月26日 HHSの保険料審査 
Source :Health insurance rate hikes in nine states deemed excessive by HHS (HHS)
22日、HHSは、不合理な保険料引き上げ(10%以上で合理的な説明のないもの)を行っているとして、9つの州にわたって2つの保険会社の保険プランを指摘した。ここで指摘された9つの州とは、
Arizona, Idaho, Louisiana, Missouri, Montana, Nebraska, Virginia, Wisconsin, Wyoming
である。このうち、適切な保険料引き上げの監督が行われていないとされているのは、NCSLによれば、
Arizona, Louisiana, Missouri, Montana, Virginia, Wyoming
の6州である。逆に言えば、
Idaho, Nebraska, Wisconsin
の3州については、州政府の監督プロセスが適正と認められているにも拘わらず、連邦政府が『問題だ』と指摘していることになる。こうした事態は、連邦政府による州政府の権限侵犯ということにならないのだろうか?

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

3月25日 保険加入義務の分離可能性 
Source :The Severability Doctrine (New York Times)
上記sourceによれば、医療保険改革賛成派も反対派も、保険加入義務について奇妙な一致を見せているという。つまり、どちらも『医療保険改革法全体と保険加入義務は一体である』と主張している。

賛成派は『医療保険改革法の様々な規定は個人加入義務と密接に関連しており、保険加入義務だけをはずすことはできない』と主張している。

一方、反対派は、『保険加入義務は医療保険改革法の中心的な柱の一つであり、それが違憲となれば改革法全体を廃止とすべき』と主張している。

このように、どちらも都合よく『一体』を捉えている。上記sourceの筆者は、ロースクールの教授であり、保険加入義務規定は連邦議会の権能の範囲だと考えている立場だが、この両派の『一体』との主張は間違いだ、と述べている。今回の連邦最高裁で争われるのは、あくまで『保険加入義務規定の合憲性』であり、それ以上の判断を最高裁が示すべきではないと考えている。

確かに、違憲と判断された場合、その他の規定をどう扱うかは、改めて連邦議会で検討すべき課題である。ただし、それはかなり難しい課題であることは間違いない。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

3月24日 Exchangeの施行規則 
Source :HHS issues final regulations on health insurance exchage (PWC)
上記sourceでは、12日に公表された"Exchange"に関わる最終ルールについて、解説が示されている。バックグラウンドも含めて解説しているので、わかりやすくできていると思う。

その中で、気になる点がいくつかあったので、まとめておく。
  1. 勤め先の企業が保険プランを提供している場合、その従業員はExchangeに加入することができないのだが、企業が提供する保険プランの最低価値がどのようなものなのかについて、ルールが示されていない。これが示されないと、企業の方で提供すべき保険プランの見直しができない。

  2. 企業とExchangeの間で、従業員に関する情報をやり取りしなければならないが、そのルールが示されていない。

  3. 州政府がExchangeを設立しない、または連邦政府から認可されなかった場合、連邦政府が変わってExchnageを運営することとなっている。しかし、今回の最終ルールでは、連邦政府によるExchange運営ルールが示されていない。
最後の3点目は、極めて重要である。州政府が全体的にExchange創設に積極的ではない中で、連邦政府によるExchangeの運営ルールを示さなければ、州政府への働きかけにならない。連邦政府運営にのExchangeになると、こんなに大変なことになる、と思わなければ、州政府は積極的に動かないだろう。そうした面でも、Exchangeに関する連邦政府の対応は遅れている。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

3月23日 MN州共和党の逡巡 
Source :‘Right to Work’ Bills Face Uncertain Future in an Election Year (New York Times)
Indiana州で"right-to-work"法案が成立し、Michigan、Maine、New Hampkshire、Missouriなどの州で同様の検討に弾みがつくと見られていた(「Topics2012年1月27日 "Right to Work" State」参照)。ところが、Michigan州知事(R)は、『時期尚早』と明言しているし、Minnesota州(MN)の議会共和党も、同法案の推進には逡巡しているようだ。

いずれも、露骨な労組叩きがもたらす分裂と州民の反発を懸念している。昨年、WI州、OH州で主に公務員労組に対する厳しい法律が制定されたが、両州知事は、州民の反発から、逆風に立たされている。そうした状況を見て、選挙の直前に、大反発必至の労組いじめ法案を審議することにためらいを覚えているのである。

ただし、こうした対応は、共和党右翼からの批判の的となり、共和党内部の対立を生みかねない。まさに、今の大統領候補選の"中道保守 vs 右翼保守"の構図が持ち込まれる可能性がある。

※ 参考テーマ「労働組合

3月22日 下院予算委員長の再提案 
Source :New Ryan Budget Would Transform Medicare And Medicaid (Kaiser Health News)
実現性は低いのだが、昨年(「Topics2011年4月7日 下院予算委員長提案」参照)に引き続き、連邦議会下院予算委員会が財政改革決議案を公表した。その中には、Medicare & Medicaidという公的医療保障制度の抜本的改革案が含まれている。同委員会を率いるのは、Paul Ryan下院議員(R)である。

上記sourceによれば、主な改革案は次の通り。
  1. Medicare

    1. 加入資格年齢を徐々に引き上げ、2034年までに67歳とする。

    2. Medicare支出伸び率を、GDP伸び率+0.5%以内に抑える。

    3. 上限値を超えた場合、診療報酬を削減する。

    4. 2023年以降、Medicare Exchangeを創設し、新規加入者(現在55歳未満)は、民間保険プランか従来型の公営保険プランを選択する。

    5. 『民間保険プラン保険料の安い方から2番目』と『公営保険プラン保険料』の比較で、安い方の保険料相当分を連邦政府が負担する。

    6. 加入者は実際の保険料と政府負担分の差額を負担する、または返還を受ける。

    7. 民間保険プランは、保険数理上、公営保険プランと同等のカバレッジを提供しなければならない。

    8. Medicare改革で生まれた財源を他のプログラムに利用することを禁じる(=医療保険改革法で他の歳出項目に利用する予定にしているのを阻止する)。

    9. Obama大統領の提案と較べて、今後10年間で$205Bの赤字削減効果が見込める。

  2. Medicaid

    1. 連邦支出を包括払いとする。

    2. 今後10年間で$810Bの歳出削減が見込める。
今回はいつものパフォーマンス、と流しておいてもよいのだが、11月の選挙後には具体的な歳出削減策の重要な柱として、これらの改革を検討しなければならない。それがなければ、Medicare支出は自動的に2%削減となってしまう。実は、検討の時間は非常に限られているのである。

※ 参考テーマ「Medicare」、「Medicaid

3月21日 70年前の判例 
Source :At Center of Health Care Fight, Roscoe Filburn’s 1942 Case (New York Times)
医療保険改革法の核心部分『医療保険加入義務』について、連邦最高裁が合憲かどうかを判断する裁判に注目が集まっている。そうした中、注目されているのが、1942年に判決が下った"Wickard v. Filburn"事件だそうだ。

事件の概要は次の通り。 以後、50年間、連邦最高裁は、州際商取引に関する連邦法を違憲と判断したことはないとのことである。

1995〜2000年の間に、学校周辺での銃販売に関する連邦法と、女性に対する暴力に関する連邦法が、地域に関するものであり、商取引の問題ではない、として、違憲判決を受けている。

しかし、2006年には、医療用マリファナの自家栽培を規制する連邦法については、合憲の判決が下されている(Gonzales v. Raich)。

こうしたこれまでの連邦最高裁の判決を受け、義務化推進派は、70年前の事案と同じであり、合憲との判決が下るはず、と考えている。他方、義務化反対派は、医療保険への加入は経済行為ではなく、当てはまらないと考えている。

当websiteで本件を追いかけてきた経緯からすると、上述のような議論は、少し論点がずれているような気がする。医療保険は、そもそも州政府の管轄であり、だからこそ、MLRやExchangeは州単位で議論されている。州際保険購入や州際処方薬購入は、これまで何度も俎上委のぼりながらも、認められてきていない。こうしたことを考えると、保険加入や無保険者でいることが、州を越えた連邦全体の医療マーケットに影響を及ぼす商取引と見做すのは、かなり無理があるのではないだろうか。そんな疑問を持ったところである。

ところで、連邦最高裁判事の傾向は、一般的に次のように言われている。


しかし、今回の事案については、同性婚の場合(「Topics2012年2月8日 Proposition 8に違憲判決」参照)と異なり、Kennedy判事に加え、Scalia判事も中立的な立場と見られている。従って、リベラル派の賛成が堅いとすれば、彼ら二人のうち一人でも賛成に回れば合憲との判決となる。義務化推進派にとっては若干余裕が出てきているのかもしれない。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル