Source : | Seeking Ways to Help the Poor and Childless (New York Times) |
New York Cityが、単身貧困者に対する援助策について、実験的試行を開始した。その概要は次の通り。"Earned-Income Tax Credit"は、給付付き税額控除制度で、勤労所得が低い間は、それが増えるほど税額控除額も増え、勤労所得が一定の限度を超えると税額控除額が減少し、やがてはゼロになる仕組みで、就労促進型の税制とみなされている(国立国会図書館、Center on Budget and Policy Priorities)。
- 試行の場は、市の"Center for Economic Opportunity"(NY市の貧困対策実施機関)。
- 参加者は6,000人で、いずれも低所得の単身者。
- 参加者の半分は、連邦所得税の"Earned-Income Tax Credit"と同様のボーナスが支給される。残りの半分は、比較対照グループとして位置付けられる。
ところが、アメリカ社会全体の通念と思われるが、子供を養っている貧困者に対しては手厚く、子供の数が増えるほどさらに手厚くなるのだが、子供を養っていない場合は、税額控除額が極端に小さくなる。この考え方は、Medicaidでも現れており、多くの州で、子供がいない場合はMedicaidへの加入資格が与えられない。
ある意味では子育てにやさしい社会ではあるのだが、子供のいない貧困者にとっては、貧困から脱出するためにはとにかく働いて稼ぐしかないのである。しかし、低賃金の職種がどんどん増えているために、働けども貧困から脱出できない"working poor"が増えていっている。
こうした事態を回避するためには、子供のいない貧困者にも充分なEarned-Income Tax Creditを適用する必要があるのではないか、との意見がある。その実証をしようというのが、NY市の実験的試行なのである。
実は、あの有名な経済学者 N. Gregory Mankiw 教授は、『"working poor"の所得を高めるためには、最低賃金の引き上げよりも、Earned-Income Tax Creditを拡充する方が優れている』と主張しているそうだ。
それにしても、こうした社会実験を行なえることが、アメリカ社会の強みなのであろう。
※ 参考テーマ「労働市場」、「解雇事情/失業対策」、「最低賃金」
Source : | Maryland All-Payer Model to Deliver Better Care and Lower Costs (CMS) |
1月10日、CMSとMD州は、新たなMedicare診療報酬体系のモデル試行について合意した。基本的な枠組みは、昨年4月に紹介したMD州の提案を維持している(「Topics2013年4月13日 MD州:厳しい医療費抑制策」参照)。
合意内容のポイントは次の通り。州内の診療報酬を一律に公定しているMD州だからこそ認められた、壮大な実験である。そして、このモデル試行の先には、ACOを見据えているのである。
- 現在、MD州のMedicare診療報酬は、連邦政府(CMS)が定める診療報酬(IPPS/OPPS)の適用除外が認められており、独自に設定している(「Topics2012年11月1日 MD州の医療費抑制策」参照)。現行のMD州診療報酬は、一入院当たりのMedicare診療報酬をベースにしているが、これを、Medicare加入者一人あたりの全病院コストの伸びをベースとした診療報酬に切り替える。
- MD州は、Medicare加入者一人あたりの全病院コストの年間伸び率を、3.58%以下に抑える。この伸び率は、最近10年間の一人あたり州民総生産の伸び率である。
- 伸び率を抑えることにより、MD州のMedicare支出額を、今後5年間(2015年〜?)で$330M節減する。
- MD州は、今後5年間で、病院の全収入を"global payment"(包括払い方式)に切り替える。
- MD州は、今後5年間で、Mediacre加入者の30日以内の再入院率を全米並みにまで引き下げる。
- もしもMD州が、今後5年間で上記のような成果を出せなければ、その後の2年間で連邦政府が定める診療報酬に移行する(=適用除外措置の廃止)。
- MD州は、今後3年以内に、モデル試行終了後の次の段階の新モデル案を作成する。新モデル案は、Medicare加入者一人あたりの総コストに基づく診療報酬とする。
MD州病院協会は、『これまでにない規模での試みであるが、方向性は正しい』と一定の評価をしている(Businessweek)。MD州内でのコンセンサスはできているようだ。
退路を断ったMD州の成果はどう出るか。長期的なアメリカ医療保険制度の方向性を決定づけることになろう。
※ 参考テーマ「無保険者対策/MD州」、「Medicare」、「ACO」
Source : | Federal judge rules Oklahoma’s same-sex marriage ban unconstitutional (Washington Post) |
1月14日、Oklahoma州にある連邦地方裁判所は、『同性婚を禁じているOklahoma州法は連邦憲法違反である』との判決を下した。UT州に続き、連邦裁判所が介入する形となった。ただし、今回は、控訴裁判所の判決が出るまで執行を停止することとなっており、UT州のように、なし崩し的に同性婚証明書を発行するような事態にはなっていない(「Topics2014年1月11日 UT州:同性婚現状凍結」参照)。
OK州は、2004年11月の州民投票により、州憲法で同性婚とそれに基づくベネフィットの提供を禁止することを認めた(Los Angeles Times)。いわば、最も同性婚に対して厳しい州の一つである。
次は、UT州のケースと同様、第10控訴裁判所で争われることになる。
※ 参考テーマ「同性カップル」
Source : | 83,000 of state poor to get BadgerCare coverage under federal waiver (Journal Sentinel) |
1月9日、WI州政府は、連邦政府からの承認を受けて、連邦政府の負担により貧困層の保険加入を促すことを決定したと発表した。ただし、Mediacidではなく、民間保険への加入を通じて、ということである。連邦政府からは、既に昨年末の12月30日に承認を得ており、プログラムの期間は今年4月1日から2018年12月31日までである。
こうした形の貧困者保険加入は主に保守系の州政府でいくつか認められている。基本的に、州政府の連邦政府に対する信頼感が得られないことが一因である。
※ 参考テーマ「無保険者対策/州レベル全般」
Source : | The U.S. Lost Health-Care Jobs in December (Bloomberg Businessweek) |
12月の雇用統計は、雇用増が予想を大きく下回り、大きなショックをもたらした(「Topics2014年1月12日 失業者が市場退出」参照)。その中で、医療産業の雇用についても異変が起こったようだ。これまで雇用増をリードしてきた医療産業の雇用が、マイナスを記録したのだ。医療産業の雇用が減少となったのは、2003年7月以来の珍事である。もちろん、雇用統計は振れが大きく、一月だけの増減で全体のトレンドを語る訳にはいかないが、それでも異変は異変である。上記sourceによれば、介護施設、病院、診療所などでの雇用が減少し、外来医療センターは増加した。
Bloomberg Businessweek
また、2013年という一年間の動きを見ても、毎月21,000人増となり、2012年の毎月25,000人増よりは雇用増のペースが鈍化している。普通の状態であれば、景気回復、雇用回復の間は医療への支出も伸びるはずであり、それに伴って医療産業の雇用も増加ペースが高まるのが自然である。増加ペースの鈍化の理由としては、次の2点が考えられる。
Bloomberg Businessweek前者であれば、それはアメリカ経済全体にとってバランスの取れた求人増となっている証であり、それはそれで結構なことである。もし、後者であれば、これも医療費の抑制、保険料の抑制につながる話で結構なことではあるが、一方で、必要な医療へのアクセスが確保できない、ナース・プラクティショナーなどのコメディカルが充分に確保されない、といった問題が生じる可能性を孕んでいる。
- 景気全体の回復に伴い、他の業種の求人が増加し、医療産業への求職が減少した。
- 2014年のPPACA本格稼働に備え、医療機関が効率化を図り、雇用増を抑えた。
いずれにしても、今年1月の雇用情勢を注目しておく必要があろう。
※ 参考テーマ「労働市場」、「無保険者対策/連邦レベル」、「医療保険プラン」
Source : | Nearly 2.2 million Americans selected plans in the Health Insurance Marketplace from October through December (HHS Press Release) |
13日、HHSは昨年10月1日から12月28日までのExchange加入実績を公表した(「Topics2014年1月1日 年初のExchange加入者数」参照)。ポイントは次の通り。
New York TimesHHSは、12月の加入者数は急増した、と自画自賛しているが、今年3月末までの加入者数目標は、700万人となっている。しかし、今回発表された実績値は、12月末までの目標値に遠く及ばない状況である。
- 3ヵ月間の加入者数は、約220万人。
- 加入者のうち、45〜64歳が占める割合は55%、55〜64歳の割合は33%(New York Times)。
- 一方、18〜34歳が占める割合は、24%にとどまった。
- 保険プランのカテゴリー別選択割合は、右図の通り。
- 加入者のうち、79%が保険料補助金を受け取る予定である。
- 加入者数の多かった上位5州は次の通り(Kaiser Health News)。
California (498,794), Florida (158,030), New York (156,902), Texas (118,532) and North Carolina (107,778)今後、相当な勢いで加入者数が増えていかないと、目標には届かない。
New York Times
また、最大の関心事である若者(=健康な者)の加入者数は、HHSが望んでいるような規模にはなっておらず、中高年層の占める割合が高くなっている。仮に、今年3月までの加入者の中で、18〜34歳の占める割合が25%にとどまった場合、保険会社は2015年の保険料を2.4%引き上げざるを得なくなるとの試算もある(Kaiser Health News)。
New York Times
これを州別にみると、さらに課題を抱えている州がはっきりしてくる(New York Times Interactive Graphic)。D.C.(44%)、MA州(31%)、UT州(29%)などは突出して若者の割合が高くなっているが、AZ州、WV州(17%)をはじめとして、8州で20%を割り込んでいる。こうした州は、後半戦で頑張らないと、2015年の保険料引き上げが必至となってしまう。
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般」
Source : | It's time to rethink health insurance (Los Angeles Times) |
上記sourceは、医療制度改革のためには、医療保険に対する認識を原点に戻す必要があるとしている。医療制度改革提案のポイントは次の通り。確かに、加入者は、出来高払いの医療保険プランよりはコスト・コンシャスにならざるを得ない。同時に、医療機関、医師の方にもこうしたコスト意識を持ってもらう必要があるだろう。
- 医療保険制度は、元々、突発的に必要となる医療費を支弁するためのもの。それが、今は、補助を受けて何でも診療を受けられるようにするもの、と受け止められている。これが医療支出の増大をもたらす一因となっている。
- 医療保険制度の原点に回帰するためには、「高免責額+HSA」の組み合わせによる保険制度が優れている。加入者がコスト意識を持ち、真に必要な医療を受けるようになる。
- 「高免責額+HSA」の組み合わせは、Medicaidの改革にもつながる。州政府は、必要となる基金を、Medicaid加入者のHSAに振り込めばよく、余れば勘定内で翌年に繰り越せば良い。
- 医療へのアクセスを改善するため、コメディカルのスタッフを増やす。
- 保険会社間の競争を高める。
※ 参考テーマ「医療保険プラン」
Source : | Detailed Report Delivers Good News On Health Costs, But Will It Last? (Kaiser Health News) |
2012年の医療費伸び率は3.7%となり、2年連続、GDP伸び率を下回った。
Bloomberg Businessweek
医療費伸び率を抑制することになった要因と高めることとなった要因は次の通り。2012年の実績では、PPACAの影響はほとんどない。それは2013年についても同様である。
- 抑制要因
- リーマンショック後の景気の落ち込みとその後の緩慢な回復
- 利用頻度の高いブランド品の特許切れとジェネリックの発売
- 高級介護施設へのMedicare給付の削減
- 上昇要因
- 病院での支出(4.9%増)
- 診療回数の増加(4.6%増)
2013年からは景気回復が本格化しており、それに伴って医療費への支出も伸びてくる可能性がある。一方、昨年から、高免責額+HSAの保険プランが増えており、当初は自己負担が重いために医療費支出が抑制される可能性も考えられる。
いずれにしても、医療費の動向が注目されるのは、PPACAが本格稼働する2014年の実績からである。
※ 参考テーマ「医療保険プラン」
Source : | Weak Jobs Report Cited in Call for Extended Jobless Benefits (New York Times) |
昨年12月の労働統計が公表された。 失業率が大きく下がったものの、雇用増が予想よりも規模が小さかった。これをどう読むか。 まず、失業率について、いつもの統計グラフをみてみる。 公式失業率は低下したものの、実感失業率は下がっていないため、その差が広がってしまった。不本意なパートタイムへの就職や労働市場からの退出が増えたものと考えられる。
また、労働市場への参加率も再び低下し、10月と同様、62.8%となり、低下傾向は変わっていない。 アメリカ経済の回復は徐々に力強いものとなっているにもかかわらず、労働市場への参加率は低下しているのである。おそらく、失業給付の打ち切りを見据えて、早々に就職活動を諦めた人も多かったのではないだろうか。早くもNC州の先例が連邦レベルでも顕在化してきたのではないだろうか(「Topics2014年1月6日 NC州:失業給付削減の先行事例」参照)。これでは、いくら失業率が低下しても、雇用状況が改善しているとの実感は湧かないだろう。
このような労働統計の公表を受けて、連邦議会民主党は、失業給付延長プログラムの早期復活を強く求めている。一方、共和党は、復活するなら何かを削って財源を出せ、とするばかりか、労働市場からの退出が増えていることをとらえて、大統領の経済政策が雇用を生んでいないことが最大の問題と切り返している。
※ 参考テーマ「労働市場」、「解雇事情/失業対策」
Source : | Utah Says It Won’t Recognize Same-Sex Marriages It Licensed (New York Times) |
連邦最高裁による同性婚証明書発行の仮差し止めに基づき、Utah州政府は、何らかの司法判断が新たに示されるまで、同性婚に関する『現状凍結』を指示した(「Topics2014年1月8日 UT州:同性婚仮差し止め」参照)。
上記sourceでは、タイトルも含め、『同性婚を"recognize"しない』と表現しているが、新たなベネフィット提供は行なわない、という意味である。既に発行した同性婚証明書やそれに基づくベネフィットを失効させたり、無視したりするわけではなく、すべてを今の現状のまましばらく凍結する、ということである。
- 同性婚証明書の発行は行なわない。
- 既に発行した同性婚証明書(約1,300通)を無効にすることはしない。
- 同性婚証明書に基づくベネフィットの提供について、
- 既に公式手続きを終えて賦与されているものについてはそのままとする。
- 申請を受け付け、審査手続き中のものは、審査手続きを停止する。
- 新たな申請は受け付けない。
- ベネフィットの代表例としては、次のようなものがある。
- 運転免許証に記載される『姓』を同性配偶者のものに変更する。
- 同性配偶者を保険プランに配偶者として加入させる。
これについても、同性婚推進派は、『異性婚カップルならこうした措置は受けないのだから差別だ』と怒っているそうだ。
そこに、二日遅れで連邦政府の司法長官が参戦してきた(New York Times)。『UT州の同性婚を"recognize"する』というのだ。控訴裁判所の司法判断を待つことなく、連邦所得税の共同申告、公的年金の配偶者としての受給資格、連邦政府職員であれば配偶者の医療保険加入などを認める。
もうすぐ納税申告の時期がやってくるが、1,300組の同性婚者は、連邦所得税は共同申告できるが、州所得税についてはそれができないことになる。
連邦政府としては同性婚の権利を守るために当然の措置を採ったということなのだろうが、これは、連邦政府と州政府の権限問題の根幹に関わるところである。いずれにしても、この1,300組の同性カップルの法的地位は、極めて不安定な状況に置かれることになる。
※ 参考テーマ「同性カップル」