2月28日 PPACA:公的部門で就労制限 
Source :Public Sector Cuts Part-Time Shifts to Bypass Insurance Law (New York Times)
PPACAに基づく医療保険プラン提供義務を回避するため、自治体や公立学校などの公的部門で、パートタイマーの労働時間を週30時間未満に抑える動きが広がっているそうだ。

公的部門のパートタイマーの例として、刑務官、臨時教師、スクールバス運転手などが挙げられているが、最も顕著に動きが出ているのが、community collegeの講師だそうだ。

Community Collegeでは、教員全体の45%をパートタイム講師が占めている。American Federation of Teachersの調べでは、15の州の36公立大学で、プラン提供義務を回避するためにパートタイム講師の勤務時間を制限しているという。州政府などの自治体は、財政均衡を求められており、新たな追加費用を賄う財源に窮している。こうした臨時講師たちは、勤務時間を減らされて給与が減るうえに、医療保険も提供されることはない、ということで、踏んだりけったりとなる。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「教育」、「労働市場

2月27日(1) 同性婚は共同納税申告ができるのか(申告期限直前版) 
Source :State Taxes and Married Same-Sex Couples (Posted on October 26, 2013 by Carol V. Calhoun) (benefitsattorney.com)
以前に紹介した「Topics2013年11月18日 同性婚は共同納税申告ができるのか(修正版)」の、申告期限直前時点での内容である。上記sourceでは、グループ分けを止めてしまっているが、わかりやすいのでそのまま残しておくこととする。
Group 1 9州 N/A Alaska, Florida, Nevada, New Hampshire, South Dakota, Tennessee, Texas, Washington, Wyoming 州所得税がない、利子・配当所得のみ課税、または州所得税において単独納税と共同納税の間で税率構造が同じであるため、問題は生じない。(この場合、共同納税できるかどうかは、税務計算上の課題ではなくなる、という意味であろう。)
Group 2 17州 California, Connecticut, Delaware, District of Columbia, Hawaii, Illinois, Iowa, Maine, Maryland, Massachusetts, Minnesota, New Jersey, New Mexico, New York, Oregon, Rhode Island, Vermont 州法・州憲法の解釈、または連邦税と州税の納税形態を統一させるとの州側の要請から、同性婚者は(連邦所得税と同様)州所得税を共同納税することとなる。
OR州は、同性婚への結婚証明書は発行しないが、他州の結婚証明書は承認していることから、共同納税を認める。
Group 3 5州 × Alabama, Arkansas, Michigan, Mississippi, Pennsylvania 州法で同性婚を認可しておらず、かつ連邦税と州税の納税形態を統一させる規定がないことから、同性婚者は単独納税せざるを得ない。
Group 4 17州 × Arizona,Georgia, Idaho, Indiana, Kansas, Kentucky, Louisiana, Montana, Nebraska, North Carolina, North Dakota, Ohio, Oklahoma, South Carolina, Virginia, West Virginia, Wisconsin 連邦税と州税の納税形態を統一させる規定があるものの、州法で同性婚(同性カップル)を認可していないことから、同性婚者は共同納税できない。ただし、KY州、VA州は同性婚禁止について連邦裁で係争中。
3州 Colorado, Missouri, Utah 州法で同性婚(同性カップル)を認可していないが、連邦税と州税の納税形態を統一させる規定があることから、同性婚者に共同納税を認める。
簡単に言ってしまえば、同性婚者でありながら、共同納税ができないのは22州となる。結婚と納税という近代社会の基本的な枠組みにおいて、アメリカ社会は大きく二分されてしまった。

なお、同性カップルへの結婚証明書発行について混乱が生じたUT州は、取り敢えず現状を凍結するとの観点から、共同納税を認めている(「Topics2014年1月11日 UT州:同性婚現状凍結」参照)。

※ 参考テーマ「同性カップル

2月27日(2) TX州:同性婚憲法違反判決 
Source :Judge strikes down gay marriage ban in Texas (Washington Post)
26日、Texas州にある連邦地方裁判所は、州法が同性婚を禁じていることを連邦憲法違反であるとの判決を下した。TX州は上告するとみられており、これも連邦最高裁まで判断を仰ぐことになろう。

ところで、上の表で、TX州は州所得税上、同性婚が問題になることはなさそうであり、他州のような懸念は不要のようである。

※ 参考テーマ「同性カップル

2月26日 VT州:ACOsの活用を推進 
Source :ACOs Gain Wide Traction in Vermont as State Eyes Move to Single-Payer in 2017 (AISHealth)
PPACAの本格実施を期に、VT州は、ACO("Accountable Care Organizations")の活用を推進している。 VT州は、2017年から単一診療報酬体系の導入を目指している。やがては、上記のMedicare、Medicaid、民間保険を統一していきたいと考えており、そのベースにACOを据えようとしている。既に、MedicareとMedicaidという2つの公的医療保障制度では、共通する2つの機関がACOを請け負う形になっている。

ただし、単一診療報酬体系に持っていくには、$1.6Bとも言われる財源の確保と、Medicare、Medicaidに関するCMSの例外措置制度が必要である。2017年までそれほど多くの時間が残されている訳ではない。

余談だが、上記sourceでは、『VT州がカナダ型の単一診療報酬体系を導入しようとしている』と表現している。VT州が導入に成功すれば、初めてカナダの社会システムがアメリカ社会に移出されることになるのではないだろうか。やはり、国境を接していることは、相互の社会に影響をもたらすことになる。

※ 参考テーマ「無保険者対策/VT州」、「ACO

2月25日 国外退去延期令の拡充要求 
Source :Young Immigrants Turn Focus to President in Struggle Over Deportations (New York Times)
先月末、連邦議会共和党は、移民制度改革案の基本方針案を示した(「Topics2014年2月4日 下院共和党の移民制度改革案」参照)。ところが、その数日後、ベイナー下院議長は『議会共和党は前に進める準備ができていない』と公言し、連邦議会での移民制度改革議論は事実上ストップしてしまった。

これに怒ったのが、若年移民で組織している"United We Dream"(UWD)という団体だ。彼らは、Obama大統領に対し、2年前に執行された『国外退去猶予措置』("Deferred Action for Childhood Arrivals")について、国外退去措置の停止を含め、大統領令による更なる拡充を迫っているのである(「Topics2012年9月14日 退去猶予承認始まる」参照)。

これに対し、Obama大統領は『大統領令による更なる拡充はできない』としながらも、移民制度改革法案の審議がまったく進まない現状で、何らかの措置を検討するのではないかとの憶測も流れている。

これまで得意技である『大統領令』を簡単に発動しなかった訳は、連邦議会で『現行移民法の執行に不熱心だ』との批判を浴びていたからだ(「Topics2014年12月25日 不法移民国外退去の実績」参照)。しかし、この批判に耐えなければならないのは、移民制度改革法案の審議を進めるためであった。その審議が進まないということがわかった以上、もしかしたら大統領は腹を括って、大統領令による拡充を打ち出すかもしれない。Obama政権になって国外退去になった不法移民は190万人以上にのぼり、歴代大統領の中で最も多いそうだ。そんな記録をObama大統領が黙って見過ごすことはできないだろう。

ところで、上記sourceによると、国外退去延期令を受けた不法移民は、52万人以上になったという。大統領令発令当初は170万人が適用を受けるとも言われていたが、実績はその1/3にも達していない(「Topics2012年8月16日 国外退去延期手続き開始」参照)。申請に必要な書類がなかなか揃わないなど手続きが煩雑・困難なことに加え、制度に対する不安感・不信感が申請を踏みとどまらせているのだろう(「Topics2012年10月11日 必要書類が揃わない」参照)。

やはり、大統領令に基づく制度は不安定である。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

2月24日 Detroit市:年金給付カットを提案 
Source :Detroit pension funds could see benefit cuts as part of bankruptcy agreement (Pensions & Investments)
2月21日、Detroit市が、破産裁判所に対して再建計画案を提出した。

そこで示された債務額とカット率は次の通り。 プラン凍結は含まれていないようだ(「Topics2014年1月9日 Detroit市:年金凍結措置」参照)。上記のような再建計画が認められなかった場合に発動するつもりなのだろう。

年金受給者・加入者にとってかなり厳しい提案となった。

※ 参考テーマ「地方政府年金

2月23日 Pioneer ACOsの成果(2) 
Source :Pioneer ACOs’ first-year results leave a lot of room for improvement (HealthLeaders)
Pioneer ACOsの初年度(2012年)の成果に関する続報である(「Topics2013年7月26日 Pioneer ACOsの成果」参照)。
  1. 32のPioneer ACOsのうち、23のACOは、Medicare加入者一人当たりの支出が市場よりも上回った。

  2. 32のPioneer ACOs全体では、ACOに加入していない者と較べ、Medicare加入者一人当たり月額$20の節約となった。これは年額$240で、一月の処方薬程度でしかない。

  3. 総額では、1年間で$147Mの節約となった。

  4. 入院費用については、特に目立った効果を生まなかった。

  5. 慢性期の支出は他よりも大きくなった。

  6. 15のACOで、外来費用は低く抑えられた。

お世辞にも好成績を収めたとは言えない状況である。ま、少し長い目で観察する必要があろう。

※ 参考テーマ「ACOs

2月22日 最低賃金引き上げの経済効果 
Source :The Effects of a Minimum-Wage Increase on Employment and Family Income (CBO)
経済効果推計の本家、CBOが、最低賃金引き上げが雇用、所得にもたらす効果を推計し、結果を公表した。

政策決定にとって重要な情報なので、そのポイントをまとめておく。
  1. 推計の前提となる最低賃金の引き上げ方

    ここでは、2通りの選択肢を用意し、それぞれの経済効果を推計している。
    1. 現行の$7.25/hから3年かけて、2016年に$10.10/hまで引き上げる。 ← 2014年一般教書演説での大統領提案(「Topics2014年1月29日 Obama大統領も賃上げ要請」参照)

    2. 現行の$7.25/hから2年かけて、2016年に$9.00/hまで引き上げる。 ← 2013年一般教書演説での大統領提案(「Topics2013年2月13日 一般教書演説(2013年)」参照)

    以下、選択肢iの$10.10/hへの引き上げについて限定してまとめる。

  2. 雇用への影響

    中位推計は50万人の雇用減少となる。ただし、僅かな減少にとどまるか、100万人の雇用減少となる可能性もある。

    Congressional Budget Office
  3. 所得増となる被用者

    最低賃金を$10.10/hに引き上げることにより、所得が増える被用者は約1,650万人となる。

  4. 低賃金労働者の所得階層別分布

    低賃金労働者でも、家計でみた所得階層別分布は次表の通り、分散している。
  5. 家計所得への効果

    最低賃金引き上げによる所得増加は$31Bとなる。ただし、貧困層(poverty line以下)での所得増は、その19%に過ぎない。

    一方、所得が減少する家計もある。最低賃金に伴い失業した家計、自営業も含めた企業経営者、そして物価上昇に伴い所得減を被る家計である。

    これらを総合した実質的な所得増は、$2Bとなる。

  6. 所得階層別の家計所得増減効果

    貧困層家計の実質所得は$5B増加し、貧困層から脱することができる人は90万人となる。現行制度のままでは4,500万人が貧困層と推計されることから、2%が貧困層から脱することができる。

    また、貧困ラインのかなり上の層まで所得増の恩恵は広がる。

    Congressional Budget Office
  7. 連邦政府予算への影響

    ネットでは財政赤字の僅かな減少につながるとみられるものの、10年間のタームでどの程度の影響となるかは不明である。
さて、この推計をどのように評価するかは難しいところである。貧困層から脱出できるのが2%というのを、多いと見るか少ないと見るかで評価が分かれるだろう。ちなみに、この点は、先に紹介したAAFの推計よりは、効果が大きいことになっている(「Topics2014年2月21日 EITC vs Mimimum Wage」参照)。

やはり、最低賃金引き上げ政策にとって、『低賃金労働者=低所得家計』とはなっていないことが最大の課題であろう。上記6.で、上位の所得階層の実質所得増が抑制されているように見えるが、これは最低賃金引き上げに伴う物価上昇の影響を考慮しているためで、名目ベースでは貧困層以上の所得増が見込まれている。

こうした状況が見込まれる中、最低賃金引き上げを格差是正策として打ち出すことは、相当無理があるのではないかと思う。

※ 参考テーマ「最低賃金」、「