7月10日 COBRAとPPACA 
Source :What Everyone Needs to Know About the Coordination of Severance Benefits, COBRA, and the ACA (Davis Wright Tremaine)
皆保険制度ではないアメリカ労働者にとって、労働移動の際の医療保険プランの接続は大事な問題である。その点で、COBRAの仕組みは重要な役割を果たしている(FAQ on DOL web)。

一方、PPACAは今年から本格稼動し、Exchangeを通じた個人保険プランの提供、無保険者に対するペナルティが実施されている。このPPACAの仕組みが入ったことにより、COBRAとの関係で注意すべき点が出てきているというのが、上記sourceの内容である。

  1. 従業員が離職すると、元の職場で加入していた医療保険プランへの加入資格を失うことになる。医療保険プランへの加入を継続するためには、2つの方法がある。

    1. 従業員20人以上の企業の場合、COBRAの規定により、元職場の医療保険プランに加入する。加入できる期間は、退職時(遡及可)から最大18ヵ月間。

    2. Exchangeで個人保険プランを購入する。

  2. COBRAで継続加入を希望する場合には、COBRA Noticeを受け取ってから60日以内に申請しなければならない。保険加入は退職時にまで遡及できるものの、COBRA Noticeの発送が離職時から数週間後ということもざらにある。

  3. また、一般的に、COBRAの方が、Exchange保険よりも負担が重いことが多い。

  4. 一方、Exchangeを通じての保険加入には、次のような制約がある。

    1. 加入期間について、(離職時まで)遡及することはできない。

    2. 加入手続き期間が11月15日〜2月15日に限られている。

    3. その他特別手続き期間として、特定ライフイベントから60日以内という期間が設けられている。この特定ライフイベントの中には、医療保険の喪失も含まれる。

  5. COBRAで加入した保険プランでも、Exchangeで加入した保険プランでも、任意で非加入となった後に再加入するためには、次のExchange加入手続き期間まで待たなければならない。

2つの制度が複雑に絡み合うため、次のような事例が発生する可能性が出てくる。 転職する、または離職する労働者は、充分気をつけながら保険加入の継続を図っていかなければならない。

※ 参考テーマ「解雇事情/失業対策」、「無保険者対策/連邦レベル

7月9日 勤務時間調整拡大 
Source :ObamaCare Employer Mandate Hit-List Grows To 429 (Investor's Business Daily)
やはり、PPACAに基づく医療保険提供義務を回避するために、雇用調整が広まっているようだ。右のグラフは、週の勤務時間が25〜29時間の労働者数と、同じく31〜35時間の労働者数の増減(2012年第4四半期比)をグラフ化したものである。

昨年秋頃から、31〜34時間の労働者が減っており、25〜29時間の労働者が徐々に増えている。数字で見ると、31〜34時間の労働者は15.7万人、6.4%の減となっている一方、25〜29時間の労働者は37.5万人、10.8%増となっている。

やはり、就労時間の調整が行われているようである(「Topics2014年6月26日 "Play AND Pay"」参照)。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「労働市場

7月8日 "Copper" Plans 
Source :Proposal To Add Skimpier ‘Copper’ Plans To Marketplace Raises Concerns (Kaiser Health News)
民主党上院議員、保険業界団体で、Exchangeの新たなカテゴリーを創出すべきだ、との意見が高まっているそうだ。

具体的には、 狙いは、今提供されているbronze plansでも保険料が高く、加入できない人達がいるので、その人達が加入しやすいプランを提供する、ということである。

しかし、実際には、silver plansの方が人気があり、bronze plansよりも安い保険料のプランができても、本当に加入するのか疑問との指摘も出ている。そして、何よりも、免責額はより高く設定され、リスクが発生して病気にかかった場合、免責額を含めた自己負担が相当重いものになるはずである。

少し現実性が乏しいのではないかと思われる。

※ 参考テーマ「無保険者対策/州レベル全般」、「無保険者対策/連邦レベル

7月7日 NY州:保険料2桁増を申請 
Source :Health plans request double-digit premium increases (Capital New York)
7月2日、NY州は、2015年のExchange保険料申請状況を公表した。上記sourceで示された主な数値は次の通り。 NY州といえば、州立Exchangeのもと、
  1. 保険料は大幅に引き下げられた(「Topics2013年7月21日 Exchange保険料は様々」参照)

  2. 加入者は順調に増加(「Topics2014年2月5日 州立Exchangeの明暗」参照)
ということで、Exchangeの優等生と見られている州である。

それが、2015年は一転、保険料を13〜15%も引き上げるのであれば、何のことはない、Exchange以前とほぼ同じ水準に戻るだけである。それも、ネットワークは絞ったままで。

このような姿をNY州、Obama政権はどのように評価していくのだろうか。やはり、保険料の引上げ率は大幅に抑え込まれるのだろう。

※ 参考テーマ「無保険者対策/NY州

7月6日 労働市場の改善進む 
Source :THE EMPLOYMENT SITUATION - June 2014 (BLS)
6月の雇用統計は、素直に改善が進んだとの評価であった。失業率は0.2%ポイントの低下で6.1%、新規雇用者数は28.8万人増と5ヵ月連続で20万人を上回った。
いつもの実感失業率は、失業率、広義失業率はともに低下しているのだが、やはり不本意ながらパートタイマーになっている人達や退出してしまった人達の割合が6%程度としっかりと固まってしまっているように見える。
また、労働市場参加率は、3ヵ月連続で、過去15年間で最低レベルの62.8%となっている。
こちらは厳しい状況が続いていると言えるが、労働市場の改善を受けて、労働市場退出組と参入組が拮抗した状況になっているとも言える。それならば、もうしばらくすると、参加率も上昇してくるかもしれない。もちろん、その際は失業率が上昇する可能性もある。

本当に景気回復に伴って労働市場が改善しているのだとすれば、もはや失業手当などの政策に財源を投じるよりも、不本意パートタイマーや労働市場退出者に対する技能教育に財源を投じる方が重要になってくる。

※ 参考テーマ「労働市場

7月5日 PBGC債務超過の見通し 
Source :Report: Financial Condition of Single-Employer Plans Seen to Improve Benefits of 1.5M People at Risk in Multiemployer Plans (PBGC)
6月30日、PBGCが将来の財政状況に関する見通しを公表した。ポイントは次の通り。
  1. 単独事業主プランの2023年の債務超過額は$7.6Bと大幅に改善する。
  2. これには、景気の回復に加え、保険料の引き上げが行われることが大きく寄与している(「Topics2012年7月5日 PBGC保険料大幅引上げ」参照)。
  3. 一方、複数事業主プランの2023年の債務超過額は、$49.6Bにまで膨張する。
単独事業主プランは、大企業がスポンサーになっていることが多いので、負担能力ありと判断し、保険料を引き上げた。Obama大統領及びPBGCは、更なる保険料引き上げのツールを獲得しようとしている(「Topics2013年12月15日 2年間の予算決議案」参照)。

一方の複数事業主プランの方は、中小企業が集まって提供している場合が多く、保険料の引き上げは難しい。従って、債務超過も拡大していってしまう。

PBGC側としては、次の段階で、 という手順を想定していると思われる。

そもそも、現在PBGCが抱えている債務は、過去に大企業が大盤振る舞いしたツケを引き取ったものである。現在から将来にわたってPBGC保険料を支払う企業(プラン)からすれば、自らのプランとは関係ない債務に対する強制所得移転に過ぎない。この時点で、PBGCが担う支払い保証制度は、『保険』ではなく、負担能力のあるプランに対する『課税』となっているのである。

それが上記の想定のように、単独事業主プランの保険料が複数事業主プランへの補填に使われるようになれば、まさに所得移転、所得再分配の制度となってしまう。

毎度申し上げているが、全米商工会議所をはじめとした経済界は、支払い保証制度の廃止を訴えた方がよいと思う(「Topics2014年5月16日 PBGC保険料引上げに抵抗」参照)。

※ 参考テーマ「PBGC/Chapter 11

7月4日 部分的公務員 
Sources : Ruling Against Union Fees Contains Damage to Labor (New York Times)
Unions duck biggest threat from Supreme Court case — for now (Washington Post)
6月30日、連邦最高裁は、『在宅ケアに従事している者は、部分的公務員("Partial Public Employee")であり、労働組合費("fair-share fees")を支払う義務はない』との判決を下した。賛成5人、反対4人とギリギリの判決であった。

本事案の概要は次の通り。
  1. IL州など26州では、自治体職員は、組合員になっているかどうかに関わらず、労働協約を交渉する労働組合に対して組合費を支払うよう求めている。

  2. IL州で在宅ケアに従事していた者は、それまでは独立した契約職員とされていたが、ほとんどがMedicaidなどの公的プログラムから賃金を支払われていることから、2003年、公務員として看做され、SEIUの組合員となった。

  3. 2010年、IL州の在宅ケア従事者8人が、『労働組合員と看做され、組合費を徴収されるのは、憲法違反である』との訴えを起こした。

  4. 一審、二審ともこの訴えを退けた。

  5. 1977年、連邦最高裁は、『公務員は、労働組合との意見が違っていても、労働協約を結んでいる労組に対する組合費の支払いを求められる』との判決を下している。

  6. 今回の連邦最高裁の多数意見は、1977年の判決を覆すものではなく、『今回提訴した在宅ケア従事者は、完全なる公務員ではなく、部分的公務員("Partial Public Employee")であるので、労働組合費("fair-share fees")を支払う義務はない』と判断したものである。

  7. 一方、4人の反対意見は、『労働組合が代表して労働条件の交渉をしている以上、何らかの拠出をしなければフリーライダーが出現する』という理由から、組合費の徴収は違憲ではないとしている。
もちろん、過去の判決に基づく労働組合費徴収の原則が崩された訳ではないので、いますぐ労組の屋台骨を揺るがすことにはならない。しかし、IL州と同様の仕組みにしている26州で、組合費の支払い拒否の事例が続出することは間違いない。

さらに、今後の高齢化社会の中で、Medicaid、Medicareに基づく在宅ケア従事者は増えていくことが予想される。この増えていく従事者を労働組合は取り込めなくなる可能性が高い。

やっぱり、労働組合の活動にとっては打撃である。

※ 参考テーマ「労働組合

7月3日 移民制度改革法案頓挫 
Source :Obama says he will overhaul immigration without Congress' help (Los Angeles Times)
6月30日、下院での移民制度改革法案の審議ストップを受けて、今後は連邦議会に頼らず、移民制度改革を推進すると宣言した。

移民制度改革法案(S. 744)は、昨年上院で可決され、下院共和党でも賛成の意向を示す議員もいたのだが、結局、下院共和党内での意見が分裂してしまったために、採決されないこととなった(「Topics2013年7月13日 移民制度改革法案:下院共和党の対応」参照)。

全米商工会議所も、残念とのコメントを公表している。

Obama大統領は、大統領令で改善できる策のメニュー出しを命じたようだが、本命は、国外退去延期令の拡充策と見られている(「Topics2014年2月25日 国外退去延期令の拡充要求」参照)。

ところが、この国外退去延期令が中南米諸国の国民にあらぬ誤解を与えているとのことである。何と、『子供だけで国境まで行けばアメリカ政府は入国許可を出してくれる』との噂を信じて、大量の子供達が国境に集まってきている。それを裁くためには、新たに20億ドルの財源が必要というのである。

これはこれで大変だが、国外退去延期令という大統領令に基づく法的措置の拡大は、不安定な地位に置かれる不法移民の数が増すことにつながる。それも中間選挙対策だ、と言われればそれまでだが、社会の安定のために本当に良いことなのかどうか、アメリカ国民は議論を尽くしておいた方がよいだろう。

それにしても、大統領と連邦議会下院との決裂状況が今後2年も続くのだろうか。11月の中間選挙は、かなり重要な意味を持っている。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者」、「中間選挙(2014年)

7月2日 GAS新ルール適用開始 
Source :U.S. Public Pension Funding Gaps to Widen Under New Rules (Bloomberg)
長く議論されてきた地方政府年金の財務情報開示ルールの変更が、実質上、この7月1日から適用開始となる(GASB)。内容はずっと前に紹介している(「Topics2012年6月29日 GASB 新開示ルール確定」参照)。ただし、適用時期については、当初の予定よりも1年遅れて、『2014年6月15日以降に始まる会計年度から』と変更されている。

この開示ルール変更に伴い、いくつかの州政府年金の積立比率は悪化する見込みである。 これはかなり厳しい数字となる。もちろん情報開示ルールの変更なので、制度設計の変更が絶対不可欠ということではないが、地方政府の財務には大きなインパクトをもたらすことになろう。

※ 参考テーマ「地方政府年金

7月1日 連邦最高裁:"Presumption of Prudence"を否定 
Source :Supreme Court Rejects Special “Presumption of Prudence” for Employer Stock (Drinker Biddle & Reath LLP)
6月25日、連邦最高裁は、労働省の主張を受け入れ、自社株について"Presumption of Prudence"を適用することはない、との判決を下した(「Topics2013年12月1日 "Presumption of Prudence"への挑戦」参照)。

判決の主な論点は次の通り。
  1. ERISAでは、ESOP等における分散投資義務をわずかに軽減するに過ぎない。

  2. 例えプランの指示書で自社株投資を義務付けていたとしても、受託者責任(善管注意義務)を免れることはできない。

  3. インサイダー情報に基づく投資判断は違法なインサイダー取引となり得るが、"Presumption of Prudence"が不可欠だということにはならない。

  4. "Presumption of Prudence"が前提とならなければ、濫訴の惧れが高まるので、連邦地方裁判所での精査が必要となる。
これまで、DCプランやESOPの中で、価値の下落が著しい自社株への投資を続けたことについて、"Presumption of Prudence"を適用して受託者の責任を問わないことが一般化していた。しかし、"Presumption of Prudence"が前提とならないのであれば、訴訟を受け付ける一定の基準が必要になるということで、そのガイドラインも連邦最高裁は示している。 要するに、受託者は、外部者としての目を持って受託者責任を果たすべし、ということであろう。

※ 参考テーマ「受託者責任