6月20日 Steel VEBA 
Source :Steel Retirees Offered Deeply Discounted Health Insurance (Pittsburgh Tribune-Review)
先々週、NYの連邦破産裁判所が、"Steel Retiree VEBA"の設立を認める判決を下した。同基金の概要は次の通り。
  1. 7月1日に設立。

  2. 加入資格者は、約45,000人。要件は次の通り。
    1. 年齢は55〜64歳
    2. 破綻した鉄鋼メーカー退職者とその被扶養者
    3. 破綻した鉄鋼メーカーは、年金プランを廃止し、PBGCに移管した場合に限る。

  3. 加入者は医療費等の27.5%を負担。残りの72.5%は連邦政府が負担。根拠法は、"American Recovery and Reinvestment Act of 2009"。
加入者負担が重く、Medicare加入までのつなぎということだが、それでも大盤振る舞いである。年金プランをPBGCに救済してもらって、退職者医療もですか、という印象だ。上記根拠法では、破綻した自動車部品メーカーについても、同様のVEBAを設立できるようである。

※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost」、「PBGC/Chapter 11

6月19日 "Death spiral":WA州の教訓 
Source :Washington state provides case study on effects of heath-care reform (Washington Post)
PPACA(医療保険改革法)の保険加入義務を外すとどういう結末になるのか、WA州の経験が語っているという。上記sourceで紹介されているWA州の医療保険関連法の変遷とそれに伴う変化の概要は、次の通り。
1990年医療保険改革について議論開始当初は単一保険プラン導入を検討したが、結局、「管理された競争」制度とすることとした。
1993年7月1日保険会社に加入申請受け入れを義務付け既往症に伴う保険料の増額も禁止。1998年に州民に保険加入義務付けを予定。
1994年共和党が州議会多数党になり、保険加入義務規定を廃止。保険会社の加入申請受け入れ義務は継続。そのため、保険加入するのは高額医療を受ける可能性のある人ばかりになり、保険料が高騰(3年間で78%上昇)、加入者は激減した。
1993〜1998年17の保険会社がWA州個人保険市場から撤退。残ったのは2社のみ。
1999年残る2社も撤退。WA州の個人保険市場は完全に停止。
2000年州議会による保険法の改正。@既往症のある加入申込者については、加入申請から9ヵ月後に保険給付を開始。
A高リスクの者は州立のハイリスク保険に加入。
現在 ・個人保険市場に参入している保険会社は9社。
・無保険者割合は13%。これは医療保険改革を開始した時点と同じ。
連邦政府のPPACAも、個人の保険加入義務を外してしまえば元の木阿弥になる、という訳である。そういえば、現在、WA州は、 と、Obama政権からみると、極めて優等生なのである。この20年間の教訓がこのような結果をもたらしているのだろう。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/WA州

6月18日(1) 技術者のミスマッチ 
Source :Is there a skills mismatch in the labor market? (Chicago Fed Letter)
Los Angeles Times紙は、「CA州の失業率はこんなに高い(10.9%)のに、企業が技術者を採用しようと思ってもなかなか必要な技術を身につけている求職者がみつからない」と報じている。そこで紹介されている事例は次の通り。 その他、CA州以外でも、農業、IT関連、重機、金属板加工などの分野で技術者が採用できないと報じている。

こうした現象は、『技術者のミスマッチ』と呼ばれているもので、マクロ経済政策上も話題に上っている。例えば、FRBのバーナンキ議長は、今の高水準の失業率の主因は総需要不足であり、技術者等労働市場におけるミスマッチは限定的という見解を示している(「Topics2012年4月1日 総需要が不足」参照)。

上記sourceは、バーナンキ議長の主張をさらに分析したものであり、概ね同じ結論を導き出している。
  1. マクロ理論
    • 摩擦理論:労働市場には摩擦が存在するために、求職者と仕事をマッチングするのに時間を費やす。

    • マッチング効率理論:労働市場におけるマッチングのプロセスはブラックボックスを想定し、失業者と仕事が結び付いて雇用となる。マッチング効率が高ければ、雇用はスムースに形成され、効率が低ければ雇用はなかなか形成されない。

    • 「島」理論:ここでいう「島」は、特定の経済範囲、例えば特殊な職業、高度な技術を必要とする職業、地理的範囲などを指す。労働者も企業も、自らが所属する「島」の中でしか相手を探さない。なぜなら、他の「島」に移るのは高コストになるからである。その結果、ある「島」では失業者しか発生せず、その他の「島」では求人が満たされない。「島々」を合計すると、失業者と満たされない職が存在する。求職者や企業が「島」から移住できれば、こうしたミスマッチが解消される。

  2. 「技術者のミスマッチ」の存在
    • "Beveridge curve"のシフト:マッチング効率が低下しており、ミスマッチが増えていることを示す(「Topics2012年4月1日 総需要が不足」参照)。
    • 分散指数:産業毎の失業率、求人率の分散度を指数化したもの。直前の景気後退期にこの指数が急上昇したが、回復期に入って急低下している。
    • 求人達成率と採用活動量:景気後退期に求人達成率(Job-filling rate)は高まったが、求人一人あたりに投入した採用活動量(Recruiting intensity index)は、回復期に入っても低位で留まっている。このことから、企業側が採用に当たって高い基準を設けているからではないかと推測できる。

      また、産業毎の求人達成率の分散度(Job-filling rate, dispersion)が回復期に低下していることから、各産業とも採用の容易さに大きな違いがなく、従って、経済全体ではミスマッチは少ないと見られる。

      同時に、産業毎の採用活動量の分散度(Recruiting intensity, dispersion)は回復期に上昇しており、各産業の採用の難しさに違いが出てきており、従って、ミスマッチが高まっているとも見られる。
    • 技術度別の労働需給:
      1. 景気後退直前(2007年)と2011年の雇用数の比較

        全体では、約6.2%程度減少している。高技術を要する職(Group 5)は既に2007年水準に回復している。全体よりも大きく減少しているのは、中程度の技術を要する職(Group 3, 2)で、8〜9%減少している。逆に、エンジニアについては、2007年よりも2%増えており、人手不足に陥っている職種となっている可能性がある。

      2. 求人広告の動き

        いずれの技術水準の職でも2009年後半から求人広告が急増しているが、特に、中程度の技術水準の求人広告の増加率が高止まりしている。
    こうしたことから、もしも仮に労働市場にミスマッチがあるとすれば、中程度の技術水準の職種においてではないかと考えられる。
では、中程度の技術水準が求められる職種とはどのようなものなのか。上記sourceには記述がないため、BusinessWeekが取材している。それによると、次のような職種が例示されている。 今回、これら資料を読んでいて気付いた点を2つ。
  1. 「島」理論は面白いが、島と島の間を移動する、または橋をかけるには、相当の時間を要することが想像できる。職種を変えるということは簡単ではない。

  2. 実は、ミスマッチが拡大していることによる失業なのか、という問いは、FRBにとって重要である。もしそれが正しければ、FRBの出番はない。総需要が不足しているのであれば、逆にFRBの出番はあり得る。上述の結論がミスマッチが拡大しているかどうかは断定していないが、総需要が不足していることを否定はしていない。こうしたフェアな姿勢が分析の信憑性を高めている。
※ 参考テーマ「労働市場

6月18日(2) Romneyは態度保留 
Source :Romney wavers on deportation (Financial Times)
Obama大統領が発表した若い不法移民の保護策について、Romney氏はインタビューの中で、この保護策を無効にするかどうか、言明を避けた(「Topics2012年6月17日 若い不法移民を保護」参照)。ここで激しくぶつかることになれば、ヒスパニックからの批判が強まることを恐れたのであろう。また、共和党内の候補者選びは事実上決着しているので、共和党内の争点にはならない、と踏んでいるのだろう。

ただ、ちょっと意外な反応ではあった。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者」、「大統領選(2012年)

6月17日 若い不法移民を保護 
Source :Obama Limits Deportations, Giving Young a Work Option (New York Times)
15日、またまたObama大統領が、重要な行政手続きを発動した(「Topics2012年1月10日 不法移民:行政手続き変更提案」参照)。不法移民に関するものである(White House)。ポイントは次の通り。
  1. 次の要件に該当する不法移民者については、国外退去の執行を停止する。

    • 16歳未満でアメリカに入国した。

    • 少なくとも5年以上、アメリカに居住している。

    • 学校に在籍している、高校を卒業している、もしくは問題なく兵役を終えている。

    • 30歳未満である。

    • 犯罪歴がない。

  2. 執行停止期間は2年間。期間更新は可能。
これらの措置により、現行法下で、就労も運転免許取得も可能になるという。対象になる人は80万人以上にのぼるとみられており、極めて広範な影響をもたらす。

これは、かつて立法に失敗した"Dream Act"の復活である(「Topics2010年12月10日(2) 夢で終わった"Dream Act"」参照)。Obama政権になってから、実に110万人以上と大量の不法移民を国外退去させており、ヒスパニックの間では大いに不評を買っている。大統領選を目前に控え、ヒスパニックからの人気回復を図ろうとしていることは明白である。

従って、当然のことながら、共和党は厳しく批判しており、Steve King下院議員(R-IA)などは、訴訟を起こしてでも阻止すると息巻いているそうだ。そして、Obama大統領の対立候補となるRomney氏は、共和党の中でも不法移民に対して厳しいスタンスを明確にしている(「Topics2011年9月7日 共和党候補者の移民政策」、「Topics2011年11月25日 共和党候補者の移民政策(2)」参照)。

この不法移民対策についても、大統領選の争点として浮上してきたようだ。

なお、今回の行政手続きにより、新たな悲劇も生まれる。Los Angeles Times紙は、同じ家族・兄弟の中で、上記要件を満たす者と満たさない者が出てくることを紹介している。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者」、「大統領選(2012年)

6月16日 Romneyの医療政策骨子 
Source :Romney Outlines How He Would 'Replace Obamacare' (Kaiser Health News)
6月12日、Romney氏は、政権を取った場合の医療政策変更の道筋について発言した。以下、そのポイント。 自由市場、選択、州政府権限重視、などがキーワードとなっている。共和党支持者の意向を前面に出しながら、州政府の権限を尊重すると述べることで、MA州皆保険制度導入を正当化している。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「大統領選(2012年)

6月15日 労組への締め付け:CA州 
Source :Move over, Wisconsin -- the union battle is beginning in California (Sacramento Bee)
CA州では、州政府の財政赤字削減策として、州政府職員の報酬引き下げが議論されている。さらに追い打ちをかけるように、職員労組の活動を抑制する提案が州民投票にかけられようとしている。州民投票にかけられる案件に盛り込まれる規定は次の2つ。
  1. 労働組合、企業が直接立候補者に献金することを禁じる。

  2. 労働組合、企業が給与から天引きした金額を政治目的に利用することを禁じる。
2点目は、確実に労組の活動を阻害する。労組の資金源のほとんどが、給与から天引きする組合費だからである。

CA州は、州知事、州議会両院とも民主党が握っている。そんな労組に優しいであろう州でも、このような州民投票が行われるということは、労働組合、特に公務員労働組合に対する風当たりが相当強まっていることを示している。

※ 参考テーマ「労働組合

6月14日 Exchange:IL州議会の逡巡 
Source :Health-care exchanges in many states held up by pending Supreme Court ruling (Washington Post)
IL州といえば、Obama大統領が上院議員として選出されたところであり、州知事・両院議会とも民主党が握っている、立派な"Blue State"である。そんな民主党の牙城で、議会決議は行われているものの、"Exchange"設置法案そのものの議論が頓挫している。

IL州政府の推計によれば、今の無保険者のうち、2014年に80万人、2020年には100万人が"Exchange"のスキームを通じて保険加入できるとみられている。それなのに、州議会の議論が進まない理由は、次の2点である。
  1. 連邦最高裁の判決を見極めたい。

  2. "Exchange"設置法案に対する州民の評価は、賛成・反対がまったく二分されている(45% v 45%)。
民主党議員達は、これだけ賛否が真っ二つに分かれているものを、党派色を鮮明にした投票で決定したくないと考えているのである。つまり、採決するのは簡単だが、次の選挙に悪影響をもたらすリスクが大き過ぎると判断しているのである。

大統領のお膝元でこれでは、PPACAの完全施行は難しい。実際、NCSLの分析によれば、 という有様である。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

6月13日 経済政策への信認度 
Source :ロムニー氏支持率、オバマ大統領に1ポイント差に迫る=世論調査 (ロイター)
上記sourceでは、次のように報じている。
[ワシントン 12日 ロイター] ロイターとイプソスが12日公表した世論調査によると、景気が低迷するなか共和党大統領候補となるロムニー前マサチューセッツ州知事の支持率は44%となり、オバマ大統領の45%に1ポイント差に迫った。前月は7ポイント差だった。・・・・・・
これをみて、久し振りにPOLLSTERを覗いてみた。
項 目Website支 持(%)不支持(%)
Obama大統領の人気度Favorable Rating48.245.6
Obamaの大統領としての仕事ぶりJob Approval47.348.5
Obama大統領の経済政策Job Approval/Economy39.953.1
Obama大統領の医療政策Job Approval/Health Care39.350.3
医療保険改革法Health Care Plan38.847.2

2012年大統領選挙 - 予測
項 目WebsiteObamaRomney
支持率2012 Presidential Race - National46.5(%)44.0(%)
「選挙人」数(推計)Electoral Outlook270(人)191(人)
相変わらず、Obama大統領個人については好感度が高いが、経済政策(=雇用)、医療政策(=医療保険改革法)についてはかなり厳しい状況である。ただし、支持率が接近したとしても、最後は「選挙人」の数の勝負である。こちらはまだまだ大差がついているようだ。

※ 参考テーマ「大統領選(2012年)

6月12日 若者の医療費負担 
Source :An Estimated 6.6 Million Young Adults Stayed on or Joined Their Parents' Health Plans in 2011 Who Would Not Have Been Eligible Prior to Passage of the Affordable Care Act (The Commonwealth Fund)
上記sourceは、アメリカの若者が医療保険改革法(PPACA)のおかげで相当数保険加入したものの、低所得層の若者の医療サービスへのアクセスは、依然として深刻な状況にあると論じている。以下、数字が示されているところをまとめておく。
  1. 2011年、親の医療保険プランに加入していた若者(19〜25歳)は1,370万人。うち、PPACAにより加入資格を得て加入できるようになったのは660万人にのぼるとみられる。PPACAのおかげで若者の親の保険への加入は倍増したことになる。

  2. 若年層(19〜29歳)の約40%は、過去1年間、無保険状態または無保険状態にあった。特に、低所得者層では7割に達している。
  3. 無保険となっている若年層の4分の3は、所得がFPL250%未満である。充分に所得がある若年層が無保険となっている状況は意外と少ない。⇒ 2014年になってPPACAが完全施行となり、補助が出るようになれば、若年層の無保険者はさらに減少する可能性が高い。
  4. 若年層の約4割が、コストを理由に充分な医療サービスを受けていない。
  5. 若年層の3分の1以上が、医療費の支払いに困難な状況にあったり、医療機関への負債を増やしたりしている。
  6. 医療費の支払いに困難を感じている若年層は、低〜中所得層で高い割合になっている。これは保険加入状況に関わらない。
    アメリカの若者は、先日の大学ローンといい(「Topics2012年6月1日 負債を負ってスタート」参照)、医療費の支払いといい、ずいぶんと厳しい経済状況に置かれているようである。

    ※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

6月11日 労働組合と所得分配 
Source :As unions decline, inequality rises (Economic Policy Institute)
労働組合の組織率と、上位10%層の所得占有率との間には、明確な逆相関が存在するという主張である。
確かに1960年頃までは、労組が結成、強化されることで所得分配に影響がもたらされたと思う。しかし、60年代に入って以降、労組組織率の長期低落が始まっていても、所得占有率に大きな変化はみられない。

労働組合の組織率が長期的に低下している理由は、
@労組幹部の政治的言動や腐敗に従業員がついていけない
A労組加入者の利益優先の活動が共感を得られない
といったところが大きい。

一方、80年代以降、
@アメリカ企業の報酬が能力主義、成果主義の色彩を強めた
A起業、上場が容易になり、サラリーマンとしての階段を上らなくても企業のオーナー、株主として成功する
といったことが、高額所得者の誕生に寄与している。

つまり、かつては、サラリーの分配を巡る交渉で労組が大きな役割を担っていたために、上図のような相関関係が見られたものの、サラリー以外の所得のウェイトが圧倒的に高まったために、高額所得者の占有率が高まったのではないだろうか。

労組の組織率が低下するとともに、労組が活躍できる土俵も狭まっているのである。

※ 参考テーマ「労働組合