4月10日 今年の医療費伸び率 
Source :Health Costs Projected to Increase Less than 10% for 2012 (SHRM)
上記sourceは、企業が提供する医療保険プランの医療費がどれだけ伸びるかを推計したものである。結論は次の表につきる。

Type of plan

2012 cost trend increase

2011 cost trend increase

Preferred provider organization (PPO)

9.9%

11.2%

Point-of-service (POS)

9.9%

11.0%

Health maintenance organization (HMO)

9.9%

11.0%

High deductible health plan (HDHP)

9.9%

11.1%

Source: Buck Consultants.

要するに、みんな10%以内の伸び率に収まるというのである。これは、HHSが10%以上の伸び率の場合に合理的な説明を求めるとした規制(「Topics2012年3月26日 HHSの保険料審査」参照)に合わせ、保険会社が自主的に対応しているのではないかと思われる。

逆に、HHSの規制により、伸び率10%までは目一杯引き上げていける、というお墨付きを得てしまったのではないだろうか。

※ 参考テーマ「医療保険プラン

4月8日 MN州の単一保険プランへの挑戦 
Source :BEYOND THE AFFORDABLE CARE ACT (GROWTH & JUSTICE)
上記sourceは、MN州に単一保険プランを導入すればこんな姿になる、というビジョンを示したものである。タイトルからもわかる通り、医療保険改革法では望ましい医療制度は達成できない、という、リベラル派の主張である。

MN州は、無保険者率が10%(65歳未満)と低く、皆保険法案が州議会に提出されたりして、無保険者対策に熱心な州である。また、現在のMN州知事(D)は、知事選で単一保険プランのアイディアに賛同している。ただし、州議会は両院とも共和党が過半を押さえており、実現は難しい。

ここでは、上記sourceに盛り込まれている情報で、参考になりそうなものをまとめておきたい。 MA州の医療保険制度では皆保険を実現することはできない、従って、PPACAでも同様である、という訳である。単一プラン制度については、VT州が先行している。MN州は、それからは大きく遅れてはいるが、何とか二番手の地位を確保したいということなのだろう。

※ 参考テーマ「無保険者対策/MN州

4月7日 MLRに基づく返還額 
Source :Estimating the Impact of the Medical Loss Ratio Rule:A State-by-State Analysis (Commonwealth Fund)
上記sourceでは、MRLが確定したことに伴い、保険プラン加入者への返還額を州別に推計している。なかなか面白い結果である。
  1. 各保険プラン市場における加入者一人当たり年間返還額(全米平均)は次の通り。
    個人プラン小規模グループプラン大規模グループプラン
    償還義務を負う保険者の市場占有率53%24%15%
    上記保険者提供プラン加入者
    一人当たり返還額
    $183$85$72
  2. 返還総額の上位5州:TX, FL, VA, IL, MD

  3. MLR特例措置を受けた州の個人プラン加入者一人当たり償還額(「Topics2012年2月21日 MLR特例審査終了」参照)
  4. 営利、非営利別でみると、やはり営利目的組織による保険プランの方が返還額が大きい。
全体から見れば、結構なボーナスとなりそうである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

4月6日 もう一つのDOMA裁判 
Source :Federal appeals court takes up Defense of Marriage Act (Los Angeles Times)
DOMAの合憲性について、第9控訴裁判所で争われていることは紹介したが、上記sourceでは、第1控訴裁判所でも争われていることを紹介している。

MA州在住の連邦政府の女性職員が、同性婚配偶者の医療保険プランへの加入を求めている案件である。MA州は、同性婚を認めている州であり、DOMAは違憲だ、というのが原告の主張である。2年前、連邦地方裁判所はDOMAは違憲であるとの判決を出しており、現在は、第1控訴裁判所で争われている。
同性婚の法的ステータス
州 法州最高裁判決他州認可同性婚承認認可法案審議中異性婚同等権利賦与
MassachusettsA@
Vermont
ConnecticutA@
Iowa
New Hampshire
Washington, D.C.
New York
Washington
Maryland
California○→×(→○)*
Rhode Island
Illinois
New Jersey
Oregon
Nevada
Hawaii
Wisconsin
Delaware
Maine○→×

* CA州最高裁判決○ → Proposition 8× → 連邦地方裁判所○ → 連邦第9控訴裁判所小法廷○
なお、上記sourceでは、当websiteと同様、現在の連邦政府の"double standards"を指摘している(「Topics2012年4月3日 大統領の焦燥」参照)。同性婚では州法に準じるべきとのスタンスを取っているのに対し、医療保険改革法の保険加入義務規定は連邦法に準じるべきとしている点である。

※ 参考テーマ「同性カップル

4月5日 企業の責務
Source :Apple has an obligation to help solve America's problems (CNN)
昨年2月、Obama大統領と故Steve Jobs氏との間で、次のような会話がなされたそうだ(New York Times)。
Obama大統領:「iPhoneをアメリカで製造するためにはどうすればいいのか?海外に移された雇用はなぜ戻れないのか?」

Jobs氏:「その雇用は戻ってこない。」
少し前まで、Apple社はアメリカ製品の増大に寄与していたが、今はほとんどない。昨年、ほとんどのApple製品は海外生産になっている。また、現職のApple社役員は、「iPhoneは世界中で販売している。我々はアメリカの課題を解決する責務は負っていない。我々の唯一の責務は、最高の製品を作ることである」と発言している。

上記sourceは、こうしたApple社の姿勢に咬みついて、「アメリカの課題を解決する責務を負っている」と主張している。その具体策としては、次の2点を主張している。
  1. 部品メーカーにアメリカでの製造を求めていくべきである。そうすれば、同社のアメリカ国内でのR&Dを増やすことができる。

  2. 加工組立過程をメキシコに移していくべきである。こうすれば、上記と併せて、北米に雇用を増やすことができ、アメリカ=メキシコ間の貿易不均衡を是正することができる。
一方、Apple製品・部品の製造元である中国工場では、長時間労働などの問題が指摘されている。

Jobs氏というカリスマが没し、同社の光と影が浮き彫りになりつつあるようだ。グローバル企業の経営と国内の雇用問題は、アメリカに限らず、先進諸国にとっての共通の課題である。また、『雇用の創出は企業の責務ではない』という基本認識のもと、先進諸国政府は立地競争力(=企業誘致力)を競っている。

自由経済、市場経済の最右翼であるアメリカで、再び『雇用創出は企業の責務か』という課題が問われようとしているのかもしれない。

※ 参考テーマ「労働市場

4月4日 IRAの利用度
Source :TIAA-CREF Survey Reveals Majority of Americans Miss Opportunity to Contribute to IRAs for Retirement Savings (TIAA-CREF)
上記sourceは、TIAA-CREFが行ったIRAに関する調査の結果概要である。ポイントは次の通り。
1IRAを利用して拠出を行っている人22%
2利用している人の中で、IRAの年間拠出限度額一杯まで拠出している人38%
3利用している人の中で、IRAの年間拠出限度額未満で拠出している人55%
4現時点でIRAに拠出していない人76%
その他、 の方が、IRAの利用率が高いそうだ。

IRAの拠出限度額は、年間$5,000、50歳以上なら$6,000を無税で拠出できる。20年続ければ、元金だけで$100,000たまるのに、これだけ利用率は低いのである。もっとも、自分でも個人型確定拠出を始めることはできるのに、やっていない。やはり、天引きが重要な切っ掛けであることは間違いなさそうである。

※ 参考テーマ「DB/DCプラン

4月3日 大統領の焦燥 
Source :Obama Remains Confident That Court Will Uphold Health Care Law (New York Times)
医療保険改革法の「個人加入義務規定」を巡る連邦最高裁の意見聴取、口頭弁論が行われ、Obama大統領が異例のコメントを公表した。

ポイントは次の通り。
  1. 民主的に選出された連邦議会議員の過半数によって成立した医療保険改革法をひっくり返すことになれば、前例のない、異常な事態である。

  2. 無保険者を減らすためには加入義務規定が不可欠であり、現実的な施策であることを判事たちは理解すべきである。。

  3. 事前に法案を吟味した法学者、弁護士たちも、合憲であると判断している。
そりゃないよ、というのが最初の印象である。

まず、連邦最高裁が法律に関する合憲性を判断するのは、司法にとって最も重要な役割である。これに干渉しようということなら、大統領としては越権行為である。

第2に、連邦最高裁が判断するのは、『保険加入義務規定の合憲性』であり、無保険者対策をどのように打つべきか、という課題は、立法府・行政府の責務である。

そして、最後に、Obama大統領は、1点目の批判を展開する際、"judical activism"に陥っているのではないか、と述べているのである。司法のスタンスに対して、この"judical activism"という用語を使用するのは、保守派(共和党)のお家芸である(Financial Times)。

しかも、保守派がまさに"judical activism"の典型であると批判する、裁判所の同性婚、DOMAに対する判決を利用して、同性婚を既成事実化しようと動いているのは、まさにObama政権である。

Obama大統領は、先週行われた口頭弁論の要約を読んでいるようである。Obama大統領がこれだけ際どいコメントをせねばならないほど、危機感を感じているということなのだろう。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「同性カップル

4月2日 同性婚配偶者が医療保険加入 
Source :White House: Same-sex spouse may get health-care coverage (Washington Post)
以前、サンフランシスコの連邦地方裁判所で、「DOMA」は違憲との判決が出されたことを紹介した(「Topics2012年2月25日 DOMAに違憲判決」参照)。この判決で勝訴したのは、連邦第9控訴裁判所の判事(女性)、Karen Golinski氏ある。

OPMは、3月9日付けの保険会社宛レターにより、このGolinski氏の配偶者を連邦職員を対象とした医療保険プランに加入させるよう指示した。遂に、連邦政府職員の同性婚配偶者に、異性婚配偶者と同等のベネフィットを提供することになったのである。ただし、配偶者の加入を認めるのは、本件のみであり、他の同性婚配偶者については加入を認める予定はないそうだ。つまり、連邦地裁の判決を受けての措置である、ということを明確にしているわけだ。

もちろん、連邦議会は、サンフランシスコ連邦地方裁の判決を不服として"第9控訴裁判所"に控訴している。おそらく、Golinski氏が所属する第9控訴裁判所は、この控訴を棄却すると思われる。従って、これも最終的には連邦最高裁における判決を待つしかなく、その結果如何では、このベネフィット提供は取り消されるかもしれない。

※ 参考テーマ「同性カップル

4月1日 総需要が不足 
Source :Recent Developments in the Labor Market (FRB Chairman Ben S. Bernanke)
上記sourceは、26日に行われたバーナンキFRB議長の講演原稿である。ポイントは次の4点。
  1. 雇用者数、労働時間数、失業率など労働市場には改善の兆しが見られる。

  2. 一方で、(6ヵ月以上の)長期失業者の水準が極めて高くなっているし、労働市場への参加率も低下している。

  3. このように、労働市場が明確に改善しないのは、労働者の技術不足や、市場のミスマッチなどの要因よりも、総需要が不足していることが主因となっている。

  4. そうであれば、今のGDP成長率では、今の労働市場の改善は一時的なものにとどまることになろう。
ところで、市場のミスマッチを確認する材料として、バーナンキ議長は"Beveridge Curve"と呼ばれるものを参照している。
この図からもわかるように、失業率が低下し始めても、カーブにそっておらず、カーブが立ち上がった状態になっている。つまり、求人率は上がっているのに失業率はなかなか低下しておらず、カーブが右方にシフトしてしまっているのである。企業が雇おうと思っている人材はあるが、それに見合う人材がなかなか見つからない、ということである。

バーナンキ議長は、その理由として次の3点を挙げている。
  1. 景気後退期のレイオフが大規模かつ急速であったために、それに見合うようなスピードで求人の調整ができなかった。

  2. 長期にわたる特別失業給付が行われたために、本来であれば労働市場を退出していたであろう労働者も求職活動を続けた。

  3. 企業の方が、適切な人材が見つかるまで採用しない、つまり選択性を強めている。これは、企業側の雇用ニーズが弱いことを意味している。
経済成長がもっと力強ければ、最後の点はもっと解消され、元のカーブに戻っていくはずである。

※ 参考テーマ「労働市場